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2012年8月

『ミス・サイゴン』(11)

2012.8.30(Thu.) 18:15~21:00
青山劇場2階B列20番台(センターブロック)

というかもろにセンターです。
A席なのに、FCさんありがたう。

てな訳で、新演出版4.75回目(前回の遅刻分を0.25回減算)。
玲奈キム2回、そしてこの日で新妻キムが3回目(小数点以下四捨五入)。

青山公演で全編見るのはこの日が初めてですが、
とにもかくにも、新妻キムがキムすぎる。

聖子さんと言えば、基本的な演技プランは特攻型、突っ走り型で、2004キムも2008キムもそうだったかに記憶しているのですが、少なくともこの日のキムは今まで見たどんなキムよりも弱かった。
支えがないと折れてしまいそうなほど弱いのに、感情は勢いよく刺さってくるのが凄い。

1幕最後、エンジニアの隠れ家に駆け込んでくる新妻キムは、まさに「命からがら飛び込んでくる」という表現が相応しく、恥も外聞もなくエンジニアに頼りにいって、エンジニアに「俺たち3人仲間だ」と言われても反応する余力さえない。

これ、厚木初日とか青山初日はまだ反応してたはずなのですが、この日はまったく身じろぎもせず、全く余裕もない状態。にもかかわらず、そこからタムに命をあげようとする一幕ラスト。命を上げてそのままエネルギー使い切っちゃうんじゃないかという一幕の新妻キムでした。

で、そこから一気に歌いきるのですが、苦しみながらも力をふりしぼって捧げる「無償の愛」が素晴らしかったです。
弱々しさから強さを見せる、という感じだと印象としては2008年の玲奈キムがそういう方向性だった気がします。

んで2幕は好き過ぎるシーンのオンパレードで、その中でもナイトメアの新妻キムの魂の叫び(=歌)はもうこれあったら何でもいいよってぐらい身体全体を閃光で貫いて。2幕と言えばラストシーンが特に印象的。
タムを引き離されて、そのまま自分で自分を抱き抱えないとどうにかなってしまいそうに、前のめりになるって動きは新鮮。

「自分の決断ではあるけれど、でもいざタムを奪われたら、自分はどうにかなりそうだった」けれど、自分には最後の仕事があるんだと思い直して、しっかと自分の足でベッドに向かっていく・・・切なかったなぁ。

この日、身体全体を閃光が貫いたシーンがもう一つあって、それが2幕「ムーラン・ルージュ」でジョンが自分を訪ねてくるシーン。ここ、聞き間違えだと困ると思って次に玲奈キムを見る1日ソワレまで待とうかと思ったのですが、印象的だったので書いてしまいます。

自分の記憶が正しければ、再演まで「生き甲斐はクリス、信じたから」だったのが、この日は「生きてきたクリス、信じたから」になっていたのでした。

新演出版を見てもう5回目ですが、ずっと感じ続けている違和感があって、新演出版のキムにとってのクリスは、実はとっても小さい存在なんじゃないかと、思っていたりするんです。

ここの歌詞も、以前は「キムにとっての『生き甲斐』がクリス」だったけど、今は「キムが必死で生きてきたのはクリスを信じたから」であって、「キムにとっての『生き甲斐』がクリス」なわけじゃない。

むしろ、新演出版(かつ青山)から変わった「ジョン、分かってよ『タム』が生き甲斐なのよ。夜は彼だけを私は思う」の歌詞と考え合わせ、1幕の「生きてきたそのわけを見せるわ今」とトゥイにタムを見せることを考えると・・・

「キムにとっての『生き甲斐』がタム」という点に整理されたのが新演出版の最大の特徴ではないかということに思い至るのです。

「タムにとっての人生(アメリカに渡る)のためには、キムは自分の存在が邪魔になる」というストーリーは前から同じ訳ですが、その点から考えると、キムにとって「1にタム、2にタム、3・4がなくて5にクリス」みたいな(苦笑)点では、キムのポジショニングがずいぶんはっきりした感じがあります(演出としてそれを明確に目立たせていない気がしますが)。

新演出版のキムはある意味割り切ったところがあって、クリスに対してもトゥイに対してと同様、「自分の一番苦しかった時にそばにいてくれなかった」ことを気にしていることを匂わせるような空気があって、今までの旧演出では感じなかった、「キムはタムのためだけに、クリスが迎えに来てくれることを信じた」というのがある気がして。

今までのキムって、聖人君子的なところがあったと思うんです。クリスに置き去りにされても、タムの未来のために自分の身を投げだしてでも、ということで美化された面があったかと思うんですが、今回新演出版を見ていると、キムはそこまで綺麗には描かれていない気がするんですね。キムは相応に、というか普通以上に傷つき、誰も信じずに、ただ「タムのために」計算をする女性、でさえあるように思えるんです。

一度は愛した、その男性に置いて行かれ、自分一人で子供を育て、いずれは子供をアメリカに渡らせることを夢見る。
かつてはクラブで愛を売り、人間の汚い面もさんざん見たであろうキムという女性が、他人にそこまで寛容で素晴らしい女性かといえば、観客側が思う「ヒロインは感情移入しうる性格・位置づけであって欲しい」というものの反映でしかないのだろうなと。

だからそこを外して考えると、実は今回のキムは思っている以上に現実主義者で、思っている以上に愛を信じていなくて・・・という、極限下であれば当たり前の人物造型像が見えてくる気がしたのでした。

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『アニー』(2)

2012.8.25(Sat.) 15:30~18:30
2012.8.26(Sun.) 11:00~14:10
愛知県芸術劇場(愛知芸術文化センター)2階席

まさか「アニー」で遠征する日が来るとは(笑)。

初「アニー」を青山劇場で見て早4ヶ月、2012年「アニー」も、この名古屋公演の後は大楽の富山公演を残すのみ(9月1日・2日)。8月中旬の仙台公演とどちらを選択するか迷ったのですが、日程的に1泊で2回見られて、ソワレ&マチネで亜美ちゃんという、私的に一番有り難い日程の名古屋を選択。

それにしても、出演者1人のために遠征ということをやる時点で、自分的には「ご贔屓さん」のカテゴリに入っちゃうので、満席とか言っておいて5席目は亜美ちゃんか・・・(爆)。

青山劇場公演は立ち見だったので、初めて座席に座って見たこの公演。
松田亜美ちゃんの相変わらずのまっすぐな歌声に感動しつつ、というかこの愛知県芸術劇場、音響から座席から構造に至るまで、とってもお気に入りの劇場です。

何しろ5階席まであって、東京でさえこの座席数を埋めるのは厳しいだろうなぁという大きさが、帯に短したすきに長しみたいな規模ではあるのですが、この劇場のレベルが羨ましい。オーケストラの皆さんもここの劇場が一番弾きやすいそうで、確かに音の伝わり方がとても綺麗で、それも感動です。

