« 『岡村さやかソロライブ スキップ5』 | トップページ | 『月ノ原中学校音楽準備室』 »

『手紙』

2017.2.3(Fri.) 19:00~21:30
新国立劇場小劇場 C3列10番台後半(上手側)

初演が好評のうちに終演して見逃してしまった作品。
今回も日程的に厳しいかと思っていたのですが、何とか時間を見つけて行って来ました。

派手さは多くないけれど、作品のテーマにしっかり寄り添い、じんわりした気持ちが残る作品。
見に行けてよかったです。

作品的に、ネタバレが厳しい作品ではありますが、いつもの通り内容的なネタバレを極力回避して書きますが、気にされる方は回れ右でお願いします。



作品の主軸は吉原光夫さん演じる兄・剛志と、(この回は)太田基裕さん演じる弟・直貴。
兄が弟の学費のために(と兄は言う)、強盗殺人を犯して刑務所へ。

既に両親も失い、一人残された弟は周囲からの風当たりの強さに、行きたかった大学進学も諦め、ひっそりと暮らすようになっていく…

それが導入部。

兄と弟を繋ぐのは「手紙」。
塀の中にいる兄にとって、唯一許された外部との接触は「手紙」。ただし、当然刑務所の検閲は入る。
兄から弟への手紙、弟から兄の手紙。
しかしいつしか、弟から兄への手紙は出されず、弟は自らの転居先を兄には教えないようになる。

舞台上で「塀」は可動式の檻を動かすことで表現。同じ藤田俊太郎さん演出の『ビューティフルゲーム』でも見たかのような空気と、やはり「塀の中」ということもあって『ショーシャンクの空に』の空気も思い出したりして。

この物語を見ていて感じたテーマをいくつか。

一つは「自分」と「他人」というテーマ。
人は「自分がした行為の責任」からは逃れられないけれど、「他人がした行為への糾弾」には無慈悲でいられる。
犯罪者の弟である直貴に対しては、世間はこれでもかと糾弾する。
でも直貴にとってその行為は「自分がした行為」ではない。

「自分のために兄は罪を犯した」と思い込む彼にとって、兄の行為は「他人事」には思えない。だから自分の夢も諦めようとする。

”「自分」でも「他人」でもない存在に対して、自分はどこまでの責任を負うべきなのか”がこの作品の1つのテーマかと。
それでいて、「家族」と「兄弟」と「親子」はまたそれぞれ位置づけが違うように思えて。

この作品中、直貴は「加害者の家族」から「被害者の家族」になる時が現れます。
「息子の過ちを詫びる母親」から頭を下げられた彼は、初めて「被害者」としての気持ちを知り、自分が「加害者」として「被害者」に何ができていなかったかを知るわけですが、「親子」だと自然にできることが、「兄弟」だと自然にできることではないのかもしれないなと。

親は子をしっかり育てる社会的責任があるけれど、弟は兄をしっかり育てる社会的責任があるわけじゃない。
無条件に責任が一体化する「親子」でなく「兄弟」であることに、この作品の一つの肝があるんだろうなと。

もう一点は兄弟似た者同士だなと思えた、「甘え」という概念。

兄は自らのした行為を弁解する。「弟の学費のために強盗に入った、殺人を犯した理由は分からない」と。
実際の思いがどうだったとしても、この言葉は弟を縛るわけで。
弟にしてみれば、自らが頼んだわけでもないのに十字架を背負う。「兄は自分のために罪を犯した」と。
逆に言うと、この言葉を発する限り、「弟は兄である自分を捨てられない」のですね。
つまり、兄は(意図してかどうかにかかわらず)「弟は兄を捨てない」という『甘え』を持っている。

翻って弟。先ほどの話とも重複するけれど、兄は「自分」ではないから、弟である自分からすれば「他人が起こしたことである」という『甘え』を持っている。本当の意味で被害者に向き合うことができていない。

兄は被害者の家族に『手紙』を送り続ける。
袋いっぱいになるほどの手紙は、最後の1通を受け取るまでは、被害者の家族である『彼』の心の傷を、ただ広げていくだけ。

その袋小路を解きほぐした2人の人間が印象的。

一人は弟・直貴の勤務先の社長である平野社長。
川口竜也さんが演じられたこの男性は、直貴の途が正しくない方向に向かっていることを指摘し、直貴がどうすべきかを考えさせた存在。強制的に答えを出すのではなく、直貴を一人の人間として認め、世間一般の色眼鏡と明らかに一線を画して向かい合う姿に感銘を受けました。見放してはいない、でも突き放していないわけではない。本人に委ねるべきところは委ね、そうでないところではビジョンを示す。その空気感が素晴らしかったです。

もう一人は直貴を支えるかけがえのない存在になる由実子さん。
小此木まりさんが演じられたこの女性は、闇を背負った直貴と過剰なほどに向かい合い、直貴のためと思うなら、明らかに常識でない行動を取ったりする。でも闇の中にいる直貴にとって、彼女の飛び抜けた明るさは支えになったろうし、実際見ていてもとても救われるものがありました。
「分かっている」感じがして。暖かく見守る感じが、とても素敵でした。

メインのお2人ももちろん魅力的。

兄を生きた吉原光夫さん。家族のために盗み、牢獄で数年を過ごす姿を見慣れた感じもいたしますが、「自分は悪くない」と思い続けた末に受け取った1通の『手紙』を読んだ後の姿、そしてその後の出会いを通じた変化が強く印象に残りました。

弟を生きた太田基裕さん。ひょろっとした少年が運命に翻弄される前半から、守るものを持って、「他人に振り回されない生き方」を見つけるプロセスに説得力がありました。兄に縛られていた自分から、自分以上に大切な家族を得た末の「決断」。その流れがとても自然で良かったです。

その他の役者さんは複数役を演じられますが、最近ちょっとご無沙汰の染谷洸太さん。久しぶりに拝見しましたが、やはりとても良かったです。
今回、被害者の家族を初めいくつかの役を演じられますが、それぞれの役の立ち位置がどれも意図的に直貴の「壁」になっているようで、強く印象に残りました。
どの役も良かったけど、ラストの説得力はやっぱり流石です。

この作品のタイトルである『手紙』。

『手紙』は送り主と送り先が存在して。
送り主の想いは必ずしも送り先に届くわけではなくて。
送り主の想いだけの手紙は、きっと送り先の想いには届かなくて。
送り主が”送り先の想いを慮れた”ときに、初めて送り先へ届く想いになるのかな、そんなことを思った観劇になりました。

|

« 『岡村さやかソロライブ スキップ5』 | トップページ | 『月ノ原中学校音楽準備室』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/64851850

この記事へのトラックバック一覧です: 『手紙』:

« 『岡村さやかソロライブ スキップ5』 | トップページ | 『月ノ原中学校音楽準備室』 »