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『ブルックリン』

2018.9.22(Sat.) 12:00~13:55 Westチーム
2018.9.24(Mon.) 12:00~13:55 Eastチーム
上野ストアハウス
West:D列通路際(下手側)
East:I列通路際(下手側)

久しぶりのScoreプロデュース作品、2チームを観劇です。

本当のところは、初日である9月19日夜公演(Eastチーム)も観劇予定だったのですが、直前にシステム障害で待機を余儀なくされて断念。

2チーム制の場合、ご贔屓さんのチーム→逆チーム→ご贔屓さんのチーム、というのが自分の中の鉄則になっていまして、初見はまっさらで第一印象を受け取りたい、最後の記憶はお気に入りのチームにしたい、それでいてもう一方とも比較したい・・・となれば、この順番しか採れないのですが、今回は突発的な事情でやむなく1チーム1回ずつの観劇となりました。

楽を迎えましたので、ネタばれモードで参ります。気になされる方は回れ右でお願いします。



作品の舞台はニューヨーク・ブルックリン。ブルックリン生まれの男性・テイラーがフランス旅行中に出会った女性・フェイスと恋に落ちるが、テイラーはベトナム戦争に召集され、フェイスが身ごもったことも知らずに旅立つ。生まれた娘には父親の出身地である「ブルックリン」の名が付けられる。

やがてブルックリンは母親・フェイスを喪い、自らの原点、真実を求めにニューヨーク・ブルックリンへ向かい、新進気鋭の歌い手として脚光を浴びる。しかし、そこにはブルックリン生まれの野心の塊、R&Bの女王であるパラダイスがいた。パラダイスからの挑戦を受けたブルックリン、ステージ上で父親との再会を実現させると公言したのだが・・・

といった物語。

日本では2007年に東京芸術劇場中ホールほかで初上演、2016年にミュージカル座で上演され、小劇場での上演は今回が初。

今回は2チーム制のキャスト固定での上演。主演ブルックリンはEastチームがRiRiKAさん、Westチームが青野紗穂さん。ライバル・パラダイスはEastチームが塚本直さん、Westチームがエリアンナさん。

この作品の上演とキャスティングが発表されたときに、役柄的にはブルックリンは青野さんの方が合っているかも、と思っていました。RENTでミミもされた方ですし、音楽的にはR&Bの方向の作品という印象を持っていましたので。

Westのブルックリン・青野紗穂さんは、期待通りのソウルフルな歌声と、演技の繊細さが印象的。演技の世界に引っ張った恩師が藤田俊太郎さん(『ジャージー・ボーイズ』演出)なのもなるほどと納得します。パラダイス・エリアンナさんは、こちらも期待通りのパフォーマンスで会場を湧かせますが、やりたい放題なところも無きにしも非ず(笑)。

Westは思った以上に歌の力、歌声の力で進める方向性で、ぐいぐいと物語を前に進めるライブ感が凄いです。パラダイスなエリアンナさんがあえて会場内の悪役感を買って出ているようなところが強く見えすぎて、ブルックリンに対する半官びいきみたいな印象を持ちました。Westチームのブルックリンからパラダイスに対しては、自身の成功を奪った敵としての側面を最後まで引きずった印象を受けました。

Westの父母は、父親・テイラーが高橋卓士さん、母親・フェイスが尹嬉淑さん。特にテイラーの高橋さんの慟哭が印象に刻まれました。高橋さんは2016年のミュージカル座版でもこの役を演じられていますね。

この作品のストーリーテラー的な立ち位置はストリートシンガー役の役者が務めます。もともとこの作品自体がブルックリンで生きている仲間たちが、劇中劇としてこの作品を演じるという枠組みなので、ストリートシンガー役の役者は彼らのリーダー的な存在でもあり、劇中劇のストーリーテラーでもあります。

Westは長尾哲平さんが務めましたが、正直驚きました。氏は以前『王家の紋章』等でも拝見しており、どちらかというと濃いキャラクターの方に印象を引きずられていましたが、思った以上の美声と頼りがいのあるストリートシンガー役として、Westの物語の幹としてしっかりと存在していました。

Eastのブルックリン・RiRiKAさんはいつも出演されている作品とはかなり違う役どころなれど、本人が「どうしても演じたい」とオーディションを受けた、という執念が随所に感じられて圧倒されます。“綺麗に歌う”ということではなく、“歌を心で歌う”、“役を通して歌う”ことをRiRiKAさんの歌声でここまで感じさせられたことはなかったように思います。対するパラダイス・塚本直さんは、カーテンコールの挨拶で言及されていたのですが、演技はほぼ初の経験で、今までは歌手活動が中心だったのですね。なのにもかかわらず堂々とした存在感。

