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『ミス・サイゴン』(17)

2014.8.7(Thu.) 18:15~21:00
 帝国劇場1階T列30番台(センターブロック)

2014.8.9(Sat.) 17:00~19:45
 帝国劇場2階I列10番台(下手側)

夏の帝劇通い、再開です。

7日はリピーターチケット扱いで追加した回で、評判の良い三森エレンが初です。キムは昆キム。
9日は当初から予定していた回で、玲奈キム回です。
いずれもエンジニアは筧さん、トゥイは神田さん。

他キャストは完全に分かれて、クリスは上野さん/原田さん、ジョンは岡さん/上原さん、エレンは三森さん/花代さん、ジジは池谷さん/玲菜さん。

正直言って、物語として伝わるものは9日ソワレの方が圧倒的だったので、まずはそちらから。

●8月9日ソワレ/玲奈キム
玲奈キムは2004年以来、恐らく20回ぐらいは見ているはず(この日で133回目の登板)なのですが、この日初めて見た光景が良い意味で衝撃的で。

ラストシーン、キムが”最後の仕事”をする直前、エンジニアにタムを奪われた後、玲奈キムは机の上に置かれた写真を見たんです。その写真を見てから、自らの幕を引きに行ったのです。

その写真・・・つまり『両親』の写真を見てから自分が自分の幕を引く・・・

『両親への想い』がキムに引き金を引かせた。

両親が自分を守ってくれたように、キムは親として、息子であるタムを守る。

そういう”決意”を見せた玲奈キムのはっきりとした仕草は、この日の舞台のハイライトでした。間違いなく。

キムにとって大事な写真であったその写真は、1幕でトゥイが投げ捨てます(この日は神田トゥイ)。その時のキムの形相は表現できないぐらいに怖かった。
『トゥイ、信じていたのに! あなたは何ということをするの!』と表情が、全身が語っていて。

キムにとってトゥイは自分を守ってくれる存在だったけれど、ベトコンに加わったことで「自分のヒーロー」としての存在ではなくなっていく。
「私の夢を壊さないで」と。
両親を失った時にそこにいてくれなかった、大切な時に自分を守ってくれなかった、それがキムにとってのトゥイ。だからこそウェディングで乱入してきたときに、キムはトゥイでなくクリスの肩を持つ。

この日良かったのは、キムとクリスの心の近づき方がとても丁寧だったこと。
玲奈キムと優一クリスといえば個人的に新ゴールデンコンビに一番近いと思う組合せ。

『誰も信じられない』と心を閉ざすキム。初めてだったのに、自分の事をどうでもいいとまで言われて、つい自分の過去まで吐露して。言いたくもなかったのに、みじめになるから・・・

クリスにしたところで「初めて娼婦と寝たわけではない」けれども、キムはそれまでの女性とは全く違った。
そんな女性を傷つけてしまったからこそ、キムは守らなきゃいけない、それが泥沼のベトナムで自分がやれることだと・・・

キムがクリスに惹かれた理由、クリスがキムに惹かれた理由、それぞれが自然に表現されていたからこそ、「世界が終わる夜のように」の飛翔感が素晴らしかったです。

翻ってキムとトゥイの関係。

9日ソワレの玲奈キム&神田トゥイは実は組む回数がものすごく少ないレアペア。
今年の公演で6回しかなく(帝劇3回、名古屋1回、大阪1回、博多1回)、全く組まない昆キム&泉見トゥイ、2回しかない知念キム&神田トゥイに次いで少ない組合せです(つまるところ、昆キムはすべて神田トゥイです)。

キムとトゥイの組み合わせでトゥイが泉見くんだと、年上ということもあって「キムからは頼れるお兄さん」みたいな印象が強いですが、玲奈キム&神田トゥイで見ると、キムが年上に見えるのでとっても新鮮です。

トゥイの執念に押されることが多いキムですが、この組合せだとキムが強い(笑)。キムが自分を振り返ってくれない焦りというのをトゥイに感じて、トゥイが暴走したこともこれならわかる、みたいに感じさせられます。

この日、トゥイが余りに暴走してキムを強く振り払った結果、キムが持っていた銃はキムの更に1m先(目測)に・・・

玲奈キムは自然ながらもあらんばかりのスタートダッシュで銃にたどり着き、その瞬間に間に合ったのですが、実はオケもその事態に気づいて、少し演奏をゆっくりにしていたからこそ間に合いました。指揮者さん、オケさんすばらしい。
以前は空砲(銃が手元にない)なこともありましたからね。

