« 『昆夏美ファーストライブ』 | トップページ | 『ダブリンの鐘つきカビ人間』(2) »

『マンザナ、わが町』(3)

2015.10.22(Thu.) 13:30~17:20
紀伊國屋ホール R列20番台

1週間強ぶりのマンザナです。

トークショーが急遽追加ということで、観劇追加して行ってきました。
こまつ座さんの場合は、他日のチケットでもトークショーを見ることは可能なのですが(開演後に整理券が配られるそうです)結局のところ、何だか座りが悪いのもあっての追加です。(当初、12日がこのパターンの予定でした)

まずは本編の話から。

この日一番印象に残ったのは、玲奈ちゃん演じるリリアン竹内がややもすれば突飛に言い出したレストランのエピソード。
自分のステージの前で起きた、一人の「勇者」の物語。リリアン竹内がなぜこれほどまでにソフィア岡崎に心酔しているか。
聞いていると途中でわかりますが、この時の一人の「勇者」は、ソフィア岡崎なんですね。日系人に対して当たり前のようにやられる「手」。自分も今までいやというほど味わってきた「手」。

しかしその人は「毅然として対応し」、最後は「勝利」を手にした。
その一部始終を見ていてリリアン竹内がどれだけ勇気づけられたか。

日系人として「どう戦えばいいのかわからず」、もやもやとした気持ちであった自分をおそらく変えたであろうそのエピソード。
だからこそ、リリアン竹内はソフィア岡崎に対して、盲目であるほどに肯定しているという流れがとても綺麗に見えていて、あぁなるほどと感じさせられたのでした。

「黒人給仕が一人味方に付いたからってなにも変わらない」
「その黒人給仕はおそらくその日のうちに首になっただろう」

そう醒めて言うことは簡単であっても、リリアン竹内にとって、そんな言葉は価値を持たないんですね。

「そういうアメリカが好きなんだ」
「むしろそういう風になっていかなきゃならないんだ、この国は」

リリアン竹内はこの舞台ではいわゆる「アメリカ派」に属しますが、その実、「アメリカならばすべて肯定」しているわけではないのですね。
日系人として、今の自分を否定され、このマンザナ強制収容所に収容された時点で、アメリカに対する憧憬は裏切られている。
でも自分にとってのアメリカがどう目指す対象であるかがはっきりしないと、ソフィア岡崎が言うところの「自分がバラバラになってしまう」

この作品にとっての5人の立ち位置は、「過去を断ち切られ、未来を閉ざされた」約5人の、「どう心を正気に保つか」の物語。

リリアン竹内にとっては、大事なのは「『そういう』アメリカが好き」ということなんだろうと。
”自由に言いたいことが言えて、それを受け入れる懐も持っている”アメリカが好き。
だからこそ、自分は全力で夢に向かって進んでいける。

この時のアメリカは戦敵であるナチスドイツや日本と同じように、「その中に怪物を飼ってしまっている」。だからこそ「この国はもっともっと大きな国だったはずよ」と叫んだリリアン竹内の言葉が重くて。

アメリカがそういう国だったからこそ、自分は夢をそこで叶えられると思ったし、叶えたいと思えた。

だからこそ、そういう国だからこそ『God Bless America』なのだと。

そういう国だからこそ、”神はアメリカを祝福する”のだと。

レストランのシーンから感情そのままに歌われた『God Bless America』は、3回見た中で間違いなくこの日が一番素晴らしくて。

「自分が信じるアメリカは、神に祝福されるようなアメリカであってほしい」という願いが伝わってくる歌の力。
その”想い”を感じられたことは、とても大きな体験でした。

「理由がなくアメリカが好き」なわけじゃない、ということが表現されるようになっていたのは、大きな変化に感じられました。

この作品を見ていて印象的だったもう一つが、『小異を捨てて大同につく』という物語の流れ。

サチコ斎藤が舞台後半で語る「日本人とは何か」を問われての答えが、「一人ひとりみんな違う。」という本人曰く”平凡な感想”に対する謙遜。が、ソフィア岡崎はそれに対して大きな賛辞を贈る。

「一人ひとり考えが違って当たり前」というのは、恐らくはソフィア岡崎にとっての哲学なんだろうと思えて、それでいてこの物語は、5人の「たまたま居を同じくした人たち」が、『小異を捨てて大同につく』物語に思えます。

”小異”とは、それぞれにとっての”日本への距離感””アメリカへの距離感”
近い人もいれば遠い人もいる。

”大同”とは、「日本を好きでいながら、アメリカで生きようとする気持ち」
じゃないかと思うんです。

最後、5人で横1線に並んで宙を見上げる姿を見ていると、そんなように思えてなりません。

この日は、12日に好評だったキャストトークショーの第2弾。流石に平日の昼とあって本編での8割近くの入りも、思ったより本編での退席が多くて、あとから入ってきた方も含めて6割弱の入り。
前回同様、こまつ座社長の井上麻矢さんが司会で、5人の女優さんが横一線で並びます。

