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『ミス・サイゴン』(35)

2017.1.20(Fri.) 18:15~21:00 4階4列20番台
              (センターブロック)
 *笹本玲奈キム200回

2017.1.21(Sat.) 17:30~20:15 4階6列30番台(上手側)
 *昆夏美キム千穐楽

2017.1.22(Sun.) 12:30~15:45 1階17列10番台
              (センターブロック)
 *大千穐楽(笹本キム卒業)

愛知県芸術劇場大ホール

2016年~2017年シリーズの『ミス・サイゴン』、とうとう大千穐楽を迎えてしまいました。
今回は地方観劇は名古屋だけで、帝劇以来の観劇となりました。

当初は大楽のみの観劇だったものの、昆キムが大阪までの休演となったことで、玲奈キムの登板が累積200回に達することが分かったので、金曜日を追加。そして昆キムが名古屋復帰ということで土曜日を追加しての、3公演観劇ということにしました。

結果からすると我ながらいい選択肢。
玲奈ちゃんのこれまでの道のりを再確認した玲奈ちゃん200回
次のサイゴンの主力の昆ちゃんの復帰を見届けた昆ちゃん千穐楽
完全燃焼して笑顔でゴールテープを切る玲奈ちゃんを見られた大千穐楽

どれもが素敵な時でした。

玲奈キムの200回は、私も事前にtwitterで呟いたのですが(知る限り他に話は出てなかったかと)、どこからかご本人に伝わったようで、大阪楽を迎えた玲奈ちゃんが「次(名古屋初日、20日ソワレ)が200回」とblogを更新。
それもあってか、20日ソワレの開演直前、幕の向こうの円陣から、かすかにユカイさんの発声と、拍手が聞こえました。玲奈キムの200回をカンパニーに祝ってもらえたのは、嬉しいことでした。

愛知県芸術劇場はドラロマ大楽(2012年10月29日ソワレ)以来ですが、改めて劇場として眺めてみると、外観よりも中身が小さく感じるというか、半分を劇場外に使っている関係で、横に狭くて縦に長い印象。
今回、私の場合は4階が2回で、さほど見にくさを感じませんでしたが、5階に座った複数の友人から「かなり見にくい」との情報が。

他の地方公演と同じく、ヘリコプターが映像なのは承知していましたが、2幕後半のキムの登場シーン(クリスとエレン、ジョンの話し合いシーンにキムの歌声が入り込んでくるシーン)は、帝劇のように張り出しスペースがないため、愛知県芸の場合、上手側客席から階段上がりでした。

地方公演中、特に大阪後半で調子を崩していたと聞いて心配だった玲奈キムは、20日ソワレの時点でほぼ完調。昆ちゃんも既に前日ソワレで復帰していたため、まさに心配せずの全力投球。帝劇初期のような、丁寧さと突破力を兼ね備えた、『2016年版玲奈キム』が復活していて、嬉しかったです。

今期の玲奈キムで印象的だったのは、他キャストとの関係性。
22日ソワレで、最初のドリームランドのシーン。
当初は、ドリームランドのメンバーに目の敵にされるキム。だけれども、GIたちにいいようにされ心身を傷つけられたキムを、ジジたちドリームランドのメンバーは同志として迎え入れる。受け入れるかのようにキムを抱きしめるジジ。キムは自分を抱きしめてくれたジジの手に、自分から手を添えて、ジジの気持ちを受け入れる。受け入れてくれた気持ちに応えるかのように。

この日の池谷ジジと玲奈キムの気持ちの触れ合いが本当に自然で。その後、キムは前のようにGIにスカートをめくられても、それまでのようにされるがままにされるのではなく、自分で払い除けたんですよね。
そのシーンを見て、キムが望まないとはいえ、その場で生きていこうと腹をくくったのかなという思いが見られて、とても印象的でした。

