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『リタルダンド』(1)

 2011.7.15(Fri.) 18:30~21:10
 パルコ劇場X列20番台中盤(最前列上手側)

 この作品の公演初日は、忘れられない日になりました。

 公演もラストに近い21時。
 その瞬間、座席が揺れました。
 茨城県南部を震源とする地震、東京は震度4でした。

 ご存知の通り、パルコ劇場は渋谷パルコ9Fにあり、東京にある劇場の中では恐らく最高標高の劇場なので、ここで揺れると怖いだろうなーと思ってはいましたが、3月の「国民の映画」では2回とも地震には遭遇せず、しかしこの日はまさかの初日、しかもまさかのラストシーン。

 舞台上の照明が、がしゃがしゃ揺れるのは、震度3ぐらいと、キャラメルボックスの前説と、ラッパ屋の前説で同じことを聞いていたので(笑)、あぁー揺れるなーぐらいに思ってはいたのですが、舞台上も進行は一旦ストップ。

 とはいえわずか10数秒程度の様子見の後、吉田鋼太郎さんの熱演を引き金にしたカンパニー全員の「この舞台をやり切るんだ」という空気、そして舞台上からも触発され、客席が一人も立たず「この舞台を最後まで見届けるんだ」という空気で答えた様子が、なんだか、とっても「リタルダンド」の「暖かさ」というか、一心同体的な感じがしました。
 ・・・というか、「素敵な作品、好きな役者となら、運命は一緒」とみんなが肝が座ってるのはさすがだなと思いました(苦笑)。

 もはや最近は「地震が来ても立たないでその場にいてね(はーと)」というご案内はされなくなりました。
地震が来てから「あぁそういや今日は言われていないな」と思いましたけれども。

 さて、話は戻って本編の話に。

 今作は「若年性アルツハイマー」をテーマに、アルツハイマーにかかるのが雑誌編集長、吉田鋼太郎さん。その夫を支える新婚の妻が、一路真輝さん。
 その2人を取り巻く人々として登場するのが、雑誌「リタルダンド」の編集部に在籍する女性編集者・吉野役、高橋由美子さん。編集長を尊敬し、吉野に実は惚れている、若手編集者・藤原役が伊礼彼方さん。
 夫婦の息子・恵治役が松下洸平さん。妻の兄が山崎一さん、編集長の昔からの知り合いのライター・泉役に市川しんぺーさん。

 今回の演出・G2さんが、アルツハイマーは「長期間暖めていた間に、他で色々作られてしまって」と後悔の念を言われていましたが、確かに自分もどこかで見たな・・・と思っていたら、壁に貼られていた紙で気づきました。

 あ。「私の頭の中の消しゴム」(天王洲銀河劇場)だ。

 アルツハイマーになった人の、「忘れたくない」という想い、それが「メモ」という形で書き留められる、その光景は悲鳴でもあり、記憶をつなぎ止める命綱でもあるのでしょう。

 シーンを進むごとに吉田さん演じる笹岡から発せられる「今日は何月何日何曜日だ」という問いは、実は季節の巡りを日付で表現しています。最初は3月に始まり、最後が10月なので、ほぼ半年なのですが、実は発症の時点で結婚して半年なので、一路さん演じる妻が結婚してから死別するまでの一年間、半年は幸せであり、半年は「苦しみを共有」した期間なのですね。

 一路さんは「モーツァルト!」名古屋公演以来に拝見するので、6年ぶりですが、本当に「まっすぐ」そして「しなやか」な方だなと。献身的に支える妻にとって、「記憶が抜けていく明確な自覚がない夫」からの、刺さるような言葉に、それでも耐える様は凄いです。むろん、無理した様子を見せまいとしてはいるのですが、女性として、妻として、最も辛い言葉を言われながら、それでも最後の最後まで夫を支え続けたのは、一路さんだからこそ表現できたものと思います。ただ、若干のネタバレにはなってしまいますが、献身的に支え続け弱音を吐かなかった妻が、ただ一度本音を言ったとき、だからこそ、夫は本当の気持ちを返せて、それでこそ妻は救われたのかなと思ったりすると、なるほどと思うところがありました。

