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『ダディ・ロング・レッグス』(7)

2014.3.15(Sat.) 17:30~20:20
シアタークリエ 19列20番台

3演2回目の観劇。当初は21日のマチネも観劇予定でしたが、今年3月末に向け仕事が尋常じゃない危機を迎えているので、前倒しでmy楽を繰り上げ。
本当はこの日もマチソワしていられる状態じゃなかったわけですが、今期見納めだけはしっかりしておきたくて。

今回の初鑑賞時に購入せずに帰った『あしながおじさん』新訳版。
現役の文部科学大臣、下村氏があしなが育英会奨学金一期生であることを知って驚きましたが、それ故にとても熱のこもった文章と帯を寄せておられて感動。

●ジルーシャとジャーヴィスの共通点
新訳版の第一節は「憂鬱な水曜日」(Blue Wednesday)というタイトルで始まっています。
これは、理事が来る「毎月第一水曜日」のこと。
ジルーシャの母校(と言う言い方はジルーシャが拒絶すると思いますが)である「ジョン・グリア・ホーム」にて行われる月1回、理事を迎える行事のこと。

ジルーシャはMr.スミスの厚意にて高等教育、つまり大学進学を実現させることになりますが、そのきっかけになったのはジルーシャがこの行事を「憂鬱な水曜日」というタイトルでエッセイに書いたからなのですね。

それを理事の一人であるジャービス・ペンドルトンが「面白い」と見込んで、彼にとって”初めて”女の子を高等教育対象に選んだ、その対象がジルーシャであると。

よく考えると、「憂鬱な水曜日」の発生元である理事の一員であるジャーヴィスは、怒っても不思議ではないのに、「面白い」と興味を持ち、ジルーシャを大学にまで進学させる・・・

ここから見えてくるジャーヴィスは、「理事の中でも孤児である」のではないかと。
この物語の中でジルーシャを通しジャーヴィスのペンドルトン家での存在を語っているシーンでも、実は「ペンドルトン家の中でも孤児」らしいと・・・

以前も感じて書いたことがあるのですが、ジルーシャが「ジョン・グリア・ホームにおける孤児」であるのと同様、ジャーヴィスも「貴族階級における孤児」であるのであって。うーん、似たもの同士。

ジルーシャが「あしながおじさん」からの厚意を受けて最初に喜んだのは「初めてジルーシャ・アボットという『個人』に対して見てもらえた」からなんですよね。孤児院の中の大勢を対象にして、ということではなくて。

でも実はジルーシャが「あしながおじさん」に手紙を書いて、その中で「ジャーヴィス・ペンドルトン」について触れた手紙を受け取って、ジャーヴィスは初めてその手紙を本棚に画鋲で差すのですね。それは「(自称)完璧な9箇条計画」で「無関心」を装うつもりだった少女からの、予想外のプレゼントだったんだろうなと。「初めてジャーヴィス・ペンドルトンという『個人』に対して見てもらえた」からなんですよね。名家・ペンドルトン家の中の大勢を対象にして、ということではなくて。

その意味で「最初に自分自身の存在を認めてくれた人同士」の組合せなんですよね、この2人。
纏う空気が似通うところにはそういうところがあるんだろうなと。

●水曜日の持つ意味
ジルーシャの最後の訴えを聞いたダディは決定を下されます。

「水曜日の午後4時、オフィスへ来られて下さい」

ダディにとってジルーシャを知ったきっかけは「憂鬱な水曜日」であり、ジルーシャにとって「水曜日」は「憂鬱」以外の何物でもなかった。
それが、この日起きたミラクルは、ジルーシャにとって「水曜日」を「憂鬱」から「幸福」に変えるのに十分なものであったと。
ダディはそれを分かっていたからこそ、その日を「水曜日」にしたのだと思うと、ジルーシャの心の傷を、ダディはやっぱりきちんと分かっていたんだと、暖かい気持ちになるのでした。

振り返ると、この決断をする直前、ジルーシャはダディに対して手紙を書き、そこに決意をしたためています。

自分の小説が売れた。この小説が沢山売れたら、ジョン・グリア・ホームに寄付したい。そうすれば私は理事になれる。そうなれば既に理事であるあなたは私に会わなくてはならない、と。

これを聞いた時、ダディは「もう逃げてはならない」と悟ったのだと。この日の井上芳雄さんの演技にもそんな重みが強く感じられました。確かに自分はジルーシャに対してずっとずっと真っ直ぐ向かい合ってこなかった、なのにジルーシャは一つ一つ壁に立ち向かって、やるべきことをやり、自らの前に立とうとしている。

今までと同じく逃げ続けていては、ジルーシャの前に立つことはできない。

理事の新任挨拶で「やむを得ず立つ」ことは自分に対してもジルーシャに対しても、やってはならないことだった。

ペンドルトン家という名前からある意味逃げ、ジルーシャからも真っ直ぐには向き合ってこなかったことで、ジルーシャを悩ませたし、なにより自分はまだ自信を取り戻せていない。

でも、ジルーシャはジャーヴィスが土台を与えたという以降は、自分の力で道を切り開いてきた。
ならばジャーヴィスも自分の力で向かうほかないと覚悟したのだと。

ラストの一場は涙と笑いが入り交じる、初演以来の絶妙なやりとりのシーンですが、この日印象的だったところが・・・
ジルーシャがマジギレしてる中、首を竦めて嵐が過ぎるのを待っているジャーヴィス。

ところがジルーシャが「目の前にヒントはあった、驚くぐらい全然わからなかった」と言ったところで、ジャーヴィスは顔を上げてばっとジルーシャを振り返るんですね。
「怒ってないの?許してくれるの?」と、もはや尻尾振ったなんとやらのごとくで(爆)あのシーンの芳雄氏は抜群すぎてもう素晴らしかったです。真綾さんの声色攻撃も凄かったな-。怒ってるときのテンションのまぁ縮み上がるほどの恐ろしさと来たら(爆)。

3演の完成形と言えるラストが見られて十二分に満足しました。
この2人の素晴らしいコンビネーション、まだまだ見られますことを願っています。

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