もう一つは、トゥイとの関係。
トゥイから罵声を浴びせられ、キムの気持ちが”シフトチェンジ”すると言われているトゥイの乱入シーン。
大楽でハッとさせられたのは、「淫売とヤンキー」とトゥイが言ったときに、キムは咄嗟にジジをはじめとする仲間の顔を見たんですね。

そのあまりの速さに、「自分のせいでみんなを『淫売』と呼ばせてしまった」ことへの痛切な後悔を感じて。自分と一緒に働いてさえいなければ、(いくら現実から目を背けているとはいえ)その言葉を直接的に投げかけられる侮辱はされないで済んだだろうと。

キムと女性たちの関係が深く結びついたからこそ、キムがトゥイから気持ちが離れた理由の一つでもあるのかなと気づかされました。
トゥイは自分(キム)が必要としていた時に来てくれなかった。だから自分にとっては終わった人。でも今一緒に現実から抜け出そうともがいている仲間は、自分がどうしようもなかった時にエンジニアに連れてこられ、紆余曲折があっても助けてくれた大切な人たち。
自分にとってはクリスも大事だし、仲間も大事。
その両方に対して侮辱するトゥイが来ても、キムの気持ちは動くはずないよなぁ、と改めて感じさせられました。
その上、タムまで侮辱するわけだからなおさら…。

トゥイとの関係でもう一つ印象的だったのは、20日ソワレで見ているときに思ったこと。
キムはトゥイを撃つことで、複数のものを断ち切ったのだなと。
一つは「親とのつながり」。トゥイからキムは、「親が決めた許嫁」。それを断ち切るのは、親とのつながりがなくなることとあまり変わらない。
もう一つは「国とのつながり」。トゥイはキムにとって、「祖国」とを繋ぐ唯一のピースだったのでは。村も焼かれ、自分にとっての祖国は何も残っていない。
トゥイを撃つことで、キムにとっては「親」と「祖国」を失い、いわゆる存在意義が「タム」しかなくなったのではないかと。

それでもキムにはタムがいただけ良くて、エンジニアには「アメリカに行きたい」という思いしかなくて。
ただキムとエンジニアで共通して感じたのが、「漂流している2人」なんじゃないかって。

エンジニアは父は入れ墨師だし、母は薬に溺れて身を売った女性で、自分は母の客引きをやって幼年期を過ごし、自分が何で生きているかの存在意義を得られなかったのではないかと。だからこそお金を稼ぎ、アメリカで一旗上げることを願うことでしか、自分の生きる意味を感じられなかったのではないかと。

対してキムは、タムがいなければ自分自身を「産まれたくないのに産まれでた」と思いかねない境遇を、タムという”実際に存在する愛する人”がいることで、戦火の中で漂流するにしても、エンジニアと違う強さを持てたんじゃないか、という意味で対になる存在なのかな、と実感できたのでした。

足掛け12年、玲奈キムを始めて見たのはデビュー月である2004年8月でした。
若さに溢れ、ただ正直言って固くて、とにかく演じ切ることに悪戦苦闘されていました。
同期は演技力に定評がある松たか子さん、ミュージカル2作目で”人生を変える役”に出会った新妻聖子さん、そして前期まで玲奈キムとずっと時を同じくした知念里奈さん。

自分にとって2004年から見続けたサイゴンは、きっかけはエレンを演じた高橋由美子さんでしたが、キムとしては新妻聖子さんの役という印象がずっと強く、玲奈さんは一昨年(2015年)まで演じた『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役の方が印象に強く。ある意味、「キムは聖子さん、エポは玲奈さん」で棲み分けしていた部分があったんですね。

今回の玲奈キムは、昆ちゃんの休演を受けてというのもあったけれども、最初から覚悟の違いを感じていて。「何が何でもキムという役、サイゴンという作品を護り抜く」というハートがダイレクトに伝わって。
聖子キムは「パワーで作品を牽引する」タイプでしたが、今期の玲奈キムはもう一つの形として、「テクニックで作品を押し上げる」形を作ったように思えました。

玲奈さん自身、「集大成」と明言されていた今回。
開幕時既に30代を迎えて、パワーとしては大変なことがたくさんあったとは思いますが、「今できること」「今すべきこと」を積み上げて大千穐楽までこぎつけられたことに、ただただ拍手です。

...