 吉田鋼太郎さん。今作同様、G2さんの「MIDSUMMER CAROL~ガマ王子vsザリガニ魔人」のガンコおやじ役で拝見して以来なので2年ぶり。あー、なんか男勝りの看護婦さん(新妻聖子さん)にてやんでい言葉でどやされてたことははっきり覚えてる(←記憶が偏っている自覚はある)
 G2さんが「この役は鋼太郎さんしかできない、60までも待つつもりだった」とまでおっしゃっていますが、実は「若年性」という言葉と鋼太郎さんのイメージが、見るまではフィットしなかったのはちょっとしたひとり言。

 伊礼彼方さん。編集部の若手編集者にして、前述の通り吉野姫(←実はねたばれ)に惚れてる役。えーこのハンサムさんになびかないんだ吉野姫・・・とか思っちゃいますが(笑)、まぁ昭和のテイストだし(←実はねたばれ)、吉野姫は編集長と一度だけ関係があったという設定ですからね。
 動けるし押しもあるし華もある、実は初めて拝見する役者さんですが結構はまりました(笑)
 この方が12月クリエ「カミーユとロダン」の新妻姫(無事、鰻骨姫を卒業)の共演者さんなんですねー楽しみ-。

 山崎一さん。一路さんの兄役で、妹を案じるばかりに笹岡にはきつく当たります。みんなが笹岡に対して「何とか支えたい」という印象が強いのに比べ、1人笹岡に対して敵対イメージなので、異色ではありますが、逆に主人公オール賛辞にならない、貴重なキャラクターです。
 こまつ座「日本人のへそ」以来に拝見します。あぁあの時と全く持ってかぶらない役(笑)

 松下洸平さん。夫婦の息子ですが、笹岡の連れ子で、一路さん演じる女性とは実は直接血がつながっていないという関係。かなり長期にわたり「洋子さん」と言っていますが、父親の様子を見るに付け次第に心が通い合っていきます。
 劇中、一路さん演じる洋子が「父親と息子ってなかなか難しいのねぇ」と呟いてるシーンが、意外なことに自分のツボでした。はい、その通りです。

 市川しんぺーさん。この作品の中で一番の自由人でありながら、吉野姫に「もう来るな」とまで言われながら、実は笹岡の心の中を一番見通せていたんじゃないかと思わせる役。まぁ、吉野姫の中の人が「羨ましい」と言うだけのことはある立ち位置です。
 喩えるならHOBOの有川マコトさん的なポジションですか。

 そしてようやくたどり着いた高橋由美子さん。初日ということもあり、由美子さんにしてはずいぶん噛んでましたが、相変わらず精神的に辛そうな役やってます。というか女性陣お二人、一路さんと由美子さんはふたりともいつ精神病んでもおかしくないような役です(爆)。

 舞台上で「姫」と呼ばれたのは初では(笑)。

 吉野は過去一度だけ笹岡と関係を持ったという設定ですが、記憶を忘れ始めた笹岡に、「私は新しい?古い?」と聞いている様はもう胸が苦しくて。
(若年性アルツハイマーは、新しい記憶から順になくなっていくと言われています)

 一路さん演じる洋子と、由美子さん演じる吉野は、笹岡からある瞬間に、それぞれものすごいダメージを受ける言葉を投げつけられ、身じろぎできずに表情がこわばる瞬間があります。ちょうど、その2人の表情が上手側から一直線に並んだとき、「プライド」の一直線事件(萌&史緒&蘭丸)以来の衝撃を受けました。

 言った笹岡にとっては、何一つの悪意もない。
 その現実を分かった上で、でも自分に投げられた言葉は、自分の大事な部分を刺し貫く言葉の刃。

 洋子と吉野は長い付き合い(だそうです)とはいえ、洋子にしてみれば吉野と笹岡の関係を薄々感じてはいるでしょうし、吉野にしてみれば洋子には勝てないけれど勝ちたい思いもある。