この劇場がドラロマの大楽を飾るわけですか・・・それだけで身震いできますね。

2階席と言っても1階席の多少の段差しか感じず、見にくさとか遠さとかを感じません。



亜美ちゃんの何が凄いって、この歳で演技に嫌味も癖もなく、それでいて欲しいところにきっちりと歌声と感情がやってくるところ。こういう感性って天性のものでなかなか後で身につくわけじゃないと思うんで、とても貴重。

どうしてもアニー出身の子役さんは、その後なかなか出てこれないみたいなジンクスがあるので、亜美ちゃんにはぜひそれを打ち破って欲しかったりします。身長が低いと役が限られるから、後々身長は伸びて欲しいんですけどね。ちっちゃいよなぁ(笑)。



土曜日マチネで隣に座ってたお客さんのコメントが聞こえてきたんですが、

「ニューディール政策ってアニーがきっかけだったんだね」

・・・えーと、えーと。

え、あれ全員が全員ネタだと分かっていると思っていたんですが(苦笑)。

不景気のまっただ中の1920年代のアメリカで、「明るさ」を求めた人たちの象徴が「アニー」という”希望と夢を失わない少女”であった、という描かれ方なので、あのシーンはそれの極端な表現ではあるわけなのですが、何というか芝居はあくまで芝居であって創作であって、それでも無条件に信じちゃう人がいて、それが「真実」みたいに一人歩きするのかなぁ、となんだかちょっと微妙な気持ちになったのでした。

まぁ斜に構えて”こんなのお伽噺じゃねーか、ありえねー”って足組んで見てる人より何倍も素敵だとは思うわけですけれども(実際にいたりするから困る)。

そういえばこの日見ていてちょっと気になったことなのですが、アニーって、孤児院の仲間に手紙を書くじゃないですか。
あの時代に自分で手紙書けて読めて、という孤児ってちょっと浮世離れしている感じがするんですね。
(日本では当時から識字率100%が当たり前ですが、アメリカで、しかも1920年代となるとちゃんと文字を書ける人の比率はそうは高くないはず)

「アニーは実は結構良いところの子供だったんじゃないか」という雰囲気を何となく感じるんですが、そうでないとあそこまであらゆる意味でスマートではいられないというか、良い意味でのまとめ役にはなれないんじゃないかと、ふと思ったりします。

無論それを鼻に掛けたりすることは当然ないし、亜美ちゃんもそんなアニーを嫌味なく演じるから、とっても清々しい気持ちになれるわけですけれど。

さっきの話にちょっと戻りますが、ホワイトハウスの中で議論ばかりしている大人に対して、アニーが「Tomorrow」を歌うシーンが、脚本としてみればやっぱり不自然で、やっぱりあざといわけですよ。
でもそれを受け手にリアルだと感じさせてしまうほどに押し切っちゃう、「アニー」という作品と、そして亜美ちゃんのパワーに感服することしきり。

なんか突っ込むのが野暮じゃないかと思えてくるので(笑)。

小難しい理屈を大人はひねり回すんだけれども、そんな大人の嫌らしさを素直な気持ちで反省させてもらえる素敵な物語。
今まで見られなかった作品とこういう形で出会えたことに感謝。

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『ミス・サイゴン』(10)

2012.8.22(Wed.) 18:35~21:00
青山劇場 1階F列20番台中央(センター)

年間数十回の観劇をここ10年続けていて、恐らく通算で4~500回の観劇をしているはずなのですが、その中で開演時間に間に合わなかった経験というのは片手で足りるほど。
なぜだかその「遅刻」という経験がサイゴンで2度目。この日も遅刻なのです。

前回は帝劇で、40分遅れぐらいだったから、入ったタイミングが松キムと由美子エレンの「今も信じてるわ」直前だったんですよね(2004年)。
この日、システム障害の対応をしていて、何とか会社を出たのが18時。

拾ったタクシーの運転手が運悪く凄まじく要領の悪い人で、通常ルートを500円以上超える結果を叩きだしてくれる始末・・・それでも何とか開演20分後には劇場入り。

目の前で原田優一クリスが「なぜ~どうして~」と歌ってるタイミングで客席入り。20分ってこのあたりなのね。
キムはベッドにいるけど、なぜかこの時の新妻キムの衣装だけは着こなしが妙に違和感。
玲奈キムだと違和感ないのにな。
地場衣装は新妻キムの方がお手の物なはずなのに。

やっぱり芝居は最初から見るに限ります。気持ちを乗せるのが難しい難しい。
クリス・キムともに初見ではないのですが(2012年シリーズでこのペアは初)、しっくりくるのに最初から見るよりずっとハードル高く。

でもつくづく思うのが今日が初日じゃなくて良かったということ。
厚木が事実上、新妻キムのプレビューになったので、そこからもかなり洗練された感じ。変な力みも取れてるし、キムとして違和感なく溶け込んでいていい感じ。

新妻さんは基本的に演技プランがエンジン全開な人だけど、今回のキムはちょっぴりアクセルを緩めにしている感じで(それが新演出版だからによるものなのか、それだけこなれたのかはわかりませんが)、その押しのちょうどさがしっくり来る。

それでいて新妻キム特有の、「心地好い重さ」というか、お腹にどすっと残る感じがイイです。
本調子マックスにはまだたどり着けてはいない様とはいえ、ようやく軌道にのった感じ。

実際、その手応えは本人、周囲ともにあったようで、カーテンコールの満面の笑顔に、市村さんからの手つなぎあり、はたまた手をひらひらされてのエール(これは新妻キムにだけじゃなくて、理生ジョン、優一クリスにもやってた)が出たりと、とても微笑ましい素敵な初日でした。タムと一緒に手を振るためにしゃがんで一緒に手を振ってたり。
この日のタムは厚木よりずっとしっくり来てたかな。実際、一番なついてくれてるタムらしいし。

カテコと言えば、新妻さんにしては珍しく、優一君に駆け寄って行って腕で抱き抱えてもらってた。厚木の時もいっくんクリスに「ふにゃぁ」って感じの安堵が混じった泣き笑顔でしなだれかかっていったし(なぜ腕で押さえるかな、いっくんw)、さすが彼女としても今日の初日を迎えるまで、不安で不安でしょうがなかったんだろうなというのが「らしくない」様子ですごく分かる。

本編の話だと、この日はキスクリスだから、新妻さんが演じる役では珍しくキスがすごく多い(笑)。とはいえ、玲奈ちゃん相手と比べると、なんでこんなに回数が違うのってぐらい減ってますけど(爆)、ちなみに見た方の感想で「あんまり本編でキスされすぎるとラストキスの感動が薄くて困る」ってのがあって噴き出しちゃいましたが。

この日のハプニング3題。

「ムーランルージュ」で、ジョンの持っていたファイルから書類が1枚ひらりひらりと上手側へ・・・。
理生ジョンはとっさに「目の前のダンサーさんの腰振りに目を奪われて気が抜けて・・・」みたいな演技で取り繕ってました(笑)。
事情をわかってるリピーターさんからは「くすっ」という笑いがさざなみのように。

