『笑う男』(3)
2022.2.18(Fri.) 18:00~21:10
帝国劇場 1階U列1桁番台(下手側)
帝劇前楽、この日が(Wキャスト)デア役、真彩希帆さん(きぃちゃん/なっちゃん)の帝劇楽。
2月3日初日予定だったこの作品は、初日が開演25分前に中止。1週間遅れの2月10日(帝劇開場記念日)からの公演となりました。帝劇公演は当初きぃちゃん12公演、彩春ちゃん11公演で合計23公演だったところが、2人とも7公演ずつ14公演ということになりました。
元々きぃちゃんといえば、パワフル歌唱が持ち味で、可憐なデアを演じられるのかに一抹の不安を感じないではなかったのですが、公演前半では正直「目が見えない」ことを強く意識しすぎなような”らしくない”硬さを感じて。
ただ、この日のきぃちゃんデアはすべてのピースが嵌ったかのような素晴らしさ。今までは役柄もあり、声量を極限まで抑えていたようなところも、圧を出せるところの強弱の使い分けがこの日は絶品で。脆さと強さを場面ごとに巧みに使い分け、デアが「ただ守られる役ではない」ことを見せていて素敵です。
今回のデアのWキャストは好対照ですが、彩春デアには「月」、きぃちゃんデアには「太陽」を感じます。彩春デアは皆が守ってあげたくなる存在、きぃちゃんデアは皆が守ってもらいたくなる存在というか、タイプの違いで選べるデアのWキャストに拍手です。
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キャストの地力の高さを感じるこの作品ですが、物語として捉えると、しっくりこないところもいくつもあって。とりわけ、2幕後半の通称「明日への階段」での「貴族の立場から変革を試みる」ことをすぐ諦めるあたりに、なんか逆カタルシスというか、ちょっと萎えてしまうところをいつも感じて。
女王から投げつけられる「目が見えない方が幸せ」という言葉に、(クランチャリー伯爵としてではなく)グウィンプレンとしてデアを思い出すからこそ、「根本的に相いれない考え方(貴族的な世界)との決別」を決断。そして、ジョシアナ公爵からの引き留めも聞かず、デアの元に戻ってくるあたりが、ちょっと微妙な展開に思えるんですよね。
とはいえ、富も名誉も持っているジョシアナ公爵が、一人の信頼できる相手もおらずに一人で生きていかなければならないのに比べて、盲目で物を見ることはできないけれど、ウルシュス一座の光として、たくさんの仲間に見守られているデアが好対象なのも印象的。
ジョシアナ公爵と言えばフェドロに対して「あなたの裏切りに気づいていないとでも思ってるの」と言ってるのが何を指すかも気になるところ。諸説あるようですが、何となくフェドロがアン王女と通じているように思えます。ジョシアナ公爵にとって格が上な人物はアン王女しかいないわけで、見るからに「絶許」かのような振る舞いは、クランチャリー公爵との結婚を既成事実化させようとしたあたりにフェドロが能動的に関わっていたのではないか、と推察します。
で、何を言いたいかというと、ジョシアナ公爵のちーちゃんに「消えなさい」台詞が似合いすぎです。この組み合わせ決めた方に拍手です、はい。
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この日のカーテンコールはきぃちゃん(なっちゃん)楽ということで、まずは浦井さんからご挨拶。
浦井さん「皆様の感染対策へのご協力のおかげで、我々は舞台を続けることができています。感謝申し上げます。舞台上におりますと、皆様の消毒液の匂いまでわかるのですが(カンパニー笑)その匂い故に、皆様が舞台のためにしていただいているお力を感じます。御礼申し上げます。」
…という、エピソードが浦井語録(笑)。
浦井さん「そして帝国劇場楽は明日ですが、今日一足早く1名のキャストが帝劇千穐楽を迎えます。
こんな真っ直ぐな女優さんに出会ったことがありません。真彩『さま』!」
真彩さん「『さま』って(苦笑)」
「本日は『笑う男』帝国劇場千穐楽にお越しいただきありがとうございます。舞台に立つことを仕事としている身として、舞台に立ち続けることが『当たり前』じゃないんだなということを感じる『ここ数年』ですが、先ほど浦井さんも言われていた通り、お客様皆様のご協力もあり、『みんな』で今日を迎えられましたこと、心から嬉しく感謝申し上げます」
「私は一足先に『憧れの』帝国劇場千穐楽で、皆にエールを贈ることしかできませんが、明日の帝国劇場千穐楽をみんなが無事に終えられますことを祈っています。本日はありがとうございました!」
…一つ一つの言葉をしっかり紡ぐ、宝塚トップ娘役時代からのハキハキ挨拶はこの日も健在。
見守るカンパニーのみんなが、なっちゃん大好きでニコニコしてて、幸せなカーテンコール。
幕の後方に下がっていくと伸び伸びと浦井氏と同じポーズして見たり、はたまた劇中ではデアとしては襲われてたのに、実は高校同じで前作(『ドン・ジュアン』)からの引きずりで仲良しな吉野氏と踊ってみたり。
きぃちゃんにも、ちぃちゃんにも満場の拍手が贈られてて本当に嬉しい限り。
素敵な帝劇前楽になりました。