 でもなんだか、笹岡と対する間に、「同じ痛みを共有した同志」なのかもと思えるようになったのが、この2人の関係のとても不思議な部分でもありました。
 一路さんと由美子さんって芝居の相性いいですね(由美子さんは一路さんとの再共演を今回望んだのだそうですが)。

 でもさらにこの2人の関係といえば、2幕後半に出てくる、「リタルダンド」特別編集号実現のための最後の極めつけとして出てくるシーンが・・・・洋子には悪気はないし、吉野にとっても苦渋の思いではあったのでしょう。つか雑誌のためとはいえ、好きな吉野相手にあれはないやろ藤原。あれほど残酷なことはないなと。
洋子も辛いだろうけど、あれは吉野にとっては泣きたい叫びたい思いだろうなと。

 そういえば2幕後半の某シーンで、姫と市川しんぺーさんとやりあう、この作品まさかのコメディーパート(内容的にコメディーって言うと吉野姫に張り倒されそうだな)が会場内の爆笑を誘っていましたが、あぁいうネタで笑いを取る年代なんだよなー。
それがはまりすぎるほどはまっちゃうのも困ったもんだ(苦笑)。

 ちなみに「吉野姫」とは、彼女が新人で編集部に配属されたときに付けられたあだ名。この呼び方を笹岡からされるのが、彼女にとっては実は・・・という件も本当に胸が苦しくなりましたね。

 由美子さんの歌は1曲。伊礼君、鋼太郎さんと声を重ねるところもあるのでソロではないのですが、いわゆる芝居歌系で、多少高音に厳しさはあるとはいえ、説得力はさすがです。あぁいう歌で気持ちを表現するのはお手の物だしなぁ。

・・・・・・

 この作品、笹岡夫婦の半年、を描いてはいるのですが、それぞれの登場人物が、なにがしかの犠牲を払い、なにがしかの苦しみを味わい、その上で次に向かっていく。

 同じアルツハイマーを描いた「わたしの頭の中の消しゴム」よりも、むしろ自分にとってのこの種のテーマの原点、「時の輝き」(映画版)に似た空気をちょっと感じたりしました。

・・・・・・

 この日は、カーテンコール3回目で、鋼太郎さんから振りがあり「妻からご挨拶を」ということで一路さんが代表してご挨拶。

「あの時、誰一人立たなかったのが嬉しかったです(涙)」

 作品の感動もさることながら、あのタイミングの地震で、「リタルダンド」に対する思いが増幅されたかのように、舞台と客席が一体になったかのような不思議な感覚が味わえて。

 一人一人がそれぞれに輝いて、作品も作品で輝いて、それに加えてのこの一体感。
 本編140分が実に短く感じた作品、この作品がリピートできることが、とても嬉しいです。

(追伸)
 いつのまにか白地のチラシが本チラシに。
無事ゲットできましたが、この白地のチラシのポスター、欲しかったな-。売ってくれないかな-。

7/17追記
前日のゲネプロ後の会見記事がupされていました→こちら
相変わらず芝居のことは語らない由美子さんですが。
理屈よりも感性で演じるタイプなんでしょうけれども。

それにしても、大ピンチの一路さんを救った伊礼君。
かっこいいじゃないですか! さすがですね。

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コメント

ひろき兄、こんにちは。
いつも乍らの緻密な分析、楽しく拝読させて頂いております。


それにしても大きい地震、びっくりしましたねぇ〜。それも一番盛り上がっているところで。ホント、忘れられない初日となりました。

千秋楽までよろしくお願いします♪

投稿: mac-K | 2011/07/16 19:30

mac-Kさん、コメントありがとうございます。やはり同じ場にいらしたのですね。初日は私は東宝芸能第一枠(センターブロック)から、はみ出たので(笑)、上手端でした。きっと半径1m以内にはいたのではと・・・

由美子さん、二日目以降は由美子ファンが見ていないことをいいことに(笑)、なんか新技入れてるみたいですよ。

次は私は20日ですが、今から楽しみにしてます。

投稿: ひろき | 2011/07/17 20:33

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