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2017年1月

『岡村さやかソロライブ スキップ5』

2017.1.29(Mon.)
昼の部 13:30~15:30
夜の部 18:00~20:00
Sound Creek Doppo(四谷)

1年ぶりの岡村さやかさんソロライブ「スキップ」。
今回は去年秋の『Alone With2』の急遽の追加公演会場である四谷のライブハウスです。

まずはセットリストから参ります。

●セットリスト
[第1部]
1.I Could Never Rescue You/The Last Five Years
(Instrumental)
2.Sing Sing Sing/Tokyo Disney Sea
3.Beautiful!/Carol King
4.nothing/コーラスライン
5.Your Daddy's Son/RagTime

[昼の部/サプライズゲスト:千田阿紗子さん]
6.希望と夜明け/左手を探して
7.優しさに包まれたなら/松任谷由実

[夜の部/サプライズゲスト:神田恭兵さん]
6.Therapy/tick tick Boom...
7.Elephant Love Medley/ムーランルージュ

[第1部-2]
8.瞳/original(新)

[第2部]
9.woman/Wの悲劇
10.Call Me When You're Sober/eversence
11.Lay me down/Sam Smith
12.ゲッセマネ/ジーザス・クライスト・スーパースター
13.新世界(ドボルザーク)/平原綾香(my classic)

[encore]
14.あわい模様/original

…セットリストを見ると分かりますが、さやかさんソロライブ恒例の、幅の広さ。

今回は何と「ゲッセマネ」まで来ました。
当然男性曲のこの曲。

普段の歌詞だと、当然神への言葉だけに最低限の丁寧さはあるけれども、今回は歌詞を変えて、より荒々しい歌詞(言ってみれば神に対してとは思えない歌詞に)したと。
それもあって、より激しさが増して迫力でした。

この曲について、”舞台仲間からセットリストのリクエストを貰った時に、いつも「ゲッセマネ」って答えるのに、歌ってくれた人が誰もいない”(笑)とさやかさんは仰っていましたが、さやかさんのこの魂の歌を聞いたらそりゃ白旗上げますって(苦笑)。

夜の部ゲストに来られていた神田恭兵さんは、同じこの会場で今週末ソロライブをされますが、「この曲どうですか」って振られて、さすがに即答してなかったです(爆)。

夜一番凄いと感じたのは「ゲッセマネ」ですが、M10のメタルロックも新鮮で凄い迫力。

さやかさん曰く「アメリカンドック食べているだけで『イメージと違う』、ジャンクフード大好きで、好きなファーストフードは吉野家なのに、私どんなイメージなんでしょうね。野菜だけ食べているようなイメージされてるらしいんですけど(笑)」とMCで仰っていたのですが、ソロライブに来ている方だと、さやかさんのロックは普通ですもんね。

M5の「Your Daddy's Son」も凄い良かった。日本未上陸の作品ですが、さやかさんはきちんと作品世界の解説も、曲の位置づけも話してから歌ってくれるので、歌の情景を思い浮かべながら聞けるのがとてもありがたいです。

息子に対して許されざる行ないをした母親の気持ちを歌いながら、最後は息子が自分の元へ戻ってきてくれた物語を1曲で歌います。
以前のさやかさんなら慈愛の方に寄って表現されていたような気がするのですが、言葉は変ですが「非情であるべき時には非情であれる」というか、あえて愛情を殺した感情の見せ方をされるようになったのが印象的です。

・・・

昼の部のサプライズゲストは千田阿紗子さん。One On Oneでお馴染みのペアですが、実際のところ2人だけで立ったことはほとんど記憶になくて。実際、さやかさんも千田さんも仰っていましたが、これだけ一緒に出ているのに、2人だけで並ぶのは初めてだったようです。

2月公演の『レプリカ』でもヒロインのヤヨイをWキャストで演じられますが、実際並ぶと似てるようで違う、違うようで似ているところが見えて興味深いです。
さやかさんがボケれば千田さんが容赦なくツッコむ。さやかさんがボケたのになぜかそれが千田さんに突っ込みとして刺さったり(笑)、具体的に覚えていられないぐらいのボケツッコミの応酬で、笑わせられまくります(笑)。

