« 『世界を繋ぐ方法』(1) | トップページ | 『I Love Musical』(2) »

『世界を繋ぐ方法』(2)

2016.12.7(Wed.) 14:00~16:00 F列1桁番台
2016.12.11(Sun.) 17:00~19:00 F列1桁番台
アトリエファンファーレ高円寺

5回チケット取って3回観劇。
今までにない低打率となったこの作品ですが、無事に千穐楽まで見届けることができました。

千穐楽となりましたので、内容的なネタバレは緩和して書きたいと思いますが、お気になさる方は回れ右を。



この作品は、近江谷さん演じる正平が、妻を喪い無気力かのようにテレビを見ている場面から始まります。ここで流れるテレビの音が、実は社交ダンスの練習風景の声だったりして、作品の後半の出来事(正平は妻としか社交ダンスを踊ったことがない)とリンクしていたりする演出が細かい。

胸を突かれたのは、その次のシーンで「がんというのは実は良い病気なんです」という音声。曰く「余命○ヶ月と言われれば、その期間で人生を充実させようと思うじゃないですか」という言葉の途中で、正平がテレビの電源を切るんですね。

それを見て、あぁ、ただの無気力じゃないんだと。
妻に何もしてあげられなかったと思って前に進めない人間にとって、そんな発言は、他人事な視点からの無責任な発言でしかないですからね。

兄である正平と弟である隆(大内さん)には、どことなくぎくしゃくした面があって、その一因となっているのが、正平の妻の主治医が隆であり、がんの治療のために抗がん剤と放射線治療をしたこと。
隆は医者の信念として、その治療を勧めたけれど、正平はその苦しみを隆自身が味わっていないだろうと指摘するんですね。

「プライドを持って仕事をしている」と自分自身を語る隆。だけれども、自分の患者の家族でもある兄・正平は自身の妻を喪ったことについて、自分を一度たりとも責めない。責めてくれれば楽になれるのに、というかのように正平に叫ぶ隆の姿が胸に突き刺さります。

兄は自分を実は責めているんじゃないかといらだつ弟。
責めていないけれども、言えない部分、どう言ったら自分の本心が伝わるか困っている兄。

その2人の膠着した状態に風穴を開けるのが、由美子さん演じる柚子。
彼女の主治医も隆であり、正平の妻と同じ病に侵されていた。

正平の妻と同じ立場になった時、柚子は別の選択肢を選び、正平も「柚子さんのしたいようにしてほしい」と隆に懇願する。病に気力を奪われた柚子にとって、正平の言葉がどれだけ嬉しかったかは、由美子さん演じる柚子の心からのほっとした表情に見て取れて。
その願いを主治医として隆が受け入れたときに、
すべての世界は繋がったように思えたのです。

作品のタイトルの一部である『繋ぐ』と言う言葉の主語は、この作品では1か所の例外を除いて、すべて「世界を」なのです。
ただ1か所の例外というのが、隆が主治医として語った「あの時『命を』繋ごうと必死だった」という言葉。

たしかに隆は主治医として全力を尽くしたし、正平もそれを責めてはいない。けれど、抗がん剤と放射線治療の副作用で苦しむ妻に、何もしてやれなかった自分は悪かったと責めている。
弟曰く「いつもは他人のせいばかりにしているのに」。
愛する妻に、妻の思うようにしてあげられれば、結果は同じであっても、妻は幸せだったろうと。

だからこそ、同じ場面が自分の目の前に現れたときに、愛する女性である柚子に対して、柚子の思うようにしてあげたいと願い、隆も承知してくれたことで、かつての「妻へしてやれなかったこと」へ一つの区切りがつけられた。

