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『MOZART!』(23)

2010.11.13(Sat.) 12:00~15:15
帝国劇場2階J列センターブロック

上演342回目(今期10回目)
観劇34回目(今期2回目)

ナンネールの不調が囁かれる今週、心配しながら行ってきましたM!マチネ。
いやいや姉さん絶好調じゃないですか。初日は「初日が出ていない」と厳しめに書きましたが、明らかに由美子さん、「初日が出た」と思いますこの日。

「赤いコート」の「昔と同じデザイン」の声の出し方でその日の調子が分かるので、高音も無理なく出せていた時点で大丈夫だと思いました。
良い意味で金曜公演のソワレ休みがいい気分転換になったのかなと(アンジェラアキさんのライブに行かれたそうですが)。

この日の組合せは期せずして初日と全く同じ、井上ヴォルフ&涼風男爵夫人。
アマデだけが代わり、坂口君は初見です。

●2010年版ナンネールの変化
前回は整理できずに書いてしまった反省もある、2010年版ナンネールの変化。

ありていに言ってしまえば、井上ヴォルフとの関係で言えば、お互いに年齢を重ねたということが理由なのだと思いますが、役柄上「おままごとからの脱却」なのかなと。

ヴォルフとナンネールの「仲良し姉弟」の関係って、1幕最初は今までと同じなのですが、ヴァルトシュテッテン男爵夫人が来る頃には、実はナンネールはヴォルフに対して冷めている、というのがとても印象的でした。

以前は、この段階のヴォルフとナンネールは凄く精神的に近くて、「ヴォルフガング頑張って(ちっちゃく握りこぶしのイメージ・・笑)」だったんですが、今回は、実はここに至るまでずいぶんの時が経っている、ということをとても実感できます。

ナンネールは女性故に音楽家として進むことを許されずに、好きなピアノも弾き続けることができず、せめてヴォルフガングに自分の夢を託したい、というのが今までだったと思うのですが、今回は役柄的にとても老成化したというのか、いちはやく夢を失ったように見えたのがとても衝撃的で。

理性的にヴォルフに対している分、ヴォルフにとっては口うるさいのが2人に増えたかというような(爆)、これじゃ今までよりずっと息苦しさ倍増だわ、と思ってしまったのが正直な印象。

いままで、ヴォルフを甘えさせられるから逆にヴォルフにも求めてもらえる、という関係だったナンネールが、今回はいち早くヴォルフ離れをしているから、演じる由美子さんとしては精神的には辛いものがあるでしょうね。

ヴァルトシュテッテン男爵夫人役のお一人、涼風さんが宝塚スカイステージで井上君と対談していた内容を見たのですが、あの時代に生きる役柄として、「ナンネールが気になる」と言っていただいていて。男爵夫人は貴族として階級社会の上位にいる、それに比べるとナンネールは音楽家の姉とはいえ、”何も持っていない庶民”であるという、その絶望的な格差を感じると。

それを聞いた時に、だからこその涼風男爵夫人からナンネールへの、あの温かい視線なのかと思うと、ちょっと意識が飛ぶぐらい嬉しかったりしました。

この日も、涼風男爵夫人が由美子ナンネールに優しく頷きかける様は健在で、その慈悲深さに惚れ惚れします。

話は戻って、今回の井上ヴォルフと由美子ナンネールの関係は、やはり同じ役を170回近くも一緒に演じて、やってきたからこその熟成した関係というか、だからこそ小池先生も思いきったというか、ある意味”お互いが大人になったからこそできる”関係性だと思うのです。

「精神的に少女」なままでナンネールをやるには、由美子さんは正直キャリアも年齢を積みすぎた感じがあるし、ヴォルフのためを思って言えるだけの「大人の女性」であってこそ、今の由美子さんの年齢でこそのナンネールの説得力だと思ったので、その意味で、井上ヴォルフと由美子ナンネールの関係の再構築って、極端な話、今後も見据えた話なのかも、と実は邪推していたりします。えと、何が言いたいかと申しますと、前の役作りだとそろそろ厳しいけど、今回の役作りだとまだやれるんじゃないかな・・・という話なんですけどね。

いい大人の女性が、いくら弟だからといってあれだけ破天荒な弟をそんなに優しい目ばかりで見るわけない、という言われてみれば当たり前の事実にたどりつくまでに8年を要したというのも、それはそれで味わい深いもので(笑)。

その点が引き継がれていたように感じられたのが、前回も書きましたが旦那様、ベルヒトルト様とのブリザードトークなわけですが、ここもそこの前述の関係性が如実に反映していまして。
前回まではナンネールは明らかに弟ヴォルフガングの成功に浮かれているわけですね。嫌みな突っ込み入れてくる旦那様がうるさくてしょうがない。だからこそ、旦那様が「付き合ってられないわ」と席を外すときに「あなた!」と”甲高い声”で止めようとしていたわけです。

