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『マンザナ、わが町』(1)

2015.10.3(Sat.) 15:00~18:15
紀伊國屋ホール A列10番台(センターブロック)

こまつ座さん公演初日、観劇してきました。

太平洋戦争初期、アメリカにいた日系人を強制収容した施設の一つ、マンザナ特別収容所がこの作品の舞台。そこに収容された5人の女性の感情のぶつかり合いから、「アメリカ」「日本」といった位置づけを見せていく物語。

「戦時中」「収容」というキーワードはあれど、表面上は悲劇的に「死」を直面させるようなものは見せず、シーンによっては笑いも起こしながらいつの間にかテーマに接近していく様は、井上ひさし先生の作品ならでは。

メンバーの5人はまさに多士済々。リーダー格は日本語新聞を主宰するソフィア岡崎(土居裕子さん)。年長のマイペース、浪曲師のオトメ天津(熊谷真実さん)。映画女優のジョイス立花(吉沢梨絵さん)、マジシャンのサチコ斎藤(伊勢佳世さん)、そして歌手のリリアン竹内(笹本玲奈さん)。

職業もポジションも違う5人が代わる代わる喋り、時には歌いますが個性バラバラに見えて共通しているのが、結構な問題児ばかりということ(笑)。まぁ常識人じゃないのは見てて分かるんですが、話を聞いていくと揃いも揃って筋金入りの強硬派というか、一筋縄ではいかない登場人物ばかり。

だからこそ時にぶつかる様が正面衝突で、傍から見ているととても興味深いです。

日系1世(オトメ天津)と日系2世(リリアン竹内)の対立がそれにつけても一番派手かな。ジョイス立花が1世側について、「日本側」の立場を取り、リリアン竹内、つまり玲奈ちゃんが孤軍奮闘するあたりの、勝てなかった時のふくれっつらがとっても可愛いです(爆)

今回のリリアン竹内、玲奈ちゃんの衣装はご本人も言及してましたが、『ミー&マイガール』のサリーにそっくり。実際、ミーマイのタップダンスみたいなシーンもあって、とてもわくわくします。何より1幕、これでもかというぐらい玲奈ちゃんの笑顔がいっぱい見られます。それこそミーマイ以来かもしれない。

実は笑顔女優よりは貧乏女優や死亡女優(爆)という面が多い玲奈ちゃんにあって、ここまで笑顔たっぷりなのは嬉しい誤算です。

でもだからこそ、その笑顔は色んなものを押さえて出ていたものなのだ、ということを感じられる2幕は見ててつらい面もあって。

「自由の国アメリカ」での生活を夢見ていた日系人が、何の根拠もない大統領命令一つで、今まで築き上げてきたものをすべて奪われて、連れてこられた強制収容所。

ここに登場する5人は、当たり前のことながら「強制収容所に入れられた」ことに対してショックを受けている。
そのショックをやり過ごすために、とある人は現実から目をそらし、とある人は現実に攻撃的になり、とある人は他人に攻撃的になったりする。お互いの諍いも起きる。

いちいち相手の行動に茶々を入れていた行動は、2つの出来事をもって変わっていく。その出来事自体はネタバレなので言及しませんが、1つ目の出来事で感じたのは、「存在位置」の重要性。

この物語の興味深いのは、登場人物の軸足がそれぞれ違うことを許容しているところ。

「アメリカにおける日系人」だからこそ、「日本的なものの見方を自分の立ち位置としている」人たちと、「アメリカ的なものの見方を自分の立ち位置としている」人たちという”両方の存在を許容できるのだと。

だからといって前者の人がアメリカを視界の外に置いているわけではなく、アメリカに自分の意思でいる以上、アメリカに対する憧憬は存在する。後者の人が日本を視界の外に置いているわけではない。

「アメリカ的なもの」を、両者の人々は共有できるのだ、ということを『God Bless America』、「日本的なもの」を両者の人々は共有できるのだ、ということを『おぼろ月夜』で聞かせて(見せて)いて、その両方がリリアン竹内が歌う歌であることに、なんだかとても強く印象付けられ、とても嬉しい思いを感じました。