初日というに、新妻キムのナイトメアシーンで2秒ほどマイクがすっ飛ぶ。兵士に両手で引き離されるところだから、その辺触っちゃったのか、たまたまなんだろうけど、その一瞬の直後に「マイクがないなら生声で叫んでやろうじゃないの」的な叫びがマイクの復活とかぶさってちょっとびっくり(爆)。

エレンに責めまくられるクリス君が振り向いた時にペンが遙か遠く、上手側階段付近にまで飛んでいったのにもびっくり。
あそこまで10m以上あるよねぐらいな距離をぴょーんと飛んでいった。ひとしきり夫婦の和解シーンが終わった後、理生ジョンがちゃんと拾って去っていきました。

拾うと言えば、キムがクリスのいるホテルに駆け込んでいくときに、「タムのこと見ててっ」って飛び出す時に放っていく衣装箱。あれを回収していくのはオレンジのシャツを着たアンサンブルさんかスタッフさんなんですが、なんだかちょっと変に目立つので、あれもう少し闇に隠れる色にならないかな-。

ストーリーに触れる時間がないので今回は1つだけ。

ラストシーン直前、「クリスキム俺、3人組忘れるなよ」とエンジニアに言われたときのキムの表情が絶妙で・・・
1幕でエンジニアに助けを求めたときのキムの反応も興味深いのですが(ちなみに新妻キムと玲奈キムそれぞれ雰囲気が違うのですが、それはまたの機会に)、エンディング直前シーンの時の「私(キム)はあなた(エンジニア)のことなんか、これっぽっちも仲間だと思ってないわよ」みたいな表情がもう・・・

エンジニアはキムの掌の上で転がされてるという、表現としては適正じゃないかもしれないけど、キムの強さはタムのためならどんなことでも、というところに「エンジニアを利用してでも」という側面が含まれてて。ま、それは自業自得なところもありますけどね。

あらゆる意味でエンジニアは正しい道化だとは思います。道化に徹しられれば、それもまた人生なのかもしれません。

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『ミス・サイゴン』(9)

2012.8.18(Sat.)
 12:00~14:45 厚木市文化会館1階7列30番台後半(上手側)
 17:00~19:45 厚木市文化会館1階4列10番台中盤(下手側)
 ※なお、同会場は3列分をオケピで潰しているので、前者は4列目、後者は最前列です。

いずれも、FCさんに頑張っていただいた結果です。

というわけで、1ヶ月半ぶりの「ミス・サイゴン」新演出版、体力勝負なマチソワです。

新演出版は玲奈キムのプレビュー初日(7月2日ソワレ)の1回観劇時に、とにかく精神的にむちゃくちゃ叩きのめされたので、どこまで追い詰められるのかと覚悟して臨んだこの日のマチソワ。

マチネは新妻聖子キムの初日公演。
ソワレは笹本玲奈キムの公演。

という、「これを逃すわけには参りますまい」な組み合わせ。

プチ遠征のごとく意外に遠い厚木も、行ってみると会場の外に丹沢山系が見えたり、厚木名物(ってわけでもありませんが)「くら寿司」があったり、移動はバス業界の雄、かの有名なかなちゅー(神奈川中央交通)だったりで、意外なツボポイント満載。

さて。

自分自身、プレビュー公演のめぐろ以来、地方公演を全部すっ飛ばして厚木まで空白期間にしてあって、ずいぶん不思議がられたのですが(笑)、現実として他作品(主に「リンダリンダ」)と日程調整が上手くいかなかったのもあるんですが、この日マチネの新妻キムを見てつくづく自分の気持ちがわかって。

7月の自分は、まだ「ミス・サイゴン」モードになることを許してなかったんだ、というか無意識にバリアーを張っていたんだということが。
2012年ミス・サイゴンカンパニー最後のピースとなる新妻キムが登板してこそ、自分の気持ちの中で「ミス・サイゴン」新演出版が始まることができるということ。

今回の、7月・8月の新妻さんの無茶スケジュールについては色々と思うところはあるけれども(個人的には2004年の「ミス・サイゴン」登板時の由美子さんの「真昼のビッチ」スケジュールぶつかりがトラウマレベルなので・・・)、玲奈キムが既に新演出版にどっぷり浸かっているのはわかっていながらも、自分にとっては新妻キムと玲奈キムが揃って初めて自分が「ミス・サイゴン」に浸るのが許される、と思っていた部分があって。

それだけにこの日のマチソワは、自分にとって新演出版とこれから半年付き合っていくための、大事な大事なハードルだったりしたのです。

個人的な思いは以上の通りとしても、実際の「ミス・サイゴン」カンパニーも、大なり小なり上記の要素は含まれていたはずで、まさに「欠けたピースが全部嵌った」マチネの熱さはハンパなく。

新妻キムは、正に勢いで押しまくる、(本人談)フルスロットルキム。

前回の新妻キムが前回のソニンキムを吸い込んじゃったような(笑)力押し。それでいて意外なほどに新演出版との相性もしっくり。エンジン飛ばしまくったら新演出版からはみ出るかと心配していたのですが、1ヶ月かけて熟成を繰り返してきた新演出版は、プレビューに比べてずっと懐が深くて。

正直、「今やれる限界」をこの日の新妻キムは体現していたと思います。
というか、力押しでしか乗りきれないと思っていたからある意味想像通り。
きっとキムの繊細さや思いの深さは、これからの青山公演以降に期待ということなのだろうと思います。

そういえば新妻キムは、何カ所か「体力の限界」を感じさせるシーンがあり。特にタムを持ち上げるシーンはかなり辛そうだった。これ言ったのが新妻さんだったか笹本さんだったか忘れたのですが、タムを持ち上げるのにはテクニックがあるって言っていたような・・・。「命をあげよう」直前のタムを抱き抱えて走り込んでくるシーン、タムを床に座らせた後、表情を歪めて右の腰をさすっていた新妻キム、あれはリアルに見えました(笑)。

あと、トゥイを殺めた後から、さすらうときの青ブラウスの服が妙にしっくりきてて、さすがは実質アジアンな新妻さん。

プレビュー公演(この時は笹本キム)のあまりの虐待されぶりに引いていたのですが、新演出版が馴染んできた(この日のソワレの笹本キムは、プレビューの時ほど抵抗感なく見られた)以上に、なんか新妻キムは虐待され慣れしているような空気(あくまで空気ですので念のため)なのが不思議でした。

いずれにせよ、今まで積みあげてきた2004年/2008年の「キム」への思いが彼女を支えたのだろうし、本人も言及されていますが、この無茶スケジュールの中、「ミス・サイゴン」を必死に作り上げた共演キャスト・スタッフに何よりの大きな拍手を。

