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『マリー・アントワネット』(4)

博多座
2018.9.15(Sat.) 17:00~20:05
 1階E列(最前列)20番台(センターブロック)
 Wキャスト:笹本・昆・原田

2018.9.16(Sun.) 12:00~15:05
 3階B列40番台(上手側)
 Wキャスト:花總・昆・原田

2018.9.16(Sun.) 17:00~20:05
 3階A列20番台(センターブロック)
 Wキャスト:笹本・ソニン・佐藤

2006年に世界初演して以来、日本では12年ぶりの上演。
今年のシリーズは博多座が最初の上演となり、9月14日に初日を迎えた同公演を3公演、見てきました。

2006年の世界初演時は、マリーアントワネットは涼風真世さん。物語の軸となる「2人のMA」のもう片方の役、マルグリット・アルノー役が新妻聖子さん、笹本玲奈さんのWキャストでした。

今回は、マリーアントワネットが花總まりさんと笹本玲奈さんのWキャスト。玲奈さんは初演時のマルグリットからマリーへの役代わりとなります。マルグリット・アルノー役はソニンさんと昆夏美さんのWキャストです。

・・・

私は普段、blogの感想に厳しいことを書かないようにしているのですが、実はこの作品の初演の時は、今でも覚えているほど厳しい言葉を書きました。無論、役者さんに対してではなく、主にミュージカル作品への演出、そして演出から役者への見方、という観点で「MA」に対して相当厳しいことを書きました。

この作品が世界初演以後の凱旋公演を経て、ドイツ・ブレーメン公演を行った後、新演出版の韓国版が上演されていたことは知ってはいましたが、初演当時のもやもやした気持ちが心に残り続けていて、ずっと接することなくここまで来ました。

そんな中、発表された新演出版のキャスト、驚いたことに初演ではマルグリットを演じていた玲奈さんが、花總さんとWでマリーを演じるということで、相当の覚悟をもってして博多にやってきたのでした。

いつものとおり、ラストのネタバレはいたしませんが、初演との比較等、今回の新演出版で初めてお知りになりたい事柄もあると思いますので、まっさらな気持ちでご覧になりたい方は回れ右をお願いします。

ただ、私見ですが、初演でもやもやした気持ちをお持ちになった方にも、ある意味、別物の作品としてご覧になれると思います、とは申し上げたいと思います。






では、参ります。

先ほどは「もやもやした気持ち」という大人な書き方をしましたが、本音を言うならば「トラウマ」に近いものを初演に対して持っています。クンツェ・リーヴァイ作品で、曲はとても良いのですが、ミュージカル作品としては意味なく暗く、意味なく残虐だったことで、積極的に再び拝見する気にはならない作品でした。

ゆえに、相当の覚悟を持って今回の新演出版2日目(玲奈マリー初日)を見に行ったのですが、正直言ってミュージカル作品として相当良くできている、というのが実感です。

初演の自分の引っかかりは、「マリーアントワネットという女性、そしてそれを演じる役者さんへのリスペクトに欠ける」というその一点に集約されました。遠藤周作先生の原作どおりな部分はあるとしても、演出が栗山民也氏ということもあってか、あえてミュージカル的な手法を用いずにミュージカルを作ったとしか思えないようにも感じました。マリーアントワネットという実在した人物をテーマにしながら、そして物語を全身全霊で務め上げた役者を、カーテンコールで晒し者にするような方法を「演出」と認めることは、今でも自分にはできません。

マリーアントワネットという人物への評価が、ここ数年で変わっているところも、今回の新演出版を導き出せた一面だとは思っていて、いわゆる「世界三大悪女」と言われていたのが初演当時の主な評価ですが、それもずいぶん変わったのかなと。

初演当時は幕開きしょっぱなから、客席に向けて「この女は悪女だ、さぁ思いっきり嫌うがいい」みたいな演出(比喩です)でしたから、今回の新演出版ではそこはニュートラルに演出していて、世間知らずな面はあっても、「愛される女性」(マリーアントワネットも最初から全方位に忌み嫌われてばかりいたわけではない)として描かれて新鮮です。

「マリーアントワネットという題材の女性への評価の正否はともかく、その人物へのリスペクトはしっかりされている」という点で、私は新演出版に対する安心感を感じます。

作品の全体の流れとしては、初演に比べると、曲それぞれに拍手が入るパートがあるという意味で、ミュージカル的であり、にもかかわらず物語としては初演よりスムーズに物語が進行します。