が、今回ここのナンネールは「あなた・・・・」とすごーく澱んだ声で言うわけです。
ここ聞いた時に初日も「おおぉぉっ由美子さん凄いよ」と思ったわけですが、たった一言なのにあれだけの思いを込められる凄さ。そもそもミュージカルなのに手紙の朗読シーンで1曲使うってだけで相当な突拍子のなさではあるのですが(苦笑)、

この日、ベルちゃんとナンネのトークは、2010年初日版と2007年版の融合系というか、「ヴォルフガングはとても元気だ」の後、満面の笑顔でベルちゃんをのぞき込むナンネなのでありますが・・・・なーんの興味も示していない夫君に心底落胆したナンネちゃまは相当可哀相です。

ナンネールにとって「レオポルトとヴォルフガングのどちらに共感を示すか」について、2010年版はレオポルト寄り、というのは由美子さん本人がおっしゃっていた話ですが、2010年版初日が、それが相当極端に走りすぎたのに比べれば、仮面夫婦シーンも含め、良い意味で2007年版以前の色を少し混ぜてきたように思います。
初日は”無理してスタンスを変えすぎ”たような印象を感じましたので。
あと、音楽も全体的にゆっくりになっていた感じで、指揮の西野さんに拍手です。

この日、印象的だったのは、「終わりのない音楽」で由美子さん&市村さんデュエットの時に、「家族を見失ったら希望はない」とレオポルトが歌ったときに、ナンネールが深く頷いたところ。
多分、ナンネールが大切にしたかったのは「家族としての繋がり」なのだろうなというのが垣間見えて。

ナンネールのヴォルフガングへの感情というのは、今回、特に気になる点ではあります。
「パパが亡くなったわ」でのヴォルフガングへの責め、ということについての位置づけが大きく変わっていて。これはラストシーンとの関わりでもあるのですが。

以前は、ヴォルフガングを誰よりも理解し、心配しながらも、父の死に対面したショックで、ヴォルフガングを責めてしまう-当然ヴォルフガングは責められるべき立場にありますが-、だからこそヴォルフガングの亡骸を見つけて、才能の箱を見つけたナンネールは、後悔とも取れる表情で暗闇に消えていっていました。

ところが今回の場合、ヴォルフガングを誰よりも理解し、心配している点は同じですが、父親の死に際してヴォルフガングを責めた感情は、ラストシーンでも癒されることがなくて。
むしろ、ヴォルフガングに全てを奪われたナンネールの、ただただ絶望の虚無であるかのように思えました。

時代背景もあるとはいえ、才能、家族、幸せ、その全てをヴォルフガングによって奪われて。
でも実はヴォルフガングそしてナンネールのそれを奪ったものは、それは「才能」という魔物だったのだということを、ナンネールが気づいた。
それが「才能の箱」を開けた時にナンネールの目の前に見えた風景だったような気がします。
ただ、それが分かったところで、何が変わるわけでも、何かが取り戻せるわけでもない、それをナンネールも分かっていたところに壮絶な不幸を感じるわけですが。

ラストシーンが喪服姿に変わったのも印象的で暗喩的で。
コンスタンツェがヴォルフガングの墓場漁りに立ち会ってお金を求めている、最後は「ヴォルフガングを利用した一人」に墜ちてしまったのに比べれば、最後まで「ヴォルフガングに利用されたただ一人の人」であり続けたのがナンネールだったのだ、ということを、言葉で表現できないからこそ仕草であるように思えます。(手の動きが絶品。)

この日、「プリンスは出ていった」のラスト、アマデ人形から引き取った黒い目隠しを持ちながら、絶望の様でまっすぐに前を見つめるナンネールの姿の壮絶さには、ただただ絶句するばかりでした。

そういえば、この「MOZART!」、最後の最後でナンネールが喪服姿のままになったため、「影を逃れて」が終了後、ナンネールがカテコで出てくるまでの1分30秒が、最速の早着替えになっていたことに気づきました。それ大変すぎる。

そして他キャストについても。
この日、皆さん高値安定ばかりで素晴らしい出来だったわけですが。

●ヴォルフとコンスの感情のシンクロ
これを感じさせるのがどれだけ難しいことなのかは実感しているわけですが、今期のhiroちゃん(島袋寛子さん)は2007年よりずっと自然な台詞回し・歌になって、井上君もとても歌いやすそう。
それゆえに、ヴォルフがコンスのどんなところに惚れたのか・・・を考える余裕が出来た訳なのですが。

聞いていて強く印象に残ったのは「誇り高く生きる」という一節。

大司教に音楽家である誇りを穢されたからこそ、貴族に尻尾を振る選択をしなかったヴォルフガング。
貧しい家族に生まれながらも、自分が自分として生きるために必死だったコンスタンツェ。

「誇り」を大切に思っている2人だからこそ、惹かれ合い、求め合ったのだなと思えたことが、とても合点がいきました。

hiroコンス(←こっちの方が言いやすい)が今回もこの役をやることについて「先輩からもう一度やった方がいいと言われてやろうと思った」とおっしゃっていますが、何となくここの”先輩”がうちのご贔屓さんなような気がする昨今。阿知波ママならちゃんと名前出すと思うんだよなぁ。

