『怪人と探偵』(2)
2019.9.29(Sun.) 14:00~16:45
KAAT神奈川芸術劇場大ホール
3階B6列(最後列)10番台(センターブロック)
KAAT神奈川公演千秋楽です。
初日以来2週間、3回の観劇でしたが、今の自分にとってはぴったりの回数だったかなと。
由美子さん復帰ということで今年一番というぐらい緊張して拝見した初日は、作品上の謎をたっぷり お持ち帰り。
KAAT中日付近の土曜ソワレはシーンのブラッシュアップぶりを見ながら、謎を一つ一つ解きほぐして。
そしてこの日のKAAT楽は安心して物語を体感することができ、心地良い満足感で劇場を後にすることができました。
公演を通じて感じたのはヒロイン・リリカ役の大原櫻子ちゃんの変化。
物語にしっかり乗って動くようになってて、その変化にいい意味で驚かされました。
本番に乗ってから深まり度が強くなるタイプのようで、来年の『ミス・サイゴン』キム役では後半に化けそうな気がします。
さて、今週末に兵庫公演を控えていますので、ラストネタバレは避けますが、多少のネタバレは出てしまいます。
お気になられる方は回れ右でお願いします。
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では、よろしいですか?
「怪人と探偵」というタイトルになってるこの作品ですが、見れば見るほど違う印象が見えてくる作品。
一つに、「欲望と理性」。
原題と比較的に近いですが、「あらゆるものを手に入れたい」怪人の"欲望"と、それを阻止せんとする探偵の"理性”のぶつかり合いとも取れる。
一つに、「愛と正義」。
欲望が尽きない怪人がもっとも求めたもの、それが"愛"。怪人が憎み、探偵がよすがにしたけれども、実は万能な道具ではなく、時には愛する人を傷つけるものでもあった"正義”。
この物語を見ていると「愛」も「正義」もそれぞれ厄介なものだなと。
「愛」ゆえの歪みはこの物語の随所に出てきて、愛する故に暴走するマユミ(フランク莉奈ちゃん)が筆頭ですが、「愛していれば、分かりあえない」のではないかと感じることも多々。
二十面相チームであっきー演じる二十面相の横に由美子さん演じるネコ夫人が並び立ち、他のメンバーとともに「愛」を歌い上げますが、「悪(これは世間一般からの理解として)」であれ、「愛」を欲する様が印象的。
愛されることが少ないからこそ、愛することでしか生きられないのかもしれないなというのと、悪だからこそ歪んだものを愛することしかできないのかと思うと、何だか胸に迫るものがありました。
櫻子ちゃんが演じたヒロイン・リリカは、あっきー二十面相に求愛されて彼の元へやってくる、その時に由美子さん演じるネコ夫人が放った「おめでとうございます」は皮肉に満ちて聞こえて。
「愛という厄介なものの世界へようこそ」と、まるで底なしの闇に迎えるかのようで。
ネコ夫人 にとっての自分の存在意義は怪人二十面相の横で欠かせない立場でいることで、愛する怪人二十面相の愛を受けていると錯覚できる。にもかかわらず、怪人二十面相の愛する相手はリリカであり、自分の愛は成就することはない。でも自分の愛する人(怪人二十面相)のためであれば、自分の思いはしまっておくしかない。
「愛は苦しみの始まり」、それが分かっているからこその思いが、由美子さんの低音域のドスがものすごく効果的で(爆)、流石でした。
そして最も印象が強い対比が「仮面と真実」。
今回の作品のメインテーマはこれだったのかなと。
怪人二十面相だけでなく、この作品の登場人物はすべからく仮面を被っている。
没落貴族ながらそれを隠す北小路夫妻もそうだし、家政婦とネコ夫人の参謀の2役の由美子さんもそうだし、かつて出会っていたリリカと明智との関係において、明智が本心を過去のリリカに明かさなかった明智の"仮面"もそうだし、言えばリリカの存在も、それこそ"仮面"にまみれている。
ただ、だからといって"真実"に迫る"正義"をもってすれば、全てが幸せになるかというと、それも全く違う。
明智が本心を隠して、当時のリリカに感情をぶつけられなかったからこそ、彼女の中に怪人が産まれたのかもしれない、と思えて。
「人は全て仮面を被って生きている」は奇しくもあっきーのミュージカルデビュー作『モーツァルト!』の後半で語られたことですが、今作品ラスト近くであっきー演じる怪人がリリカに対して"仮面"を脱いで接したことはとても印象的で、それに比べてリリカと明智の、最後までの"仮面"合戦がなんだかなぁ、と苦笑してしまいました。
それにつけても、舞台上の俳優のみなさまが「仮面」をつけて、役の人生を生きていて。
その様を客席から拝見していて、役の本質、役者の本質を知ろうと見ているお客さんも「探偵」なのかなぁ、となんだか不思議な気持ちになった観劇でした(笑)。
キャストで印象的だったのが、怪人二十面相チームのアクション担当、紅蜥蜴役の碓井菜央さんの存在感。
来年3月~5月の地球ゴージャス『星の大地に降る涙』でも拝見できるようで、楽しみです。