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『リタルダンド』(3)

2011.7.31(Sun.) 12:30~15:10
パルコ劇場M列30番台前半(上手側)

東京楽、終わってしまいました。

楽という感傷に浸るでもなく、いつも以上に素晴らしい舞台を見せてくれたカンパニーの奇跡にただただ感謝、そして拍手。
前日までの芝居を決してなぞらず、今日だけの芝居を追求して、それでいて作品の軸は全然ぶれないのが、この強者揃いのカンパニー。
普通、楽って思い出作りみたいなところがあるのに、自分が見た4回の中でも文句なしにベストな芝居の回でした。

前回、お芝居語りが中途半端になっていて気になってはいたのですが、何しろ書く時間がない!今日はその辺を何とかすくい上げたいと思います。
(カーテンコールレポは後半に)



●アトランダムの悲劇
今回の舞台で取り上げられているアルツハイマー病、劇中では「新しい方から記憶が失われていく」と、その病気を過去取材したことがある泉が(ストーリーテラー的に)語っていますが、この病気の「難儀」なのが、「記憶の重要度で忘れられるかどうかが決まる」わけではなさそうなところ(論文を専門に読んだわけではありませんが)。

高橋由美子さん演じる吉野が、編集長に対して(そういえば吉野は「潤治さん」とは絶対に呼ばずに「編集長」と呼びますね。決めている境界線がそこにはあるのでしょう)「私は新しい?古い?」と問いかけるシーンがあります(ここの笑いが日々減っていったのは、リピーター率の高さを物語ります)。

これは「新しい方から記憶が消えていく」と泉が言ったからではあるのですが、どうも吉野は「新しさ」や「古さ」やましてや、「重要さ」で記憶が失われるのが決まるわけではない、というのをある時点で悟ったようなところがあります。

ある時点というのは2幕で伊礼彼方君演じる藤原と一緒に歌い上げるあのシーンかなと思うのですが、あの前で編集長にとっての吉野の記憶は、「吉野にとって大切な一夜」はもう消えていて、どんなに自分が思っても、でも編集長の記憶からは消えてしまう・・・そんな吉野にとっては、「自分が重要な記憶じゃないから忘れられる」”わけじゃない”ことは、ちょっとだけ救いだったのかもと思ったりしました。

むろん、忘れられたくはないのはもちろんで、それを演じる由美子さんは本当に全身で表現されているのだけれども、「忘れたくない」と編集長に言ってもらえたことはせめてもの救いだったのかなと。

何しろ、すぐそこには「前妻の名前で呼ばれ続ける洋子さん」がいる以上、立場上あらゆる意味で吉野は自分の気持ちを出すわけにはいかないですからね(二重三重にきつい立場だなと)。

今日見ていて気づいたのですが、吉野が「吉野姫」として編集長の中に記憶が残っているのに対して、実は藤原は既に忘れられているようなんですね。「おたくもどうですか」って編集長から話しかけられたときの藤原演じる伊礼君の表情がもう・・・・

吉野ばかりを見ていたあの曲なのですが、実は藤原の心の叫びも同じ内容でリンクしているのを感じるにつけ、より重層的に叫びが聞こえてくる気がします。

●女の対決
この作品、7人の登場人物中の女性は2人ですが、一路真輝さん演じる洋子と、高橋由美子さん演じる吉野の関係は摩訶不思議の域を軽々と超越します。

吉野「私は編集長とは長い付き合いです」
洋子「吉野さん、何が言いたいの」

ここで吉野は直接対決を回避するのですが、楽で印象的だったのは、2幕で潤治が洋子にあてたラブレターを、洋子が吉野に渡すところのシーンが、どことなく「洋子は『吉野と潤治の関係』に気づいている」ように見えて。
それを受けてなのだと思うのですが、吉野も「洋子に気づかれたかのような焦り」を見せていて。

ただ、洋子も吉野を責める様子は見せないところがいいなって。
本妻と愛人なのに友情が成立してそうな、洋子と吉野の関係は不思議なのになぜか暖かい。
一緒に潤治を支える同志というのか。
一路さんと由美子さん2人が修羅場になってるのを見てみたい気もしないでもないのですが、この作品はこれでいいです(笑)。

吉野見てて凄いなと思ったのは山崎一さん演じる洋子の弟・義男が離婚届を潤治に書かせようとする時に本気で止めに行っているところ。潤治と一緒になりたければ、洋子と潤治が離婚するのは必須条件なのに、それと反する行動をしているところが。

既に潤治はかなり症状が進行しており、「私は洋子さんのようにはできない」と吉野が白旗を上げている点はあるにせよ、それでもまっすぐに洋子のためを思って(むろんそれは編集長のためという前提がある)阻止に行く吉野は、「女の中の女」だと思うのです。