『レプリカ』の宣伝を2人でトークしていて、「2人が並んでいるところは観られませんが、どの回に来ていただいてもどちらかはいます」のさやかさんのざっくりなはずのまとめが核心をついていて千田さんが納得してて笑いました(笑)

・・・

夜の部のサプライズゲストは神田恭兵さん。去年2月の『tick tick Boom...』での共演以来で、個人的には予想していたのですが、同作の通称「電話喧嘩の歌」で登場する際の話。

リハーサルでさやかさんから「昼は千田さんが面白い出方したから、面白い出方考えて」とざっくり言われたそうで(本当にざっくり(笑))、さやかさんの自前の「PHS」と神田さんの携帯を使っての、容赦なき電話経由バトルを目前で観られて、爆笑でした。

夜の部は同作の演出をされた片島亜希子さんも来場されていて、後からダメ出しされないか主にさやかさんがビクビクされてましたが(爆)、たぶん「彼」の方が正しいはずなのに、「彼女」のちょっとずれた方向性に巻き込まれている感じがたまりません(笑)

もう1曲のラブメドレーはそれ以上に最高で。さやかさんに対してここまでダイレクトに愛情を伝える曲ってそうそう記憶になくて。さやかさんが恋愛ものの作品で演じると、なぜだか恋愛に臆病というか、照れを感じる役が多い気がしているのですが、神田さんは男らしく歌いかけていて、その様にさやかさんがキュンとなっている様が最高でした。

・・・

そして今回のライブでのオリジナル曲(ソロライブごとにオリジナル曲を1曲ずつ作られている)「瞳」の作曲はドラムの芳賀一之さん。

『ウレシパモシリ』でのバンド(ウレパモではパーカッション)兼珈琲店オーナーとしてお馴染みの方ですが、この曲、さやかさんの突き抜けるエネルギーと、暖かさを併せ感じさせる、今までにないスピード感が印象的。

アンコールでは1stの『あわい模様』も歌ってくださり、その曲同士の違いも感じられて。

曲作りにさやかさんのその時の”一番感じていたこと”と作曲される方(1stは土井一弥さん。今回はスケジュールが合わず、史上初めて不参加)の”さやかさんで歌ってほしいこと”が乗っているんだなぁと実感しました。

今回はウレパモのさやかさんを知っている芳賀さんなので、歌2なり歌1のさやかさんの”激しさ”を知っていることが曲に反映していたのが嬉しくて。

さやかさんが歌いたい曲を歌いながら、メンバーの入れ替わりも含めて、表現できる世界をどんどんと広げている様がとても素敵で。
それでいてトークのほわほわさも健在で、ハートフルときどき毒舌、迫力の歌という1回で何回分も美味しいソロライブでした。

『瞳』、CD化熱望しております。

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『デルフィニア戦記』

2017.1.28(Sat.) 18:00~20:30
天王洲銀河劇場 3階A列10番台(センターブロック)

明日(29日)が千穐楽のこの作品を見に、誕生日の今日、天王洲まで行って来ました。

いわゆる「バースデー観劇」なのですが、実は自分自身「バースデー観劇」を意識していなくて、(記録を残している)2009年以降でバースデー観劇は今年がたった2回目。

小説やアニメが原作の作品を舞台化するのは最近多いわけですが、この作品、思った以上に物語も骨太なばかりか、芝居面でも濃く深く、とても楽しめました。

物語の舞台はデルフィニア国。
その国の王子(国王に即位)であるウォルが、ペールゼン侯爵の謀略により追放され、命を狙われたその時、異世界から来た謎の少女・リィがウォルの危機を救い、行動を共にすることとなる…ところから始まります。

異世界からやってきた少女が、王と出会った物語を、原作1巻~4巻まで対象に舞台化する、というと既視感がある(爆)のですが、舞台(約2時間)の制約だとちょうどその位になるのでしょうね。

ウォルを演じるのは蕨野友也さん。平成仮面ライダーで敵役をされていた方ですね。舞台では初見です。
リィを演じるのは佃井皆美さん。こちらも平成仮面ライダー(仮面ライダー凱武)で史上初の女性ライダー(しかもスーツアクター兼任)されていた、アクション女優の方です。

