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『ファインディング・ネバーランド』

2017.9.24(Sun.) 17:00~19:50
東急シアターオーブ 1階21列40番台(下手側)

来日公演、この回が千穐楽。

開幕して好評の評判を聞きながらも、行く日程を決められずにいたら、あと2日というところまで来てしまい、前日のマチネを取っていました。

ところが、観劇前に不用意にも職場に顔を出したら、ちょうど障害が発生していて対応に捕まり観劇が叶わず。そのまま見られないまま終わるとあまりに据わりが悪いので、急遽、千穐楽のこの回を確保。土曜日がB席、日曜日がS席でしたのでえらい高い観劇に付いたのですが、何だか直感というか、今の自分にとって見ておかなきゃいけない作品だろうなというのもあって、無理しても見てけきたかったのでした。

結論から申せば、自分の直感を信じて良かった!

ふとした瞬間に涙が流れて止まらなくなってしまった自分に、戸惑いつつもやっぱり今見逃さずに良かった作品だったんだなと思えて。

・・・

「ネバーランド」という言葉が語る通り、この作品は”ミュージカル『ピーターパン』ができるまで”をテーマにした、作者J.M.バリと、彼を取り巻く人たちの物語。

ミュージカルで続編というのはよく聞きますが(『オペラ座の怪人』→『ラブ・ネバー・ダイ』とか)、今回の場合は本編の前というわけで、Ver.0みたいなパターンで珍しいです。

ただ続編を見る時以上に、本編を見ておかないと、という面はあって、見ていて思うのが『ピーターパン』を見て知っていることが前提なんだなと。さすがはホリプロさんのミュージカル製作歴。

ストーリーに触れますと、最近スランプ気味なバリ氏が、公園で子供たちとその母親・シルヴィアと出会い、自分の中の少年を呼び覚まされていく。今までの焼き直しのような作品群ばかりと喝破され、自分が作品を作りだした頃のワクワクした部分に気づかされ、少しずつ自分を取り戻していく彼。

子供の言っていることだからと言って馬鹿にせず、下に見ない彼。子供を1人の立派な人間として認め、しっかりと向き合う彼に、子供たちも心を開き、シルヴィアとも心が通じ合っていく。

物語中盤、知らず知らずのうちに頼りにしていた子供たちやシルヴィアと会えなくなったとき、バリの中の荒々しい部分を具現化した、『ピーターパン』のとある登場人物と対峙することで、バリは自らの進むべき道を認識して歩きはじめる…

そこまでが1幕で、実際の作品作りは2幕から。
脚本を上げてこないことで信頼を失ったバリの言うことに、最初は取り合わない役者連だったけれども、シルヴィアの言った一言に支配人の心が動かされ、役者たちの心に火をつけていくシーンは圧巻。

”役者は演じる喜びに満ちて役者を始めたのだ”

そんな当たり前のことに目覚めさせられていく、その躍動感が素敵です。

子供たちやシルヴィアのハートで、大人であるバリが子供の気持ちを思い出し、『ピーターパン』の物語の原型が生き生きと動き出すパートは心躍ります。ところが、シルヴィアとバリがとある”秘密”を抱えたことから、子供たち、とりわけピーターはバリに対して心を閉ざしてしまいます。

「大人は嘘つきだ」と。

心を閉ざしたピーターに対して、バリは小手先の弁解では心を動かせないことを認識します。
バリは子供を1人前の人間として認めてきたし、子供相手だからと言って真剣に対峙しないことは、彼を認めないことだと。

バリはピーターにその”秘密”を告げます。
そのことを告げたときのバリとピーターのやり取りを見ていて、不意に涙が溢れてきました。

ピーターは、この時、子供から大人になったのだと。
 その覚悟を決めたのだと。
バリは、この時、
 大人にして子供の気持ちを取り戻したのだと。

バリはピーターから教えられ、ピーターはバリから教えられた。
お互いが心に犠牲を払い、お互いから大切なものを受け取った。

バリにとって、「子供の気持ち」をピーターのおかげで自分が取り戻せたからこそ、この物語に『ピーターパン』という名前、そして役名を付けたのだと思うと
…今まで見てきた『ピーターパン』の物語が自分の中で走馬灯のように押し寄せてきて、涙が止めようにも止められませんでした。

「大人だからって傷つかないわけじゃない」という言葉も今の自分には重かったなぁ。

見ていて「子供だからって自分の自由に生きられるわけじゃない」ことを再認識したし、大人にして子供の気持ちを持つのも、子供にして大人の気持ちを持つのも、どっちも大事でどっちも難しいんだなと思えたのは大きかったな。

