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2015年8月

『Before After』(1)

2015.8.29(Sat.) 19:00~20:40
吉祥寺・スターパインズカフェ
4列目上手側

ミュージカル座で去年初演され、今年再演された2人ミュージカルの再々演。
今回は1チームのみ、空組が新設となり、男性・ベン役は内藤大希さん、女性・エイミー役は岡村さやかさん。

曲が素敵という話は以前から聞いていたのですが、今年の再演は『ウレシパモシリ』の岡村さやかさんの唄1初日とぶつかって見られず(その時はベンが染谷洸太さん、エイミーが田宮華苗さん)、今回は念願かなっての観劇です。今回はエイミーはなんと岡村さやかさん。否が応でも期待は高まります。

ストーリーを簡単に。
ベンとエイミーは昔の恋人同士。あるきっかけで別れたものの、その後再会を果たす。が、そのときベンは記憶を失っていた。記憶を失ったベンに対して、かつての恋人であるエイミーはどう接していくのか…

内容にはネタバレを含みますが、ラストのネタバレは入りません。
12月に上演が決まっておりますので、気にされる方は回れ右を。

***

作品進行は過去の恋人同士のシーンと、現在の恋人未満のシーンとを行き来していきます。その判断基準はエイミーがピンク色のジャケットを羽織っているかどうかで判断可能です。このピンク色のジャケットはエイミーにとっての「理性的な抑制」でもあり、庇護者である父親からの束縛の象徴に見えます。

「(エイミーの)母親を失った(エイミーの)父親にとって、私が唯一の生きがい」とベンに言うエイミーですが、ベンが言う通り、その束縛はいささか行き過ぎに見えます。

父親からの束縛の下、ベンとエイミーの出会いは、待ち合わせをすっぽかされたエイミーがいたバーの店員をしていたベンのエプロンにエイミーが赤ワインぶちまけたから(笑)

おそらくは束縛の中でしか生きてこれなかったエイミーと、自由に生きているベンとの対比、過去の出会いのころのシーンはとても微笑ましくて、しっかり者のエイミーがベンに振り回される様はとても面白い。自由に動く内藤ベンに、完全に翻弄される岡村エイミーという図式で、特に岡村エイミーの慌てぶり百面相が楽しめます(爆)

面白かったシーン2つ。
ベンが絵を描くのに熱中して、家の中に入れてもらえないエイミー。
かなりして思い出して家の中に入ってもらうが、外は雨。ずぶ濡れのエイミー。

エイミー「大丈夫、私ウォータプルーフだから」(会場内爆笑)

ベンの下ネタに反応

エイミー「(顔色一切変えず)いっぺん死ね」

・・・どちらもさやかさんらしさ全開です(笑)」

閑話休題。

このシーンと対になって入ってくるのが、再会後の最初のころ。エイミーは自分のことを覚えていないベンに対して最初は憤るのですが、現実を踏まえたうえで、「以前の彼女が自分である」ことを秘密にする。このときのさやかさんのエイミーのいじらしいことときたら、もう…

さやかさんの「耐える女」ぶりってお得意中のお得意で、「みなまで言わない」ことがエイミーをとてもしっかりした、立派な女性に見せていて、期待通り。

でも、この作品でのエイミーが印象的なのは、エイミーが完全無欠な女性であろうとするがばかりに、ベンに頼れないところ。
ベンはちゃらちゃら見せていても、男性である以上は女性に頼られたい願望は持ち合わせているでしょうし、自分の知らないところで知らない男性の名前が出てくれば、気になるのは当たり前。
エイミーは心配をかけないために言ってなかったことが、「自分を信じてくれていない、頼ってくれていない」とベンは思い込んでしまう…

