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『ミス・サイゴン』(15)

2014.7.25(Fri.) 18:00~21:10
帝国劇場 2階I列50番台(上手側)

最新演出版『ミス・サイゴン』この日が初日です。

プレビューは7月21日から始まっていますが、あえてプレビュー期間の初見は避けてこの日が初見。
最新演出版への変更点は断片的に聞こえては来ていましたが、自分で感じた初感を大事にしたくて。

サイゴンは2004年から見続けていますが、自分にとってのキムと言えば、去年2013年までキムを演じていた新妻聖子さんの役というイメージが強く、この日初日となった笹本玲奈さんはどちらかといえばエポの印象の方が強くて。が、この日の笹本キムを見て、新妻キムとは違う新しいキムを、確かに確立したことに感動して。

新妻キムは旧演出型というか、エネルギッシュ&パワフルで、どのクリスに対しても引っ張る印象がありました。それに対して、笹本キムは元来の「共演者との呼吸で芝居を作っていく」方向性が、上手いこと新演出版ならびに新演出版スタッフと合ったような印象。新演出版になってより魅力が増したキムといった感があります。

・・・

1幕は随所に歌詞変更が見られますが、舞台そのものの展開に大きな変更はない印象。実際、女性キャストの衣装が生々しくなっていたりとかに「リアル」という名の暴走みたいなところも感じられはしますが、物語を大きく変えるほどのインパクトは感じず、ちょっと意外。もっと変わっているかと思っていたので。ただ全体的に音は小さい(帝劇向けのマイク音量にできていない印象)のと、舞台が暗いので、目を凝らさないと見えないところが多かったりします。

2幕に入って一番大きく印象が違うのがエレンの立ち位置。「キムとエレン」で2人が対峙した後のエレンは、驚くほどにキムに対して同情的で、「クリスのためには自分が身を引くのが正しいのかもしれない」とまで思っている。驚くほどに自己犠牲的で、今まであった「キムに対して負けたくない」という思いが一切感じられず。とはいえ、クリスが帰ってきてみるとクリスに「なんで言ってくれなかったの!」ってぶち切れているあたり、立ち位置が一環していないような気もしますが。

キムと対峙して、冷静に落ち着こうとしてはみたけれど、クリスの顔を見たら「今まで言ってくれなかった」ことに対する責める気持ちが先行して、結果、クリスが逆ギレして(爆)、「ごめん、いいすぎた」とエレンが反省する・・・感じでしょうか。

エレンの役どころって、いかにしてキムのエゴ的な側面を浮かび上がらせるところにあるように思うのですが、旧演出版だと「正妻であることを武器に、上から畳みかける」面があったのが、新演出版・最新演出版では「大人の人間性で、自分の存在感を目上に見せる」ように変わってきている感じがします。

今回、歌詞変更が多すぎて、全部を覚えていられなかったのですが、内容的に強く印象に残ったのが、「キムとエレン」でキムが歌う(というか叫ぶ)シーン。

 旧新演出版 もしあなたが「本当『の』妻」というのなら

 最新演出版 もしあなたが「本当『に』妻」というのなら

たった一語の助詞の違いなのに、自分には凄く響きました。

旧新演出版の「本当の妻」という表現には、キムにとって「自分はクリスの妻である」という前提が強く感じ取れます。クリスの本当の妻の座は私のものであるから、あなた(エレン)がクリスの本当の妻であるというのなら、クリスはそのことを私に直接言うべきであると。

最新演出版の「本当に妻」という表現には、キムにとって「自分はクリスの妻である」という自信が揺らいでいる様子が感じられて。自分は3年にもわたって放っておかれ、目の前には自ら「クリスの妻」を名乗る女性が実際にいる。あなた(エレン)が本当にクリスの妻だというのであれば、自分がクリスの妻であることを貫き通すのは難しいのかもしれない。クリスのためを思うなら、この女性と結ばれた方がいいのかもしれない、と。

期せずしてここでエレンが「クリスを思うならキムに(自分の)座を譲るべき」と思っている感情と、キムが「クリスを思うならエレンに(自分の)座を譲るべき」と思っている感情がリンクしていて、でもその両方の思いに応えない、応えようとしない、応えなきゃならないと思っていない・・・からこそ、クリスが常にこの作品の客席から指弾される存在なのだろうなと思います(苦笑)。

・・・

今回、笹本キムを見ていて思ったのは「自信のない『キム』像」だったのですね。

エレンに対して確かに言うべきことは言っているとしても、エレンに対して圧倒的に優位に立てるほどの自信はない。そもそもキムはドリームランドで新入りとして入って以来、自信いっぱいに生きているわけでもなんでもなく、ミス・サイゴンコンテストで落選したとき、他の女の子と違ってそれを全身で悔しがるような少女でもない。クリスと結婚してドリームランドを出ていく時に、いささか手荒い見送りをしている他の女の子に比べれば、明らかに勝ち組だけれども、「自分が勝った」と思うことなど露ほども思わない少女なわけで。

それゆえに、自分のクリスに対する愛情がどれほどのものなのか、それも「自分が3年間放っておかれた」ことで、かねてからの自分への自信のなさが顔を出して、エレンに対してただしがみつくしかなかったのかなと思えて。

観る側の思い込みとして、「キムは強い少女であって、自分の意思のもとに息子を守りきった」というものがあって、その後半は確かに今でも変わってはいないと思うのですが、「息子のためなら強くなれる、実はもともとは自信のない少女」というこの日の笹本キムの存在感は、”新しいキム”を思わせる存在感だったように思います。

・・・

新演出版で気になったのは、「アメリカン・ドリーム」。
なんというか、ごつごつとしたセットに、がやがやしすぎたダンス。

正直、この作品における「アメリカ」って、エンジニアが憧れるほどのものとして描くつもりはないわけで、むしろ「アメリカ」や「(アメリカを目指す)エンジニア」の滑稽さを嘲笑うような面が否定できないように思いますが、それにしても。

エンジニアは「アメリカ」を目指したけれども、手に入れられなかった。
キムは自らの犠牲のもととはいえ、最愛の息子の未来だけは手に入れてあげられた。

自信いっぱいだったエンジニアと、自信がまったくなかったキム。
それでいて、手に入れたのはキムだけというのも、興味深いものがあります。

・・・

この日は特別カーテンコール。
手を繋いだプリンシパルのみなさん。
挨拶しようと一歩前に出た市村さん。
・・・が、それに付いてこうとする玲奈さま。
手を放さなかったんですね。

隣の岡さんが慌てて止めて、「何やってんの」という感じで突っ込んで、玲奈さま苦笑い、優ちゃん笑い、いけやんさん笑い、という面白いことが起こっておりました。

さすが玲奈さま、期待を裏切りません(笑)

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