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『マンザナ、わが町』(5)

2018.9.9(Sun.) 13:30~16:30
紀伊國屋ホール B列10番台(センターブロック)

こまつ座さんの作品、2015年以来3年ぶりの再演です。
前回は18年ぶりの再演でしたので、異例の早期再演です。

出演者5人全員が女性。戦時下のアメリカ・カリフォルニア州、日系人を収容したマンザナ強制収容所が舞台の作品で、劇場に入ると否が応でも目に入る、鉄条網の存在が、そこが不自由な空間であることを知らしめてくれます。

5人の女性キャストのうち、4人までが続投。

唯一、歌手のリリアン竹内役が、前回は笹本玲奈ちゃんだったのが、今回は北川理恵ちゃんにバトンタッチ。
その変化がどんな化学反応になるのかがいちばんの注目ポイントでしたが、理恵ちゃんのリリアンを見て分かった玲奈ちゃんのリリアンの特徴があって。

リリアンはアメリカ人に憧れ、歌手を目指す少女なわけですが、玲奈ちゃんのリリアンって思った以上にアメリカ的なリリアンだったんだなと。「God Bless America」の滑らかさ、きらきらとした派手な輝きって、玲奈ちゃんだからこそだったんだなと。

その反面、理恵ちゃんは日本語歌詞の確かさと、芝居の落ち着きがあって、いわば日本的。
アメリカ人になりたいのに、なかなかそうなれない焦りを感じて、彼女の気の強さも相まって印象的です。年齢的には前回の玲奈ちゃんより今回の理恵ちゃんの方が3歳も若いのに(30歳と27歳)、今回の理恵ちゃんの方が落ち着いて感じます。

というのも、リリアンは玲奈ちゃんにとっては「若い」というポジションでやったほぼ最後の新役と言っても良くて(その後の新役は2016年の『熱海五郎一座』ぐらい)。

今回は『MA』のマリーアントワネット役と時期が被ったこともあって出演できなかったわけですが、玲奈ちゃんの最近のマリーの映像とかを見ていると、むしろ今の玲奈ちゃんは、(吉沢)梨絵さんが演じた映画女優・ジョイスの方がしっくりくる気がします。

玲奈ちゃんはずっと「若い」役に縛られてきたきらいがなきにしもあらずだったけれど、今回、別作品とちょうどぶつかったこともあって、芝居心もある若い理恵ちゃんに自然に引き継げたのはとてもいいなと思って。

その意味で、前回玲奈ちゃんがやった意味も、今回玲奈ちゃんがやらなかった意味もあるように思えました。この作品は受け継ぐことに大きな意味があると思うので。

・・・

物語に分け入ります。

この作品の登場人物5人は、いずれもがアメリカ合衆国にとって”都合の悪い”人たち。
現体制にいかなる形でも刃向かったことをもってして、5人部屋という同じ場所に押し込まれる。
住む場所も財産も、共同体も奪われ、縁もゆかりもない人と同じ時を過ごす。
過去を断ち切られ、未来を奪われ、希望のないまま、ただ今を生きることしかできない5人。

大なり小なり、アメリカという、”理想郷”を求めてきたはずの5人が、日系人だからという理由だけで辛酸を舐めざるを得ない現実。ある意味立場を同じくすることで、個性がぶつかり合いながらも、今を受け入れ、お互いを受け入れて少しずつ「他人を害さない自分の居場所」を得ていくさまは、したたかで、頼もしくて。

アメリカにいてさえ、むしろアメリカにいるからこそ、日本人としての誇りを持つことをもってしてこそ、強く生きられたさま。

みなが「アメリカ的なもの」へ憧れるものの、実のところ「アメリカ的なもの」というものはむしろなくて(インディアンからのものを除けば)、西洋からの輸入で形作られている、という評も意味深。多民族故に自らのレゾンテール(存在意義)を確保するために、常に外に向かって攻撃的であらざるを得ない、というアメリカへの見方が一面されているのも興味深いです。

戦時中の日系人への人権侵害に対してアメリカ政府が謝罪をした1988年(昭和63年)、それに比べてきちんと謝罪をしない日本とは、という問題提起がありつつも、それでも「日本的なもの」が確かに存在することへの有難さも表現されていたりして。

アメリカに一面的に拍手を送るばかりでなく、日本を一面的に批判するわけでもない、そのバランスの確からしさを感じられるさまがとても心地よく。

「移民」という、我が国から遠く離れるからこそ、日本人であることを大切にして生きることこそ、生きる支えになる。その心を日本で生きる日本人も強く意識すべき、というメッセージは、もっと若い年齢層の人たちにこそ、広く見てもらうべき物語だと、改めて感じさせられたのでした。

そう、conceptさんのカルチケみたいに、学生さんに無料か安価で見て感じてもらえるとかが、もっと広がるといいなぁ、と思うのです。こういう作品だからこそ。

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