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『ビッグ・フィッシュ』

2017.2.26(Sun.) 12:00~14:50
日生劇場 2階E列30番台(センターブロック)

日生2月公演のこの作品も、明後日が千穐楽。
良評判を耳にしつつも、上手いこと観劇日程に組み込めずに、ぎりぎりこの日に観劇です。
東京マラソンでいつもと違う日比谷通りを横目に、久しぶりの日生劇場へ。

「家族」をテーマにした作品でしかも日生ということで、舞台は違いますが何となく「屋根の上のヴァイオリン弾き」の空気を感じたりして。

父と母、息子と妻とその息子。ブルーム家3世代の”家族”の中の心の通じ合い、時に反発を描いていきます。

1幕は主に父の武勇伝を息子に聞かせる、それを実際に舞台上で見せるという形で進行。
父であるエドワードは自分のこれまでの歩みを話を盛って話すのが大好き。
昔は楽しく聞いていた息子も、そのクレバーさ故に、父の大風呂敷に辟易している。
そして息子である自分の話も全部、父が自分の自慢話にしてしまうのが我慢ならない。
愛する女性との結婚式、父はあろうことか口止めしておいた秘密まで明かし、息子と父との決裂は決定的になる。

息子ウィルにとっては母、父エドワードにとっては妻のサンドラは、夫のこともわかる、息子のこともわかる、という板挟みになって大層可哀相。
ウィルは頭が良いけど、色んな意味で四角四面で、色々とあけすけなエドワードと似ても似つかない。とはいえサンドラに言わせれば「世界一の頑固者がエドワード、世界2番目の頑固者がウィル」だそうで、それを言われた時のウィルの不満そうな表情がたまらなくツボでした。

そう、男性にとって「父と似ている」と言われるのは、心外と思う人の方が多いと思います(笑)。
「父と同じ道を歩んでいる」のは自分の意思がないようで嫌だし。

エドワードとウィルの決定的な決裂、それをどうにもできないサンドラ。
そんな中、そこに割って入るのが、ウィルの妻であるジョセフィーン。

この方のできる妻っぷりが半端ない。ジャーナリスト(ウィルと同業)ということもあるとはいえ、「言うべきことは言う」女性なのですが、それもいつも怒鳴りたてるような感じは全くなくて。黙っているべき時にはにこにこ、言うべき時にはしっかりと真実を告げる。その佇まいがとても素敵でした。

エドワード役は川平慈英さん。ザ・エネルギッシュで、とにかく前のめりの暑苦しさが、でもなぜだか憎めない。叩く大口も、皆を幸せにしたい、皆のためになりたい、そういう気持ちが見えるから、みんなに愛される。息子以外みんなに。

サンドラ役は霧矢大夢(ひろむ)さん。宝塚在団当時は拝見していないのですが、『ガイズ&ドールズ』の伝説のアドレイド役でお名前は存じておりました。エドワードと出会うシーンでのダンスも見られて、エドワードへの「こまったやんちゃさん」を信じる姿が印象的。

ウィル役は浦井健治さん。見た目上のイメージの「頑なな、こだわり」が見えてて、エドワードと好対照(浦井さんの中ときたら天然ですけどw、そこを見せない辺りは流石)。
彼自身「何でも分かっていると思っていた」ところが、実は「何もわかっていなかった」ところが、後半の物語の感動につながっていきます。

ジョセフィーン役は赤根那奈さん。那奈さん名義での最初で最後の作品になります(日生5月公演の『グレート・ギャツビー』からは宝塚当時の”夢咲ねね”さんに戻ります)。出すぎず出なさすぎず、メリハリのきいた存在感が素敵です。ウェディングドレスを見る人全員を笑顔にしてしまう、翳りの欠片もない幸せ感。がっつりなダンスも初めて見ましたが、恐ろしいほどキレッキレで見惚れます。凄い。

父の武勇伝が主だった1幕とは一転、2幕は父の先が長くないことが分かったあたりから、息子のウィルは「父の真実」を知りたいと、見つけたとある文書とともに、父の故郷に向かいます。
賢妻のジョセフィーンが止めるのも聞かずに。

そこで出会った人から聞かされた話は、息子にとってイメージしていた父とは大きく違って。
話を盛って、いつもホラを吹いているような父だと思っていたのに、でも、その事実を父が自分に明かそうとすることはなくて。

父の笑顔に救われ、父の行動力に救われた人がこれだけいて。
その姿に気づくことができなかった自分の視野の狭さを痛感して。

だからこそ、ウィルは息子に言うわけですね。
「自分の世界を作れ、自分の世界のヒーローになれ」と。

父を否定してしか自分を保てなかった(ように見えた)ウィルが、父の本当の大きさに触れて、心から父のありがたさを感じられたとき、その想いはさらに自分の息子に伝わっていくんだな、という様が感じられて。

そこには、母が父をずっと信じて支えていた思いも改めて感じたろうし、自分を信じてくれる妻の思いも感じたろうし。

父の存在をそのまま受け継ぐわけじゃなく、父の想いも受け取って、息子として、新たな父として変わっていく姿がとても自然で良かったです。

この作品の中で自分が一番印象的だったのは、父が病床に伏せたときに医師が言った言葉。

「(あなたの)声を聞いているかはわかりません。聞こえているかはわかりません」

その言葉を聞いたときに、「(父は)聞いてはいないけど、聞こえている」となぜだか確信して。

意識が消えようとしている瞬間でさえ、無意識は自分への声を聞いている、そう無条件で感じられたのは、自分自身その瞬間を体験したことがあるからかもしれません。

他出演者では、鈴木蘭々さんの芝居が素敵でした。出番は多いわけじゃないけど、ウィルにとっての父の存在をはっきりと変えた佇まいが良かった。
アンサンブルさんでは加藤梨里香ちゃんが一等若さ漲って、ブーケトスでブーケgetしてはしゃいでいる様が可愛かったです。ジャージーガールズな遠藤瑠美子さんの大人っぽい存在感も素敵。

日生劇場のゆったりした空気が、大魚(ビックフィッシュ)がたゆたう海とシンクロするかのようで。
家族の温かさが大海原のスケール感と交わるような、素敵な作品でした。

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