そこを持ってすると、ソワレの笹本キムは新演出版の先輩キャストとしての面目躍如で、体格の違いとはいえタムを軽々と持ち上げ(カーテンコールに至っては片手でひょいと持ち上げ)るばかりか、トゥイを殺めるシーンのスナイパーアングルが超高度なアングル(斜め下からトゥイを撃ちに行ってた)だったり、色々と興味深く。

笹本キムがトゥイを殺めた後、離れたところからじっと見ていたから兵士に気づかれて追われることになるんですよね。
こういった新演出版のポイントでの自然さは、やっぱり笹本キムに軍配って感じです。

プレビューの時から歌詞がいくつか変わっていたのがちょっとびっくりです。

プレビュー時には気づかなかったところも前方とあってちらほら。

・「ドリームランド」で相手が付かなかったジジが、エンジニアに無視されて夜の闇の中ひとりとぼとぼと帰るシーンとか。

・キムの「ムーランルージュ」での衣装は昔テレビ東京系でやってた某深夜番組の○○○なるグループみたいだなとか。

・クリスに「待ってろ」と言われた回想シーンで、律儀に階段で体育座りしたままの玲奈キムが萌えるとか。

・タムを抱き抱えるように足を組み替える玲奈キムの動きが漢前すぎるとか。

・マチネ終演時の新妻キムの右目には明らかに光るものがあったとか。

・それなのに隣にいた座長殿が手を繋いでくれないので自分から手を掴みに行ったマチネなキムさんがいたりとか。

・なのにソワレのキムさんとはとっても波長合って手を握り合っているとか。

・バンコクの街中でポストカードを売ってるエレンさんがいるとか。

・ホテルシーンであやうく下手側の椅子をひっくり返しそうなぐらい動揺してるマチネなキムさんがいたりとか。

なんかごった煮すぎてちょっとはまとめようよ、って感じですが(笑)

この日のマチソワの印象を改めてまとめておきますと、

新妻キム:熟練キム
笹本キム:円熟キム

といった感じ。

時に年齢が笹本キムの方が年上に感じるシーンがあって意外。一幕の笹本キムは無理に幼さを出そうとしていた分、新妻キムの方がしっくりきた反面、二幕の新妻キムは押し一辺倒で変化に欠けた分、笹本キムの精神的な大人さが印象的。

この日見ていておぉっと思ったのがソワレのエンディング。

「私は最後の仕事を」と言ったキムに対して、エンジニアが「ぴくっ」と反応していたのが見えたんですね。
あぁ、エンジニアはこの時キムが決断したことを認識したんだなというのが分かった。
キムにとってエンジニアは、「頼りにせざるを得ないけれど大嫌いな人」だというのが感じ取れたのが、新演出版では印象的。
打算で結びついた関係というのか・・・。

女性を売り物にして稼いでいるエンジニアという人間を、キムは本当は心の底から軽蔑しているけれど、自分が生きるためには彼は必要な人物。大嫌いなエンジニアに頼らなければならない自分の不甲斐なさをキムは責めているように見えて。

ソワレのラストシーン、タムを奪い取るようにキムから引きはがすエンジニア。

このシーン、新演出版で一番嫌いなシーンだったのですが(せめてあのシーンはキムが自分の意思でタムを渡す事にしておいて欲しかった)、でもよく考えると、あのエンジニアの姿は、「自分がアメリカに行くには、タムは大切な『アイテム』なんだ」ということ。

キムが何かに当てつけるように死を選んだようにしか思えない新演出版なのですが、何となく「他人を利用しようとする全て」に対する当てつけのように思えて。

トゥイの怨念がキムの未来を縛って、
キムの怨念がエンジニアの未来を縛って、
キムはタムをその外に連れ出したくて。

ヒロインであるキムさえ、聖人君子ではないところにこの作品の魅力があるように思えたりします。

あ、特にマチネに思ったんですが、「キム・ザ・ラスト・キス」ってエンディングに思えました。
ソワレは年中キスしてるみたいなカップルだったからその印象があまりなかったんですが(爆)。
優一クリスの狂った激しさが特に印象的。再演の井上クリス以上に激しいクリスに出会えるとは思っていなかった・・・。

次回は8月22日(木)ソワレ。
青山劇場公演の初日(新妻キム)です。

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『Bitter days , sweet nights』(3)

2012.8.11(Sat.) 18:00~20:00
CBGK!!シブゲキ E列1桁番台

千秋楽です。
8月2日から公演が始まってあっという間の千秋楽。さすがに3回見るのが日程的に限界でした。
世間一般的に十分以上だと言われるのは承知していますが(笑)。

初日がほとんど壁張り付きの上手側、日曜日がセンターなれど後方席、千秋楽がほとんど壁張り付きの下手側ということで、当然一番見やすいのはセンターでした。上手・下手はちょっと見切れが激しいですね、この作品(前方だからという理由も当然ありますが)。

もう千秋楽ですし、気にせずネタバレ全開で参ります。
DVD待ちの方は回れ右です-。

●生存率ダウン中

今回、新妻さんが演じたナツコという役は、物語後半にアメリカからやってきた恋人・ジュンによって明かされますが、「余命一ヶ月の恋人」(←ちょい違う)。

ジュンとナツコが2人で英語で会話してたときの新妻さんnatural englishは、「Are you sure , I will die ?」って聞こえたんですよね(「あなたは私がもうすぐ死ぬと言うことを分かっているのよね」→ジュンが頷く)。

あのやりとりでナツコはジュンが付いてくることを認めて、ジュンはナツコを諦めないといけないことを理解する、あの空気が実は好きでした。登場人物中、ジュンが一番大人(笑)←一番年下なのに

初日からそうだったかは覚えてないんですが、フユコの写真の紐を切った鋏を、ミノルに見えないように、こそっとしまうナツコが、なんか妙にいじらしかったり。

この日で一番のハプニングは、堀内さん演じるヤヨイに呼び出された新妻さん演じるナツコが読む楽譜。
ヤヨイが歌うその横で、ナツコの瞳から2粒の涙が楽譜へ、ほろほろと。

フユコの思いがナツコに伝わって、ヤヨイも報われたような気がしてホント素敵だったな-。

この日ずいぶん印象が違って見えたのが堀内敬子さん。
ある意味崩れない橋本さとしさん、新妻聖子さんに比べて堀内さんの感情の吐き出しは鬼気迫ってて。初日はずいぶんきれいに作ってたんだなというぐらいに進化。「どうしてミノルの肩を持つの?それじゃまるでフユコじゃない!」ってくだりはもう痛々しくて痛々しくて。

自分が一番ミノルのことを分かっている、分かってあげられていると思いたい自分は、でもミノルには拒絶され続けている。自分にとっては「やっちゃいけない」と思っていることばかりやっているナツコには、ミノルは心を許しているように見える。自分はミノルの一番になりたいのに、フユコの前ではそれを表に出すことは出来なかったし、今もナツコが自分にとってまるでフユコと同じ立場であるかのようにミノルの心を占めている・・・報われない切なさですよね。

