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『In This House』(1)

2018.4.4(Wed.) 19:30~21:00
東京芸術劇場シアターイースト
D列2桁番台(センターブロック)

先月の『A Class Act』から1週間、東京芸術劇場の地下反対側、今度はシアターイーストに通います(爆)。この日が初日です。

大人ペア、岸祐二さん演じるヘンリーと、入絵加奈子さん演じるルイーサの「いる」家へやってくる、若手ペア、綿引さやかさん演じるアニーと、法月康平さん演じるジョニー。

2組のペアが「出会う」ことで生まれる物語を描いた作品。サブタイトルに”最後の夜、最初の朝”というタイトルが付けられています。

(上述の「 」を付けた言葉には意味があります)

ネタバレ要素を含んだ作品ではありつつも、ネタバレがあっても楽しめる作品ではあります。
とはいえ当blogのポリシー上、ネタバレときちんと宣言して書き始めますので、ネタバレ回避の方は回れ右お願いします。



大人ペアがかつて住んでいた片田舎の家にいる大晦日に、車が故障して立ち往生した若手ペアが助けを求めたところから物語が始まります。夫婦なのにどことなくぎくしゃくしている大人ペア、カップルなのにことごとく噛み合わない若手ペア。

2組のペアが、自分たちではどうにもできなかった溝を、それぞれのペアの存在が埋めていく様が素敵な物語。

優しさに溢れ、でも後悔に満ちた岸さんのヘンリー。
利発さに溢れ、でも不信に満ちた入絵さんのルイーサ。
使命感に溢れ、でも不安に満ちた綿引さんのアニー。
素直さに溢れ、でも焦燥に満ちた法月さんのジョニー。

若手ペアだけ見ると、どことなく『Before After』のエイミー&ベンの雰囲気も思わせる、「言葉が過ぎる女性」と「言葉が足りない男性」の組み合わせ(爆)。

世界中を飛び回る野戦病院の救急看護師(トリアージナース)であるアニーは、ジョニーが望む「家庭」に入ることを良しとせず、ジョニーとの間で口論になってしまう。そんな若手ペアを女性の面から見守りサポートするルイーサと、男性の面から見守りサポートするヘンリー。ヘンリーとルイーサも実のところ仲睦まじい夫婦に最初は見えつつも、実のところ一つの出来事をもとに心に壁ができてしまっていた…。

若手ペアに対して、無理に結論を強いることはしないながらも、人生の先輩として、自らが自らの中に後悔を持っているからこそ、ジョニーに優しく接するヘンリー。片や実のところ人生のポリシー的には合わない面がありつつも、同じく自らが自らの中に後悔を持っているからこそ、アニーを支えようとするルイーサ。

大人ペアは「変えられない過去」を多く持っていて、若手ペアは「未来を決められない」思いを思っている、そう見えました。

大人は過去を否定しては生きられない生き物のように思えますが(特に男性は)、若者は決断することで自分の可能性を狭めてしまうのではないか、と焦っているように見えて。特にトリアージナースであるアニーは、とりわけ皆を助けることを自身の生きる意味に思っているように思えて、自分自身が率直に幸せを求めることに躊躇いを求める女性のように思えました。そんなアニーが、ルイーサと出会ったときに感じたこと…女性の幸せを求めたのに手に入れきれなかったルイーサの思いを感じたときに、どう感じたか。

対してジョニーはアニーを愛していると直接伝えたものの、アニーに気持ちを伝えられなかったばかりか、彼女の逆鱗に触れてしまい、途方に暮れてしまう…が、ヘンリーが抱えている後悔が、自分の思いや行動がアニーの気持ちに寄り添っていない、一方的なものであったことを気づかせ、アニーに対してどう誠実に対するべきかを考えていく…。

そして大人ペアも「変えられない過去」と対峙する勇気を若手ペアからもらい、縮めることができないとお互い思い込んでいた距離を縮めていく。

「家」を持っているはずの大人ペアは、本当の意味で「家」を作れていなくて。「家」を持とうとしている若手ペアは、本当の意味の「家」の意味を分かることができていなくて。

岸さん演じるヘンリーが伝える「家とはただそのもの」なのではなく、「心」あってのもの。
それを、大人ペアも若手ペアのお陰で知ることができ、若手ペアも大人ペアのお陰で理解することができた。

人は一人で完璧に出来上がっているわけでなく、人と人との関わりをもってして生き方を作っていく。
「house」とは「家」というだけでなく「場」という意味にも感じられて、とても印象深い作品でした。

ヘンリーの岸さん、名実ともに大黒柱。真実を伝えないことを優しさと考えていた様を、変えた勇気に感動。
ルイーサの入絵さん、若き大人の女性。ヘンリーと心通じ合った時のチャーミングさが素敵でした。
アニーの綿引さん、自立した寂しがり屋さん。笑顔でいることで隠し続けていた本心、それを明かすことは決して弱いことではない、そう感じた時の覚悟の表情はとりわけ素敵でした。
ジョニーの法月さん、素直な好青年。作品と役と演出家の板垣さんからの溢れる千本ノックを受けきったであろう感受性が演技に出ていて好印象でした。吸収力の強いスポンジという点では法くんとびびちゃん、とっても似ていると思います。

東京芸術劇場シアターイーストで15日まで。

今回の公演は主催のConceptさんが様々な試みをされていますが、一番素敵な試みだと思ったのが『カルチケ』です。この『カルチケ』とは要約すると”学生無料チケット”のことで、学生さんは学生証持参で無料で観劇可能なシステム(毎公演枚数限定、先着順)。これは、公演前のSNSの「いいね」やRTを蓄積して、100カウントで学生1人無料のシステム。また会場でも500円以上でのカルチケ基金(基金箱があります)があり、チケット代が溜まるとカルチケの枚数に上乗せされる仕組みです。

舞台を観劇していると、自分なんかが言うのも変な話ですが、どうしても見ている層というのは固定化しがちな演劇の世界。そんな中、良質な芝居を肌で感じてもらって、「こういう世界もあるんだ」と知ってもらうことはとても素敵な試みだと思います。

とりわけ今作は、演じる側はもちろんだと思いますが、見る側にも覚悟が求められる作品。それは強迫観念みたいな強いものでは全然なくて、否が応でも自分に置き換えて考えたくなるような物語ということもあって。
U25が普及してきたとはいえ、まだまだ元が高いだけになかなか客層が広がらない中、「日常では味わえない世界」を感じる機会が、この試みを通じて増えることを願っています。

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