曲もかなりの部分が変わっており、残った曲でもタイトルが変わったり(「心の声」が「決して許さない」に、など)しているほか、登場人物が整理された結果、歌う人が変わっている曲さえあります。初演に出ていた役のうち、修道女アニエス、錬金術師カリオストロ、劇作家ボーマルシェは今回登場していないため、あの曲がこんな風に再構成されている!と新鮮な驚きに満ちます。

マリーアントワネット役には制作発表で玲奈さんが歌われた「孤独のドレス」が追加になり、初演ではなかったマリーアントワネットとマルグリットが対峙する曲が2幕に追加されています。

全体的には1幕がほとんど新作といっていいぐらいの再構成をされていますが、役としてはなくなってしまったアニエスの曲があんな形で残るとは、涙が出るほど嬉しかったです。2幕はセットが変わったりしたものの、ほぼ構成は初演と似ていますが、唯一ラストだけがある意味とび抜けてクンツェ・リーヴァイ的なシーンになっていて、ちょっといきなり感があったかなと思います。でも初演の違和感に比べれば、ぜんぜん無問題。

「2人のMA」のマリーアントワネットとマルグリットアルノー双方の人物に一つ筋が通ったことが印象的。初演の時はマリーアントワネットの存在が演出的に薄くて、マルグリットアルノーの存在感が強く記憶に残っているのですが、今回は、両者がっぷり四つに組み、それぞれの役が存在する意味を見せていて、とても良かったです。

・・・

キャスト別の感想を参りましょう。

まずは、マリーアントワネット役から。

花總まりさん。理屈ではなく「マリーアントワネット」であることを見せる、その空気感たるや絶品。愛嬌に溢れ、邪気を持たない愛されぶり。だからこそ状況が悪くなったときに、何が起きたのか素でわからなかったのではという印象。戦闘モードに自覚的に入ったように見えた玲奈マリーに比べると、無自覚に自己防衛本能を働かせた感じも受けます。”幼い”マリーという印象。

笹本玲奈さん。「女性」であることと、「母親」であることを前面に強く出し、子供たちを守るために闘う強さが印象的。プライドに生きた王妃の姿はすばらしくて、マリーアントワネットとして一つしっかりと筋が通った姿が壮絶でした。”敵”をはっきりと見分ける特性を持ったマリーに見えます。”若い”マリーという印象。

マルグリットアルノー役。

ソニンさん。前作『1789』から引き続いての扇動者役ですが、「決して許さない」の尋常でないエネルギーに圧倒されます。それ故、特に1幕の登場シーンは意外なほどに抑制気味で、”静かな怒り”に満ちているのが意外です。どんな感じで変わっていくのか楽しみ。初演の(新妻)聖子さん系のマルグリットな印象。

昆夏美さん。正直、期待以上でした。Wキムの玲奈さんとの組み合わせで初見だったのもあるのか、遠慮することなくマリーにぶつかっていく強さが印象的。2幕後半の革命に迷うシーンのお芝居が繊細で素敵です。マリーとの心の動きのキャッチボールが濃くて大拍手。初演の(笹本)玲奈さん系のマルグリットな印象。

玲奈マリーの初日は昆マルグリットとでしたが、玲奈ちゃんも昆ちゃんも乗り越えてきたものがあったからこそ、この日があって。
昆ちゃんが(サイゴンで)辛い思いをした間、玲奈ちゃん(とキムスハちゃん)が支えた分、玲奈マリーの初日を昆ちゃんがマルグリットとしてこれ以上ない本気のぶつかり方をしてくれたことが、涙が出るほど嬉しかったです(今回泣いてばっかり笑)。

フェルセン役。今回はストーリーテラー的な役割も担っているので、出番は大幅に増えています。

田代万里生さん。実直にマリーを心配する様がニンにぴったり。愛するマリーのためなら、マリーへの直言をも厭わない、心底マリーを心配する姿が頼もしくて。今回は玲奈マリーとしか拝見できませんでしたが、今までの共演経験があるせいか、離れようにも離れられないもどかしさが絶妙でした。

古川雄大さん。玲奈マリーと組むと愛人というより恋人という距離感になりますが、それ故「触れられそうで触れられない高貴な方」な空気感が絶品です。花總マリーと組むと、少し「任務」寄りになるような感じがしました。こちらも今までの共演経験ゆえでしょうか。