そんな2人、ナツコとヤヨイがそれぞれの立場から歌うデュエット曲が後半部にありますが、新妻さん曰く実はこの曲、デュエットじゃなくてソロだったのだそうで、それを新妻さんの提案でデュエットにしたのだそうです(読売新聞インタビューによる)。今回の作品の最大のGJは実はこの曲をデュエットにしたコトじゃないかと、半ば本気で思っていたりします。

これと同じようなシチュエーションは「リタルダンド」では由美子さんと伊礼君のデュエットだったんですよね、そういえば。
(女性同士のデュエットじゃなかったからここだけは印象が違うんですね)

●男性不在の一之瀬家

この日、ナツコの台詞を聞いていて気づいたことが。

一之瀬家って、父親がかなり早い時期に亡くなっているようですね。
母親の病気の際に、抗がん剤の中止を申し入れたのは姉だし。

姉が一家の大黒柱だっただけに、それに抗えない自分が悔しかったのかなと>ナツコ。
姉は正しかった、それは認めざるをえないのに、気持ちは納得していない。

「愚痴を言った姿なんて見たことない」とミノルが言うような女性がフユコ。
ある意味、完璧すぎたフユコの前に、皆は自分の居場所を持てなくなっていたのかもしれない、と思わされて。
澄んだ池に魚は棲めない、という諺どおりというのか・・・。

葬式の席で「母親をなぜ静かに送ってあげられないのか」と食ってかかったナツコに、「人前ではきちんとしているように」諭したフユコ。「正しければそれでいいって言うの?」というナツコの心の声が聞こえるよう。

逆に言うと、「正しくあることが必要であること」というフユコの気持ちも考え合わせると、「正しさにこだわるフユコ」「正しさに反発するナツコ」は、新妻さんの両人格な気がします(苦笑)。

「私は間違っていない」という点において、フユコとナツコはさすが姉妹、ですから(笑)。

●死を扱うこと

前回もこの話は書いたのですが、どうも自分は「死」を利用するかのようなストーリーというのは生理的に嫌悪感がぬぐえなかったりします。ナツコの思いはナツコが余命一ヶ月だと分かったから届いたのか、それとも思いの強さそのものが強いから届いたのかが分からなくなるのが、ホンで考えると安易だなぁと。

そんな中でも、今回の作品で興味深いくだりがあります。
ナツコの病気は、実は母親と同じ病気。

母親がその病気になったときは抗がん剤を投与してもらった(つまり、がんということですね)。
でもその抗がん剤は副作用で母親を苦しめて、母親は「もうやめて」と言い続けた。
それでも自分(ナツコ)はどうしても抗がん剤の投与をやめて、とは言い出せなかった。
結局抗がん剤の投与中止は姉が医師に言って、そして母親は苦痛から解放されて亡くなった。
それでも母親の伸びた命は3ヶ月に過ぎなかった。だから私は延命治療(抗がん剤投与)より日本に帰ることを選んだ、と。

実に興味深いのは、ここはナツコが自分が意識せずに自分自身の精神的な子供さを吐露しているということなんですね。

『「もうやめて」って言った母親にどうしても抗がん剤の中止を言い出せなかったのは「自分が」それを見たくなかったからなんだ』、ということを知ったということ。

姉が「母親の気持ちを思って」抗がん剤の投与中止を申し出たからこそ、母親は安らかにこの世を去った。
故に、死ぬ間際までナツコではなくフユコの名前を呼び続けたのかなと・・・

このエピソードを聞いた時に、フユコは「責任」を知っている人で、ナツコは「自由」に生きた人で、という違いを感じて。

ナツコはフユコに勝ちたかったわけでもなんでもなかったと思うのですが、あまりにフユコが出来た人で、正論と責任に生きた人だったから、そのフユコの前で自分が、ナツコが生きている意味がどこにあったのか、確かめずにはいられずに、自分以外にただ一人フユコの本質を知るミノルにすがりに来たのだろうな、と思う。

ミノルがフユコの事をとある言葉で表現したときに、ナツコが呟く「私は本当は何も見えていなかったのかもしれない」という言葉は、帰国した頃のナツコではまず言えなかったであろう、ある意味「敗北」の言葉だけれど、でもそれは「勝ち」「負け」じゃない。

あと印象的なのは、「フユコがナツコをどう思っていたか」をナツコに聞かれて、外郭的な事実関係しか答えていないところ。「フユコが仮に何かを言っていたとしても、それをナツコに伝えたとしてフユコの気持ち100%は伝わらない。それはフユコに対して申し訳ない」という気持ちと、「ナツコが自分(ミノル)の言葉に、自分(ナツコ)が立ち直るきっかけを求めている」という気持ちに対する最大限の優しさだなと。

ミノルもジュンもあぁ見えて素敵な男性ですね。さすがはフユコとナツコが選んだ男性。

もちろん7年間もミノルを支え続けて、結局身を引くことになるであろうヤヨイも素敵。
身体は小さいのに心は大きいよね、ヤヨイ、そして堀内さん(役者さんとしてはとても好きなタイプ)。

●心残り
キッチンソングの変な振り付けはやめておいた方が良かった気がするんですが・・・(苦笑)。

●芝居の到達点。

この日のカーテンコールは、

bitter kateko , sweet cake

なんの事やら分からないと思いますが、詳細は後で明らかになります(笑)。

さとしさんだけがなんだか変な歩き方をしてきて会場内から笑いが。

「え、さっきサザエさん走りして出ようって言ったじゃん」@さとしさん

「本当にやると思ってなかった」@聖子さん

・・・・もうこの時点で面白すぎる。

進行は我らが座長、橋本さとしさんからスタート。

「本日はご覧いただきありがとうございました。このサイズの劇場でミュージカル、素敵なカンパニー、スタッフの皆さんと作れて幸せでした。」というような話を(もっと長かったはずだけど・・・)

そしてさとしさんの本領発揮の時間がやって参ります。

「本日千秋楽、新妻聖子が物真似をやります」(会場内やんやの拍手)

「えぇぇぇぇぇーーー」(本人の絶叫が小劇場全体に響き渡るw)

「なかなか上手いんだそうで」(さとしさんがもう止まらないw)

「×××××」(本人の名誉のために省略)
→あまりの恥ずかしさに、聖子さん、足から崩れ落ちていましたw

3mmも似ていない物真似でした」(さとしさん・・・・w)

気を取り直した聖子さんの千秋楽ご挨拶は、相も変わらず100点満点なご挨拶。
滑らかすぎるから忘れちゃうんですよこれが(笑)

「とても楽しい時間でした。

今日この回、実はケーキが実物なんですよ。
昼の回、ケーキが燃えまして(会場内どよめき)。
実はケーキは発泡スチロールで出来ていたんですが、昼に『なんか焦げ臭くて歌えないな』と思って横を見たら、えらい燃えていて(笑)全焼しちゃったんです。
だから千秋楽は本物のケーキで、後でいただくの楽しみなんです(←結局は食ネタのミュージカル女優さん)

