『野の花』(2)
2020.8.19(Wed.) 18:30~20:40
中目黒キンケロシアター E列10番台
2020.8.23(Sun.) 12:00~14:10
中目黒キンケロシアター D列1桁番台
ミュージカル座のストレートプレイ、再演です。
初見は同じ中目黒の、キンケロシアターと全く逆側で、実のところ間違いやすい(爆)ウッディシアターでした。
舞台は第二次世界大戦前後のドイツで、ドイツ人少女のリーザとユダヤ人少女のルイーゼとの友情を描いた物語で、初見(2018年1月)では、リーザは平川めぐみさん、ルイーゼは千田阿紗子さんでした。
ちなみに過去、ルイーゼは岡村さやかさん、田宮華苗さんも演じられています。
今回の再演は、リーザは大胡愛恵さん、ルイーゼは清水彩花さん。Wキャストですが、今回は2回ともこの月組キャストで拝見しました。
「内気な少女」リーザは中学校に入学しても、周囲とも溶け込めずにいじめられる日々。そんな中、同じクラスにいたルイーザは対照的な行動的な少女。行動的とは良い言い方で、実際のところは行動的が過ぎて学校始まって以来の「問題児」。そんなルイーゼはリーザを折に触れて世話をし、助けます。
「なぜ私を助けるの?」と問うリーザに、ルイーゼは「ほかに助けたい人がいないから」と言いますが、独立独歩だけに学校になじめないルイーゼにとって、リーザはかけがえのない親友だったのだろうなと。
リーザからルイーゼへの「かけがえのない親友」感と、ルイーゼからリーザへの「かけがえのない親友」感が、ぴったり同じものでないことも興味深いです。
リーザにとっては、ルイーゼは「彼女がいたからこそ生きてこられた」存在。学校ではいじめられ、家庭では優秀な兄に比べると生まれつき身体に障害を持つ自分の影は薄くて、生きる希望も持てなかった少女だったけれど、戦争への波・ドイツの時勢が親友のルイーゼとの仲を引き裂く中、自分を救ってくれたルイーゼのために生きることこそ、自分の生きる道と感じていく。
ルイーゼにとっては、リーザは実のところ「自分が助けなくてもいい」存在なのだけれども、彼女の正義感はリーザを助けないことを許さないし、ルイーゼは自分にないリーザの魅力に惹かれて助けるうち、「なんでも自分で解決しようとする自分」がどうにもできない危機に陥った時、リーザから手を差し伸べられ、自分の生き抜く道を勝ち取ることを成し遂げる。
劇中、ルイーゼはこの作品のタイトルである『野の花』を指して、「自分は野の花になりたい」と願うのです。そのすべての理由をここで言及することはしませんが、その理由の一つに「何も頼まず」ということがあります。
それを聞いたときに、ルイーゼはリーザ以上に孤独だったのかもしれない、と思えて。
自分が突っ張ることでしか生きてこられなかったのかもしれない、と思えて。
だからリーザから「頼みごとはない?」と聞かれたときに、「ない」としか突っ張れなかったけれども、リーザとの最後の時に、本当に頼みたいことを頼めたことで、リーザも本心から「ルイーゼに親友として認めてもらえた」と感じたんじゃないかと、そう思えました。
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リーザ役の大胡愛恵ちゃん。直近で拝見したのは『スター誕生』のアイドル役で、どちらかというと言いたいことをバンバン言う方がイメージに合う役者さんですが(爆)、リーザは内に秘めた思いを、実は熱くたぎらせるさまが魅力的で。親友・ルイーゼのためなら数多の危ない橋を渡る様に説得力があって、この作品は全体のストーリーテラーを晩年のリーザ(白木美貴子さん。素晴らしかったです)が務めていますが、晩年のリーザにつながる、まっすぐとした芯の通り方が印象的で素敵でした。
ルイーゼ役の清水彩花ちゃん。とにかくカッコいい。外見も、人としても、舞台映えが素晴らしい。ミュージカル女優さんとしては少し長身(162cm)なことがいいアクセントで、その自信も相まって前半の存在感がまさに漢前で、リーザが心酔するのもわかります。それでいて後半、ユダヤ人であるがゆえに多くの苦難に直面する様、そこに纏う絶望感は、「明」の印象が多い彼女では珍しい役回り。拝見した中では『ロザリー』(2016年版)のマリーアントワネットにとても似ていました。(逃避行しているあたりも)
そして大胡ちゃんと彩花ちゃんの親友力の凄さが今回のなんといっても見どころでした。
親友であることを一欠けらも疑わせない説得力は、役としても役者としても、2人が一緒にいられる時を拝見できてよかったなぁと実感しました。
今回は役柄上、シリアスに尽きる面があっただけに、もう少しラフな、例えば…
彩花「頼みごとがあるんだけど」
大胡「頼みごとは嫌いじゃなかったの?」
彩花「またそういう意地悪するー」
みたいな世界線も見てみたかったです(笑)
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ストレートプレイといえ、久田菜美さんのピアノが切なく物語を作り上げる様もとっても素敵です。
物語に寄り添う優しさが曲にも演奏にも感じられて、心温まるひと時になりました。
今般のコロナ禍の中でストレートプレイ、ミュージカル座作品を拝見するのもこの作品が初めて。休憩中の窓換気、休憩時・退出時の整列退場の徹底をはじめ、演者はマウスシールドを付けての上演。初見では多少気になったものの、作品の熱さにマウスシールドの存在をも忘れる、エネルギーに満ちた作品でした。