2018.3.31(Sat.) 17:00~19:55 3階6列2桁番台(B席)
2018.4.8(Sun.) 12:00~14:55 3階6列同席 (B席)
2018.5.4(Fri.) 17:00~19:55 1階17列40番台(S席)
東急シアターオーブ(渋谷)
『メリーポピンズ』観劇は結局3回。
公演期間からするとずいぶん少ない回数になってしまいました。
理由はいくつかありますが、公演開始タイミングが仕事で忙しすぎて所謂”スタートダッシュ”ができなかったこと、期間がそれなりに長いことで後から入ったライブや公演に押し出されたことが多かったこと、そして何よりオーブが苦手なこと(苦笑)…ということもあり、「もう少し見ておきたかった」と思いはしますが、個人的には急遽入れた5月4日ソワレのキャストが自分にとってとても満足いくものだったので、結局これで良かったのかなと思っていたりします。
というのも、なぜだかその日(5月4日)、公演を見ていて、「あ、自分のメリーポピンズはこのキャストで幕を引くのが正しいんだ」と理屈じゃなく直感で思ったから。実のところ、キャストでお2人拝見できなかった方がいらしたのですが、タイミングからすればその方はもっと前に見ておくべき方で、自分の好みからすると、やはり作品の最後は大好きな方で締めたい、となると1幕の間に心は決まっていました。
3回観劇のうち2回は、シアターオーブ3階のぴったり同じ席。今回、3階の後ろ2列がB席で、ここを取れたことが奇跡的ですが、メリーポピンズが最後にフライングしてやってくるところのちょうど下だったので、迫力が凄い。フライングと言えば、「ピーターパン」で玲奈ちゃんや充希ちゃんやふうかちゃんが目上を通って行ったことがあったので慣れているんですが、みんな舞台に戻るんですよね。飛んだら。それなのにメリーポピンズは3階上部のスペースに降り立ち、そこから下手側の屋根裏通路を一目散に駆けてカテコに突入するのが凄い。3階の方が迫力があるという作品を初めて見ました。
さて物語を。ネタバレですのでご注意を!
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銀行家のバンクスは、奥様で元女優のウィニフレッド、息子のマイケル、娘のジェーンでの4人家族。使用人2人を抱えていてそれなりの屋敷を持っているが、上流階級にはまだ届かない、そんな家族。
家族それぞれが問題を抱えている中にやってくる新たな子守・メリーポピンズが、バンクス家、そして家族それぞれの心を変えていく、そんな物語。
もう一人の主要登場人物は煙突掃除屋であるバート。メリーとは以前からの知り合いのように見受けられる意味深な動きをしますが、「煙突掃除」に「心の中のもやもやを取り除く」かのような面も感じられたりしました。
かつての子守り、ミス・アンドリューに厳しく育てられて、自由な生き方とはかけ離れた生き方しかできなくなってしまったバンクス。バンクスへの心配、息子娘への心配をしながらも、どうすればいいのか分かっていないウィニフレッド。いたずら盛りで沢山の子守を退けてきたマイケル・ジェーンも、実のところ父親の愛情が欲しくてたまらない。
そんな中やってきたメリーポピンズが、マイケルとジェーンを街に連れ出し、いわば”見聞を広げさせる”シーンに登場する”デキる”アンサンブルさんの皆さま。
公園シーンでは初回こそ区別がつきませんでしたが、郁代ちゃんの「運命の出会い」が観られて素敵。今回、郁代ちゃんと華花さんがお2人でヴォーカルキャプテンということもあり、シンメトリー的に見えるシーンが印象的です。
ウィニフレッドがバンクスの心を開こうとする間、メリーポピンズは子供たちの心を開こうとしていく。
「お砂糖ひとさじあれば、お薬も飲める」そう言うメリーポピンズのことを、マイケルもジェーンも最初は警戒するけれど、どこか”今までの子守の人と違う”と思い始める。
それでも心がなかなか開けないマイケルとジェーンのことを、一度は見放すメリーポピンズの表情はとても悲しげで、「あの子たちは良い子だけど、心を開いてくれなきゃどうしようもない」と言って子供たちから去ってしまうわけですが、その結果、かつての子守・ミス・アンドリューが復帰しバンクスも委縮してしまう。
そんな経緯もあってからのメリーポピンズの復帰はバンクス家の総意として迎えられ、メリーポピンズの作り出す魔法の中、”家族”として、それぞれが自分以外の皆を思うように変わっていく、その「家族の再構成」の様が素敵です。
バンクスは本業である銀行業の融資で、大口取引先への融資を断り、新興企業家への融資を行なう。そしてその大口取引先がライバル行から融資を受けたことで責任を問われ、自宅謹慎・無給の処分を受け、ますます自信を失い、公園を徘徊して警察官に保護される始末。そんな中、銀行から呼び出しを受けるバンクスに、「私は付いてはいけないの、だって女だから」とふさぎ込むウィニフレッド。