命は繋がっていってほしいのは確かだけれども、それ以上に自分が生きた意味が愛した人に伝わっていくこと、それが「世界を繋ぐ」ということなんじゃないか、と。

・・・

水曜日のトークショーで、客席からの質問が募集されたので、僭越ながら挙手して質問させていただきました。

「素敵な言葉が作品中に沢山ありましたが、皆さまが劇中でご自身か他の方でも結構ですが、好きな台詞は何でしょうか」

この質問、登壇されていた演出の笹峯さんから「素敵な質問」と言っていただきとても嬉しかったのですが、キャストの皆様の中でとりわけ由美子さんのお答えが印象的でした。

それは、
劇中ほぼ最後の「隆くん、ありがとう」だそうです。

「この台詞に命を懸けている」とまで仰っていました。
「泣きそうになるけど、涙は必死でこらえてる。涙を流すとこの言葉は軽くなってしまうので」という言葉に、笹峯さんも全面的に同意されていました。

作品中よくよく見ると、柚子と隆は価値観という点では全然合わないんですよね。
柚子が求めている(きゅんとくる)幸せは、実のところ隆は全面的に否定しているんです。
正平が奥様に贈った贈り物に、柚子は共感したけれど、隆は「自分ならもっといいものを贈る」と言っていますが、柚子はその意見には同意していない。
「幸せって実はそんなものかもしれないよ」とそっけなくでも本心を伝えているけど、実は隆には伝わっていない。

じゃぁなぜ「ありがとう」かと言えば。
主治医として自分のポリシーを曲げてまで患者の意思を尊重してくれたこと、それはあると思いますが、それ以上に「自分の生きてきた意味を分からせてくれてありがとう」じゃないかと思うんですね。

父母に忘れられたかのような幼少時代を送り、田舎町でホステスとして生き、そこで出会った人との思い出を頼りに、正平と隆が暮らす街にやってきた。
かつて出会った大切な人とは叶えられなかった幸せを、正平の存在に映して生きられる幸せなひと時。
妻への後悔から離れられない正平に対して、柚子の選択が正のエネルギーを与えられた。
自分の愛する人を前向きにできた、それこそが自分がそこに生きていた意味であり、繋がっていく世界。

そんな物語の最後に鮮烈に表現されたラストシーンは、ただただ眩しくて、ただただ綺麗で。
願い続ければ奇跡は起こる、そんなラストシーンを見られたことは幸せな限りでした。

今回の作品は、つくづく3人のバランスが絶妙で、誰一人欠けても成立しないウェルメイドな作品だったと思います。

夢しか持たない正平を演じた近江谷さん。”出来ない男”に見えて、実はみんなに愛され、助けられる男性を自然に表現されていました。この表現が適切か分からないのですが、近江谷さんのポジションって、今回もそうですが、巧みに収まるズルさ(褒めてます)みたいなところがありますよね。
なんだか「完璧じゃないところが完璧」な感じがするんです。

出来る男、隆を演じた大内さん。白衣似合いすぎだったわけですが、できる男にしてあの慟哭。最高じゃないですか。どれだけ勉強ができようが、でもなぜか兄に敵わないコンプレックスぶりが絶品でした。彼も柚子の存在により救われたわけですよね。ダンスステップ、とても綺麗でした。

出来すぎる女性、柚子を演じた由美子さん。相変わらず声色から動きからどうしてこうってぐらい決めてきます。一番好きなのは正平から前職のホステスについて「高いお金で酒ついで話してさ、楽な仕事だよな」とか揶揄された時の一言「(あんなもの)偽物だよ」の言い方。どこか茶化すように、決して最初は彼を責めることなく、でも最後は「でも、楽な仕事じゃないから」で締めた件(くだり)は、痺れるほどにカッコよかったです。

ウェルメイドな作品が、でも実のところは集客的には苦戦していたのが実態のようで、なかなかこういう作品で「売り」をどうアピールするかの難しさは痛感します。blogで感想を書かれる方が減ってきて、ツイート140字で感想が完結することが多い昨今。SNSが集客にどうつながっていくのか、まだまだ試行錯誤というのが実態なのかと、そこは少し切なかったです。

|

« 『世界を繋ぐ方法』(1) | トップページ | 『I Love Musical』(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/64613835

この記事へのトラックバック一覧です: 『世界を繋ぐ方法』(2):

« 『世界を繋ぐ方法』(1) | トップページ | 『I Love Musical』(2) »