素敵なキャストの皆さん、スタッフの皆さん、そして素敵なお客さまとのコミュニケーションで素敵な時間を過ごせました。これほど小さい規模の劇場でミュージカルをやることができたことは今まででほとんど初めてというぐらいで、嬉しかったです。ありがとうございました」

そしてさとしさんが引き取り、「ということは締めをこれからの方がやっていただくということになります」と言うや否や、舞台下手側の3人が奇妙な動きを・・・(笑)

舞台最上手にさとしさん、センターに聖子さんがいるということは、残りお3方、きよちゃん(ピアノの荻野清子さん)→上山君→堀内さんの順にいるわけなんですが、堀内さんが必死に上山君を後ろに押し出そうとする(笑)。残念ながら(爆)上山君がこらえて堀内さんが悔しそうな表情(爆)。

そして荻野さん。さとしさんいわく「生声貴重ですよ」でしたが、実は「国民の映画」で一度聞いてたりして・・・

「素敵なキャストの皆さんとご一緒できて嬉しかったです。お客さまにも感謝」とご挨拶。

そしてきよちゃんの挨拶が終わるやいなや、堀内さんが前に進み出る強引な技に打って出るも・・・

そこはさとしさん見逃しません

「それでは上山竜司~」

堀内さんの悔しそうな顔(2回目)が絶品でした(爆)。

上山君は降板になった迅君にも触れて(ちなみに迅君はこの日のマチネを観劇したそうですこちら)、「迅君も一緒でこのカンパニー。みんな一緒にこの作品を作れて良かった」と素敵なご挨拶。

堀内さんもキャスト、スタッフ、お客さまへの感謝の気持ちをひとしきり言われた後、「聖子ちゃんと一緒に歌を歌わせていただいて、聖子ちゃん本当に歌がお上手で、私まで歌が上手になったんじゃないかって錯覚して嬉しかったです」という天然すぎる挨拶が最強でした。
ぶんぶん首を横に振ってるナツコちゃんも素敵です-。

カテコ最後はさとしさんが結局締め。
「小劇場出身の自分なんでこの作品が新たな自分の原点になりました。
これから出演者それぞれ舞台や映像でお目にかかります。これからも応援よろしくお願いします。
本日はありがとうございました」

という締めで終了。さすが締め職人出身者は強いですね-。

おまけ
ロビーにジョン・ケアードさんがいらしてびっくり。隣にいらしたのは奥様(元ファンテーヌ)ですね。

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『Bitter days , sweet nights』(2)

2012.8.5(Sun.) 13:00~15:10
CBGK!!シブゲキ I列1桁番台(センターブロック)

初日の最前列からうって変わって中盤列。とはいえ何しろ小劇場サイズですから、全然遠い感じはありません。
多少前の人の座高が気になるものの、特に新妻さんの死角は上手端でしゃがみ込んだシーンぐらいだったので、無問題。

初日にはお見かけしなかったいつもいらっしゃる皆さまは、この日に大集結。日曜マチネのみというのは・・・皆さまお考えになることは一緒ですね。

もう日曜日も回ったし、ネタバレ全開でいいですよね(微笑)

ちなみにこの日印象的だった新妻さん日常シーン(と思われる部分)

「禁止されるとやりたくなっちゃうんだよね」
「わかってないなーーーー」
「あったま悪いなーーーー」

以上が三強でした(笑)



この作品、新妻さんいわく「アトリエミュージカル」なのですが(ちなみにプロデューサーさんの命名だそう)、個人的な命名は「洞窟ミュージカル」です(爆)。

や、なんだか暗闇の中で光を追い求める感じがなんか。



1回目は釈然としなかったところが回収できるのがリピート観劇の醍醐味。
それはある意味言い訳ですけど(笑)。

今回感じたのはフユコの存在の大きさ。

自暴自棄になってるミノルにとっても、親友のために親身になろうとするヤヨイにとっても、そして姉との10年間の別れがあったからこそ、姉との時間が愛おしく思えるようになったナツコにとっても。

興味深かったのは、その中でもナツコの割り切り。
フユコを失って、前に進めないミノルとヤヨイに比べると、ナツコはフユコとの関係に先に区切りをつけているんですね。
「憎む」ことで忘れられると信じているナツコ。
大事な母の最期を、大事にしなかった(と思っている)フユコの存在を、ナツコは憎むことで忘れたいと。

亡くなってなお、むしろ亡くなったからこそ強く存在が生き続ける人というのは実際にいるのでしょうし「恨み言一つさえ言わなかった」とミノルが言い、憎んでいる(と思い込みたい)ナツコも、そこは認めざるを得ない。

3人の姿を見ていると、「人間とは忘れたい生き物なんだな」と思わされます。
ただそれはナツコが語るように「忘れたい、忘れたいと思ったら忘れまい、と思っているのと同じ」。

妹であるナツコは、妹であるが故にフユコの存在から逃れる術を一番最初に気づいた。
けどそれは決して前向きな解決策じゃなくて。心に抱いた違和感が、彼女を日本に向かわせたのだろうなと。

ミノルもヤヨイも、ナツコのお陰でフユコとのことを消化して前に進むことが出来た。
そしてナツコも、不幸な形でなしに、フユコとの関係を再認識することが出来た。

「病」というエッセンスを隠し味に、というのは何しろ「リタルダンド」で「病」を前面に出した時に比べると正直、安易なストーリー展開だし、お陰様で新妻聖子さまの舞台作品生存率はまた下がったんですが(※)

(※)舞台作品18作19役目で、劇中で亡くなるのは10役目。
特に最近は、去年1月の「青空!」の後は、一度も舞台で生き残っていません

新妻さんと堀内さんの歌は本当に耳福だし、今まで経験したことがない同調のハーモニーを感じるのですが(「プライド」の玲奈ちゃんの時は競い合うという感じで、今回とまた違った魅力)、こと物語としてはどうしても自分の中にある「リタルダンド」の残像から抜け出せないというか。

似た物語のはずなのに、気になるのは、今回の物語では2人もの「死」ないし「死が見えた状況」を扱っているのですね。既に亡くなったフユコ、そしてもう一人(亡くなったという話まで語られてはいないけれども)。
そこに多少なりともの、やり過ぎ感を感じるのですね。

フユコが亡くなっているのは物語上前提だからしょうがない。
でももう一人にまで「死」を絡ませる必要はないでしょう。
というか「死」が見えたからこそ周囲の取り巻く人々の気持ちが変わったかのようで、なんだかちょっと安易。

誤解を恐れず言うなら、「死」をただの物語の転回ツールとして使ったような点は、自分にはどうにも釈然としません。



そんなモヤモヤはありつつも、音楽の心地良さに酔う2時間。
目立つ曲はダイジェスト+歌稽古風景に漏れなく収録されているのがある意味困ったモノですが(苦笑)、色々な意味で、この時期の共演者が声調のフィット感満点の堀内さんと、芝居勘ぴったりのさとしさんで良かった。