今回の玲奈キムの特徴としてはエンジニアの隠れ家にたどり着いた時のへろへろ感が半端なくて。
エンジニアが色々けしかけても身じろぎもしない。以前はタムにちょっかいだしてたら突っ込みそうになっていたので・・・それだけ限界だったことを見せているのだろうなと。

最新演出版で自分が一番好きなシーンが、ホテルで3人話しているときに入るキムのソロが、下手端からの登場になったことですが、この日の玲奈キムは「懐かしいキスと」と言ったかと思うと、力が抜けたように背中を壁に委ねてよりかかり、「・・・あなたの声。せめて今夜はタムを連れに来て」という歌詞は壁によりかかったまま、残りの力が残っていないかのように絞り出していて。

「キムとは強い女性である」という刷り込みが強く刻まれる中、今期の玲奈キムは「キムとは特別に強い女性ではない、普通の女性である」ことを見せようとしているように思えます。

そういえばキムが「嘘を付いては生きていけない」とエンジニアに言う台詞がありますが、それを聞いた時に浮かんでしまった一つのこと・・・

タムを引き取ってもらうには自分が生きていてはいけない。だから自分の意思で自らの命を絶つ。

面ともう一面、

タムを引き取ってもらえるだけでいい。
だから「クリスと一緒になりたいとは思わない。クリスのことはもう愛していない・・・」という”嘘”をつく以上、自分は生きていてはいけない、ということなのかなと、何だかこの日の玲奈キムを見ていて思いました。

ある意味、女性である以上に、母であることを選んだのかなと。


●8月7日ソワレ/昆キム
昆キムはこの日で2回目。

今まで見てきたキムって、一貫性を重視してきた方が多いように思います。新妻キムも玲奈キムも、そして松キムも「キムという女性は環境が変わっても、本質は変わっていない」という軸で作られてきたように思います(演出プランもそうでしょうが)

が、少なくとも自分の印象としてこの日の昆キムはちょっと違いました。
1幕が終わり2幕になったとき、キムの性格は変わってしまったように感じました。
やさぐれたというか、自暴自棄というか。

子供を仲間(バーの2階)に預けていて、戻ってきたときに「遅いよ!」って言われて「ごめん」って言いますが、玲奈キムに比べて昆キムはとっても悪気なさそうに聞こえる(爆)。日によっては「悪いと思ってないよね、キム」みたいにさえ(爆)

でもそれを聞いた時に新しいなって。
キムはバンコクにたどり着くまで、エンジニアとともにタムを守り、恐らくは色々な試練を乗り越えてきている。いつまでもピュアで居続けられるわけはない。だから打算的になったりしたところで何の不思議はない。

だけれども、クリスを思うときにはピュアになれる。
エンジニアがクリスの居場所を探す間、アオザイを着ようと自分で自分を抱きしめるとき、キムは昔のキムに戻れる。その喜びは、「変わってしまったように見えるキム」だからこそ、より鮮明に浮かんで見えました。

●エレンの心変わり
最新演出版への変更で大きい台詞の変更がエレンの歌詞。
maybeの主題がどこかいっちゃっているように思えるのはひとまずおいておいて、

新演出版まで 
「子供だけならせめて、引き取ることもでき『た』わ」

最新演出版から
「子供だけならせめて、引き取ることもでき『る』わ」

日本語の助詞って凄い・・・

エレンはキムには「子供は引き取れない」と言っておきながら、そしてクリスを責めた上とはいえ、子供は引き取れると言及しています。

以前は「キムの本当の気持ちを知る前なら引き取ることもできた(=今は引き取る気はない)」のに対して、今は「キムの本当の気持ちを知っても引き取ることが出来る(=今でも引き取る気はある)」と変わっていて、強く印象づけられます。

エレンは
・キムからの要求は一切拒否
・キムの気持ちに直面して自分が身を引くべきか迷う
・キムの気持ちに直面した自分の困惑をクリスにぶつける
・クリスの告白・懺悔を受け入れクリスを許す
という一連の流れにどうも不自然なものを感じますが(物わかりがいいのか悪いのか分からないという)、エレンの思考については2つの方向性を感じます。

一つは「自分が身を引いて解決するならば身を引いてもいい」という”クリスのために”型。
もう一つは「子供を引き取れば自分の妻としての身分は保障される」という”エレンのために”型。

最初は前者の印象を感じていたのですが、ここ最近後者を感じることがあって・・・

自分の印象では前者が花代エレン、後者が三森エレンのような気がしていますが、毎回見る度に印象が変わるので、また考えてみたいです。この場面で三森エレンがしっくりくるのは、最新演出版のエレンの役の方向性が少なからず彼女の持ち味とフィットしているからなのではと思います。

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