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『モーツァルト!』(31)

2014.11.9(Sun.) 12:30~15:45
帝国劇場2階K列10番台(下手側)

上演427回目(今期2回目)
観劇43回目(今期1回目)

2010~2011年シリーズ大楽、金沢歌劇座(2011年1月30日ソワレ)以来、3年半ぶりの『モーツァルト!』。
自分自身はこの日が43回目。
ただ、3年前からするとこの日をこういう気持ちで迎えるとは思っていなかったなぁ、という・・・

前期限りでナンネール役の高橋由美子さんが卒業し、自分が役者さんをお目当てで見ることはなくなった今年。
10年もやったんだから、同じ卒業するにせよ、ちゃんと「最後」と宣言させて卒業して欲しかったなぁ。

前日の初日でおおむねの方向性を情報収集しつつ、この日が今期初日。
ヴォルフは山崎育三郎さん、コンスはソニンさん、男爵夫人は香寿たつきさん。

2階から見下ろすと楽譜が見えるのは以前と同じ。セット的な変更はあまりなかったですかね。1幕の猊下の登場が以前は上手上側からの階段だったのが、階段がなくなって中央からの登場になったぐらいでしょうか。

まずはヴォルフのいっくん。今回の彼を見ていると、前回って本当にいっぱいいっぱいだったんだなというのが分かる余裕ぶり。シカネーダーとのじゃれ合いも前回比でかなり堂に入ってて見てて安心できるように。
ただ、ふと気になったのですが、いっくんヴォルフはあまり姉を必要としていないのかなと。
後述しますが、今期ナンネの花さんは弟に対しての感情が溢れているタイプではなく、それゆえにか、いっくんのヴォルフからは姉に対する思いといったものがほとんど感じられなくて。
たぶん、ヴォルフとナンネールはお互い固く結びついている、というのは初演以来の芳雄氏・あっきー&由美子さんという刷り込みが自分自身にあるからだとは思うのですが。

コンスタンツェ、ソニンさん。先々月の新国立劇場「三文オペラ」以来2ヶ月振りですが、MyBestコンスタンツェのちひろちゃんと肩を並べたコンスタンツェが出てくるとは!素晴らしかったです。

ソニンコンスの長所といえば「人間不信」な事じゃないかと思うんです。
ご本人の人生経験によるものかどうかはわかりませんが、「たくさん裏切られてきた人」でしか出せない味というのでしょうか、「コンスタンツェが最後にただ一つ求めた『救い』がヴォルフガングにだけはあった」ということに対する説得力と来たら。
そして「ヴォルフガングが最後にただ一つ求めた『救い』がコンスタンツェにだけはあった」ということの説得力も凄くて。
これは先述のヴォルフ×ナンネが薄くなった結果論でもあるのですが、ヴォルフ×コンスが濃い濃い。

ヴォルフが錯乱する中、何も手を差し伸べられないソニンコンスが、口を抑えて泣き顔を必死にこらえていて、ヴォルフをここまで支えようとしたコンスタンツェは記憶に思い浮かばないぐらいでした。

ヴァルトシュテッテン男爵夫人は香寿たつきさん。もう安心度安定度№1。男爵夫人はヴォルフに引導を渡したり冷酷な面も見せる人物ですが、その冷酷ささえ、たーたんさんにかかると神々しい。

そしてナンネール役、花總まりさん。由美子さん以外に「歌うフランス人形」を襲名できる方がいるとは、というのがまずもってのびっくり。まさにプリンセスの趣。
ゆえに、「音楽家一家が貴族の中に無理に割って入っていく」というシチュエーションにしては驚くぐらいに貴族寄りではありました(爆)。それにしても体型が違うとはいえドレス全部新調って羨ましいというか、色々とコメントしたくなるというか・・・

実は花さんを拝見するのは初めてなのですが、歌はこなしていてさすがですが(それでも曲はそこかしこ苦戦していたのでナンネの曲って難しいんだなぁ・・・)、この役に関しては私の場合はどうしても思うところが沢山あるわけで、花さんは良いのですが、やはり由美子さんとの違いをかなり感じてしまいます。

一番大きいのは、花さんナンネは感情が希薄に見えるところ。

前半での弟に対する愛情も、後半の弟に対する不満も、怨嗟も、それは由美子さんが増幅していた部分なのかもしれませんが、「モーツァルト!」におけるもう一つの人間関係だったように思うのですね。
それが花さんだとほとんど見えてこない。というかそれこそ「プリンセス」である故に、弟に対する感情自体もないように感じられて、そこが見えないと、ナンネが人形に見えてしまうのだなということを痛感したのでした。

弟とだけでなくて、夫との関係も淡泊そのもの。お帰りなさいのご挨拶さえ、まず夫婦触れ合いませんからね。

もう一点、それに付随する部分なのですが、「モーツァルト!」という作品にとって、登場人物はほぼすべからくモーツァルトを責めるか利用するかする人たちばかり。みんなモーツァルトに対して尖っているんです。支配下に置こうとしたコロレド大司教はもちろん、父親であるレオポルトも(大司教への)服従を求めた。男爵夫人さえ表面上は「夢の手助け」とはなっているけれども、社交界における自分の地位の底上げに利用しようとした面は拭えない。ウェーバー一家はいわずもがなだし、悪友たちだって夜の飲み代の助けぐらいにしか思っていない。

そんな中、ナンネールとコンスタンツェは数少ないヴォルフガングの理解者であったわけで、特にナンネールは姉という側面と母という側面と両方を持っていたわけなので、「尖った登場人物たち」の緩衝材ではあって、それがなくなった今、「モーツァルト!」がずいぶん重い作品になったなぁというのが正直な感想です。

年末に向けて超多忙が予想されて、なかなかこの作品の優先順位は上げにくいのですが、芳雄氏のラストということもあり、納得いく見終わり方にしたいと思っています。

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コメント

今回は、もう見ることがないのですが、やはり気になります。
今回のナンネの方は、歌はうまいらしいですが、感情の表現は、由美子ナンネのほうがいいのではないかと思ってました。ひろきさんの感想で納得がいきました。比較されることを承知?で引き受けられたのだから自信がある方なのでしょう。

投稿: てるてる | 2014/11/10 03:13

てるてるさん>
自信があるかどうかは分かりませんが、引き受けられたのですから覚悟はおありかと思います。

由美子さんのナンネールが作品の印象にまで大きく関わっていたことから考えると、花さんのナンネールからはまだ感情が見えてこない感じがしましたし、改めて由美子さんの存在の大きさを感じられたのは観て良かったです。

投稿: ひろき | 2014/11/11 01:08

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