でもここで、マイケルもジェーンも、今までのメリーポピンズからの贈り物ゆえに「心が豊かに、視野が豊かに」なっているんですよね。ウィニフレッドが想像もつかないことを言い出して、ここで初めてメリーポピンズがウィニフレッドにハートを伝える。
その言葉に気持ちを動かされ、バンクスに「付いてこないように」と言われたのに、ウィニフレッドは付いていって、きちんと夫の正当性を主張する。実は大口取引先は融資した相手行を破綻させていて、バンクスの行為は銀行に損害を与えたどころか、巨額の利益をもたらしたことが判明する…とまぁ、ここはかなりご都合主義が入っていますが(爆)、きちんとそこには理由があって「大口取引先の語るビジョンには『お金』はあったけど『人』はなかった。新興企業家の語るビジョンには『お金』はなかったけど『人』はあった。物事を成し遂げるのは結局は『人』なのだ」という思いに、バンクスが”気づき直せた”から」こそのもの。
「昇格させ、報酬も増やす」という頭取からの提案に口をあんぐりさせるバンクス。
そのバンクスを見て「口を開けるんじゃないの、魚じゃないんだから」というウィニフレッドの漢前さときたら(笑)。でも、そのシーンを見て感じさせられたのは、その時ウィニフレッドは『バンクス家のメリーポピンズ』になれたんだな、ということ。
メリーポピンズは、壊れかけた家族を渡り歩いてきた存在で、逆に言うと、問題が解決すればその家族からは去っていく。家族がそれぞれを思い合い、助け合えるようになればメリーポピンズはその家族の中にいるわけだから、自分自身がそこにいる必要はなくなる。
そんな、「成功すれば自分は用済み」という立ち位置にいるメリーポピンズは、めぐさん(濱田めぐみさん)の方がドライな立ち位置で、よりプロに徹しようとしている感じがしました。逆に言うと意図して家族と感情を分かち合わないようにしている感じ。あーや(平原綾香さん)は、ウェットな立ち位置で、家族と感情を分かち合うことも厭わないような感じ。2人は完璧さの方向性がちょっと違うように思えました。めぐさんは完璧な子守、あーやは完璧な家族を目標にしているように感じたかな。どっちも仕事ではあるものの、仕事の成し遂げ方に違いがある印象。
メリーポピンズの存在で、大きく変わったのはウィニフレッドだと思うのですが、彼女が「どうにかしなきゃ」という思いはあっても、どうしていいのか分からなかった、そこに方向を指し示すことで、バンクスも家族の大切さを理解したし、子供たちも「家族の一員であるのだから、父や母を支えなければならないんだ」ということを理屈じゃなく身体で理解することができて。
危機的な日に、ウィニフレッドがメリーポピンズに言った一言、「上流の家庭ならあなたにお休みを変えてなんて申しませんよね」という言葉。
ウィニフレッドは、この言葉でメリーポピンズを説得しているんですよね。使用する側・使用される側の立場だから、実は命令することもできるんですが、そうはしない。
「今日は本当にあなたの力が必要なの。私は全力でバンクスを助けなきゃいけないから、どうかあなたは今日は子供たちと一緒にいてほしい」と。そしてメリーポピンズは決して自分の意思だけで動く女性ではない。それがウィニフレッドの言葉の中にはあったんですね。「私はあなたを信頼しています」と。
メリーポピンズは「いずれいなくなる自分だから、できるだけ感情を持ち込まないように振る舞っている」女性だと思っていて、でも、だからこそ「自身を本当に必要とされたから」こそ、あの時子供たちのために残ったのだと思えて。その心の通じ合いが、メリーポピンズにとっての心の雪解けだったらいいな、と思えたのでした。いつもドライに振る舞わなければならないと覚悟している彼女だからこそ。
ウィニフレッドは観劇した3回とも三森さんだったのですが、今回の三森さんのウィニフレッドは素晴らしかったです。今までもレミやサイゴンで拝見してきたものの、ここまで合う役に出逢えるとは、いい意味で予想外でした。子供たちの目線で泣いて笑って、子供たちと一緒に成長できる役どころが、きっと今の彼女にぴったりで。彼女の成長がメリーポピンズの存在ゆえ、ということも凄く分かりやすく見えていて。今の年齢だからこそ出会えた、そんな奇跡だったんじゃないかなと思います。
「どんなことでもできる、自分で邪魔をしなければ」
そんな言葉がカンパニーみんなに広がっていた作品。夢を現実にするのはいつも自分の心次第。作品を表現される前向きなパワーが、いつもミュージカルを見る層だけでなく、初めてミュージカルを見る人たちにも確実に暖かいものを向けていたこの作品。
東京後半で一気に盛り上がりに加速がついた感のあるこの作品、大阪公演でもますます広い層に向けて温かい気持ちが伝わりますことを願い、信じています。