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『タイタニック』

2018.10.6(Sat.) 17:30~20:10
日本青年館ホール 1階1H列30番台(センターブロック)

初演で見逃して今回の再演が初見なこの作品。
有名すぎるほど有名な、タイタニック号沈没(遭難)をテーマにしたミュージカルで、正式タイトルは『タイタニック the musical』。

史実として”沈没した”という事実はある物語をどう膨らませるのか、初演当時の評判を耳にしてはいました。
実際に見てみると初演の評判の意味も分かりますし、自分自身、見ていて不意に涙する瞬間が何か所も。

トム・サザーランド氏の演出はリアル過ぎず、それでいて表層的ではもちろんなくて、自分自身の感覚では正直『パジャマゲーム』ではしっくりこなかったのですが、『タイタニック』では色々と腑に落ちました。

史実を元にした物語って、すべてが事実のように見えてしまうけれども、当然のことながらそうではないわけで。船の中で起こった物語も、乗客の3分の2以上が亡くなり、残された人たちも当時の心の傷を抱きながら生きて、何が事実なのか今となっては証明のしようもないし、演劇は”事実だけを表現する”ものではないわけで。作者なり演出家なりが、何を主題にして見せようとするか、そこに演劇の存在する意味があると思っていて。

タイタニック号の物語としてこの作品を見ていて最も印象的だったのは、”完全な船”という定義。

処女航海で沈没したこの船は、後言いで言えば色々言えるけれども、作る側からすれば”完全な船”、つまるところ”沈むはずのない船”という理解。

この作品の主人公が、運行の総責任者であった船長ではなく、物語上大きな負の方向を放ったオーナー(簡単に言えば「無理をさせた」)でもなく、加藤和樹氏演じる「設計士」だったことが最も印象的でした。

というのも、船長よりもオーナーよりも設計者が上位ということは、「タイタニック」という「完全な船」を「作る」ことに主眼が置かれてると見たからで、そして「完全な船を人間が作れる」という概念自体が、ある意味「神への挑戦」ではないのか、つまるところ人間の傲慢さなのではないかと思えて。

一つの船の中で「運命を共にする」はずの2200人は、「生き残った」人と「亡くなった」人に分かれて、生き残った人は亡くなった人の分まで生きていく、という構成は私の好きな舞台作品『SHIROH』(2004年、東宝&新感線)でも同じですが、その作品で主人公の一人である、益田四郎時貞(上川隆也さんが演じました)が言う言葉に、「神を試すものは必ず神によって裁かれる」と語る言葉があって。

大きい船だから沈まない、完璧な船だから沈まない-タイタニック号沈没からこの作品は「人智を越えたことへの報い」を見せているように見えて仕方ありませんでした。

オーナーは到着地ニューヨークへ早く着くべく、船長に速度を上げるよう命令する。船長は危険を感じつつも結局は押し切られる。
氷山の発見情報も他の船舶から受け取っていながら、その危険は最終的に共有されることなく、氷山に衝突。
そうなってから、船長とオーナーと設計士はそれぞれがそれぞれを責めるわけだけれども、当然、それで何かが解決するはずもなく。

偉い人とはどこの世も無理しか言わないものだなぁと思うし(苦笑)、実直なら神は救って下さるとは限らないし、誠実であればそれで全てが成功するわけでもない。

人がそもそも掌握できる範囲には限界があって、それを越えたものを作れると思うのも傲慢だし、作れたとしても成功するかはただの運である、そんなことを感じずにはいられませんでした。

タイタニック号に夢を求め、新天地を夢見る乗客たち。
乗員も、新天地としてタイタニック号に自らの夢を求めたけれども、結局何も変わりはしなくて。
藤岡正明さんが演じた機関士・バレットは実直の極みな人物で、上からの命令に反発の思いを抱きながらも、結局は自分の運命を自分で決めることはできなくて。

7月の氏のライブで聞いた「バレットソング」はライブで単体で聞いても凄い迫力だったけれど、この日作品で通して聞いた曲はその何倍も凄くて。もともと芝居歌な藤岡氏だからというのもあると思いますが、タイタニック号の良心を見せたかのような姿は、深く印象付けられました。

この作品では悪人的な立場で描かれているオーナーにしても、タイタニック号に夢を求めたのは間違いなくて、夢を求めること自体は間違いではないけれども、現実に背を向けるのも正しくないし、かといって現実に終始するのも後退なのだなとは思わされます。

この作品において「等級」という事柄が歴然とした格差として存在し、1等、2等、3等の客は全く別の扱いをされています。

3等の女性キャスト3人の中で最もアグレッシブに動くケイト・マクゴーワンを演じたのは小南満佑子ちゃん。アメリカに自分の夢を求め、愛する彼にも真っ直ぐぶつかっていく様が存在感抜群で素敵でした。興味深かったのは、3等の女性キャストは別のシーンでは何と1等のお客さんを演じているんですよね。

「等級」という格差が存在しながらも、実のところそれを揶揄するかのような見せ方が興味深かったです。

この3等の女性キャストは役名が全部ケイトで、満佑子ちゃんが演じたケイトは初演では則松亜海さん(今年の『1789』東宝版で準プリンシパルのリュシル役)、そして今回屋比久(知奈)ちゃんが演じたケイトは初演では菊地美香ちゃんが演じていたのですが、美香ちゃんは今回、正に昇格で3等客から2等客に転じてキャロライン役に。こちら初演は未来優希さんで、役柄的には美香ちゃんだとちょっと元気に見えちゃうところはありましたが、全体的には好演。

満佑子ちゃんと美香ちゃんはどちらもコゼット、『SHOCK』のリカ役経験者ですが、今回のキャラはどっちも積極的な生き方で、おぉ、コゼットがどっちも積極的(笑)と思っておりました。

美香ちゃんの役替わりでも思いますが、きっとキャストが変わっていっても、軸になる人たちが受け継いでいく。
その様を見せようとしている作品に思えて。
作品の熱量を肌で感じられた、得難い体験になりました。

東京公演は13日(土)まで。その後大阪公演が梅田芸術劇場で上演されます。

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