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『芝居が立ち上がるまで。』

2018.2.26(Mon.) 19:00~21:20
霞が関ビルディングプラザホール
(霞が関ビル1階)

オフィス街・霞が関ビルの大家さん・三井不動産さんと舞台プロデュースのconSeptさん共催の社会人向け演劇セミナー、『劇と暮らし』の第2弾ということで、参加してきました。

このプロジェクトはもともと、オフィス街である霞が関に「演劇」というテーマを持ち込んで、演劇を作り上げる過程を通してビジネスにも活かしてもらうという趣旨があるらしく、実際フライヤーにもこう書かれています。

「役割を理解し受け手に伝わる形に組み上げていく。それはビジネスも演技も同じ」

この趣旨を十二分に伝える、とても充実して意義ある楽しいセミナーでした。

参加者も、三井不動産さんルートで100人、conSeptさんルートで100人という真っ二つな陣容。しかも、ビジネス側の三井不動産さん側はテナントの勤務者さん限定で、100人中30人が無料招待でした。

第1回に引き続いて講師は舞台演出家の板垣恭一さん。第1回がとても面白い内容というのを知人から聞いていて興味が元々あったところに、今回は講義形式だけでなく、女優さんをお迎えしての演出実演形式ということで、女優さんお3方がゲスト。
綿引さやかさん、万里紗さん、守屋由貴さんのお3方。

まず導入部は板垣さんからの「舞台とは」というご説明から入りました。
板垣さん曰く、「舞台は人間社会の縮図である」と。演出家さんとしては「役者さんの一挙手一投足をがちがちに決めないタイプ」とのことで、役者さんには「得意技で点を取ってもらうポリシー」とのことで、その進め方でお3方にも今回参加してもらうとのこと。

ちなみに、役柄は3姉妹なのですが、3人には「どの役になるか言わないから全部覚えてきて」と言ったそうでさすが鬼です(笑)。開始直前に3人それぞれに伝えてのぶっつけ本番。
はじまるときの3人のコメントは

綿引さん「怖くて楽しみです(笑)」
万里紗さん「楽しみです」
守屋さん「(スタッフをやることも多いので)キャストさんの気持ちで頑張ります」

でした。

テーマに使われた物語は、1981年にピューリッツアー賞を受賞した『クライムス・オブ・ザ・ハート』。
アメリカ南部の街で再会する3人姉妹。奥手な長女・レニーが綿引さん、奔放な次女・メグが万里紗さん、ちゃっかりな三女・ベイブが守屋さん。万里紗さんはお初ですが、綿引さんと守屋さんはおおむね印象が想像付くと申しますか、実際その通りだったと申しますか(爆)

その3人の感情のぶつかり合いをどう舞台として肉付けしていくかを、板垣さんが演出する過程を至近距離から見られたのですが、とっても面白い!

後半から見ると、最初の頃の掛け合いは確かに平板で、ただ会話をしているだけの時間だったということがはっきりわかります。

板垣さん曰く、「面白い」という概念は「心が動く」ことによって実現すると。それはビジネスでも同じと仰っていましたが、元々、自者と他者の関係性で物事は動くものであり、自分の行動は他人の出来事になり、他人の行動は自分の出来事になる、そのように人と人との会話はお互いを動かしていく、という説明はとても分かりやすかったです。

とりわけその中で重要と話されていたのは何よりも「目的」だと仰っていて、ここがこの日のセミナーのコアだったように思います。「登場人物として何を目的にしているのか」がはっきりすれば、行動が意味を持って、感情が表現でき、出来事が鮮明になって、物語が重層化すると。

この日の3人の演技セッションというべきものの進化は、物語が重層化するさまを重奏で見せてもらえたような、そんな感じ。

おじいさんの看病のために一人家に残っていた長女のレニーは、久しぶりに帰ってきた次女のメグの奔放さ、表面上の無神経さに憤ってばかり。男性をとっかえひっかえの次女のことを好ましく思っていないばかりか、自らの秘密(出会い系で彼を見つけた)を三女のベイブからメグに暴露され、ますます心を閉ざすばかり。

綿引さん(びびちゃん)演じる長女が、次女に対して攻撃する様は、主に対峙する次女・万里紗さんとのお互いの空気感でどんどん演技が変わっていく。そのヒントとして板垣さんが提示したのが、「相手の目的を妨げること」。長女から次女に対して責めるのであれば、次女は長女に対して無関心を装うことで長女の怒りも増幅して見せられる。
それでいて、ひょんなことから判明した自らの秘密により、今度は次女が長女に対して攻撃の糸口を見つけたとたん、それをばらしたのが三女ということで長女から三女に怒りが向く(笑)

そんな様を、「感情の変化」で私は捉えることが多かったのですが、なるほど「目的のぶつかり合い」という風に捉えると、芝居で人と人とがぶつかる意味も、ぶつかることによる効果も見えてきます。

これも板垣さんが仰っていましたが、「男性はキャラが被っても気にしないんです。男性は馬鹿ですし、そもそも横を見ない。明日を見る生き物なんです。女性はキャラが被る人たちとは一緒にいたがらない生き物なので(笑)」に笑いました。

「舞台に立っている人たちはチームメイトでありライバルである」という言葉も印象的。特に女優さんはそうですよね、お客さんから見てもそう思います。とりわけ、舞台の中でご贔屓さんが一番輝いていてほしいと思うのは当然の欲求です(爆)。

