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『マリー・アントワネット』(10)

2018.11.23(Fri.) 13:00~16:00
帝国劇場 2階M列50番台(上手側)

2018.11.25(Sun.) 12:00~15:20
帝国劇場 1階C列30番台(センターブロック)

帝劇公演千穐楽、終わってしまいました。
とにかく、何もかもが凄かった回でした。座らせていただいた席は、ラスト、昆マルグリットと玲奈マリーがまっすぐ視線上にある、最上の席だったこともあるとしても、帝劇楽に相応しい、素晴らしい公演でした。

前回まで10回連続玲奈マリーだったこともあり、帝劇楽前に改めて(博多座以来)で見ておきたかった花總マリーも拝見でき、マリーそれぞれの違いも改めて感じられて、とても刺激的でした。

対比するなら、花總マリーは「孤高の王妃」、玲奈マリーは「孤独の王妃」という印象。

花總マリーの王妃としての佇まいは理屈でなくて、全編に亘り「王妃としての存在」が自らを支えていて、「生まれながらの王妃」というさま。

玲奈マリーは「民間から嫁入りした王妃」という印象で、「王妃としてのプライド」が自らを支えている感じ。

花總マリーは「王妃として生きること」が自らにとっての存在意義で、玲奈マリーは「王妃という役割を果たすこと」が自らにとっての存在意義に感じます。

そしてマリーにとってのマルグリットの位置づけも違って、花總マリーにとってのマルグリットは自分の存在を脅かす脅威と感じられないけど、玲奈マリーにとってマルグリットははっきりと自分の存在を脅かす脅威。
空想に生きる王妃(花總マリー)と、空想に生きたいのに現実が分かってしまう王妃(玲奈マリー)、の違いとも言える気がします。

「憎しみの瞳」の後も、花總マリーはマルグリットに「出て行ってちょうだい」と言っていて、単に事務的にマルグリットをあしらっているのに対して、玲奈マリーはマルグリットに「出ていきなさい」と強く高圧的に言うのですね。

見るに、花總マリーはマルグリットに対して脅威といった意識をそれほど感じていない風ですが、玲奈マリーはマルグリットに隙を見せることは自らに対する危険と感じていることがはっきり見えて、だからこそ高圧的にマルグリットに当たるように見えます。

帝劇千穐楽のマルグリットは昆マルグリットでしたが、高圧的に玲奈マリーに当たられた後、はっきりと不快感を見せるかのように靴音を激しく立てて退出していって。王妃の部屋係として潜入しながら、マリーに従わざるを得ない悔しさが滲み出ていて。これ、両マルグリットとも、今まで拝見したことがない表現で、こんな表現があるのかと、昆マルグリットの入り込みに脱帽でした。

マリーの対比で興味深かったのは2幕、マリーが全てを失い白髪になりマルグリットを責めるシーンで花總マリーはマルグリットをはっきり見て責めるのに対して、玲奈マリーはマルグリットについて一瞥もくれず、ただマルグリットを責めるんですね。玲奈マリーはマルグリットに向かい合う力さえない、というようにも思えますが、マルグリットにとっては自分と向き合ってさえもらえない、責める価値がないと思えるように見えて、玲奈マリーからの責めの方がダメージ大きいのでは、と感じさせられました。

そして面白かったのは、マリーによって怒り方が違うということ。花總マリーは宝石商に渡された偽造の手紙をルイの顔先に突き付け、「私の言っていることは正しいでしょ!」と言うかのような怒りですし、ロアン大司教の無実を報じる書類を投げ捨てる激しさを持っていますが、むしろ勝気なイメージは玲奈マリーの方が(印象としては)あったので、玲奈マリーがやりそうな様だったことを、花總マリーがされていたことが意外です。

とはいえ、実は玲奈マリーは私の拝見した11回中唯一1回、帝劇千穐楽で花總マリー同様に、優一ルイに対して顔先の突き付けをやられまして、驚愕。ただ、思い返すと、玲奈マリーは当初からするとずいぶん王妃らしくなられて、また逆に花總マリーは当初からするとずいぶん感情を露わにされるようになった印象を受けました。

そしてここからは帝劇千穐楽の話を。

玲奈マリーはずっと見続けてきましたが、観る側にとって「以前はマルグリットとして戦った」ことは、どうしても初演観劇者として持ち続けざるを得ない固定観念であったことを改めて感じて。玲奈ちゃん本人が「かつてのマルグリットとしてのことは忘れた」と仰っていても、どこか「マルグリットとして戦った要素が、戦うマリーに受け継がれている」と思い込んでみているところがあったんですね。

でも、玲奈マリーは帝劇後半に進むにつれ、確実に「王妃としての振る舞い」を増してきて、帝劇千穐楽ではたしかに「王妃としての闘い」に見えて。

嫁入りして、必死の思いで王妃として認められようと努力してきた様が見えて、その上でルイの執務室でオルレアンの手紙を見つけたときの怒りを見ていると、なるほどと思える部分があって。

