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『ジャンヌ』(3)

2013.9.5(Thu.) 19:00~22:15
世田谷パブリックシアター 1階D列10番台後半(センターブロック)

この作品ほど事前に準備して初日に臨んだ作品というのも個人的には初めてかもしれません。
日本の上演は44年ぶり、実質初演に近いものの、戯曲もあるし、新宿の事前講座には行くし、世田谷のプレトークも行けたし、札幌動画も見られたし・・・

ただ、事前に準備しすぎて混乱した部分と、事前に鮮明になって良かった部分が両方あったかなというのが正直な感想。
腹八分目とはよく言ったもんで、自分が一番苦手なことだなぁ・・・

あ、そういえば今公演の世田谷パブ、最前列はB列です。よって、D列は3列目。

ネタバレいっぱい ご注意ください




ジャンヌ・ダルクを描いた舞台作品を見るのは自分は3作目。

1作目はアヌイが描いた「ひばり」で、
その時のジャンヌは松たか子さん。
2作目はレチタ・カルダ(音楽劇)で、
その時のジャンヌは新妻聖子さん。
そして今回の3作目はバーナード・ショーが描いた「聖女ジョウン」が原作、今回のジャンヌは笹本玲奈さん。

期せずして2004年「ミス・サイゴン」のキム役3人勢揃いですが、あの役を出来るクラスの方でないと、太刀打ちできないのがこのジャンヌなのですね。(このほか、ストレートで堀北真希さんが演じられています)

ジャンヌ・ダルクといえば「男勝り」の代名詞のように言われる役ですが、こと上記3つの作品を比べるにつけ、今回の笹本ジャンヌは男勝りを前面に出してはいません。というか、外見は完全に男です(笑)。

外見的には、最初のドレスシーンが(ほとんど)「ルドルフ・ザ・ラストキス」のマリー・ヴェッツェラ(の赤いドレス)なのを除いては、基本的にずっとピーターパンです(爆)。

つまるところ、女性が無理して男装しているというか、そういう域はとうに通り越していて、「兵士の中にいても女扱いされない」ことに何の違和感もないのが凄い。

にもかかわらず、少女っぽさを一番持っているのが笹本ジャンヌな気がする。(女性っぽさという点では松さんが抜けていると思う)

笹本さん自身も「彼女がかわいらしさを持っているということが、台本を読んで稽古を始めて、印象強かった部分」とインタビューで言っていますが(今回、インタビューの多さは特筆すべきものがあります。ここまで役について語る機会が多いのもとっても珍しい)、「彼女は自分では人を斬っていない」、「大事に抱えている剣は、ジャンヌにとっての十字架」という表現から、「戦いの先頭に立ちながらも、戦意高揚には長けていても、実は敵をばっさばっさと切り捨てるような剣士」でもないという印象が意外に思えます。

戦場で”最も心を通わせた相手”である、フランス軍司令官のデュノア(演じるは伊礼彼方さん)は、ジャンヌに対して苛立ちを隠せずに「君は先頭に立っているからいいが、その後ろで実際に戦う戦士の犠牲を考えたことがあるのか」と言うシーンにもそれは表現されていました。

ジャンヌを笹本さんが演じることを知ったときに、笹本さんとジャンヌの関係として、自分が最初に感じた共通点は、この日の観劇でもぶれることはなくて。
それは、

「周囲の悪意に対して無自覚であること」

だと思うんですね。

ジャンヌは領主を動かし皇太子の元まで連れて行かせ、皇太子も籠絡して結局ランスでの戴冠式にまで持ち込む。

シャルル王にとっては自分を王にしてくれた立役者なはずなのに、シャルルはじめ全ての人たちが、少なくとも表面的にはジャンヌに対して感謝の意を表さない。それに対して不満をデュノアにぶつけるジャンヌを、デュノアは窘めます。

「君は王や大司教、貴族といった者どもの立場をなきものにしておいて、それで自分が褒められることを望めると思うなんて」、なんと浮世離れしているのだ、と。

ジャンヌは自分は神の声のもとに、皆に良い施しをしていると信じているわけで、感謝さえされども、罵声を浴びることは信じられないのですね。

そこに「周囲の悪意に対して無自覚であること」を強く感じるのです。演じる人とのシンクロを過度に意識することは良くないこととはいえ、役者のパーソナリティと役の演じ方というのは無関係ではいられないわけで、「なぜ私のことを皆そんなに嫌うの」という言葉が”本心から出てきそうな”笹本ジャンヌは、まさにこの戯曲向きのジャンヌであり、演者だなと思ったのです。

この作品のジャンヌはぶれちゃいけないと思えて。
ジャンヌは徹底徹尾「神の声のもとに動いた少女」であり、彼女をとりまく状況だけが、ただ大きく変わり続けたのだと思うと、笹本さん演じるジャンヌが、ずっと揺れないで見られたことが何より素敵だったのでした。

戯曲を読んだときも、この日見た時も感じたことですが、この作品にとってのジャンヌは、周囲の「都合」によって評価を上下させられた存在で。いつでもただ同じように生きていたジャンヌにとっては、時に「利用」され、時に「弾劾」され、時に「評価」されることに、”何の感慨も持たない”ように思えてきて。

自分が評価されることが自らの行動原理ではない-それが貫かれているからこそ、ジャンヌが今に至るまで神格化されているのだと思うし、ぶれないジャンヌに対する、ぶれる周囲の男性たち、それを「エピローグ」という観点から見せる展開はとても興味深かったです。

普通だと火あぶりで終わりなわけで、ここは賛否両論あるとは思うのですが、個人的には「エピローグ」があってこそこの「ジャンヌ」というか、ジャンヌの高潔さを示しているようで、自分は好き。歌いそうで歌わないラストも好きでした。ぎりぎりまで歌わせる誘惑と戦ったような気配は見えますが、あそこで歌っちゃうと、ストレートに挑戦した意味が減ってしまうように思うので、自分は満足です。

あのものすごい量の台詞を、ほぼ2回だけのミスで切り抜けた笹本さんの凄さに脱帽ですが、そのうち1回がよりによって一番間違えちゃいけないシーンだったのですが、それでも後半ほとんど最後に近いということもあって、客席から「何とか立ち直って欲しい」という空気が充ち満ちたことがとっても嬉しかった。”ここまで頑張ったんだから”と客席みんながジャンヌの応援団になっていた気がして、なんつーか、敵役はやりにくいのかやりやすいのか・・・

・・・

初日感じたことはまだまだありますが、ひとまず初日はここまでで。

何より、笹本さんはもちろんのこと、演者の皆さんの充実ぶりにただただ痺れる公演。ぜひ1人でも多くの方に見ていただきたい作品です。

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