彼女は由美子さんが出ていた2012年『リンダリンダ』でマナミさんという快活な女性を演じられていて印象的だったので、ずっとウォッチはしていたものの、タイミングが上手く合わずに、何と5年ぶりに拝見することになりました。

リィは超人的な剣術や運動能力でウォルの危機を何度となく救う、という設定なのですが、もう、みなみんぴったりな役すぎです。彼女の周囲に一体全体、重力はあるのか、ってぐらいの動きの滑らかさ。

ただ、彼女の専門はアクション(ジャパン・アクション・エンタープライズ所属)であって殺陣ではないので、剣を構えない方が強いというところだけが心配要素でしたが(爆)、それはそれ、さすがの適応力でした。

アクションができるのは最初から分かってはいたのですが、今回印象的だったのは、彼女のアクションにはちゃんと感情が乗っかっていることなんですね。これは以前にはなかったことで。
憤りの気持ち、悲しみの気持ち、怒りの気持ち、喜びの気持ち、それがはっきりアクションから感じ取れるのが変わったなぁと。その上、台詞回しが格段に良くなって、アクションと演技に切れ目がなくなって素晴らしかったです。さすが鴻上さん。

というのも、リィは王であるウォルに対してもタメ語を使って周囲を仰天させるような少女でありながら、皆に自然に「戦いの女神」であることを納得させている。ウォルを信じる仲間の中でも、飛び抜けた戦闘力を持ち、でも、だからといって力で言うことを聞かせることは全くしない。

ウォルも王にしては王という「権力」で言うことを聞かせるタイプじゃないわけで、その意味でウォルとリィは価値観の共有という意味で最強のペアだったのだろうな、と思わせます。

ウォルを演じた蕨野さんは「自然に慕われる」という意味で、佇まいが王だったし、リィは「自然に一目置かれる」という意味で、佇まいが勇者だったし、そしてリィは何があっても迷わないんですよね。

そもそも異世界に連れてこられて自分自身どこに行けばいいかもわからない、迷い人なはずなのに、判断を求められればすぐに、そして適切な答えを出す。それは原作通りなわけですが、大事なのはそれを不自然じゃなく見せること、それが舞台化において必要なことで。それが演出としても演者としてもきちんと完成されていたことが素敵でした。

原作ありの作品ということで、ともすれば役者さんとして経験不足な方が浮くのではと心配していたのですが、この作品は全くと言っていいほどそんなことがなく、ベテランから若手に至るまで、芝居が深く鋭く、物語世界に自然に没入させてもらえたことが素敵。なんといってもウォルの育ての親、フェルナン伯爵を演じた小林勝也さんはさすが素晴らしかったです。1幕ほぼ最後のウォルとの対面場面は感動でした。

フェルナン伯爵(育ての親)とウォルだけでは、あのシーンは成就しない。
偏屈ともとれるフェルナンを説き伏せたリィの行動。説得しようとしたものではなく、でも確かにフェルナン伯爵の心を動かしていた。ウォルに聞いたわけでもないのに、ウォルの気持ちを確かに言い当てた言葉は印象的でした。

そのフェルナン伯爵を連れ出したときに、従者として行動を共にしたシャーミアンに対して言った言葉も印象的。もう命は長くないフェルナン伯爵を、何とか馬に乗せてウォルの元まで連れていこうとするシャーミアンに対して、リィはこう言うのですね。

「信じたくないことと事実を一緒にしてはいけない」

と。

これはリィが自分に言い聞かせた言葉でもあるのだろうなと。

自分が異世界に飛ばされたことを信じたくはないけれど、自分が異世界にいるという事実は信じないといけない。だからこそ、異世界で今自分が何ができるか、何をすべきか考えなきゃいけないと。

リィの思考回路はあらゆる点においてシンプルで、迷いの欠片もない。
戦略性に優れ、説得力に富み、実行力も兼ね備えたスーパーヒロイン。
そのキャラクターを、全身で納得させられるほどに成長した佃井さんを見られたことが、何より嬉しかったです。

