« 『ウレシパモシリ』(7) | トップページ | 『ミス・サイゴン』(31) »

『ロザリー』

2016.10.8(Sat.) 18:00~20:55
六行会ホール A列1桁番台

ミュージカル座再演ミュージカル『ロザリー』、観劇してきました。
あえて言うなら「もう一つの『マリー・アントワネット』」といったところでしょうか。

フランス王妃、マリー・アントワネットが処刑台に送られる前日の夜、監獄の門番であるロザリーとの語らいから導かれる、2人の異なった運命が交差するまでの回想。

ネタバレ含みますので、気にされる方は回れ右でお願いします。



W主演でタイトルロールのロザリー・ラモリエールを演じるのは浦壁多恵さん。私がミュージカル座を見始めたころには一時期お休みされていたので、本格的に拝見するのは今回が初めて。知人から聞いた通り、慈悲深い声、振る舞いの温かさが素敵です。そんな女性が、父を貴族に殺され、そして母をそれにより喪い、そして自らも望まざる行ないを被り、貴族への憎しみに変えられていく姿は見てて胸が苦しくなります。

ポジションとしては『マリー・アントワネット』のマルグリット役と被ります(なお、『ロザリー』にはマルグリードという女中の宿の女主人の役があり、寿ひずるさんが演じています)。

マリー・アントワネット役を演じるのは清水彩花さん。コゼット役(『レ・ミゼラブル』)やエイミー役(『Before After』)と似ても似つかないイメージで、キャスト発表時は驚いたのを覚えています。前半の初々しさと、後半の腹の据わり方との対比が印象的です。

今回の『ロザリー』で最も印象的なのは、他作品で知っているマリー・アントワネットの描かれ方との違いです。今まで、マリー・アントワネットは比較的年齢の高い方が演じられることが多かったので、今作の嫁いだばかり(19歳)のマリー・アントワネットがとても若く、あえて言えば”幼く”見えたのが彩花ちゃんのマリー・アントワネットの特徴。

マリー・アントワネットは「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」の言葉で、フランス革命時代の”贅沢の象徴”として庶民から憎まれの対象になっている、のが今までの標準ではあったわけですが、今回の作品はそれだけじゃないんですね。

たしかに庶民からの憎しみの対象で、フランス革命の火付けの一因であったのではあろうとも、彩花ちゃんのマリー・アントワネットが若い分、「自分では何も判断できない」面が見えていて。
そして魑魅魍魎渦巻くフランス貴族社会の中で、マリー・アントワネットは「権限は持っているが、判断の術を持たない」つまり、実に”都合よく操れる相手”であることがとても分かりやすく描かれていて印象的でした。

夫のルイ16世もマリー・アントワネットには興味がなく、判断も王女に丸投げ。
その様子を貴族たちが利用しようとしないわけはなく。
マリー・アントワネットは庶民からの憎しみを一身に受け、貴族からは利用される立場でしかなく、心開いて相談できる相手もいない。貴族にとってはマリー・アントワネットを矢面に立たせておけば、貴族としての立場は安泰なので、マリー・アントワネットを守ろうとする者もいない。

首飾り事件でとうとう信頼を失い、フランス革命時に都を捨てたことが分かり、裁判にかけられ死刑を言い渡される2人。

今回の『ロザリー』で私が一番好きなシーンは、この時、ルイ16世とマリー・アントワネットは最後に、お互いに自ら謝るのですね。マリー・アントワネットはいい王妃ではなかったことを詫び、ルイ16世はそれを否定して笑顔が好きだったと告白し、私の妻でなければ幸せになれたろうし、今度は町中の夫婦として生きたいと告げ、2人ひっしと抱き合って別れるのです。

夫婦らしい夫婦なことは全く描かれなかった2人が、死の間際になってお互いの想いを伝えて別れられたこと、それはいままでの作品の「ルイ16世とマリー・アントワネット」にはなかったもので、なぜだかとても温かいものを感じたのです。

というのも、この物語での描かれ方が全般的にそうなんですが、「ルイ16世とマリー・アントワネット」が
悪として描かれているわけじゃないのも影響してて。

むしろ王政倒した後の恐怖政治の方がよっぽど悪くて、「何のために革命起こして仲間も失ったんだ」とマルグリードが言っていることに表現されているように、「ルイ16世は乱世においてあまりに平凡過ぎた」「マリー・アントワネットは貴族に利用されるほど幼くて、利用されるだけされて捨てられた」という、同情的な側面があるからではと思います。

その分、『マリー・アントワネット』では濃かったマリー・アントワネットとフェルセンのシーンがこの作品だと淡白で淡白で(苦笑)。ルイ16世と心通わせたマリー・アントワネットにとってフェルセンとの逢瀬はもはや思いが通じ合う対象ではないだけに、かろうじて「心通じ合った過去を否定したくない」ぐらいなテンションになっていたのが印象的でした(爆)

