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『ダディ・ロング・レッグス』(6)

2014.3.1(Sat.) 17:30~20:25
シアタークリエ 18列20番台後半(上手側)

2012年秋の初演、2013年年始のアンコール公演を経て、今回が再再演となる初日。

チケット発売日で取り損ねて、某サイトを見ていたら2月中旬から一気に出物が出てきて無事初日観劇。
今年の3月はかつてないほど仕事が危機的な状況なので、土曜のこの日に見られて何よりほっとしました。

初演で2回、再演で3回、そして今回なので6回目の観劇。細かいところの微調整は入っていたけれど、何を置いてもこの名コンビ、ジルーシャ(坂本真綾さん)とジャービス坊ちゃま(井上芳雄さん)の安心感たるや盤石。

「安定感」以上に「安心感」

物語として、絶対に揺るがない空気があるから、客席からの期待度も半端なくて、それをしっかり掬い上げる井上君と、しれっと乗っかる(爆)真綾さんのコンビが上手すぎる。

ジルーシャが何で真綾さんかって、勝手なイメージなんですが、努力家であることは前提に、ちゃっかり、すらすらっとやれてしまうイメージがぴったりで。

単位落として追試です、もうこんなことしませんので許してください、滝に打たれて、という経緯はある(爆)にしても4年生では学内の雑誌編集長で卒業生総代ですし。

それでいてパーフェクトなのにパーフェクトに見せない。
このジルーシャ以上に人間ぽいヒロインってそうそういないってぐらい。

ジルーシャって、凄く女性が感情移入しやすい役みたいで、現に真綾さんもインタビューで「自分は感情移入するための『器』としていられれば」とおっしゃっていて。

でもなんでジルーシャがこんなに愛らしいかって、何より「着飾っていない」からだと思うんですね。

この作品ってある意味三角関係じゃないかと思うんです。

ジルーシャとジャービス(スミス)とダディ。

ジルーシャにとってジャービスはちょっと気にはなるとしても、素直な感情を出す相手にはならない。
けど、ダディにはジャービスのことも全部言える。

ジルーシャはジャービスに対しては着飾っているけど、ダディには着飾っていない。

観客はその両方を見ているから、肩肘張っているだけのヒロインを見ているわけでも、奔放なだけのヒロインを見ているわけでもない。(たいがいミュージカルのヒロインってどっちかに偏りますよねw)

ジルーシャの「ジャービスに対して見せる顔」と「ダディに対して見せる顔」、その2つが両立することをこの作品の客層は許容しているほどには大人で。その上ジルーシャはその感情をある意味、ひょいひょいとクラスチェンジしますよね(笑)。
感情表現の切替の早さが、声優としてのキャリアが長い真綾さんぴったりなんだと思います。

真綾さんはインタビューで「一つのことに拘るより、色々な事をやる方が自分に合っている」とご自身の仕事への関わり方について語っておられますが、この日見ていて、真綾さんとジルーシャは「席が温まる暇がない」という点において随分似ているなと(笑)。

この作品の一つの売りは、ジルーシャの「切替の激しさ」だと思うんですね。一つの方向に思い詰めるわけでなく、行き詰まっても前に向かって進もうとして、まっすぐ進めないならちょっと回り道して、みたいに常に「動いて」いて。
で、その感情表現は決してエキセントリックではなくて、キュートでポップ。「いいやつっ!」とか典型ですよね(笑)。

そして三角関係のもう一つ、ジャービスとダディですが、この実質2役を井上芳雄さんが演じていますが、ジルーシャの可愛らしさ(時々可愛げなく黒くなるところもとてつもなく魅力的ですが)に負けず劣らず、ジャービスも相当に可愛いです。

男性としてはジルーシャの掌で転がされるジャービスを見るのがとっても楽しくて(笑)、それで演じる井上さんもこれまた乗っかるの上手で。女性の前で「格好つけたい自分」って男性にはどうしてもあるものですが、ジャービスとしていくら格好つけても、ダディとしてジルーシャの本音を聞いているわけですよ。

「あなたたち男性は女性には陰謀では敵わないのよ」

ってジルーシャが言ってジャービスが「がつんときた」と言うシーン、私男性なのに大好きなんですがw、この作品のもう一つ好きなのは「しょせん男なんてそんなもの」だってことで(笑)。

初演見て以来、ジルーシャとジャービス(ダディ)が真綾さん、芳雄さんに被るのと同じぐらい、奥様の今井麻緒子さんとジョン・ケアード氏との関係イメージとだぶるんです(爆)。

男性として齢を取ると、仕事上はともかくプライベートでは今さら肩肘張ってもしょうがないじゃんと思う部分もあって(笑)、それでいくとこのジャービスを演じる芳雄さんを見ていると凄くいいなって思うんですよ。

格好つけてもジルーシャには見抜かれていて、ジルーシャにとってのあしながおじさんであるダディには全く届かない。それでも嫌われるのを覚悟で「自分から一歩を踏み出す」様は、客観的に見たり、またジャービスの過去のポリシーからすれば格好悪いのかもしれないけれど、「思いのままに相手と向き合う」ようになれたジャービスは、ジルーシャにとってのダディとなりえたわけですよね。