策を謀ったペールゼンの企みが、矛盾という穴で崩壊し始め、ウォルが旗を振る軍勢の正当性が発現していくカタルシス。
国を”「支配する側」の権力”と捉えるか、”「集合体」の機関”と捉えるか。国王としての”人”の大きさを考えると、後者の、ウォルに正当性があることをまじまじと感じます。

蕨野さん、佃井さんを初めとして、皆が物語に自然に存在し、芝居として深め合うことによって浮かび上がってくるこの物語そのもののメッセージ。

「曲がったこと」は結局のところ長続きするものではなく。
一時的に歪んでも、「正しいこと」が正面を切って向かい合えさえすれば、正しい道へ戻るのだ、と感じられたことはとても清清くて。
自分が歳を1つ取ったその日に、観られたことがとても意味がある物語に感じられました。

**

この日は終演後、佃井さんのDVD(会場先行発売)のお渡し会ということで、ちょっとだけですがお話しできて嬉しかったです(結局そっち(笑))

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『ミス・サイゴン』(35)

2017.1.20(Fri.) 18:15~21:00 4階4列20番台
              (センターブロック)
 *笹本玲奈キム200回

2017.1.21(Sat.) 17:30~20:15 4階6列30番台(上手側)
 *昆夏美キム千穐楽

2017.1.22(Sun.) 12:30~15:45 1階17列10番台
              (センターブロック)
 *大千穐楽(笹本キム卒業)

愛知県芸術劇場大ホール

2016年~2017年シリーズの『ミス・サイゴン』、とうとう大千穐楽を迎えてしまいました。
今回は地方観劇は名古屋だけで、帝劇以来の観劇となりました。

当初は大楽のみの観劇だったものの、昆キムが大阪までの休演となったことで、玲奈キムの登板が累積200回に達することが分かったので、金曜日を追加。そして昆キムが名古屋復帰ということで土曜日を追加しての、3公演観劇ということにしました。

結果からすると我ながらいい選択肢。
玲奈ちゃんのこれまでの道のりを再確認した玲奈ちゃん200回
次のサイゴンの主力の昆ちゃんの復帰を見届けた昆ちゃん千穐楽
完全燃焼して笑顔でゴールテープを切る玲奈ちゃんを見られた大千穐楽

どれもが素敵な時でした。

玲奈キムの200回は、私も事前にtwitterで呟いたのですが(知る限り他に話は出てなかったかと)、どこからかご本人に伝わったようで、大阪楽を迎えた玲奈ちゃんが「次(名古屋初日、20日ソワレ)が200回」とblogを更新。
それもあってか、20日ソワレの開演直前、幕の向こうの円陣から、かすかにユカイさんの発声と、拍手が聞こえました。玲奈キムの200回をカンパニーに祝ってもらえたのは、嬉しいことでした。

愛知県芸術劇場はドラロマ大楽(2012年10月29日ソワレ)以来ですが、改めて劇場として眺めてみると、外観よりも中身が小さく感じるというか、半分を劇場外に使っている関係で、横に狭くて縦に長い印象。
今回、私の場合は4階が2回で、さほど見にくさを感じませんでしたが、5階に座った複数の友人から「かなり見にくい」との情報が。

他の地方公演と同じく、ヘリコプターが映像なのは承知していましたが、2幕後半のキムの登場シーン(クリスとエレン、ジョンの話し合いシーンにキムの歌声が入り込んでくるシーン)は、帝劇のように張り出しスペースがないため、愛知県芸の場合、上手側客席から階段上がりでした。

地方公演中、特に大阪後半で調子を崩していたと聞いて心配だった玲奈キムは、20日ソワレの時点でほぼ完調。昆ちゃんも既に前日ソワレで復帰していたため、まさに心配せずの全力投球。帝劇初期のような、丁寧さと突破力を兼ね備えた、『2016年版玲奈キム』が復活していて、嬉しかったです。

今期の玲奈キムで印象的だったのは、他キャストとの関係性。
22日ソワレで、最初のドリームランドのシーン。
当初は、ドリームランドのメンバーに目の敵にされるキム。だけれども、GIたちにいいようにされ心身を傷つけられたキムを、ジジたちドリームランドのメンバーは同志として迎え入れる。受け入れるかのようにキムを抱きしめるジジ。キムは自分を抱きしめてくれたジジの手に、自分から手を添えて、ジジの気持ちを受け入れる。受け入れてくれた気持ちに応えるかのように。