4人が共有できるものがあるのに1人はその共有ができない、ことからわかった1つの事実。それは5人を4人にするほどの衝撃を持つものであったのに、それはあっという間に解消する。
短いとはいえ一緒に過ごした者として、「彼女には『依って立つものがない苦しみ』があった」ことを知ったからじゃないかなと。形と内容は違えど、「同じ『苦しむ』仲間」だったことが5人の絆を強くして。

そして起こった最大の危機に向けた、仲間の恐ろしいばかりの団結力、そして機転はエネルギーたるや凄まじく、爽快の一言です。このお芝居は男性は1人も出てこなくて、女性ばかり5人の作品ですが、実際、男性がそこまで心を強くいられるかといえば、確かに難しいかもしれないと思えます。男性の心を折る方が結構簡単かなと。女性だからこそのエネルギーというものが確かに感じられました。

劇中に出てくる「アメリカにおける『町』とは自治組織を政府から認可されることにより成立する」という言葉は、5人の仲間が立ち上がった「(強制収容所の中における)自治」を認めさせたこととも繋がっていて。この作品のタイトル『マンザナ、わが町』における「マンザナ」はただの地名ではないのだなと。

5人が支え合い、ぶつかり合い、そして「みなが違うことをお互い認め合って」、5人の団結力でその存在を認めさせたもの、それが「マンザナ」であり、だからこそ「わが町」なのだなと。

戦争という大きな波の中で、それでも今を生きるために、それぞれが苦しんで出した答え。
その答えをお互いが拒むことなく「異質を認める」形でエネルギーに昇華した様は、とても気持ち良かったです。

5人の女優さんはそれぞれ本当に個性的で、でもこの方たちにしかできないエネルギーに溢れていました。

土居裕子さん。MA以来ですからもう9年ぶり。
精神的にも存在的にもリーダーであり続けたその説得力の高さに圧倒されます。
それでもその実、「壊れそうな自分と戦っていた」自分は自分だけではトンネルから抜けられなかった。
4人がいたからこそ乗り切れた。その実、誰にも助けを求められない性格だったところを救われた様がとても印象的でした。

熊谷真実さん。初見ですが役柄的にとってもウザくて(褒めてます念のため)、でもだんだん癖になっていく自分に笑えます(笑)。
自分の殻に閉じこもっていた前半から、この方も仲間にいい意味で変えられて前に進んでいく、ちゃっかりさはそのままに(笑)ってところがとても面白かったです。

伊勢佳世さん。初見ですがこの方もキャラクターむっちゃ立ってましたね。
色んな意味でムードメーカー。良くも悪くも。それでいてなぜか憎めないのが不思議なところです。

吉沢梨絵さん。ルドルフ再演、「Ordinary Days」、「I HAVE A DREAM」ときて4作目。
ゴージャスな衣装がとても似合う。さすがのスタイルがまさかの(ネタバレ略)でびっくりです。最前列のメリットを存分に享受いたしました(笑)。
色んな意味でお高く止まっていた役どころでしたが、プライドが高すぎることもなく、皆と接することで今までの自分を振り返ることができた様が印象的。わざと1音ずらして音痴にするあたり、実際は歌が上手じゃなきゃできないですよね。

笹本玲奈さん。2回目のこまつ座、2回目の鵜山さん演出。どちらの面からも居方が分かってきたせいか、予想以上に役がイキイキしていてびっくり。
舞台における役柄って、役の大きさと役者の大きさの掛け算で決まると思っているのですが、思った以上にこの作品にいる意味を見せてくれて、この作品のクオリティーも上げていてくれたことが正直、とても嬉しかったです。無条件に甘えることができるシスターマリア、土居裕子さんがいらっしゃることもあって、緊張せずに座組に自然に居られている様を拝見していたので、予想がいい方向に当たってとても良かったです。

思った以上に楽しめて、思った通りに考えさせてくれる充実の作品。
また拝見できるのがとても楽しみです。

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