ルイ16世役。

原田優一さん。普段はもっとはきはきした役が多いだけに、優柔不断なこの役は珍しくて新鮮です。特に玲奈マリーと組むと、本来は頼りない役柄なはずのこの役で、ルイ16世が頼りがいがあるような空気になりそうになります。ただ今回、初演と違ってマリーがルイ16世のことを軽く見ていない印象があって、それも最近の研究で見えてきた方向性でもあるようですね。「もしも鍛冶屋なら」は絶品です。

佐藤隆紀さん。原田氏と逆で、ザ・優柔不断のイメージ(笑)。マリーに押し切られつつ、反乱軍の前に銃を向けられない、と言ったときのマリーの反応が「それじゃ困るのよ!」「優しいあなたならそうよね」が、ないまぜになっているのが笑えました(爆)。

オルレアン役。今回はカリオストロのポジションも含んでの役です。

吉原光夫さん。端的に言ってやりたい放題(爆)。中悪党ぶりにマリーも一目置く、”ザ・悪役”のカッコよさ。マリーは自分のことを「人のことを信じてしまう」と言っていますが、オルレアンとロアン大司教だけは違うんですよね。特に玲奈マリーの「決して許さない」様は手の施しようもないほど。玲奈マリーは過去のマルグリット体験を気にしていない、とご本人おっしゃりつつも、ターゲットロックオンしたときの攻撃性の強さは、花總マリーよりも感じます。

ランバル公爵夫人。

彩乃かなみさん。『1789』ではマリーの傍にいたのはポリニャック夫人でしたが、彼女がどちらかというと打算的に傍にいた面が見えたのに対して、ランバル公爵夫人はマリーへの忠誠心にまっすぐ。魑魅魍魎な王宮の中で彼女の存在がマリーにとってどれだけ大きかったことかと思うと、2幕のとあるシーンの存在の大きさにたまらなくなります。玲奈マリーとは『ミー&マイガール』のサリー役を演じた同士(彩乃さんは宝塚月組トップ娘役の退団作品でした)で相性も抜群です。

・・・

今回の新演出版のテーマは、まだ始まったばかりではありますので、次見る帝劇で改めて考えてみたいとは思いますが、一つの大きなキーワードは「許し」であるように思います。あとは「2人のMA」のシンクロ。

マリーアントワネットが生きた意味、マルグリットが生きた意味、そして2人が出会った意味、なかなか掘り下げるに面白いテーマだと思います。

個人的には、ずっとマルグリット的な役を演じるのかと思ってきた玲奈ちゃんが、ようやくキャリアチェンジできて、頼もしい後輩、ソニンちゃんと昆ちゃんの馬力を得つつ、偉大な先輩な花總さんとWで演じられることに、ただただ感慨深い思いでいっぱいです。

今月9月末まで博多座、そのあと帝劇、名古屋(御園座)、大阪が来年1月に大楽です。
どんな進化をしていくのか、心から楽しみです。

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コメント

はじめまして。
マリー・アントワネットの感想を探して辿り着きました。
本当に単純に疑問なのですが、初演時のカーテンコールで涼風さんが晒し者というのはなぜそう思われたのですか?
ずっと舞台上に横たわっていた涼風さん、
個人的には、他のキャストの方がお辞儀をしている間もキャストの方、涼風さんの両方に拍手をしている気持ちでしたので、結果誰よりも長い間タイトルロールの涼風さんが皆さんから拍手を送られているような気持ちでいました。
ショートカットに白い部屋着姿で凛と佇む涼風さんの姿も、全てをふり絞って役をやりきった感があってカッコイイと感じたもので…
もちろんカーテンコール変更後のドレス姿も普通に美しかったのですが。
ご本人が嫌だとおっしゃっていたのでしょうか?
宝塚的にNGということだったのでしょうか?

投稿: まい | 2018/09/22 04:08

まいさん>
はじめまして、コメントありがとうございます。

カーテンコールでずっと横たわっていらした姿を
「作品の中の一場面」と見るか、そうでないと
見るかの違いかもしれません。

当時の私の受け取り方では「マリーアントワネット
は悪人で、皆で罰を与える」かのような演出の
一面を強く感じすぎたのかな、と思います。

当時はマルグリット視点で見てたので、
マリーアントワネットに肩入れるのも不思議なんですが。

投稿: ひろき | 2018/09/22 11:10

なるほど、そういう見方もあるのですね!
参考になりました。
ありがとうございました。

投稿: まい | 2018/09/23 01:03

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