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『ミス・サイゴン』(20)

2014.10.5(Sun.) 12:00~15:20
よこすか芸術劇場 1階H列30番台(上手側)

『ミス・サイゴン』2014年シーズン、米軍基地の街、横須賀での大楽です。
2014年シーズンで自分が抱き続けてきた少しばかりのもやもや感を消してくれるとてもいい公演で、見に行って良かったです。

サイゴンを見るのは帝劇前楽(8月25日ソワレ)以来1ヶ月強ぶり。2014年シーズンはさほど見ていない印象が自分にはあったのですが、この日の横須賀で10回目でした。結構見てました(笑)。

この日の公演は何といっても笹本キム。

2004年以来10年、この日が154回目の公演となる笹本キムですが、もともと彼女はキムという役のタイプの女優さんではないというイメージを、個人的にはずっと持ち続けてきて(エポという役のタイプの女優さんだとは思います)。
2008年の旧演出版2回目でようやく、彼女らしいキムを確立。2012年の新演出版ではその成果を一旦ご破算にしての再スタート、そして今回の2014年シリーズ。

2014年シリーズなりのキムというのを掴むのに、ずいぶん苦心しているように思えた彼女ですが、この日ようやく、彼女なりの答えが出たような気がしました。母という面ではリアル母な知念キムの説得力には追いつけないし、勢いという面では若い昆キムと比べると分が悪い。でもこの日の笹本キムは誰のキムにも引きずられることなく、共演者との関係性で確かに彼女のキムを作っていて、それが何よりほっとしました。

この日笹本キムとの関係で印象に残ったところで、「キムはなぜトゥイではなくクリスを選んだのか」という点。
クリスと一夜を過ごした後、クリスは「くそエンジニア」と言いますよね。その時、キムの表情が安心した顔に変わったように見えたんです。

キムにとって、エンジニアは自分の雇い主だし、サイゴンに出てきて頼る人もいない中、自分を拾ってくれた人ではあるけれど、実際にやっているのは売春だし、それを喜んでいるわけでは決してない。やむを得ずエンジニアに従わざるを得ないだけなキムにとって、「エンジニアに捨てられる=死」を意味する。だけれども、クリスはエンジニアに(正面切ってではないにせよ)暴言を浴びせる。キムはエンジニアに身分も心も拘束されていたけど、クリスがそう言ってくれたことで”エンジニアに反抗してもいいんだ”と思えたことでキムはほっとしたように見えて。

エンジニアに従う道から、クリスと一緒に歩く道へ。その道筋を示してくれたことが、キムにとってのクリスじゃないかと。

翻ってトゥイ。ウェディングのシーンで乱入したときにキムに言う言葉。従兄妹という関係性とはいえ、トゥイがキムに投げかける言葉は、キムを子供扱いしている言葉でしかない。キムは戦火の中、両親を焼かれ、必死でサイゴンにたどりついて生きている少女で、かつてトゥイと共に時を過ごしていた少女ではない。身も売り、本意ではないにせよ「生きるために」必死になっている。そんな少女に対して、かつて結婚を約束したからと言って、自分を子供扱いする相手に付いていこうとするかといえば、それはやはり「ノー」でしょう。ただでさえ自分が苦しいときに助けてもくれなかった。ベトコンが自分の村を焼いたとキムが思い込んでいたかどうかは議論の分かれるところですが・・・

トゥイが描いた「結婚して欲しい少女」のキムと、この時のキムは精神的にまったくずれていて、だからこそトゥイを拒む。
その上、自分にとって”エンジニアに対する枷”を解いてくれたクリスは、今のキムにとってすべてなわけで、そのクリスを罵倒されることは自分が罵倒されることと同じ。

トゥイにとってキムは子供だったけれども、キムにとってもトゥイは子供に見えたんじゃないかと思う。
「クークープリンセス」のシーンでキムはトゥイに対して顔をそむけますが、「なぜ横向く」の時にこの日の玲奈キム、いつもの「90度横向く」ではなく、「180度横向く」(つまりトゥイとキムが平行)になったことにびっくり。トゥイに対する拒絶感がとても強く感じて。