洋子と吉野の、潤治を支える様子って、時にどちらかが外側になるのですね。洋子が吉野を含めた潤治を包み込むときと、吉野が洋子を含めた潤治を包み込むときと。これがいったりきたりするからこの作品は温かいのかなと。

「あんたが取り乱してどうすんのよ!一番辛いのは洋子・・・」
と吉野が言葉を切るシーンがあるのですが、ここで洋子さんが「ありがと。」と答えるのセット技で大好きなシーンです。もう2人ともイイ女過ぎて絶句します。

楽は後方側の席だったので、視界がかなり開けていたのですが、そのために見られたとあるシーンに鳥肌が立ちまして。

アルツハイマーが分かったとき、潤治に対して洋子が「大丈夫よ、やれることはたくさんあるはず、一緒に頑張りましょう」と言うシーンがあるのですが、位置関係的には下手側から潤治、洋子、吉野が一直線に並んだシーンが見えて。

実はこの言葉を掛けているときの最初は、吉野は笑顔で微笑んでいるんです。「私もいるからね」と言うかのような。でも、洋子の言葉が進むにつれて、みるみる表情が暗くなって、「私は編集長を直接支えてあげることは出来ないんだ」という表情になるのがもう見ていられなかったです。

●この日の日ネタ
ちょっと重く語り続けたところでブレークタイム。
東京楽日の小ネタです。

・潤治&泉のグーパーシーン(←そんな名称じゃない)

 吉野「何やってるんですか」
 泉「ほら、怒られたじゃないですか私が」

 ・・・なんか吉野に怒られて1%だけしょげる泉って図式は好きです(笑)。
 あ、藤原は99%しょげるわけでそれも羨ましいですけどね(こら)。

・洋子の弟・義男が最初に来たときの、吉野とのシーン。

 義男「『リタルダンド』ってどういう意味ですか」
 吉野「だんだんゆっくり・・・という意味です」
 義男「何が?」
 吉野「いや、音のテンポが」
 義男「あぁ」
 吉野「いや、他に何が」(会場内小笑)

 由美子さん、自由ですな、中の人の名前通りで。

・編集長と藤原のシーン。

 潤治「『馬鹿野郎』」と言って藤原に物投げる(笑)
  ひとしきり会話して、
 藤原「(編集長に物投げる)」

 ちょい噴いた。

・藤原と泉のシーン。
 いつもは手ではたいている泉が、何とこの日は足で蹴りつけました(笑)。
 マジ痛そうな藤原の様が会場の笑いを誘っていました。
 なんか反撃が空振りに終わってましたが。

・ホントいつ考えるんだ
 この日の吉野姫オンステージは「ゴーゴーダンス」。
 激しく手を突き上げ、会場内の爆笑を誘った後、手が首にめりこんだというオチを作って仕上げていました。

 潤治「お前何かやったろーーーーーーー!」

 はい、お約束完了(笑)

 もう一個の日替わり。

 泉「そういうことやってると婚期逃すよ」
 吉野「『うぉーっ』(と言いながら鞄を投げる)」
   「婚期ってそれが何ですかっ」(笑)

 ・・・ドスが入ってて笑っちゃった。
 そんなリアルさはもうそろそろ卒業していいんじゃないかと・・・
 結婚しないの?(笑)

●そういえばようやく気づいた この作品の後半、洋子のことを「恵」と呼び続けていた潤治。でもメモをまき散らしたそのメモからは、「洋子」の名前がたくさん出てきて・・・

 メモがいっぱい貼られて増えていたから気づきませんでしたが、実は「潤治が持っていたメモ」は泉に促されても手から離そうとしなかった。でもまき散らしたメモから「洋子」と書いた名前がいっぱい出てきたということは・・・

 潤治にとって「洋子」が「忘れたくない記憶」だったからというのは前々回に書いたのですが、そのメモを握りしめていたということが、二重三重に重くて。

 「洋子」と書いたメモを握りしめていた潤治だから、「この人が大切なんです」って叫びはより大きくなるのかなと、そう思ったのです。



そしてこの日は特別カーテンコール。
予定されてはいなかったですけれども、客席の大きな拍手のもとに突発開催決定。


鋼太郎さん「では家内から一言」
一路さん「ええっ」
伊礼君「では私が」
一路さん「(膝から一気に崩れ落ちる)」

というコントで始まり。(←コント違う)
(一路さんは完全にハプニングだったようで、舞台反対側の由美子さんが心配するぐらいの派手な崩れ落ち方でした。)

一路さん「これだけのメンバーでございますので、せっかくですから皆さまお一言ずついただきたいと思います」(会場内拍手)