この日の池谷ジジと玲奈キムの気持ちの触れ合いが本当に自然で。その後、キムは前のようにGIにスカートをめくられても、それまでのようにされるがままにされるのではなく、自分で払い除けたんですよね。
そのシーンを見て、キムが望まないとはいえ、その場で生きていこうと腹をくくったのかなという思いが見られて、とても印象的でした。

もう一つは、トゥイとの関係。
トゥイから罵声を浴びせられ、キムの気持ちが”シフトチェンジ”すると言われているトゥイの乱入シーン。
大楽でハッとさせられたのは、「淫売とヤンキー」とトゥイが言ったときに、キムは咄嗟にジジをはじめとする仲間の顔を見たんですね。

そのあまりの速さに、「自分のせいでみんなを『淫売』と呼ばせてしまった」ことへの痛切な後悔を感じて。自分と一緒に働いてさえいなければ、(いくら現実から目を背けているとはいえ)その言葉を直接的に投げかけられる侮辱はされないで済んだだろうと。

キムと女性たちの関係が深く結びついたからこそ、キムがトゥイから気持ちが離れた理由の一つでもあるのかなと気づかされました。
トゥイは自分(キム)が必要としていた時に来てくれなかった。だから自分にとっては終わった人。でも今一緒に現実から抜け出そうともがいている仲間は、自分がどうしようもなかった時にエンジニアに連れてこられ、紆余曲折があっても助けてくれた大切な人たち。
自分にとってはクリスも大事だし、仲間も大事。
その両方に対して侮辱するトゥイが来ても、キムの気持ちは動くはずないよなぁ、と改めて感じさせられました。
その上、タムまで侮辱するわけだからなおさら…。

トゥイとの関係でもう一つ印象的だったのは、20日ソワレで見ているときに思ったこと。
キムはトゥイを撃つことで、複数のものを断ち切ったのだなと。
一つは「親とのつながり」。トゥイからキムは、「親が決めた許嫁」。それを断ち切るのは、親とのつながりがなくなることとあまり変わらない。
もう一つは「国とのつながり」。トゥイはキムにとって、「祖国」とを繋ぐ唯一のピースだったのでは。村も焼かれ、自分にとっての祖国は何も残っていない。
トゥイを撃つことで、キムにとっては「親」と「祖国」を失い、いわゆる存在意義が「タム」しかなくなったのではないかと。

それでもキムにはタムがいただけ良くて、エンジニアには「アメリカに行きたい」という思いしかなくて。
ただキムとエンジニアで共通して感じたのが、「漂流している2人」なんじゃないかって。

エンジニアは父は入れ墨師だし、母は薬に溺れて身を売った女性で、自分は母の客引きをやって幼年期を過ごし、自分が何で生きているかの存在意義を得られなかったのではないかと。だからこそお金を稼ぎ、アメリカで一旗上げることを願うことでしか、自分の生きる意味を感じられなかったのではないかと。

対してキムは、タムがいなければ自分自身を「産まれたくないのに産まれでた」と思いかねない境遇を、タムという”実際に存在する愛する人”がいることで、戦火の中で漂流するにしても、エンジニアと違う強さを持てたんじゃないか、という意味で対になる存在なのかな、と実感できたのでした。

足掛け12年、玲奈キムを始めて見たのはデビュー月である2004年8月でした。
若さに溢れ、ただ正直言って固くて、とにかく演じ切ることに悪戦苦闘されていました。
同期は演技力に定評がある松たか子さん、ミュージカル2作目で”人生を変える役”に出会った新妻聖子さん、そして前期まで玲奈キムとずっと時を同じくした知念里奈さん。

自分にとって2004年から見続けたサイゴンは、きっかけはエレンを演じた高橋由美子さんでしたが、キムとしては新妻聖子さんの役という印象がずっと強く、玲奈さんは一昨年(2015年)まで演じた『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役の方が印象に強く。ある意味、「キムは聖子さん、エポは玲奈さん」で棲み分けしていた部分があったんですね。