と、この日見ていて感じたのはキムからのクリスへの思い。ホテルのシーン以降のキムの気持ちの醒め方がダイレクトに伝わってきて。キムにとって、責任を取ってくれないクリスは、トゥイとは別の意味で「子供」に見えたように思えて。

この日、歌詞を聞いていて気づいたのですが、キムのラストシーン直前、タムへ別れを告げるシーンで「『彼は』あなたを迎えに来る」と言っている。キムにとってクリスがまだ愛している相手であれば、ここに来るべき言葉は『パパは』でないと変でしょう。そう思ったときに、キムにとってのクリスは、「かつて愛していた人」でしかなかったのだなぁと、そう思えて。
ただそれはタムの幸せを優先させるためのキム自身へのマインドコントールでもあるのかなと。

・・・

話は戻って、キムとエンジニアの関係。

先ほど書いたことで「キムはエンジニアの枷から解放された」とありますが、それゆえバンコクのバー2階でのキムの上から目線が光るというか。この日の笹本キム、両手を腰に当てて、完全すぎる上から目線(笑)。エンジニアの命運は自分が握っていることを十分に理解しているから、エンジニアもしぶしぶ従う。「口を慎め、生意気だぞ」と言ってもなんとやらの遠吠えに過ぎなくて。エンジニアが小物に見えたのも、キムに軽くあしらわれているからなように思えました。

・・・

大楽ということで、キャストの皆さまからご挨拶。
「(2004年から)10年」という表現をされた、岡幸二郎さん(ジョン役)、笹本玲奈さん(キム役)、泉見洋平さん(トゥイ役)は今期で卒業の可能性が高そう。

泉見洋平さん(トゥイ役)
「2004年から演じてきて10年。演じていないときも自分の中にトゥイはいて、いつもトゥイだったらどう考えるだろう、と思いながら生きてきた気がします。355回演じました。今日、成仏いたしました」

駒田さんつっこみ「明日には生き返っている気もしますが(笑)」

池谷祐子さん(ジジ役)
「ジジは女性として沢山のことを教えてくれる役。その役を演じられたことを誇りに思います。ジジという女性に恥じないよう、誠心誠意精進して参りたいと思います」

・・・この挨拶の間、玲奈さんは顔を手で覆い涙されていました。沢山のカーテンコールを拝見してきましたが、他の方のご挨拶で泣いている玲奈さんを拝見するのは、この日が初めてでした・・・

駒田さんつっこみ「非の打ち所がない挨拶でございました」

原田優一さん(クリス役)
「演出家のダレン・ヤップが言っていた言葉で印象に残っているのが『この作品を見て辛く嫌な気持ちになるお客さんもいると思う。でもそれで良いと思う。今まで同じような経験をした人たち、今でも同じような立場にいる人たちのことを思って欲しいから』という言葉。その言葉を胸に演じてきました・・・小ネタを楽しみにしていただいた皆さま、今日は真面目な挨拶で申し訳ありません(笑)」

駒田さんつっこみ「20年来の付き合いですが、初めて真面目な挨拶を聞きました(笑)」

笹本玲奈さん(キム役)
「2004年から10年間キムを演じてきました。(泉見さんもおっしゃっていましたが)演じていないときでも、辛いとき、壁にぶつかったとき、キムならどうするだろうと思いながら生きてきた気がします。自分の中にいつもキムがいました。(涙ながらに)私を支えてくださったすべての皆さまに感謝しかないです。ありがとうございました」

・・・この日の演技を見て、この挨拶ですからね。演じきったような表情でしたし、2年ぐらいで再演しない限りは、この日で卒業なのだろうなと、実感したのでした。

皆さまのご挨拶の後は「みんなで歌おうアメリカンドリーム」。歌詞カードが入場時に配られてのイベント。
駒田さんさすがの仕切りで何とか形になった感。

ひとまず、何とか完走したという感じの『ミス・サイゴン』2014年シリーズ。
それが正直な本音です。

卒業宣言して卒業した前日の知念キムが羨ましい、それも正直な本音です。

サイゴンが心に残すわだかまりは、作品のテーマだけにして欲しいんですけどね。

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