それでいて、役者さんたちが生き生きと「演じることの初心」を全開に、楽しそうに演じているエネルギーの爆発を浴びられたのは心から嬉しかったし、理屈以外の何かが確実に心に宿った気がして。

・・・

初演初日、作品を作り出す大きな原動力だったシルヴィアは、とある事情によって劇場に行けなかったのですが、そんな時バリが提案した一つの行動が、この物語の意味を昇華させるかのごとくな素晴らしさ。

心が通じ合った2人だからこその幸福感。

そしてカンパニーみんなの温かい思いが表現されたシーンは、圧巻で圧倒的で、素晴らしく感動的で。

父が亡くなって以来自分に厳しかった母からも、心からの気持ちを贈られたシルヴィアは、嬉しかっただろうなと思うと、ポスターに載っている「シルヴィアが妖精の粉を全身に纏うシーン」の意味を実感して、「本当に良かった」と心から思えたのでした。

・・・

「この作品を上演してくれて感謝申し上げます。『ピーターパン』の一つの一つのシーンが思い出されて、大切なものをまたいただけたようです」という言葉をアンケートまでに書いたのは久しぶりのこと。

一度は見られずに終わりそうだったのに、意地を張ってでも(もう1回取ってまでしても)見られて本当に良かった。

バリ役のビリー・ハーリガン・タイさん。自由に子供の心を纏うその様が素敵でした。日本版(2019年上演予定)は石丸幹二さんが演じられます。

シルヴィア役のクリスティン・ドワイヤーさん。母親の慈愛と、バリへの好意がとても自然で、この作品を温かさで満たされていた功労者の筆頭かと。素晴らしい役者さん(ブロードウェーの『ウィキッド』エルファバ役)でしたが、役としてもとても素晴らしい役。

本音を申しますと、この作品を無理してでも見に行った理由に、この役を玲奈ちゃんがやることがあり得るかということを自分の眼と耳で確かめたい、ということがありまして。

正直言って、玲奈ちゃんがやる可能性はかなりあるし、ぜひやって欲しい役と感じます。

元ピーターパンである玲奈ちゃんが「母」になった後、この役での「母」の役どころを演じられる日が来るのなら、シルヴィア役として子供たちや、バリに対して渡せるものはとても大きなものがあると思うし、『ピーターパン』をホリプロさんがここまで続けたことの意味を拡げられる意味があると思うし、玲奈ちゃん自身も役の幅を大きく広げることができるのではと思い、心から祈る次第です。

あ、ちなみにシルヴィアの母、モーリエ夫人はシルビア・グラブさんがイメージぴったりです。
娘に意地悪そうに思えて、でも実は愛情たっぷりという感じが、上手く表現できそうで。

*実際に両方とも実現したら稽古場がシルヴィア役とシルビアさんで混乱しまくりそうですが(笑)

・・・

会場に響き渡る物凄い拍手に感動し、心から嬉しそうに手を振るキャストの皆さん。
大楽を素晴らしい形で終えられたことを拝見できたことが、とても幸せな時間でした。

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コメント

ひろきさま
こんにちは。先日、ツィッター上でご挨拶させていただきましたMickeyと申します。少しずつ「SHIROH」の記事を拝見しているところです。全部読ませていただいてからDVDを観たら、さらに楽しめそうです。

「ファインディング・ネバーランド」のご感想、頷きながら拝読しました。
FNLを観ていて、まるでロンドンで観劇しているような気分でした。ストーリー、楽曲、美術、演出、俳優。。。と何拍子も揃った、素敵な作品でしたね。BWミュージカルというと、ショーアップされたものを連想するのですが、FNLはそうではありませんでした。美術も、ハイテクを前面に出すことなく、人間の手触りを感じさせてくれる、観客の想像力を刺激するもので素晴らしかったです。海賊船が目の前に現れる場面ではゾクゾクしました。これほど胸を打つ珠玉のミュージカルに出会えて幸せです。

ひろきさんもご覧になることができて良かったですね。

これからも、Twitterとあわせて、時々お邪魔させてくださいませ。

投稿: Mickey | 2017/09/25 22:29

Mickeyさま>
おいでいただきありがとうございます。「SHIROH」の拙稿をお読みいただいているとのこと、嬉しいです。もはやどれだけ書き倒したかというぐらいな分量ですが(笑)。

「ファインディング・ネバーランド」のご感想もありがとうございます。
そうなんですよね、客の想像力を信じてくれているように思えて、それはバリが子供を信じてくれているからとリンクしているようで、とても嬉しかったです。
素敵な作品との出会い、その奇跡に感謝です。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

投稿: ひろき | 2017/09/26 00:53

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