○自分の役について
口々に話されていたのが、初演の方がご自身の中で大きくて、自分でいいのかと思ったことが多かったと。特に言及されていたのがソフィア岡崎役の土居裕子さん。

「自分は初演の方を知っているし、大きな方だし、それに私は背が小さくて…。ソフィアより玲奈ちゃんのリリアンが背が高いので、リリアンよりソフィアが背が小さくていいのかと(笑)」

とひとしきり話された後、

「でもあるとき、劇中のジョイスの言葉じゃないですが『自分は自分でいいんだ』と思えたときにソフィアの役がすっと自分に入ってきた」

と仰っていたのが印象的。同じことは天津オトメ役の熊谷真実さん、サチコ斎藤役の伊勢佳世さんも仰っていました。

リリアン竹内役の笹本玲奈さんが仰っていたのは、「『役を演じている』というより『役を生きている』という感覚」と。それは自分だけじゃなくて自分の回りのこの5人の中でいるからというのもとても大きいようで、安心しきって子守歌で寝ちゃいそうだと(笑)

チームワークの良さは皆さん言及されてましたが、ジョイス立花役の吉沢梨絵さんいわく「あまりに仲良くなりすぎて、トークショーで話していい話なのかだんだん分からなくなって」というのが妙におかしかったです。

梨絵さんは衣装についても言及されていました。
稽古場での稽古はどうしても内容的な(文学的な)正解を見出そうとする作業で、それも好きだけれども、衣装を着たときのみんなの居住まいがもう衝撃的で、と。
「ビジュアルの大事さを特に強く感じて。2次元と3次元の違いをまざまざと感じる」と仰っていました。
「特に自分は見た目で”素敵でいなければならない役で”」と仰っていました(笑)が、それもあって、ネイルはシャネルを使われているとのことで、しかもそれは真実さんのプレゼントという話が玲奈ちゃんから明かされていました。

そういえば、梨絵さんの音痴設定の話も。
「音痴のシーンで客席から一かけらも笑いが起きないことがある(笑)」とは真実さん。
「あぁ、触れないでおこうと思われてるんだなと、それはそれで淋しい(笑)」とは当の梨絵さん。
でも
「制作からは梨絵さんに申し訳ないといつも思ってて」と麻矢さんがフォローすると、
「でも歌い手としてでなくこまつ座さんに呼んでいただけているというのはそれも嬉しくて。だから今度はぜひ歌い手としても呼んでください」と次の作品の売込みもする梨絵さんが流石すぎる(笑)。

○5歳児
前回のトークショーで土居さんが玲奈ちゃんを称した「5歳児」発言はこの日も健在(笑)

真実さんは、幕間の15分で、2幕のおさらいをざっくりやるんだそうです。
それがざっくり過ぎて、横で見てる玲奈ちゃんが土居さん曰く「まるで5歳児みたいにけらっけら笑ってる(笑)」

実際のところ玲奈ちゃんは稽古中から真実さんが面白くて仕方なかったそうで、
「(笑い過ぎて)鵜山さんに『玲奈、もう来なくていいから』って言われやしないかと心配で仕方なかった」そうです(笑)

「しまいには玲奈ちゃんのウケを狙いだしてた自分がいた(笑)」という真実さんもさすがです。

○締めの言葉
皆さんの締めの言葉それぞれ印象的でしたが、その中でもとりわけ印象的だった玲奈ちゃんと梨絵さんのご挨拶をご紹介。

玲奈ちゃん
「テーマが深いメッセージを含んだものではありますが、でもとにかく笑っていただけて、笑顔になっていただける作品。自分たちも客席からの皆さんの笑顔にとても助けられている。(テーマで来るのを迷っている周囲の方には)『とにかく笑えて笑顔になれる作品』ということを伝えていただいて、劇場に足を運んでくださる後押しをしていただければ嬉しいです」

梨絵さん
「自分の役であるジョイス立花は、劇中で『日系人だから』差別的待遇を受けたということにかこつけて、言い訳をしているんですね。でも、人は前向きになろうとする気持ちだけで大きく未来が変わる。だから、ポジティブであることの大事さを、特に若い人たちに知ってほしい」

そう語られている梨絵さんは、カンパニー内きってのポジティブさんらしいエネルギーを纏っていて。
隣に座っていた玲奈ちゃんが、首をぶんぶん縦に振っていたのが、とっても印象的でした。

公演は25日まで、紀伊國屋ホールで。ぜひ1人でも多くの方に見ていただきたい作品です。

|

« 『昆夏美ファーストライブ』 | トップページ | 『ダブリンの鐘つきカビ人間』(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/62530829

この記事へのトラックバック一覧です: 『マンザナ、わが町』(3):

« 『昆夏美ファーストライブ』 | トップページ | 『ダブリンの鐘つきカビ人間』(2) »