井上ヴォルフについてそういえば語っていませんが、とにかくあらゆる意味で大きくなって、あっきーがいなくなって、意識して閉じ込めていたかのような「枠」が取り外されたような印象を感じます。
何というか、「檻に閉じ込められている方が安全」かのような、内向きの、”綺麗にまとまった感じ”のヴォルフガング、という印象が常にありました。
が、今回は山崎育三郎さんという後輩を迎えて、「井上君にとってのあっきー」が「山崎君にとっての井上君」になったのだろうな、と思わせられます。

でも、「お前は悪魔だ!ヘビ!オオカミ!」はいくらなんでもないと思うけどな(笑)

この日のヴォルフガングとアマデは初の組合せとなる(と、蚊帳が降りた後井上君が言ってました)井上&坂口ペアですが、凄かったです。

「自分を見失ったヴォルフガングが、最期はせめて才能と共に死にたいと願った」

からこその、アマデとの感情のシンクロ、そしてそれに続く絶命のシーン。
ヴォルフガングからの問いかけに、うっすらと頷く坂口アマデの様に絶句でした。

●やっぱり面白い”ワタシガー”シーン
変な外国人が登場する(笑)「ちょっぴり~」のシーン。
シカネーダー役吉野圭吾さん、初日だけ遊ぶのかと思いきや、変な外国人風の名乗りはこの日も健在。
シカネーダーがエンターテインメントを力説してる横で、「ほうほう、それで?」みたいに腕組みして上から目線で見てる井上ヴォルフが美味しすぎる(笑)。

ここのシカネーダー、「魔女が告げる予言」をよぼよぼ風の魔女系で歌って客席から笑い引き出してみたり、相変わらず芸が細かすぎます。ステッキを足で拾い上げて手で引き取るあたりも、凄すぎる技です。



この日、実は体調最悪で、3時間15分の長丁場が乗り切れるか、心底不安だったのですが、様々な物の力を借りて、素敵な舞台が見られたことにただただ感謝を。
安心して、次の観劇の日を待つことができそうです。

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コメント

昨日は、ありがとうございました。
本当に由美子さん調子良かったので
うれしかったです。由美子さんの声を聞くときドキドキしてました。一声で出安心しました。さすが由美子さんでした。
ひろきさんの感想すごい。いつも感心してしまいます。
最後の喪服になった点そんな意味合いが
あるなんて・・・。
これで、ナンネールは次もありですね。

投稿: てるてる | 2010/11/14 08:53

こんばんわ。昨日はありがとうございました。
シーンごとの解釈というのは人それぞれでありましょうし、私の解釈が正しいかどうかではなく、それぞれの受け手がそれぞれの感想を抱くという点に芸術というものの意味があるような気がしています。

次があるかは分かりませんが、今回の役作りであれば次があっても自然かなとは思いますが、舞台は一期一会、今回が終わりでもその覚悟はしておきたいと思います。

要は1月の金沢は寒いだろうなということで(笑)

投稿: ひろき | 2010/11/14 20:45

はじめまして いつもブログを読ませていただいていますm(__)m 
今日初めて『モーツァルト!』をみました。“すごい!”の一言だったんですけど、話が深すぎて理解できていないところがたくさんあるんだろうなとも思いまして、ひろきさんの過去の『モーツァルト!』記事も読ませていただいて、なんだかとってもすっきりしました。作品の理解が深いですよね。すばらしいです。

今月は観劇が多く悩むところなのですが、“もう一度観てみたい”と思わせられた舞台でした。

また勉強しに来させていただきますね!

投稿: あおい | 2010/11/14 21:05

あおいさん、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

自分自身、リピート癖が付いてしまっていて、それでいてなるべく「一度書いたことは書かない」ようにしているので、初心者向けじゃないというか、こ難しくしちゃっているかなと、正直、そこはジレンマだったりします。
過去の記事まで読んでいただいて、そこを汲み取っていただけたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

「モーツァルト」の作品の魅力は、ある点”分かりやすくない”ところにあるんじゃないかと思っています。答えを感じ手に「考えさせる」ところに、この作品の”なんだか喉にひっかかる”という面があるような気がしています。

M!は12月までやっていますし割引もちょこちょこ(じゃないぐらい・・・)出ていますので、またぜひ(^^)

投稿: ひろき | 2010/11/14 21:16

文章とてもわかりやすいですよ!毎回アップされるのが楽しみなんです(^O^)/
プライドもとってもとっても楽しみにしていますので、レポ読ませていただいて、ワクワクワクワクしました\(^o^)/
早く観たい!聞きたい!です!!
モーツァルトも何とかもう一度行きたいです。山崎さんも気になりますし、井上さんももう一度見たいし、悩みます~(>_<)

投稿: あおい | 2010/11/15 01:19

あおいさん、嬉しいコメントありがとうございます。より分かりやすく書けるよう精進します。
「プライド」も間違いなく凄くいいですから楽しみにしてください。2人の歌、凄い以外に言葉が見つからないです。

帝劇にはB席という魔物がいますので、はまった時にはぜひお使い下さい(^^;)

投稿: ひろき | 2010/11/15 02:33

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