さやかさんのエイミーはしっかり者が際立ったからこそ、その悲しみも苦しみも、歌声や表情から伝わってくる(というかあの難曲を表面上いとも容易く歌いこなした上に、感情まで乗せてくる岡村さやかさんはもう流石としかない)わけですが、だからこそ、男性からすると「完璧な女性の前に、男性である自分はなにができるか」という焦りを感じるわけで。その辺りの表現を内藤さんのベンはとてもいい空気感で表現されていて、それはOneOnOneでご一緒されてきた2人の共有感覚の賜物なのだと思います。

利発で聡明だからこそ放つ言葉が鋭く痛い岡村エイミー、
純粋で繊細だからこそ前に進めず傷つく内藤ベンの対比が見事でした。

*それにしてもさやかさんBlogの内藤さんへの表現が、この作品のエイミーからベンへの距離感をとっても如実に示してます。「頼りない感じの時もありますが」って(笑)。この日のカーテンコールも内藤さんがつつがなくあいさつした後、岡村さやかさんが一言「よくできました」(笑)。

***

エイミーは再会したとき、ベンになんで事実を告げなかったのか、それがこの物語の一つのキーになっていますが、ベンが記憶を失うことになった引き金を弾いたのがエイミーだからなわけですよね。

だからエイミーにとっては、ベンが自ら思い出したなら肯定する可能性も否定しないけれども、自分から言うことはしてはならない、それが自分の贖罪の十字架なのかと。

過去、エイミーがベンに言った、取り返しのつかない言葉。さやかさんの歌声や言葉は、普段はとても優しいけれども、実は激したときの圧ときたら、普段優しい分(溜めこんでいる分)、爆発したときの攻撃力はすさまじくて。正直、あのさやかさんの言葉の直撃を受けたら、世の男性は全員心折れると思う(笑)

「みなまで言わない優しさ」の裏には、実は相手の本質を見抜いた真実の言葉があって。
その言葉を吐き出すほど限界に達したエイミーにとって、ベンをどれだけ傷つけたか、自分が一番よく分かっているのだろうなと。

でもその言葉はベンのことを思って言った本当の言葉だったからこそ、過去のベンはその言葉に追い詰められたけれども、現在のベンはエイミーの苦しみを感じ取って、一緒に歩もうとする。
それが「2人いたからこそできた未来」なのかなと。

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この作品は同じくカップルの片方の記憶喪失をテーマにした朗読劇『私の頭の中の消しゴム』(天王洲銀河劇場)とペアになって語られることが多くて(今回ベンを演じた内藤さんも、インタビューの中でさやかさんを相手役にこの作品の朗読練習をした、と仰っています)。そちらの劇は記憶喪失が女性で、支える方が男性。ちょうど逆なのですね。

違いと言えば、「過去から順に記憶を忘れていく」(現在に近い分はまだ残っている)ので、BAの「いきなり記憶がなくなる」の方がよりいきなり度は強いかと。

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この作品を見ていてもう一つ共通項を感じたのが『ダディ・ロング・レッグス』。ベンは過去孤児だったのに対して、エイミーは見る限りかなり裕福な家庭の女性。それは孤児だったジルーシャと、その「あしながおじさん」な”DaddyLongLegs”と対になっているように思えて。

エイミーのベンへの言葉は、苦しみから出たものであっても、”(立場を)持つ者からの言葉”という”上から目線”の言葉である面は否めなかったように思えて。でも、その言葉を受け止められる成長があったからこそ、2人は対等になれた、そう言っているように思えたのでした。

とはいえ、本編終わったら速攻で、さやかさんが内藤氏を華麗に転がしていましたけれども(爆)。

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内藤大希さん&岡村さやかさんで初見となった『Before After』。

この後も12月に3チームでの公演が決まっています。ベンとエイミーの距離感という意味で楽しみなのが、通称『なうちぇんじ』で共演した染谷洸太さんと綿引さやかさんのペア。そしてマリコゼペアの田村良太さんと清水彩花さん(清水さんは初演キャスト)。そして続投ペアとなる麻田キョウヤさんと小此木まりさん。

それぞれ役者さんの色がきれいに反映しそうな作品。12月は年末進行で厳しそうですが、拝見するのが楽しみです。

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