« 『クリエ・ミュージカル・コレクションⅡ』(3) | トップページ | 『Sign』 »

『アイ・ハヴ・ア・ドリーム』(1)

2015.3.14(Sat.) 光が丘IMAホール
 12:30~15:15 G列10番台(センターブロック)
 17:30~20:15 D列10番台(センターブロック)

ミュージカル座創立20周年記念公演の同作。
去年はジャネットが木村花代さんで上演されましたが、その時は都合が付かず、今回念願の初見です。

今回は月組のフィリスに河野由佳さん、星組のリーナに平川めぐみさんがいらっしゃるので、唯一マチソワ可能なこの日を選択しました。鉄の割に上野東京ラインにも北陸新幹線にも目もくれず(笑)でしたが、両チームのダブルキャストがいい意味で別の作品色を作り出していて、両チーム見て良かったです。

ネタバレ含みますのでご注意くださいませ



舞台はアメリカ、黒人差別の激しいアラバマの街で起こる、白人と黒人の物語。
黒人が自らの権利を求める運動を”非暴力”で進めることを説くキング牧師。
キング牧師の言葉に心動かされ、率先して運動を主導するジャネット。今回は吉沢梨絵さんが演じられています。

吉沢さんは『ルドルフ・ザ・ラストキス』再演のステファニー役で初見、『Second Of Life』歌手役、『Ordinary Days~なにげない日々』のクレア役でも拝見し、今回が4役目になります。今回の梨絵さんジャネットで印象的だったのは、予想に反して「押しが強くない」こと。
ともすれば黒人の先頭に立ち権利を求める、となれば強く強く前に出る印象を持っていたのですが、予想以上に控え目。

ですが、主張しないことでむしろ主張がすっと胸に入ってきやすくなっていたのがとても印象的。
苦労人であり、父母を亡くし女手一つで弟マイクを育ててきた反面、自分の夢は横に置き去り。
読み書きもできない女性ではあるのですが、それでも、というかだからこそ、控え目さをもちながら発する言葉や行動に強い説得力を感じます。その出過ぎない存在感が今回のアイハヴにいい意味で「押しつけなさ」を展開していたように思います。

黒人が白人を排斥するわけでない、白人が黒人を排斥させるべきではない、お互いが尊敬し合う世界を作るという、見た目には絵空事にしか見えないものであっても、黒人の中で更に「読み書きができない」ハンディキャップを持つジャネットだからこそ言える事があるのだろうなと。

ジャネットとハートが一番近い親友のフィリスはWキャスト。月組(マチネ)は河野由佳さん。しっかり者の大人のフィリスです。星組(ソワレ)は大胡愛恵ちゃん。若さを全面に出し、時に幼ささえ見せるフィリスです。印象としてジャネットとの関係が、由佳フィリスはジャネットが頼る相手、大胡フィリスはジャネットが頼られる相手な感じがしました。どちらも2人の間に信頼関係はあるわけですが、このポジションの違いで、ジャネットが語るある言葉から受ける印象が違いました。

フィリスは結婚することになるのですが、その相手がバス会社の御曹司であるトム。当たり前の如く白人であり、一緒に店で働いてきた仲間でさえ、「白人と結婚する」ことに強い嫌悪感を持つ人もいます。

そんな皆に対してジャネットが言う「フィリスはもう悩んだと思う」という言葉。

由佳フィリスに対するこの言葉は「私がいつも頼りにしているフィリスがその決断をした」という位置づけを感じて、「フィリスは自分で進んでいけるだろうけど、自分も応援したい、だからみんなも応援して欲しい」という印象。反面、大胡フィリスに対しては「フィリスのことは心配だけど、フィリスが決断したのだから自分も応援したい、だからみんなも応援して欲しい」という違いを感じて。

梨絵さんと由佳さんは『Ordinary Days~なにげない日々』のクレア役でWキャストだったこともあって、空気感が似ているところがあって、親友であることに違和感を感じなかった反面、梨絵さんと大胡ちゃんだと「信頼している後輩」的な要素が混じっていたからのようにも思います。

この物語のタイトル「I have A dream」、日本語に訳せば(歌詞にもありますが)「私には夢がある」という言葉ですが、この物語を見ていると、「夢を持つ」ことは大事だけれど、実はもっと大事なのは「夢を持ち続ける」ことだし、更にもっと大事なのは「夢を叶えるよう自ら努力すること」なわけで。

「夢を持ち続ける」ジャネットにとって、親友が一大決心して白人のもとへ嫁ぐというフィリスの様は、今まで自分達が絶対無理だと諦めていた、「白人と黒人の高い壁」に対する挑戦に見えるように思えて。
ゆえに、ジャネットにとってフィリスは「希望」なのだと思うのですね。

フィリスはトムと愛し合っただけではあって、本来、白人と黒人の壁といったことは関係がないはずですが、この時代背景上は「白人と黒人の壁を壊そうとする行為」という意味合いも持たざるを得ない。だからこそ、ジャネットはフィリスの助けになってあげたい、と。