その上で更に印象的だった言葉が「役者はお客さんより愚かでなくてはならない」と。
芝居が社会の縮図である以上、見に来るお客さんが見る意味があると思わせないといけなくて、それには自分が登場人物の感情に移入できる余地を残さなくちゃいけない。日常ありえないことを疑似体験するからこそ人は芝居を見に来るし、芝居を作る意味もある、と仰っていたのが印象的でした。

「物語は登場人物同士の追いかけっこが作る」と板垣さんが仰っていましたが、思うに、お客さんからしても「登場人物を追いかけている」わけですよね。登場人物を追いかけたくなるほどにお客さんの気持ちを惹きつけるのがいい芝居であって、そのために登場人物の目的同士をぶつけて、それこそプロレスのように技を掛け合い、攻守を逆転させたり、相手役をやりづらくさせたりして、物語を動かしていく。

動きをつけ、物理的に邪魔をさせたりして演技を深く濃くさせて、役者が物語の中でどう動くべきかをサジェスチョンしていく板垣さん。今回は主にびびちゃん・万里紗さんの目的のぶつかり合いが大きな主軸を占めていましたが、演じて見せるのはあくまで最後の一手。

役者さんがこの役を演じるにあたり、持つべき目的を台本から見付けさせ、自ら目的を見いだせるように導くことで、役者さんの演技も、より説得力を持っていく。役者さんをいい意味で子ども扱いせずに、役者さんの中に役を宿らせていく様は実践的で、まさに魔法と呼ぶに相応しい板垣さんの演出でした。

その主軸にあるのは、最後に仰っていたのですが「how」より「what」であると。
どうやるより、何をやるかを重視すべきだと。これ、芝居の事を語っているようで、完全にビジネスの領域なんですよね。
確かに、どうやるかは、工夫すればなんとかなるものなのですが、何をやるかは成果に直結するんです。
やるべきことが間違っていると、できた結果は大間違いなんです。

自分が何をすべきかをきちんと考えることなしには、正しい結果は導けない。
目的を正しくとらえれば、おのずと取るべき道は限られてくる。
芝居の中で役者が台本を正しく読み解けば、立つべき立ち位置は決まるし、感情も行動も導き出せる。

それは仕事の上でも同じで、やるべきことを正しく見出せば、立つべき立ち位置は決まるし、感情も行動も導き出せる。その点を気づかせてくれたこの日のセミナーは、ビジネスマンとしても、芝居好きとしても、とても意味あるものでした。

惜しむらくは、質問タイムがなくてその辺の理解をあと一歩深められなかったこと。

芝居の中にいかにお客さんが感情移入するかの議論の前提には、「自分には危害が及ばない」ことが存在しているんですよね。先週までやっていた『夜、ナク、鳥』を例に取れば、保険金殺人を描いた物語でありながら、(演者の巧みさがあるとはいえ)客席から笑い声さえ起きる。それは、舞台上に描かれていることが、一切の自分自身への危害が発生しないことを安心しているからこそできる。板垣さんの演出作品であれば『シャーロックホームズ』でも、自分が舞台上で殺されることもあり得ると思ったらお客さんは劇場に来るわけがない(爆)。自分を安全地帯において、正視できない現実を見に来て満足するというお客さんの心情ということが、是なのか非なのか聞いてみたかったです。

もう一点は「芝居は日常の鏡」とも関係しますが、「人生って想定外と想定内の繰り返し」じゃないですか。演出家から見て俳優が想定外の動きをしたらどう動くか、想定内の動きをしたらどう動くか、逆に俳優から見て演出家が想定外の動きをしたらどう動くか、想定内の動きをしたらどう動くか、今回のそれぞれの方にポリシーを聞いてみたかったです。比較的、想定外を楽しむタイプなのがびびちゃんと万里紗さん、想定内を楽しむタイプなのが守屋さん、という感じがしました。

この日の物語の主軸がびびちゃんと万里紗さんだっただけに、守屋さんは終始押されていてどう動けばいいか迷っている様を感じました。前へ行き慣れていない感というか。
それだけに最後のご挨拶でも「台詞がないアンサンブル的な役であっても、どう存在すればよいかを考える大事さを感じた」と仰っていたのが印象的でした。「台詞がないだけに、長女と次女との間でちゃっかり利を得る三女の佇まいを利用すればいい」という板垣さんのアドバイスも興味深かったです。

びびちゃんの感想は「自分が変わっていくことによって周囲も変わっていく様が実感できて楽しかった。劇場で1人でも多くの方がまたその様をご一緒できることを楽しみにしています」で、その2人のご挨拶を受けて万里紗さんが「2人とも役柄通りの立派なご挨拶をされていて恐縮ですが、本日はありがとうございました」でストンと落とされておりました(爆)。

最後の板垣さんのご挨拶でもう一つ印象的だったことを。

「自分のメインステージであるホームでは、お客さんは自分のことを見てくれる。

 自分のメインステージじゃないアウェイでどこまで自分の底力が出せるか試される。

 自分のお客さんは誰か。いつも拍手をもらえる人だけじゃなく、

 自分のことを知らない人にこそ拍手をもらえるようになるべきと自戒している」

この言葉は、特に去年のびびちゃんを見続けてきた自分にはとても心を抉る一言だったし、自分自身の仕事に対しても、とても糧になる言葉で、この日この時を体験できたことを、とても意味ある物に感じたのでした。

板垣さん演出の『In This House』むちゃくちゃ楽しみです。

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