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『シェルブールの雨傘』

2014.9.13(Sat.) 17:30~19:50
シアタークリエ 20列10番台(センターブロック)

原作は有名なフランス映画、舞台版は初演が日生劇場、今年が5年ぶりの再演になります。
劇場が変わったことで、かなりのプラチナチケットになって追加公演まで出る盛況。

「5年経って再演の声がかからないと再演がない」というのを初演キャストの井上氏、香寿さんが口を揃えて仰っていますが、クリエサイズにまとめられた今回の作品、とっても好みな出来です。個人的には初演を見逃しているので、再演で初見です。

客層がクリエにしては男性率が高く、それも50代前後の男性、しかもおひとり様が多いというのがさすがはこの作品の知名度だなぁと。

何より印象的なのは「全編に流れる音楽」。この用語ってよく別の作品でも使われる用語ですが、ことこの作品に関する限り、
まさにその通りで、端的に言うとオーケストラさんの息つく暇がない(爆)。とにかく音楽がずーっと流れ続けています。つまるところ、映画的な作りをそのまま舞台に乗せているということなのでしょうね。同じクリエで井上氏が演じている「ダディ・ロング・レッグス」も全編音楽パターンですが、それでもまだあの作品は息つく暇がまだありますから。

それゆえ、観ている方も気持ちを切られにくいというメリットがあって、舞台上で起きている時系列の流れにとても乗りやすい。あの有名な曲、どことなく退廃的で、フランスのアルジェリア出兵(ギイも戦地に赴く)の時代背景ととても良くマッチしていますよね。あの曲があることで作品のカラーがしっかりできているのは大きいんだなと思います。

作品としては井上氏の今までの登場作品とリンクする箇所が複数あって。兵役に赴いて帰国したがつまはじき扱い、は『ミス・サイゴン』のクリス役そのもので、ジュヌヴィエーヴはキムに見えたり、マドレーヌがエレンに見えたりする瞬間があったりする。ジュヌヴィエーヴとの恋の燃え上がるシーンは『ルドルフ・ザ・ラストキス』(初演)を思い出したり。後者は特に今作のエミリー夫人役を初演に続き演じられている、香寿たつきさんの印象が大きいんだと思うのですが。(ルドルフの時はマリーの後見役というか面倒見役のラリッシュ夫人でしたが、今回、ジュヌヴィエーヴの母親ということである意味同じようなポジションかと。)

今回のジュヌヴィエーヴ役は野々すみ花さん。前回(白羽ゆりさん)に続いて宝塚娘役出身の方がこの役を務められていますが、ふんわりした存在感が、”強すぎない”ジュヌヴィエーヴ役になっていてとても好印象。ぐいぐい攻めていく役とはいえ、きっと強気な人がやるとすごく五月蝿く感じちゃうだろうなぁ・・は、マドレーヌ役の大和田美帆さんが自覚している模様(笑)。
個人的に出過ぎないので物足りない、と言われてしまうのは宝塚娘役出身さんの共通の要素な気がはしますが、この役は求められるポジションにぴったり嵌るというか、ある意味井上氏が男役のポジションというか。

サブヒロインにあたるマドレーヌ役、今回は大和田美帆さん(初演はANZAさん)。作品的にとても好感度高くなる役ではありますが、その中でもいいなと思ったのは荒れたギイからの懇願を、ただ無条件に受け入れるところではないところ。
「ちゃんとしないと一緒になんかなりませんよ」という半ば脅しのような条件はさすがだなと。ただ一緒になるだけではもちろん自分も苦労するし、彼のためにもならない。そこの釘の刺し方が、演じる美帆さんの精神的な大人さとリンクして説得力があった感。

この作品名、『シェルブールの”雨傘”』の意味を、見ながらずっと考えていたのですが、「雨傘」とは「庇護」の意味なのかなと。

母であるエミリー夫人の「雨傘」の下で過ごしていたジュヌヴィエーヴが、ギイとの出会いで自我に目覚め、ギイを愛するがゆえに、”彼の子をも含めて愛してくれる”カサールの「雨傘」の中で生きることを決意する。
ずっとジュヌヴィエーヴを守り続けていた母は、新たな「雨傘」に引き継いだことで、自分は娘とは離れて生きていく(実際には理由ははっきりしませんが数年で亡くなっていますが)。

ギイは自分がジュヌヴィエーヴの「雨傘」になれなくなったことに絶望しながらも、マドレーヌに自分の「雨傘」になってくれるように頼む。でもマドレーヌは一緒に「雨傘」を差すことをギイに促し、荒れたばかりだったギイはそれによって立ち直っていく。

それぞれの登場人物の、戦争に巻き込まれた末の紆余曲折という面はあるにせよ、「いかにして自立するか」を「雨傘」という言葉で表現している物語に思えて。

雨傘に頼らなくちゃいけないときもある。でも雨傘に頼ってばかりでは生きる力はどんどん失われていく。
時には雨傘を捨てて、自らの身体で雨を受け止めることも、生きるためには必要だ、と言っているように感じられたのでした。

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