この作品を観る前に思っていたこの作品の前印象で、「白人=悪、黒人=善」というものがあったのですが、必ずしもそうとばかりは言えないわけで。むしろ「暴力=悪、非暴力=善」ですよね。

その流れで印象的だった言葉が、星組では平川めぐみさん演じたリーナがジャネットに言った言葉、

「私、黒人に生まれてきて良かった」

と言う言葉。この言葉、「(ハートを持った、)黒人に生まれてきて良かった」という意味で、対極にあるのは黒人を襲撃するKKKという「悪魔」との対比であるわけで、この言葉、後半にあるトムとクレアの言葉ともリンクするように思えて。

「あなたの手、私より黒い」

と、クレアはトムに言います。クレアは混血ですが「8割は白人、残りが黒人の血」ゆえに、見た目上かなり白い(というかほとんど黒くしているように見えない)。

この言葉、クレアのトムに対する最大の感情表現だと思うのですが、ある意味

「あなたの心、私より黒人に近い(温かい)」

と言っているように聞こえて。

「暴力には非暴力で」という言葉は理想論に思えるけれども、”相手の土俵に降りていっては自らの主張の正当性を貶める”ことが本来的な意味で。

「黒人が暴力に訴えず、理詰めで訴えれば、公的な機関(今回の場合は裁判所)も、『主張の妥当性』で判断せざるを得なくなる」というのがキング牧師の考え方なわけですよね。ジャネットの立ち位置は自らが浅学非才であっても、物事の意味を正しく理解できる感受性を持っていたということなのだろうなと。

・・・

今回のWキャストでどちらも良かったのがリン役。月組は中村百花さん。さすがの存在の切れの良さで、軍団のトップ、スパイクを喪った後、「キッズ」の解散場面を見事に仕切っていて、その姐さんぶりに脱帽。
星組は佐々木由布さんで初見でしたが、百花さんとまた違った存在感を見せて素敵。佐々木さんの解散場面のビーズの渡し方がとても好き。それぞれのメンバーがどう来るか分かっていて、一番いい渡し方をするんですよね。どこからきてもすべてをわかったかのように渡す様に惚れ惚れしました。

そのスパイクを両組とも演じた宮垣祐也さん、存在感の確かさが素敵です。さすがリンが惚れるお方。そのあまりの存在の大きさ故に、彼を喪ってからのキッズの落ち込みようときたら・・・その存在の大きさを確かに感じた方でした。

この作品唯一の白人、トム役の中本吉成さん。今回は演出も担当されています。由佳さんフィリスとだと『ウレシパモシリ』の聖と哲治(つまり妹と兄)が夫婦になるわけでちょっと面白いです(笑)

星組リーナ役の平川めぐみさん。マイクと一緒に大学に進学する才媛・・・を思わせるかのように、前半で新聞読めているんですよね。ジャネットが文字読めないのに(この時点では)、リーナはこの時点で読める。先の展開を思わせる存在。

星組ベス役の小松春佳さん。小松さんでベス役って時点で噴いてしまう(笑)。ベスはこのお店の中で一番の内気な少女って設定なのですが、小松さん、持ち味の”前に出まくる”を発揮していて、「一番内気」とは思えなかったです(爆)

月組マイク役の田中秀哉さん。梨絵さんとの姉弟の説得力絶大。悪に振れた後に戻ってきた後の成長ぶりときたら、姉も苦労した甲斐があるだろうなと思わされました。

・・・

この作品のラストの行進は、『レ・ミゼラブル』の1幕ラスト「民衆の歌」を思わせます(さすがビリー先生の作品)。
ところが、フィリスのポジションが最前列下手端で、レミゼではエポニーヌポジション・・・
(コゼット経験者の)由佳さんがエポニーヌポジション、と個人的に超ツボに嵌っておりました(をい)。

逆に言うと、大胡ちゃんはエポニーヌやりそうだなと・・・

・・・

ミュージカル座の作品を毎回拝見させていただいているわけではないですが、さすがは代表作だけあって、ミュージカル座の良さを前面に出した作品ということを実感。「ミュージカルだからこそ出せるメッセージ」を表現されている様は感動的で、各チーム3回しか観劇チャンスがないことが、ただただもったいなく感じます。

沢山の課題があることは承知した上で、次はぜひもっと多くの方に見ていただける機会があることを願っています。

|

« 『クリエ・ミュージカル・コレクションⅡ』(3) | トップページ | 『Sign』 »

コメント

先日はいろいろ教えていただき、ありがとうございました。
案の定、観劇の嗜好が同じですので、またお会いしたらよろしくお願いいたします。

投稿: 白袴 | 2015/03/19 11:20

白袴さま>

コメントありがとうございます。
(ご返事が遅くなり、失礼しました)

こちらこそ、今後ともよろしくお願い致します!

投稿: ひろき | 2015/03/22 01:56

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/61281946

この記事へのトラックバック一覧です: 『アイ・ハヴ・ア・ドリーム』(1):

« 『クリエ・ミュージカル・コレクションⅡ』(3) | トップページ | 『Sign』 »