カーテンコール、まずは21日ソワレ。
この日楽のアンサンブルさんが紹介された後、昆ちゃんからご挨拶。

昆ちゃん「ご観劇ありがとうございました。

     私は東京公演から岩手・鹿児島・久留米・大阪
     公演と休演させていただき、この名古屋公演から
     復帰させていただきました。
     お休みさせていただいている間、沢山の方から
     『待っているよ』と言っていただけたことが、
     何よりの私の支えでした。

     そして、キムという役は本当に心身ともに大変な
     役なのに、笹本玲奈ちゃん、キムスハちゃんは
     『私たちのことは気にしなくていいから、一緒に
     大千穐楽で舞台に立とうね』と言ってくれて、
     その言葉に何より力をもらいました。

     溢れる想いはたくさんありますが、
     今伝えたいことは感謝だけです。
     本当にありがとうございました」

22日大楽、玲奈ちゃんはカーテンコールに両手を上げて走り込んできました。
ちょうどマラソンランナーがゴールテープを切るように。正に、『ミス・サイゴン』のキムという役をゴールしたという意味だったことが、後から分かることになります。

玲奈ちゃん「ご観劇ありがとうございました。
      私は2004年以来足かけ12年キムを演じました。
      入った当時は私が一番若かったのですが、
      今となってみると、カンパニーの中では
      市村さんに次いで長く演じました。
      これだけ長く演じた役なので、終わったら
      心にぽっかり穴があいたりするのかと
      思ったのですが、
      今はとてもすっきりした気持ちです(笑顔)

      私がサイゴンのキムとして(舞台に立つの)は
      今日が最後になりますが、世界のどこかで戦い
      がある限り、この作品は演じられる作品だと
      思います。
      一サイゴンファンとして、この作品をまた拝見
      できることを願っています。
      ありがとうございました」

そう言った玲奈ちゃんの表情は本当に晴れやかで。

昆ちゃんのアクシデントも全力で支えて、200回も迎えて、昆ちゃんの復帰も間に合ってバトンも渡せた。つらいこともたくさんあったろうけど、玲奈ちゃんにとってとても意義のある、今期のキムだったと思う。
どれが欠けても悔いが残るだろうに、奇跡的に全部のピースが、玲奈ちゃんのキム卒業を飾ってくれたような気がしてなりません。

何しろ、同じく200回以上演じたにも関わらず公式のご挨拶もなく、卒業宣言せずに卒業することになったエポニーヌ(2015年梅田芸術劇場公演にて千穐楽)の前例があっただけに、はっきりと玲奈ちゃん自身の口で「卒業」を宣言されたことは驚きで、でも、まだやれる余地を残さない覚悟が今日の玲奈キムにはあったと思う。

いずれにしても、今期の登板自体が今迄からすると異例(基本的に30歳になるとエポキムは卒業という暗黙の了解が存在)なので、どちらにしろ卒業と思ってはいましたが、それでもはっきりと宣言されたことで、玲奈ちゃんもまた違った道を歩みだせるのかな、と思ったのでした。

久しぶりに観たサイゴンは、素敵な音楽も歌声もそのままで、そして胸をえぐられるストーリーもそのままで。それでいて、ベトナム戦争というものをリアルで知らない世代が増えていく中で、どのようにこの作品が受け入れられ続けられるのか、そこに何か問われているものがある気がします。

何はともあれ、大楽最後は前日までに楽を迎えたメンバーを含むカンパニー全員が参集しての客席巻き込んでの『アメリカンドリーム』。素敵なフィナーレでした。

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