« 『タイタニック』 | トップページ | 『さらだやんライブ「音の葉*7まいめ」』 »

『マリー・アントワネット』(5)

2018.10.9(Tue.) 18:00~21:00
帝国劇場 1階C列10番台(下手側)

帝劇公演2日目。
笹本玲奈さん、2003年8月の『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役での帝劇デビュー以来、実に15年2ヶ月を経ての帝劇初タイトルロール。その初日を見てきました。

博多座で再演版を見ているだけに、心落ち着いて拝見できたのは何よりでしたが、舞台サイズの変更もさほどの違和感は感じず。

初演版を振り返りながら再演版を見ると、初演版は「マルグリット視点の物語」なのに対して、再演版は「マリー視点の物語」なことを感じます。

初演は「マルグリット」側の正義を重点に描いていて、それが利用されたことに対する虚無という観劇後の感想だったのに対して、再演は「マリー」側の正義を重点に描いていて、マルグリットが自分の気持ちを「「革命」に利用されたことで、マリーの貫いた正義の意味と大切さを感じ取る」、そんな違いに感じました。

フランス革命への見方が恐らく全く違うのだと思っていて、それこそ直前の『1789』だったりが前者なのに対して、フランス革命への見方が懐疑的なのが今回の再演版の描き方の特徴なのかと思います。
『1789』に続けて本作に出演されているソニンさんが実際驚いたと仰っていますしね。

帝劇0番に立つ玲奈ちゃんに感慨深い思いを抱きながらも、博多座との違いを感じながら拝見しますが、まずは共通点として、玲奈ちゃんの演技って、鏡みたいだなと改めて思います。以前から、相手の役者さんとの呼吸で日々の演技が全く違うタイプの女優さんですが、感情ぶつかり合うMAではとりわけその印象を強く感じます。

この日のマルグリット、昆ちゃんとは『レ・ミゼラブル』エポニーヌ、『ミス・サイゴン』キムで同時期同役を演じた先輩後輩の関係。玲奈ちゃんのマルグリットを帝劇の客席から見ていた(ご自身談な)昆ちゃんが、今度は玲奈マリーと昆マルグリットとして対峙しているわけで、2人の歩みを知っている自分なんかからすると、ただ無条件に感動してしまうのですが、もう一つ印象的なのは、玲奈マリーも、昆マルグリットも、遠慮というものがないということ。

玲奈ちゃんも昆ちゃんも、女優さんとしては「遠慮」をされるタイプの女優さんだと感じていて、でも今回、この2人は全くと言っていいほど遠慮を感じずに、真っ直ぐにぶつかっているのが本当に清々しい。

昆マルグリットの直情的な攻撃を、真正面から受け止める玲奈マリー。

玲奈ちゃん自身は「以前マルグリットだったことを意識していない」と仰っていますが、見る方からしますと、あの勝気なマリーはマルグリットだった過去を確実に含んでいます(笑)。まさに「戦うマリー」。

マリーとマルグリットが、声を重ねるシーンが初演ではほとんどありませんでしたが、2幕に対決デュエット(待望!)もあり、それ以上に1幕ラストで同じキーワード「我慢などしない」を同時に歌うのがとても印象的。立場は違えど、同じマグマを持った「2人のMA」ぶりを感じます。

玲奈マリーはとにかく勝ち気で、1幕後半、はっきりと敵を自覚してからのシフトチェンジが凄くてですね、あの原田ルイさえ慄かせる、手の付けられない直情ぶり。

誰に何を言われようともオルレアンを信じない、大司教を信じないあの徹底ぶりは凄い。マリーは自分のことを「人を信じすぎる」と言っていますが、全編を通して見ると、信じるべき人を信じて、信じるべきでない人は信じていなくて、マリーの人の見る目は実はしっかりしていることを、再演版で特に感じます。

それにも増して、玲奈ちゃんの女優さんとしての演じ方が「目には目を、歯には歯を」なので(爆)、マルグリットからのまっすぐの敵意にはまっすぐの敵意を返すし、オルレアンに対してもロアン大司教に対しても同じ(特にオルレアンとの対決は『ルドルフ・ザ・ラストキス』の岡ターフェとの血たぎる対決と似た印象を受けました)。

そして、フェルセンからのまっすぐの誠意にはまっすぐの誠意を。この日は万里生フェルセンでしたが、万里生フェルセンに対しては「愛には愛を」という感じ。庭で泣きそうな玲奈マリーの背中を優しそうにさする万里生フェルセンがもう、それはそれは王子様過ぎて素晴らしすぎました。
そして、古川フェルセンに対しては「恋には恋を」という感じがしました。

ただ、そんな玲奈ちゃんの女優さんとしての特徴、「相手の演技との空気感で演技を作り出す」だけだと、タイトルロールが務まらないのもこれまた一面で、そこは博多座と違った居ずまいでした。玲奈ちゃん単独で場をもたせられるように努力されている様が伝わってきて、花總さんの居ずまいをだいぶ参考にされたように思えました。