さて、この作品のメインとなるロザリーとマリー・アントワネットの関係に移りますが、マリー・アントワネットの処刑前夜、マリー・アントワネットとロザリーが語り合うとき、当然ロザリーはマリー・アントワネットを『憎んでいた』と。

しかし、目の前にいる、37歳(享年)と思えないほど年老き、生きることに恬淡としていたマリー・アントワネットによる過去の振り返りは、ロザリーが見ていた既成概念がいかに小さかったかを見せて。19歳で王室に入り、ただ一人闘ってきたマリー・アントワネットだからこそ、ロザリーが憎んでいたものさえ、マリー・アントワネットの一部でしかなかったことを見せるのですね。

だからこそロザリーはマリー・アントワネットに思いもかけない提案をするわけですが、マリー・アントワネットはその提案を丁重に断り、「今までは自分の運命から逃げてばかりいた。最後は自分の運命に従いたい」と言い、ロザリーとマリー・アントワネットはお互いの心を通じ合い、そしてマリー・アントワネットは断頭台に向かうわけです。

マリー・アントワネットはこの作品では夫であるルイ16世と心が通じ合い、敵であったはずのロザリーとも心が通じ合い、ある意味”心が愛に溢れて”天に向かっていくわけですが、じゃあマリー・アントワネットが本当の悪じゃないなら、果たして本当の悪は何なのかと。

この作品のパンフレットで原作のハマナカ氏は「この作品は『マリー・アントワネット』という作品じゃない」と書かれています。私見では『ロザリー』という作品でもないと感じて。結局のところ、『個人一人一人(の運命)』という作品じゃないのかなって。

よってたかってマリー・アントワネット1人を悪者にして高らかに正義を語る貴族、そして庶民。
かつての仲間を簡単に死刑に処していく恐怖政治。
その犠牲となった1人は、ロザリーにこう言い残します。

『みな幼いんだ。社会が進むには犠牲が必要なんだ』

と。

ロザリーは全てを失います。そして神を憎みます。
父を失い、母を失い、革命で姉を失い、そして革命同志(おそらくは恋をした相手)も失い、
かつては憎んだマリー・アントワネットとも分かり合えたものの、すぐ彼女も失います。
生きる意味を再び無くしそうになった彼女の前に現れた一人の少年。
その少年の存在は、神がロザリーを見捨てていない証拠そのものであり、希望であったと。

・・・・

「生きていく、生き継いでいく」ことにはどことなくミュージカル座の看板作品『ひめゆり』に似たものを感じて。

マリー・アントワネットは最初から最後まで媚びることなく生き抜いたことに彼女が生きた意味を感じるし、幼いころから最後の凛としたところまで一貫して人物像を貫いた清水彩花ちゃんはさすがの一言。
貴族に軽んじられたときの不貞腐れた表情が絶品です(爆)。前半の愛らしさと後半の凛々しさをしっかりとした軸で繋げた技術は、今の彩花ちゃんの年齢だったからこそのマリー・アントワネットだったかと。

ロザリーの浦壁多恵さん。マリー・アントワネットの想いも、家族の想いも、すべて笑顔で背負っていける存在感は何よりも力強くて優しくて。彼女をこの作品で見られて幸せでした。

ジャンヌ役、小林風花さん。「首飾り事件」の首謀者として有名な役ですが、大立ち回りが期待以上でその憎たらしさたるや絶品でした。月組の田宮華苗さんでも拝見してみたかったです。

ヴェルモン神父役、森田浩平さん。東宝版『モーツァルト』で高橋由美子さんが長く演じたナンネールの旦那様で長く拝見してきましたが、威厳といいオーラといい流石の存在感。マリー・アントワネットが遠ざけてはならない一人でしたね…。

デュバリー夫人役、田宮華苗さん。貴族の一員として、マリー・アントワネットを操って生き延びる感じを上手く見せていて、マリー・アントワネットの孤独を引き立たせてました。

・・・・

この作品でちょっと残念なことは「ロザリー」というタイトルから、マリー・アントワネットをめぐる物語であることが見えないこと。実際のところは開幕前から全公演満員御礼だったわけで、営業上、その辺を心配することではないのかもしれませんが。

題材も切り口も面白く、最近のマリー・アントワネットへの捉え方の変化といったベクトルからも、新しいお客さんを呼べそうな作品。今回は7年ぶりの再演ですが、もう少し短いスパンでまた見てみたい作品です。

|

« 『ウレシパモシリ』(7) | トップページ | 『ミス・サイゴン』(31) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/64318739

この記事へのトラックバック一覧です: 『ロザリー』:

« 『ウレシパモシリ』(7) | トップページ | 『ミス・サイゴン』(31) »