「気にしないように気にしないようにと思うと、かえって気になるもんなんだよ。視野を広げなきゃ」

G2さんがナツコに言わせた言葉、これは7月から8月にかけての、新妻さんへのメッセージだったように、少しだけ思えるのです。

舞台作品が何事もなく上演されていることが、実は奇跡そのものなのだ、ということが、この作品で一番身にしみてわかったことなのかもしれません。

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『Woo!!MAN』

2012.8.3(Fri.) 19:00~21:00
紀伊國屋ホール N列10番台後半(上手側)

LEMON LIVE公演は去年の「TRAIN TRAIN」に続き2度目。あの時は下北沢駅前劇場でしたが、今回は紀伊國屋ホール。
紀伊國屋サザンシアターと間違えず、ちゃんと紀伊國屋書店新宿本店を目指せました(よく間違える方いらっしゃるそうですね)。

一度入った劇場って忘れないもんなんですが、2度目なはずの紀伊國屋ホールの1度目の印象が全くない。1度目は笹本玲奈嬢の初(といいながら今まで唯一な)ストレートプレイ『ハゲレット』だったはずなのですが、人間の記憶なんて儚いものです。

会場内に入ってみると、売り子に植本さんが(笑)。
え、本番まで30分切ってますけど・・・。
パンフレット購入して言葉を交わして・・・それにしても、結局開演5分前近くまでいらしたような。

この公演のお目当ては3人。

人呼んで「演劇界のちょい悪オヤジ」こと、青年座の山路さん。
女性を演じさせると日本一の俳優、植本さん。
そしてキャラメルボックスの腹黒王子こと、岡田達也さん。

・・・えらい言いようですね(苦笑)。

この3人聞いただけで反則技がいくつも想像つくわけですが、というかこの中だとおかたつさん、ただの普通ですね(笑)。

1人2役、男性キャストはみんな息子と母親の2役で、2つのストーリーが同時進行します。
片や借金苦で追い詰められた新宿二丁目のオカマバーのオーナーと、その苦境を救おうと立ち上がる元同僚たちという「息子」グループ。

片や韓流アイドルに夢中で翌日のイベントのために旅館に泊まる「母親」グループ。

この2つがパラレルワールドの如く展開。

母親グループの女装姿がおかしくてしょうがないんですが、わけても植本さんのハマリ方が流石の一語。
温泉旅館の若女将の桃が落ち込んでいる姿を見て、優しく励ましている姿にじーんと。
つかなんで男性でその味が出せますか、植本さん・・・

存在自体が卑怯以外の何物でもない山路さん(←褒めているつもりです)
以前「淫乱斎英泉」で拝見して以来2度目ですが、山路さんの魅力は、何と言ってもチャーミングさ。
なんだかわからない特有の身体のひねり方が他の人には真似できないんですよねぇ。
「ただもんじゃない」オーラを纏って、実際にただもんじゃない登場人物を、いとも軽々と演じるその素晴らしさに、この日も感嘆しまくり。

物語の実質的な中心にいるのが、演劇集団キャラメルボックスの看板俳優、岡田達也氏。
この方もなんというか自分のイメージの舞台俳優そのままの方、と言うかフリーダムですよね。
まっすぐなのに熱いのに、でも暑苦しくない稀有な俳優さん。
この日も苦境の元同僚を救おうと先頭に立って闘う様は無駄にカッコイイ(無駄言うなw)

そんな3人を見ながら物語の進みを見ていると、2つの世界がひょんなことから繋がったかのような時があって、そこからエンディングまでが「おおっ」とちょっと感動。

途中まで「面白いんだけどなんだかストーリーよく分からん」状態だったのが、ストンと腑に落ちる瞬間は、芝居見てて嬉しい瞬間ですね。



この日はきだつよしさんの43回目のバースディ。即席お祝いでしたが、さすがに2回目にコメント求められたら困ってましたね。



終演後はロビーで売り子に立っているおかたつ氏の列に、男だてらに並ぶ(笑)。伸びた列に並ぶ男性なんているとは思えず(少なくとも自分が並んだタイミングでは自分1人)、でも実は「達也汁」楽しみにしていたんです(爆)。

女装なおかたつ氏に「女性と握手させて貰いに来ました」って言ってきました(爆)。

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『Bitter days , sweet nights』(1)

2012.8.2(Thu.) 19:00~21:00
CBGKシブゲキ!! A列(最前列)上手側

この作品、ネタバレしないでどうやって物語を語ればいいのだろう・・・(苦笑)。

渋谷ユニクロ6F、小劇場での小品なミュージカル。

ちなみに、この物語、昼は「bitter」そのものでしたが、夜はさほど「sweet」ではありませんでした。
よかった(こら~)。

DVD化が決定しており、9日マチネ・ソワレにカメラが入ります。
6800円で会場先行予約受付中。

ネタバレに入る前に、実害のない感想。

それにしても、新妻さんの日常なんじゃないの?と思うかのようなシーンが続々。

ミノルの家で朝食作り始めて、ミノルが「どけっ」と言っても「私は上手く作れるのよ」と強がっても、できあがりが「・・・」で、結局食べる専門になるナツコ(笑)

今までナツキちゃん(青空!)が一番だと思ってたけど、今回のナツコはそれさえも飛び越して、「新妻さんの役あてがき選手権優勝」をあげてもいい(笑)

簡単にストーリーを。

橋本さとしさん演じる主人公・ミノルは、カメラマン。最愛の妻であるフユコを亡くして以来無気力で酒浸りな日々。フユコの親友だったヤヨイ(演じるは堀内敬子さん)はミノルの尻を叩くが、ミノルは全く何も動こうとしない。
そんなある日にやってきたフユコ・・・とミノルは勘違いするのですが・・・

「よく帰ってきてくれたな」
「私はフユコじゃない!」

新妻聖子さん演じる、ナツコはフユコの妹で、フユコと瓜二つ。ミノルを挟んでヤヨイとナツコが対面する傍ら、もう一人の登場人物・ジュンはナツコを追ってアメリカからやってきた。ジュンはこの日はWキャストのうち、上山竜司くん。
7月下旬に、白洲迅くんの急病でWキャストとして追加されたにしては彼、すさまじくデキます。

パンフレットも実は2人の名前が入っていたので、それなりに前からWキャストになるのは決まっていたみたいですね。
(このクラスのパンフレットを1週間で刷り直すのは厳しい気がします。ちなみに対談の大笑い大会(正確には「さとしさんマゾ状態」)がとても楽しいです。さとしさんいわく「両手に花なのに二人とも言うことキツいんだよな」←笑)

あ、あと今回のパンフレットむちゃくちゃ面白いです。
さとしさんを囲んだ”とげのある2女優”との鼎談が大爆笑ですし、
新妻さんのG2さん評に絡めた演出家評とか最高すぎる。



ここからは強力なネタバレがありますから、ご覧になる前の方はご注意!