・・・

玲奈マリーの特徴と言えば「母」であることですが、この日新鮮な発見が。

マルグリットは私生児ということもあって、「母」との思い出がない、わけなのですが、マリーの監視役としてもぐりこんだ先で、革命同志たちの横暴に嫌悪を抱き、マリーの子供であるシャルルやテレーズを庇うようになる。ただ、その後、息子を必死で守ろうとしたマリーが、それを果たせず息子と引き裂かれ、マリーが絶望しているシーンの背後にいたマルグリットの居ずまいが、何だかいつもと違って見えて。

玲奈マリーが必死に息子・娘を守ろうとしている様を見て、マルグリットが自分は持っていない「母」というものの存在を知って、なんだかマルグリットはマリーを「母」として憧れの目で見たようにさえ見えました。玲奈ちゃんと昆ちゃんを姉妹として見えたことは何度もあったけど、母娘として見える日が来るとは思わなかったな。

そして、マルグリットはマリーと対峙した時のことを思い出したのではないかと思えて。「守るものがありすぎて身動きが取れないマリー」と「守るものがなさすぎて羨むことしかできないマルグリット」が、お互い「私のことを知らないくせに」と対峙しあうさま。

2人のMAを無理くりにそこまでつなげる設定にしなくても良かったと思うけれども、マリーはマリーで自らの罪を知って、マルグリットはマルグリットで自らの罪を知って、その上でお互いが心通じ合って結びつく形に描かれた再演版MAが好きです。

・・・

12年前の初演で2回目に見たときに自分はこんな感想をblogに書いていました。
再演を見てから見直して驚いた文です。

<ここから>---------------------------------------------------
憎しみは何も生まないし
自らが信じてきた革命は仲間と信じていていた人々によって汚されて
正義なんてどこにもないかもしれないけど
それでも何かを信じないと生きていけないのが人間じゃないかと思う

マルグリットはマリーアントワネットの存在により何か信じるものを得られたのか
何かが変わったのか、それが読み取れなかったからマリーアントワネットの存在が無に見えた
マリーアントワネットは悪ではあっても無知としての悪であったのだと思うから、その存在がもう一人のMAであるマルグリットに受け継がれていて欲しかった

<ここまで>----------------------------------------------------

私が初演で心につっかえていたこと、それは「マリーアントワネットが生きた意味がマルグリットに引き継がれていてほしかった、そうでないと2人のMAの意味がない」ということ。

マリーは自らの「無知」の罪を認め、恨み憎しみがなくなる世界を願い、自ら断頭台に向かっていった。
ドレスに着飾っていたかりそめの姿より、ドレスを失ってから輝く様こそが、玲奈マリーの真骨頂。
自らの「革命」への純粋な気持ちを汚され、女としての誇りも踏みにじられたマルグリットにとって、マリーは尊敬すべき存在に変わった。
だからこそ、マルグリットは自分ができる、すべきことをした。

マリーが孤独の中で生きてきたことを知り、自分も孤独の中を生きてきたことを思い、「2人のMA」は「孤独」という点で思いを共にしたように思えました。

集団の狂気の中で「革命」という言葉の名のもとに、出口のない殺戮に向かったとき。
フランス革命の見方がこういう観点から描かれた作品も珍しいと思いますし、好みが分かれる部分かもしれません。

・・・

終演後は、玲奈ちゃんからのご挨拶。

「9月に博多座で幕を開けました、新生『マリーアントワネット』、昨日帝劇初日を迎え、今日は私、昆さん、田代さん、原田さん、そして子役の2人が初日を迎えました」

そこで光夫さんが「俺」と指さすと、すかさず玲奈ちゃん「俺?俺は昨日出てたでしょ(会場内笑)」

…え、玲奈ちゃん、光夫さんスルースキルいつ貯めたの(笑)

「この作品は12年前、帝国劇場で誕生した作品なんですけれども、そのときは私はマルグリットアルノーを演じておりまして(昆ちゃんを手振りで紹介しながら)、毎日『王妃を倒せ!』と叫んでいたんですが、12年の時を経て、王妃へと成り上がり(笑)、この作品に戻ってくることができ、とても幸せに思っています」

「私の母も宝塚在団当時マリーアントワネットを演じていて、ご縁のある役と感じています。」

「このミュージカル『マリーアントワネット』は皆さまそれぞれが違った印象を持たれる作品かと思います」

「お客様みなさまに何か一つでも心に残っていたければ(カンパニー)一同嬉しく思います。リピーターチケットとかもありますので、ぜひまた劇場に足をお運びください」

会場中からの大拍手で幕。
カーテンコールラストはドレスな玲奈ちゃん&使用人風に振る舞う昆ちゃんという、ナイスな出し物で幕となりました。

|

« 『タイタニック』 | トップページ | 『さらだやんライブ「音の葉*7まいめ」』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/67258031

この記事へのトラックバック一覧です: 『マリー・アントワネット』(5):

« 『タイタニック』 | トップページ | 『さらだやんライブ「音の葉*7まいめ」』 »