松下君「素敵な作品に関われて毎日毎日幸せでした。名古屋大阪もございます。お時間のある方はぜひおいでください。ありがとうございました。」

伊礼君「ご観劇ありがとうございました。(鋼太郎さんから『伊礼は台本ないもんな』って突っ込みが入って)。ありますよ!台本通りじゃないですか!(一路さんから『台詞増やしてもギャラはね』)『ギャラ増えない』とか言わないで下さい(笑)」

しんぺーさん「(飄々と)ありがとうございました。」←何か言ってた気もするけど記憶から飛んだ

由美子さん「(一路さんから振られてしばらく気づかず)あ、私か。えーと(と言っていると隣の山崎さんから『まきまきっ』という手振りが(笑)・・・ありがとうございましたっ!」

山崎さん「初日地震で、今日の明け方(3時54分の福島県震度5強)も地震がありまして、今日も心配したのですが、無事終わって良かったです」

一路さん「全ステージ演奏していただき、全曲の作曲もしていただきました。荻野清子さんです」
荻野さん「毎ステージ、素晴らしいキャストの皆さんと一緒に演奏できて幸せでした。ありがとうございました。」(そういえば、初めて生声を聞きました)

一路さん「鋼太郎さんがあまりに自由なので、みんな一致団結して対抗していました(笑)。ありがとうございました」

鋼太郎さん「自分にとって忘れられない作品になりました。この病気になったらこの役も忘れてしまうんだろうなとは思いましたが(苦笑)。ありがとうございました」

※この前に、鋼太郎さんが客席を走り、客席のG2さんを壇上に上げてました。
実は、自分の1列前の下手端でした(L列31番)。

G2さん「演出家の特権で、この芝居を何回も、70回近くは見ているかと思いますが、未だに鳥肌が立ちます。この素晴らしいキャスト、スタッフワークにたくさん刺激され、そしてお客様からのエネルギーもいただき、演劇の醍醐味、素晴らしさを感じることが出来ました。ありがとうございました。」


4回あったカーテンコールもこの後1回の呼び出しをもって幕。由美子さんが楽しそうにスキップして出てきたのがツボでした(そういえば1回はガッツポーズもしてた)。わかりやすいお方です。

そういえば由美子さんがVサインしてて何かと思えば、客席後方にカメラらしきものが・・・・DVDの特典映像化に期待です。

舞台としても素晴らしかったし、カーテンコールもカンパニーの仲の良さ全開、誰もがやりきった爽快感とともに終わった東京楽。名古屋・大阪公演も、ぜひこの勢いで突っ走って欲しいものです。

あー、大阪遠征決めておいて良かったっ。

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コメント

今回キャスト全部素敵でした。
いいお芝居に出演されて由美子さん
よかったですね。
幸せの出会い 
戸田さんもブログで、言ってらしたように
こんなにすべてそろった出会いは
あまりないようです。
ガッツポーズも、見られて最高
トークショーもあったし うれしかったです。

投稿: てるてる | 2011/07/31 23:07

回数を増すごとに吉野姫の感情が
わんわん育ってつらかったです。
思うことがいろいろあるのに
書いてる時間がなくて、
ひろきさんの文章を拝読して
ストレス発散しています(笑)。

そう言えば、何回か観て
「今更」気付いたことシリーズ。

会場で「もうじき開演」の時に流れる
ベルが「あの歌」のメロディ。

それと、「恵治」くんの名前って
両親から1文字ずつもらってるんですね。
その事に気付いた時に
なんだかどっと泣けてしまいました。

投稿: nekopy | 2011/08/01 00:20

てるてるさん>
遠征お疲れさまでした。
これだけ良い作品だと遠征のしがいがあったのではないでしょうか。

役者さん全員がぴったりはまる奇跡ってそうそうないですし、結果が危ぶまれた(笑)トークショーと楽日挨拶がどちらもとても無難に終わったことが何より幸いです(大笑)。

投稿: ひろき | 2011/08/01 00:54

nekopyさん>
コメントありがとうございます。

回を増すごとに、吉野姫の辛さは本当に伝わってきました。元々日々芝居を深めるタイプの女優さんですが、語るのに100文字以上かかりそうなことを一瞬の表情で表現するんです。ライター泣かせ(笑)。

あの歌のメロディは気づいていたのですが、名前の件は気づいていませんでした。
だからこそ、恵治君にとっては自分の身体を引き裂かれたような感じだったのでしょうね。(恵さんは車で事故死みたいですが)

そういえば恵治君は吉野さんとは妙に馬が合ってた感じでしたね。お姉さんみたいな感じなんでしょうかね。

投稿: ひろき | 2011/08/01 00:59

こんにちは。
いつもながら深い洞察、楽しく読ませて頂いております。

ひろきさんは大阪遠征されるんですね。
是非また豪快に笑って、伊礼くんはじめキャストの皆様の気持ちを良くして差し上げて下さいませ♪♪

投稿: mac-K | 2011/08/01 05:41

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