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『いつか~one fine day』(1)

2019.4.14(Sun.) 16:30~19:00
 シアタートラム F列10番台(下手側)

Conseptさんの新作。
上階の世田谷パブリックシアターは何度も行っていますが、シアタートラムは初めて。入ってみると奥行きこそ違いますが、去年のConseptさんの『In This House~最後の夜、最初の朝~』を上演された池袋・東京芸術劇場シアターイーストとも空気感が似ています。

韓国映画『one day』を元敷きにエンディングを少し変えている作品ということですが、幸か不幸か映画は未見なので、まっさらな気持ちで見られるのはありがたいです。(ちなみに、この回はトークショー付きの回だったため、映画を見たことある方を聞いたらだいたい3割ぐらいだったようです)

まず、ただただ素晴らしかったと、そう申し上げたいです。

昼に日生で『笑う男』を見て涙を流したばかりというのに、『いつか』はスイッチ入ってからずっと涙を流していました。この1日で1年分の涙を流したんじゃないかと思うほど(笑)、間違いなく1回の観劇で流した涙の量は過去最高です。

主人公は藤岡正明氏演じる保険会社社員・テル。少し前に妻・マキ(入来茉里さん)を亡くし、仕事復帰して最初に上司・クサナギ(小林タカ鹿さん)から割り当てられた仕事は、交通事故で植物状態にある盲目の女性・エミ(皆本麻帆さん)の案件で示談を勝ち取ること。ところがエミの友人にして代理人のマドカ(佃井皆美さん)と友人のトモ(荒田至法さん)からは、けんもほろろ。とりつく島もない始末。ところが、八方ふさがりのテルが酔ってエミの病室で一晩過ごし、起きてみると、テルだけはエミと話ができるようになっていた。奔放なエミに振り回されるテルだが、次第にテルにも気持ちの変化が現れ始める。

....という導入部。

えと、なるべくネタバレは避けるようにはしますが、まっさらでご覧になりたい方のために、ここからはネタバレが含まれるパートに入りますので、ご注意くださいませ。



よろしいですね?

この作品の前半部は、比較的予想できる物語の展開というか、「感動の方程式」に則ったような展開になっていて、正直言って、「こことここを組み合わせるようにしてるからあぁなるほど感動するよね」みたいに思っていたんですが、8人の登場人物の人物造形が出終わって、それぞれの人物の心が動き出してから、一気に感情のさざなみが押し寄せます。

テルにとってわだかまっているマキへの後悔、それゆえにどう対応していいかわからないエミへの気持ち。
エミと同じく児童福祉施設育ちで、姉のような存在のマドカの、保険会社社員に対するぴりぴりした反応。

テルにとっては最初は業務命令である「示談を勝ち取る」ことに対しても熱心ではなく、自分からしか見えないエミからの強烈なプッシュにも戸惑うだけで、マドカに対しても形通りの説得をしているだけに過ぎないんですね。

当然、その様をマドカに見透かされてまともに相手をしてもらえない。マドカは大好きなエミが、なんでこんなことになったのか真実が知りたいだけ。でもマドカにしてみても、植物人間状態にあるエミから聞きだせるわけもなく、ただ立ちすくんでいるだけでもある。

閉塞状態を動かすキーが、本来はありえない「エミの意思表示」。これがテルだけには見える。最愛の人を亡くした経験を持つテルだけに。エミはただ自分の思いを知ってほしかった、自分のやりたいことをやれるようにしてほしかった。エミに振り回されるだけのテルだったけれども、ただ、流されている間に、すべてに消極的だったテルの心にも光が宿ってくる様が感動的。エミの願いを聞くことは、自分の願いを整理することでもあって。

今回の作品のタイトルになっている「いつか」という言葉。

「いつかエミは目覚めるかもしれない」とマドカは思い
「いつかマキへの思いは整理できるかもしれない」とテルは思っているけれど、それは他人頼みの願いでしかない。

「いつかこうしたい」
そういう思いを持って、先に進もうと努力することでしか未来は開けない
できないことも、いつかできるようになりたい、それが生きる意味。

死を目の前にしたエミが、「いつか」なんて悠長なことを言っていられないほど追い詰められたとき、助けを求めることができた唯一の存在がテル。

テルは、エミの願いを聞いているうちに、いつしかエミの願いを叶えることこそ自分の生きている意味だと感じるようになる。素直な麻帆ちゃんのエミ、実直な藤岡氏のテルだからこそ、物語が前に進む。

エミの出生の秘密が明らかになることでさらに物語が動く。エミの母親を演じるのは和田清香さん。
かつてエミを捨てた母親だけれども、実年齢は麻帆ちゃんとは4歳違い(爆)。でも堂々とした母親で、むしろ若いからこそエミの母親としていられなかったという風にも思えて、とっても良かったです。清香さんの歌の叫び、とりわけ響きました。

舞台として眺めると「誰が良い、誰が悪い」って言いたくなってしまうけれども、実際はそれは違って、それぞれの人にそれぞれの事情があって、「誰が良い、誰が悪い」ではない。相手を思えば言わないことが正しいこともあるし、言うことが正しいこともある。全員にとっての正解なんてないし、全員にとっての不正解もない。

期せずしてこの日のトークショーでも藤岡さんが仰っていましたが、「答えを提示する作品ではなくて問いかけをする作品」というのがぴったり。

そんなこの作品作りの現場は、演出の板垣さん曰く「みんな小学生かってぐらいにぎやか」で、「通しげいこで初めて静かになった(笑)」そう。でも出演者みんな口々に「こんなに笑いが起きる現場はない」と言っていて、藤岡さん曰く「板(垣)さんは、ある人が出すぎていると上手く収めて、しり込みしていると上手く自信をつけさせる」と褒め、板垣さんは「仕事ですから(笑)」と言いつつ嬉しそう。

今回の作品の出演を決めた決め手は、入来さんが「資料が送られてきてほぼ即決」と言われていて、板垣さんがびっくりされていましたが「去年5月にワークショップ(霞が関ビルでやってた)が楽しかったので板垣さんなら大丈夫だと安心して」と答えていて、同じ場で共演された和田さんも、ほぼ同じことを仰っていました。ちなみに和田さん、出演を依頼するプロデューサーからの連絡が「お母さま役なのですが…」って”とても恐縮そうに”送られてきたことに大層悩まれたそうで(笑)、最終的には麻帆ちゃんと去年同じ役をやっており、気が合ったこともあって今回決断されたと仰っていました。

この作品自体はプロデューサーの宋さんから板垣さんに依頼があった時、「これできないよ」と言われたそうなのですが(笑)、脚本を板垣さんご自身が書かれたということもあり、演出はスムーズに進んだそう。

板垣さん曰く「役者さんには自由に動くことを奨励する演出家なので、毎回毎回感情が変わることも楽しんでほしい」と仰っていたこの作品。

最初から全部余白を埋めきらず、最後のピースを観客に委ねてくれるからこそ、清々しい気持ちで劇場を後に出来るように思えてなりません。

公演は21日まで、三軒茶屋駅前・シアタートラムにて。

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