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『四月の永い夢』

2018.5.20(Sun.) 14:25~16:00
新宿武蔵野館 D列1桁番台

先週から公開になった作品、本当は初日に行くはずだったのですが、急遽仙台遠征を決めたのと、それ以降は尋常ならざる忙しさでこの日まで引っ張ってしまいました。

前日の土曜日は池袋のサンシャイン劇場で演劇集団キャラメルボックスの『無伴奏ソナタ』を見て、この日が『4月の永い夢』。どちらの作品も劇場を出た後の東京の街中の喧騒が、同じ今だと思えないぐらいに、落ち着いた、素敵な空気感でした。

物語に多少のネタバレは入りますので、お気になる方は回れ右をお願いします。

主人公は28歳の女性、初海(はつみ)。かつては中学の音楽教師だったが、3年前に音楽教師を辞め、街中の蕎麦屋でアルバイトとして働いている。演じるは朝倉あきさん。彼女ってイメージ的にはもう少し若い役者さんのイメージがあったのですが、一度一年ぐらい女優さんから離れていらした時期もあるからか、思っていたより少し大人な存在感。

PVで彼女が召している喪服、それは彼女にとって大事な方を亡くしたときのもの。その時から彼女は永い夢に引き込まれていたかのよう。

彼女がアルバイトとして勤める蕎麦屋の娘さん(実質的に女将さん)・忍を(高橋)由美子さんが演じていますが、初海のことを心から心配している様が印象的。友達のような距離感でありながら、自店の閉店を告げ、初海に対して自分の道をきちんと探すよう諭すときの一言が重く突き刺さります。あの、厳しさと温かさを同時に出せる方ってそうそういないと思うので勿体ない。

職探しとして与えられた時間に、本気になれない初海の前に現れた、2人の女性も好対照。

1人はかつての自分の教え子・楓。以前は物静かだったはずなのに今やジャズシンガー。夢に向かって歩く姿は眩しくて、でも実は交際相手にDVを受けており、初海は身体を張って楓を救いに走り、それを成し遂げる。偶然なチョンボを結果的に大金星につなげるあたりの脚本の自然さが素晴らしい。

もう一人は友人にしてかつての同僚・朋子。彼女が産休に入るにあたり、後任の非常勤として初海を紹介するのですが、彼女にとって今の初海は煮え切らず、仕事に対してもアマチュアな感じしか見えない。初海に対して、本当はもっと言いたいのに、でもそれをぐっと堪えて「また連絡ちょうだい」で終わらせる。

この作品にたゆたう空気は、「ホームの黄色い線の少し手前」
初海のことを心配して、みんな初海のことを思うけれど、踏み込み過ぎはしない。忍も楓も朋子も、それぞれの形で初海のことを叱咤するけれど、みなまでは言わない。そこは、見ていて、実は少しだけもどかしさを感じはするけど、過去の彼からの手紙をようやく見られるようになり、彼の実家をようやく訪ねようと、「初海が」思うようになれることが大事なのだということ。

自分を家族のようにに思ってくれた、彼の母親に、今まで言えなかった秘密を打ち明けることができたとき、彼女は「四月の永い夢」から覚めて、周囲の支えてくれた人たちに胸を張れるような一歩を歩きだせたのかと思うと、胸が温かくなります。

彼の実家からの帰り、列車のトラブルで30分待ちとなった駅に降り立ち、その時ラジオから聞こえてきた大好きな音楽と大好きな声、そして大好きになるだろう方からの言葉を聞いた時、その時の初海の表情は本当に魅力的で。それでいて実のところあと20分、30分かけられそうなストーリーをバッサリ切ってあそこで終わらせる中川龍太郎監督の勇気が凄い。

それはこの作品の魅力の最大のところだと思うのですが、「語り過ぎず、語らせすぎず、演出しすぎない」ぎりぎりのところを分かっていて、見た後の余白を観客に委ねてくださる。客席から拝見して、「あとは皆さんで余白を埋めてください」と言って下さるかのようなエンディングが、この作品をより素敵なものにしているように感じられました。

現在は新宿武蔵野館を中心に数館のみの上映ですが、来月から順次全国で上映されます。
素敵な作品です。是非。

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