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『ペール・ギュント』

2015.7.12(Sun.) 13:00~16:15
KAAT(神奈川芸術劇場) 15列20番台(センターブロック)

昨日が初日のこの公演。
この日が2日目(2回目)です。

あらかじめ粗筋には目を通したものの、原作まで目を通す時間のないままぶっつけの観劇です。

内さん演じるペール・ギュントの「自分探し」の冒険物語という呼び込みで、むしろそこにどれだけこれだけの登場人物が能動的に関わるのかは見る前も見た後も不思議。

ただ、逆に言うと「名有り」な登場人物としてペールとつながるのは母親(前田美波里さん)と、ペールの想い人・ソールヴェイ(藤井美菜さん)だけ。他の役者さんは複数の人物がアンサンブル的に関わっていく構成です。

ペール・ギュントは家のことも顧みず、奔放に遊びまわる放蕩息子。
いつか自分は皇帝になる、そう豪語する彼の仕業は、唯我独尊を絵に描いたよう。酒に女にやりたいように遊びまわる様がとてもナチュラル。

1幕最後、脚立に登りつっかえ棒を自ら倒した彼、その「棒」は死した母親を指しているのかなと。

2幕での彼の成功はいつも8割方成功したところで裏切られ、いつも一からのやり直し。それでも手を変え品を変え、違う分野で成功しようとする執念のようなものは凄いなと。

自分が自分であるために、自分しか成し遂げられない何かをずっと探し続けた彼。そのどれもが成就しない姿は、シーンによって「自業自得」にも見えながら、また自分の限界を理解できない、理解したくないものにも見える。

人生の終わりに近づき、目の前にペール・ギュントがいると知らないところで浴びせられる自分への言葉は辛いだろうなぁ。

これ、キャラメルボックスの『無伴奏ソナタ』で全く逆のシーンを見たことがあったんです。
「音楽と関わることを禁じられても音楽が忘れられず作った曲が、”作曲者不詳(シュガーの唄)”として歌い継がれ、自分に対しての賛辞となる」というシーンがあって。

”当事者がそこにいることを知られていないところで発せられる言葉”ってリアルな訳で、ペールがますます自分の殻に閉じこもる契機となったかと。

・・・

この作品で一番衝撃的だった言葉は、

「一流の善人は天国へ、一流の罪人は地獄へ向かえばいい。でも、一流の善人にもなれず、一流の罪人にもなれない人間は、他人と混じって溶かされるしかない。」

という、”死の番人”らしき人からの言葉。

つまるところ、「自分自身が何者か、見出そうとしてきたのに、結局のところ『生きたいように生き、やりたいように生きる』トロルの生き方でしかなかった」ことを浮き上がらせる後半10分は凄い濃かった。
ただ、その後半10分のための前章にしては、前半(1幕+2幕前半)はずいぶん長かった印象はします。

今回、KAATでこの作品を上演するのはKAAT劇場スーパーバイザーの白井晃さんの念願だったようなので、「なぜこの作品を上演しようと思ったのか」を気にして見ていたわけではありますが、後半10分の落差を見たときに自分の中にふっと浮かんだ感情があって。

「生きたいように生きる」ことと「自分自身のアイデンティティを意識づけて人生に投影して生きる」ことにははっきりした違いがあって。

”自分自身が、『「生きたいように生きた」ペール・ギュントのように生きていない』と断言できるのか?”を問いかけられたような気がして。

この両者がもっとはっきり離れて見られたら、その2つははっきり違うからこそ、人は後者の人生をどうやったら生きるかを考えるべきというところに向かえたんじゃないかと思えたりします。

もう一点、印象的だったのは「自由って難しいんだなぁ」ということ。
ペール・ギュントも自由だし、恐らく演出の白井さんもたぶんカンパニー一自由だと思うし、演者さんも多少の制約はあれ、かなり自由に任せられているように思えるし。客席でこの物語をどうとらえるかも自由。

でも実は、自由に行動したことには(自覚の有無はともあれ)責任が伴うし、自由に行動するには想像力を必要とする。自由だった故に、板の上での役者さんの動きに、今までの経験の量が反映しているように思えました。

・・・

登場人物では、内さんが軽やかな身のこなしでペール・ギュントの奔放さを自然に表現。
美波里さんは流石の存在感で舞台を引き締めまくっていました。
ヒロインの藤井さんが清楚で可憐な、でも芯の強いキャラクターを魅力的に表現。ペール氏、選択を誤りましたよねぇ…。
アンサンブルでは青山郁代さん、目立ちすぎることなく的確な存在感。大胡愛恵さん、間瀬奈都美さんとの「ヴァール3人娘」では凄いことになってました(笑)。

最近、新しい作品に接することが少なかったので、見るものすべてが新しい、という空間はとても新鮮でした。

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