G2さんと荻野清子さんの組み合わせ。

女優お二方が口を揃えて「似てる!」というだけのことはある(見終わってから読んでください…状態で本当によかった)、「リタルダンド」に瓜二つです。

ポジショニング的には聖子さんが一路さん、敬子さんが由美子さんという感じで、「二人の女性が同じ人を愛する」という、とある作品の某登場人物いわく「恋愛相談の基本パターンです」という(笑)

「そうか、私の恋愛はパターンなのか」(違)

敬子さんと由美子さんはコメディエンヌという点で女優さんとしてのベクトルが似ているので、実は聖子さんとの共演を望みはしたんですが、今見終わってみるとそれがなくて良かったことが分かります。

同じ人がやったらさすがに印象被りすぎるってことなんですね。

今回の物語のキーは、新妻さん演じるナツコが、亡き姉の夫である橋本さとしさん演じるミノルの元に戻ってきたか、なのです。

ナツコ本人は数年前にその家を飛び出して以来、姉の葬儀にも顔を出していない、それをミノルになじられるほどの有様。

で、ここで何がネタバレなのかというと。

先ほど「リタルダンド」に瓜二つ、と申しました。

「リタルダンド」は吉田鋼太郎さん演じる働き盛りの編集長が主人公。
奥さん役が一路さんで、編集長を想う女性役が由美子さんだったのですが、この編集長さん、若年性アルツハイマーになってしまうのです。

「リタルダンド」はその病名自体が先に明かされていましたから、それが先にありきで、みんなそこを前提に見に行くわけです。
が、今回のビタスイはそんな前提はないんですが、「なぜナツコが急に日本に帰ってきたか」・・・

えーと、新妻さんの母上が観劇後に楽屋で開口一番「あなた、また○ぬ役なの」と言うのが目に浮かぶ(爆)。



この作品の登場人物はみんな心に穴が空いているのですが、それが埋まっていく過程が感動的で無理がなくて、その辺はさすがG2さんだと思う。

「こころにぽっかり穴が」という歌詞がいみじくも新妻さん演じるナツコによって歌われているのですが、これがこの作品の肝なのかなと。

ミノルの心に空いた穴はフユコがいなくなったこと、それもただいなくなっただけじゃないこと。
ナツコの心に空いた穴は姉であるフユコを通した家族の絆の不在だし、ヤヨイの心に空いた穴は、親友のために必死になってもミノルには伝わらないことだろうし・・・etc

ミノル・ナツコ・ヤヨイの3人ではどうしようもなくなった物語が、ジュンの登場によって動き出す。
ジュンの台詞は半分が英語で、そこにはジュンより上手い英語を話す女性が一人・・・(笑)。

ナツコは実は英語でキーになる言葉を言ってます。
その事実はほぼ同時にヤヨイが知っていますが。
あの言葉、聞いた瞬間に「まさか」と思ったんですけど、聞き間違いじゃなかったんですね。



今回G2さん上手いなぁと思ったのは、ミノルの部屋の話。

この部屋、実はミノルとナツコが半分ずつ権利を持っているんです。

・・・普通に考えるとおかしいですよね。
元々はフユコとナツコが半分ずつ権利を持っていたんです。共同所有ですね。
フユコが亡くなって、夫であるミノルがフユコの分を承継。

結果的に、夫婦ではないミノルとナツコが同じ部屋を半分ずつ所有するという不思議な関係が生まれています。

で、ヤヨイはナツコに「もう出て行きなよ」と好意分50%(推定)で言う訳なのですがナツコは首を縦に振らないのですね。
自分の心に空いた穴は、ミノルにしか埋められないし、ミノルの心の穴を埋めるのはフユコの妹であるナツコにとって、自分の使命でもあるし、それは自分の心に空いた穴を埋める作業でもある。
でもそれをするためにはナツコとミノルの唯一の現実的なつながりであるこの部屋は手放すわけにはいかない・・・

もう一面、一つの部屋を共同所有する2人は、ある意味他人ではないということを示してもいて、このあたりが絶妙に上手いなぁと思います。

※共同所有の場合、売却するには自分以外の権利者の承認も必要ですが、他の権利者の権利を侵害しない範囲において法定相続するのは、自分以外の権利者の承諾は必要なかったはず・・・(ナツコはアメリカに行っていて承認が取れない)。



話は戻って。

登場人物4人、それぞれ大変に魅力的です。

橋本さとしさん。とある理由により親近感を持っている俳優さんですが(理由略)、あれだけ自堕落になってさえ魅力的なのが男性としてはずるすぎるとしか言えない(笑)。男性はちょっとダメなぐらいが魅力的だよねー(←をい)。

新妻聖子さん。縦横無尽に飛び跳ねるキリンみたいな役(どんな喩えだ)。ミノルもなぜか邪険に出来ない、自分の心にずかずか入ってくる厚かましさは、でもどこかフユコと通じる空気感なのでしょうね。ミノルにとっては、多分「心地好いおせっかい」なんだと思う。

あ、あとここのところご本人のblog、tweetとかで「体調がbitter」という話が出ていましたが、この日の彼女を見る限りは、いつもどおりな感じで一安心。

堀内敬子さん。この人も結構ズルい存在感(笑)。褒め言葉ですけど。天然な確信犯っぷりが素敵すぎる。ミノルにとっては放っておいてほしい存在なんだろうけど、自分の限界を悟ってナツコに真実を告げるあたりが本当に素敵。某シーンでのミノルへのツッコミが最強過ぎて大激笑でした。

上山竜司さん。急遽登板でここまでできるって普通に凄い。昔、新妻さんが絶賛してた「RENT」のマサ君みたいな話だ(この作品はそこまで登場シーンはないとはいえ)。

荻野清子さん。舞台上でピアノ姿を見るのはもう3回目ですっかりおなじみ(「リタルダンド」「国民の映画」そして今回の「ビタスイ」)。ピアノの音が優しくて好きなんですよ-。



今回は最前列ということで、目の前1mにさとしさんがいたり、目の前1mに聖子さんがいたり、目の前1mに敬子さんがいたり、目の前1mに・・・(←もういいw)で迫力でしたが、完全に死角になるのもあった(さとしさんがこっち見てて、聖子さんが背中だったり、その逆もあったり)ので、次回(日曜マチネ)は後方に行くのでまた違った風景が見られるのが楽しみです。

そういえば、室内という設定だったのでミノルとナツコはほぼ素足で、初めて見たので何か違和感でした(笑)

ちなみに聖子さんご自身が「アトリエのような空間」とおっしゃってましたが、
なんだかナツコがロダン、ミノルがカミーユに見えたシーンがありました(爆)。

ナツコがパワフルすぎっ(笑)

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