Eastで感じ取れたことで印象的だったのが、ブルックリンとパラダイスの関係性。

この2人は「ライバル」であるわけですが、Eastではこの2人の間にはっきりとした心のつながりを感じたのですね。パラダイスはとにかく成功したい、ブルックリンを蹴落としたい、その観点はWestでもEastでも同じだったわけですが、Eastの場合、ブルックリンが発した言葉が、パラダイスに伝わったように見えたのですね。

ブルックリンは「こんな対決止めよう」とパラダイスに言う。
「私はあなたの本当に欲しいものを知ってる」という言葉に、(自分の殻に閉じこもってこざるを得なかった)パラダイスの心が動いたように見えた。

ブルックリンがパラダイスに「父親はどこにいるの」と問いかけたところに、パラダイスは父親をずっと探していたけれど、「知らない方が良いこともある」とブルックリンに吐露する。

パラダイスはその後、ブルックリンが掲げた「父親と再会する」目的を阻止するために、父親であるテイラーの元へ出向き、彼の心を揺さぶり、彼を楽屋から放逐することに成功する・・・のだけれど、それは「マスコミという好奇の視線から彼を守る」、つまるところ「ブルックリンの父親を好奇の目に晒すことから避ける」ことでもあったわけですね。

で、それはパラダイス自身が最も欲しいもの、それを得られない代わりに得たい“成功”と、ブルックリンが最も欲しいものを得るための正しい方法でもあったのかと。

パラダイスは愛を求められずに成功を得て、
ブルックリンは成功をつかめなかった代わりに愛を得て。

2人は出会った意味を知って先に進んでいけるのかと思うと、自分はEastチームの方が芝居の通りがしっくりくるものを感じました。
(パラダイスが自らを「黒いカラス」と呼び、ブルックリンを「白いカモメ」と呼んでいた自虐が印象的でした。)

Eastチームの父親・テイラーは染谷洸太さん、母親・フェイスは香月彩里さん。どちらの役者さんも過去別作品で何度も拝見している安心のお2人です。染谷テイラーの苦悩は深くて重くて、一面的でなくて、娘であるRiRiKAブルックリンが、これなら最後は父を恨まずにいるよなぁ、な説得力が凄かったです。香月フェイスは踊りも華麗で、母親としても愛に溢れ、あぁRiRiKAブルックリンは確実に母親の血を引いているなぁ、を強く感じる存在感でした。

Eastのストーリーテラーは吉田純也さん。RiRiKAさんとはライブで共演したのを拝見していますが、相変わらず抜群の相性。ブルックリンとストーリーテラーの相性はこの物語の重要なキーですが、余すことなく疑うことなく絶品の相性過ぎて感謝感動です。

・・・

物語として面白いなぁと思ったのが、ブルックリンとパラダイスの対決について。

パラダイスって、いわゆる「アメリカ的なもの」の象徴で、ブルックリンは「アメリカにやってきたもの」の象徴でもあるんですよね。パラダイスは対決の前に「ここにきてアメリカが私を裏切るなら」と言っていることにも象徴されていますが、元からある「アメリカ的なもの」と「(移民として)アメリカにやってきたもの」との選択であり、前者が勝利したと。

それでいて、後者に対して配慮とでも言うかのような、“果実”を渡しているのが、アメリカの良心を感じるようで、興味深かったです。

・・・

物語に対してではないですが、今回の公演に関することとして個人的な覚書。

今回、ブルックリン役はWキャストだったわけですが、RiRiKAさんと青野さんは年齢が1回り以上離れています。そして、今回、インタビューをいくつか拝聴した限り、RiRiKAさんが青野さんのことを「ちゃん」付けで呼んだことは一度もなくて、それが何より嬉しかったこと。

参考インタビュー(カンフェティさん)

同じ役を演じる同志として、そして実際のところRiRiKAさんがにっぽん丸ツアー中の代役をずっと青野さんがされていた、つまりたくさん助けていただいたということも含めて、(年齢的には下であっても)同役をきちんと「さん」と呼ばれていたことがとても嬉しくて。

これは現在、博多座で公演されている『マリーアントワネット』での花總さんが、Wキャストの笹本さんにもまったく同じことをされて感動したのですが、つまるところ、Wキャストがお互いにリスペクトし合い、勝ち負けでなく別々の高みを目指すことが、どれほど清々しいことなのか、を体感できたことが、何よりこの作品で得た感動なのでした。

集客面では苦戦していた感じも否めず、本音を言えば2週間やって欲しかったこの作品も、実際のところは今回の6日間が限界だったのだとは思いますが、エネルギーとパワーに溢れたこの作品が、また再び拝見でき、より多くの方に見ていただける機会ができますことを願っています。

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