勿論、きっかけは自らの軽はずみな行い(仮面舞踏会でフェルセンとずっと踊っていた)とはいえ、王妃として国王・ルイに必死に寄り添ってきた絆を断ち切ろうとする、オルレアンの手紙を見て、はっきりと彼を敵と認識するのですね。王と王妃に亀裂を生じさせようとするオルレアンの陰謀は、自らの「王妃としてあろうとしたさま」に対する反逆であり、だからこそ激高し我を失うのだというのが見えて。

だからこそ、その浅はかな行い(激高してロアンを逮捕させる)ことが事態を悪化させる様の説得力が凄くて。
「マリーにとって正しい」と思うことを突っ走る、それほどに精神的に幼いからこそ、オルレアンにとっても「与しやすい相手」であり、「足を掬いやすい相手」なのだということ。

それ故、自ら突っ走りフェルセンの言うことも聞かなかったゆえ、「身動きできなくなり」フェルセンに対して後悔の手紙を送る、その一連の流れが一貫していてとても分かりやすくて流石でした。

・・・

帝劇千穐楽でもう一つ印象的だったのは、昆マルグリットの凄味。

玲奈マリーがシャルルを奪われ、身体丸ごとの絶叫で泣き叫ぶ様を見て、昆マルグリットは心揺さぶられていて。かつての同志がまさに蛮行と言えるほどの行為で、シャルルをマリーから奪っていったとき、閉ざされた扉を激しく叩き抗議していて。

玲奈マリーの嗚咽ともいえる叫び声を目の当たりにして、両手で顔を覆った昆マルグリットが受けた衝撃が伝わってきて、続いて引き出されたマリーの裁判の席では、落ち着き払ったマリーに対して、マルグリットが激しく動揺し、革命裁判所の追及にまさに今泣かんとするかのようなギリギリの状態で問いに答える様は凄かったです。

処刑直前、刑場に現れ、マルグリットは目の前に倒れた玲奈マリーに近づくけれど、「あなたに合わせる顔がない」かのように顔を伏せる昆マルグリット。その時、玲奈マリーは昆マルグリットをしっかり見つめて「ありがとう」と伝える。それは何よりの救いだったと思う。

玲奈マリーを見送り、まさに懺悔するかのように頭を地面に擦り付ける昆マルグリット。彼女の後悔が現れたかのような凄い風景。それでも彼女の処刑を見ないと前には進めない…。必死で身体を起こす姿に胸を打たれました。

自分の手で女性の命を奪ってしまった、十字架の中で、マルグリットがなすべきことは何であるのか。

侮蔑し続けた女性への償いとして、自らが取るべき術が何であるのか、それをはっきり見せたこの日の昆マルグリットは凄まじくて。だからこそ、ラストで昆マルグリットに天上から降り注ぐかのような、玲奈マリーの癒しの歌声は何よりの救いに見えて、涙が止まりませんでした。

マルグリットからマリーへの憎しみの瞳は、マリーからマルグリットへの赦しの声によって癒されたことを感じさせられて、感動しました。

・・・・

帝劇千穐楽は、東京公演のみの出演となった田代万里生フェルセンの大楽でもありました。
マリーの玲奈ちゃんとは、『スクルージ』、『ジキル&ハイド』、『ウーマン・イン・ホワイト』等共演を重ねてきていますが、今回ほどに万里生氏の頼もしさを実感させられることはなくて、本当にありがたかったです。

カーテンコールでは玲奈ちゃんに「クリスティーヌの元に行っちゃうのよね?」と責められてましたが(笑)、また頼もしいパートナーとして再会できますことを心から願っております。

・・・・

カーテンコールの司会は玲奈ちゃんが担当(前日の花總さん東京楽の時も司会は花總さんだったので、今回はマリーが司会ということで統一されたようです)。話されているうちに感情が溢れ、泣き声になりそうになったところは心配しましたが、無事任務を果たされて安堵しました。

とりわけ、カーテンコール後半で万里生くんを後に舞台に残された玲奈ちゃんの行いは正しかったことと思いますし、普段は上段に行かれるアンサンブルキャストの皆さんを率先して下に呼ばれて、前方に押し出されて拍手を受けられるようにされていて。もちろんタイトルロールとしては当たり前のことではあるのですが感動させられました。

玲奈ちゃんと万里生くんがぎゅっと抱擁されていたら、その真後ろに優ちゃんが待機していて、万里生くんが「おおぅ」と驚くという小芝居(爆)の末、今度は玲奈ちゃんと優ちゃんとでぎゅっと抱擁という、これ以上ない大団円なカーテンコールに大満足な帝劇千穐楽でした。

あ、玲奈ちゃんと昆ちゃんのぎゅっと抱擁するシーンだけなかった(笑)けど、それはまたの機会を楽しみにしたいと思います。

地方公演、この後は12月10日から名古屋・御園座で、その後は来年1月1日の大阪・梅田芸術劇場メインホールでの上演となります。

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