「卒業式」でジルーシャの「せめて一度でいいから」との必死の訴えにも関わらずジルーシャの前に現れなかったダディ。
この時のジルーシャの叫びで涙してしまったのですが、そのまま「チャリティー」に突入するわけで、涙腺がえらいことに(爆)。

結局、この時はジャービスがジルーシャにとっての「ダディ」としての資格が自分にあるかを迷っていたからこそ、ダディとしては現れることができなくて。
フォロワーさんとお話ししていてこの「チャリティー」の歌詞で「受け取ることの方が与えるより難しい」の歌詞について気づいたのですが、与えることはエゴでもできるけど、受け取ることは真摯じゃないとできないんですよね。

ジャービスはジルーシャに与えた「高等教育9箇条」、そしてその恩恵は、「見返りを必要としない」という”逃げ”を作っておいたことで、自分は「与えるだけ」の安全地帯にいることができて。そこにはジルーシャの感情に対する忖度というものは実はないんですよね。
今回、再再演で加わった脚本修正で、ジルーシャがダディに対して「9箇条の手紙」というのを書いていて、これが凄く印象に残ったんです。

それというのも、あのジルーシャからの手紙なのに恐ろしいほどに感情が伝わらない(笑)。逆に言うと、これはジルーシャにとってのダディへの「仕返し」じゃないかと思ったんですね。悪い意味じゃなくて。

ダディにとってジルーシャは「与える相手」でしかないから、「高等教育9箇条」という、人間味の一欠片もないものをジルーシャに渡しても、ダディとしては何の引け目も感じていないんですよね。でもジルーシャは自分を支えてくれる相手がどういう人か知る術がなくて、自分の想像力で妄想を作り上げるしかない。あの「9箇条の手紙」をダディに出したのは、「あなたが私にしていることはこういうこと」だと言うことを、ダディに言ったのではないかなと思って。だからこそジャービスは「自分はジルーシャにどんなに酷いことをしたんだろう」と思った上での「チャリティー」だと思うと、なんだかより真に迫って聞こえました。

というのも、あの手紙を受け取ったときに、ジャービスは今までジルーシャの気持ちを本当の意味で受け取っていなかったことを知ったんじゃないかと思うんです。それこそが「チャリティー」で言うところの「お互いからの壁」ですよね。
ラストの立ち回り(爆)で「君があまり魅力的だから私も君に興味を持たないわけに行かなかったんじゃないか」とジャービスがぶち切れていますが(笑)、あれをできなかったのが「壁」と言いますか。

両者の壁を、片方から一方的でなく両方からそれぞれ乗り越えたからこそ、ジルーシャとジャービスの物語としてこの作品は素敵なんだと思います。

・・・

カーテンコールはまずは井上君、真綾さん2人でのカテコ。

井上君「一昨年初演で」
真綾さん「うん」
井上君「その後アンコール公演としてちょっとやってそして今回。どうでした?」
真綾さん「やっぱり緊張しましたけど、客席からの空気に、とっても助けていただきました」
井上君「なかなか『楽しい』で終わる公演ってないもんね」
真綾さん「えぇぇぇぇ」
井上君「ほら、重いのとか多いじゃない。それに人生って基本苦しいものだし
真綾さん「まぁそれはね(苦笑)」

井上君「一昨年、去年と毎年やって」
真綾さん「えっ???」(大反応)
井上君「え、そこなんで驚くの?」
客席「(笑)」
真綾さん「(絶句して赤面)」

・・・真綾さん、”これから”毎年やると思って反応した模様です(大笑)

そして客席からジョン・ケアード氏、今井麻緒子さんをお呼びしてのご挨拶。
ケアード氏はこの作品をきっかけに出会ったあしなが育英会さんとのコラボでのチャリティー公演のお話しを(3月に東北と関東で予定しているそうです)。

ケアード氏のご挨拶は奥様の今井麻緒子さんが通訳されていましたが、ひとしきり終わった後、

井上君「今井さんもジョンの挨拶だけじゃなくて是非ご挨拶を」
今井さん「ありがとうございます。初演の時は自分の訳した台詞をこんな素敵な2人に読んでもらうってそれだけで緊張して・・・素敵に仕上げていただいてとても嬉しかったです」

終わった後、ケアード氏が井上君の肩を「ぽん」と叩いて、なんだか「うちの家内を立ててくれてありがとう」みたいなお礼に見えてとっても素敵でした。

で、その後出てきた4人、でケアード氏が井上君に耳打ち。総立ちの客席、何かと思いきや、

井上君「肝心な事を言うの忘れてるよと言われました。CD出ます(客席拍手)」
井上君「まだ録ってないんですけどね。スタジオ録音です。ロビーで予約承ってますので是非!」

ということで幕。
カンパニーの団結が窺える、とっても素敵な初日でした。
この素敵な作品が、もっと沢山の方に届きますように!

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