今回の玲奈キムは、昆ちゃんの休演を受けてというのもあったけれども、最初から覚悟の違いを感じていて。「何が何でもキムという役、サイゴンという作品を護り抜く」というハートがダイレクトに伝わって。
聖子キムは「パワーで作品を牽引する」タイプでしたが、今期の玲奈キムはもう一つの形として、「テクニックで作品を押し上げる」形を作ったように思えました。

玲奈さん自身、「集大成」と明言されていた今回。
開幕時既に30代を迎えて、パワーとしては大変なことがたくさんあったとは思いますが、「今できること」「今すべきこと」を積み上げて大千穐楽までこぎつけられたことに、ただただ拍手です。

...

カーテンコール、まずは21日ソワレ。
この日楽のアンサンブルさんが紹介された後、昆ちゃんからご挨拶。

昆ちゃん「ご観劇ありがとうございました。

     私は東京公演から岩手・鹿児島・久留米・大阪
     公演と休演させていただき、この名古屋公演から
     復帰させていただきました。
     お休みさせていただいている間、沢山の方から
     『待っているよ』と言っていただけたことが、
     何よりの私の支えでした。

     そして、キムという役は本当に心身ともに大変な
     役なのに、笹本玲奈ちゃん、キムスハちゃんは
     『私たちのことは気にしなくていいから、一緒に
     大千穐楽で舞台に立とうね』と言ってくれて、
     その言葉に何より力をもらいました。

     溢れる想いはたくさんありますが、
     今伝えたいことは感謝だけです。
     本当にありがとうございました」

22日大楽、玲奈ちゃんはカーテンコールに両手を上げて走り込んできました。
ちょうどマラソンランナーがゴールテープを切るように。正に、『ミス・サイゴン』のキムという役をゴールしたという意味だったことが、後から分かることになります。

玲奈ちゃん「ご観劇ありがとうございました。
      私は2004年以来足かけ12年キムを演じました。
      入った当時は私が一番若かったのですが、
      今となってみると、カンパニーの中では
      市村さんに次いで長く演じました。
      これだけ長く演じた役なので、終わったら
      心にぽっかり穴があいたりするのかと
      思ったのですが、
      今はとてもすっきりした気持ちです(笑顔)

      私がサイゴンのキムとして(舞台に立つの)は
      今日が最後になりますが、世界のどこかで戦い
      がある限り、この作品は演じられる作品だと
      思います。
      一サイゴンファンとして、この作品をまた拝見
      できることを願っています。
      ありがとうございました」

そう言った玲奈ちゃんの表情は本当に晴れやかで。

昆ちゃんのアクシデントも全力で支えて、200回も迎えて、昆ちゃんの復帰も間に合ってバトンも渡せた。つらいこともたくさんあったろうけど、玲奈ちゃんにとってとても意義のある、今期のキムだったと思う。
どれが欠けても悔いが残るだろうに、奇跡的に全部のピースが、玲奈ちゃんのキム卒業を飾ってくれたような気がしてなりません。

何しろ、同じく200回以上演じたにも関わらず公式のご挨拶もなく、卒業宣言せずに卒業することになったエポニーヌ(2015年梅田芸術劇場公演にて千穐楽)の前例があっただけに、はっきりと玲奈ちゃん自身の口で「卒業」を宣言されたことは驚きで、でも、まだやれる余地を残さない覚悟が今日の玲奈キムにはあったと思う。

いずれにしても、今期の登板自体が今迄からすると異例(基本的に30歳になるとエポキムは卒業という暗黙の了解が存在)なので、どちらにしろ卒業と思ってはいましたが、それでもはっきりと宣言されたことで、玲奈ちゃんもまた違った道を歩みだせるのかな、と思ったのでした。

久しぶりに観たサイゴンは、素敵な音楽も歌声もそのままで、そして胸をえぐられるストーリーもそのままで。それでいて、ベトナム戦争というものをリアルで知らない世代が増えていく中で、どのようにこの作品が受け入れられ続けられるのか、そこに何か問われているものがある気がします。

何はともあれ、大楽最後は前日までに楽を迎えたメンバーを含むカンパニー全員が参集しての客席巻き込んでの『アメリカンドリーム』。素敵なフィナーレでした。

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