« 高橋由美子ベスト盤「STEPS」(1) | トップページ | 『プライド』(4) »

『私の頭の中の消しゴム』

2010.9.19(Sun.) 17:00~19:10

天王洲銀河劇場 1階A列10番台(下手側)

今年5~6月ルテ銀で上演され好評を博した作品、早くも再演。キャパの差はいかんともしがたく、2階は数人しかいませんでしたが。

回ごとのキャストローテーションで、今期は8組×3回で、この日が大千秋楽。

何組か見たいキャストはあったのですが(別所さん、菊地美香ちゃん、藤岡くんは見たかったかな。初演はエポ&マリコンビのまあや&いずみんは見たかった)、話に聞く限り、「初見キャストに引っ張られる印象がある」とのことでしたので、玲奈ちゃんの回、その上こなれた方が良いだろうと最終日を選択しました。

この日は浩介役が溝端淳平さん、そして薫役が笹本玲奈さん。

レミ女性キャストとしては、
前期はコゼ2人、エポ2人の合計3人(知念ちゃん兼任)、
今期はコゼ1人、エポ1人の合計2人です。

この日、顔だけご存知のお知り合いがずいぶんいらっしゃいますが・・・今日がいわゆる玲奈FC総見日ってことですね。

彼女は東宝デビュー以来見ていますが、基本はスタートダッシュ型。
ですが、お世辞にも台詞回しが上手とはいいにくい彼女のこと、こと苦手な台詞が全編にある朗読劇はさすがに尻上がり系だろうと思いまして。

初日2回目、他キャストを見ていませんので絶対評価ということになってしまいますが、正直、ここまでにしてくるとは思ってなくて、予想以上の素晴らしさでした。

ストーリーが難病物なので脚本からして「ここで泣け!」ってな感じなのですが、まんまとその罠にはまり、男だてらに3回泣きました(笑)。
先に見た人に「初見はハンカチ必須だよ」と言われたこと、終わってから気づきました(爆)。

今回は終わりましたが遠からず再演されると思います(ホリプロが抱え込んだ感じが。若手の女優さん伸ばすのにはこれ以上の題材はなかなかないでしょう)ので、一応ネタバレ注意です。



主人公カップルの浩介と薫は同じ会社、建設会社に勤めていますが、浩介は社長にさえ盾突くじつはやり手の現場技師。で、薫は何と社長令嬢。

ということは、このコンビ限定でまるで「ぼくの妹」(去年春クール、TBS日曜21時枠)なわけです(笑)

この作品で、玲奈ちゃんは社長令嬢・大河原春奈役を演じていて、オダギリジョーさんが演じる、上に盾突く医師にツンデレモード全開で迫っていたわけですが。

浩介と薫のすれ違い方とそのドラマのそれにはちょっと違いはあるのですが、お嬢様ゆえの浮世離れさがかえって相手を怒らせて、「なんか彼怒ってるよ。私なんか悪いことしたのっ?」とか慌てて焦るツンデレ振りのコミカルさがなかなか。

「なんでデートがいっつもラーメンなのっ?」とか

「彼の部屋で情報誌を見つけた。どこに行きたいじゃなくて浩介と一緒にいられればいいだけなのに」とか答えてたら浩介も

「場所が関係ないならそう言えよ!」
と答えるとか、けっこう笑えます。

「暑い現場に熱いお茶もってくるとか何考えてんだよ!」ってのもありました。

基本、コメディ演技が苦手な玲奈ちゃんですが、テンポよく台詞を転がして、客席の笑いを誘っていました。
非常に新鮮です。

演出家さんという職業は「大まかなところを提示してキャスト任せ」な方と「箸の上げ下ろしまで細かく指示する」方と2パターンに分かれると思うのですが、今回の脚本・演出家の岡本さんは後者のようで、逆にそれが特にアドリブ苦手な玲奈ちゃんにとっては幸いしたんじゃないかと思います。
飲み込みは早いし、笑いとるところは上手いこと、照れなくさえやれればちゃんと笑ってもらえますしね。

言い忘れたのですが展開としてそれぞれの日記を台本に見立てて進行する展開、なのですが一番最初、浩介が薫の日記を女声で(溝端君なかなかはまってる)言ってるのを薫が見つけて追っかけて、でも浩介の日記を見つけて読み返しの意地悪とか実にいい空気です。(あぁいう意地悪ないたずらは玲奈ちゃんがやるととてもはまる。理由はあえて詮索しないけど。)

お互い何カ所か噛んでた(3箇所ぐらいずつで痛み分け)けど、少なくともこの日は芝居の勢いの方が勝ってた感じ。

2時間の本編の中、恐らく80分ぐらいが出逢ってから発病するまでのいわゆる「幸せな時間」ですが、この作品の特徴として開演してからどのぐらい経ったのか分からないというのが、きっといい脚本ということでもあるのでしょう(飽きにくい)。

そういえば、浩介が「2人で歩いていきたい」と言った1月15日の日記。

同じの薫の日記が
「あれってプロポーズだよね? そうだよね? 
私間違ってないよね?」

ってのもコミカルしまくりで面白すぎでした。

少しだけ難があるとすれば、2人ともに共通しているのですが、「4月」と「7月」の言い分けがはっきりしないので、たまに時の流れがいったりきたりに聞こえてで戸惑います。

見てて苦しくなるのは医者から若年性アルツハイマー病を宣告された時(12月)から、浩介がそれに気付くまで(翌年6月)までの薫の心情表現。

幸いというかこの時間帯は玲奈ちゃん演じる薫が下手側、つまり自分の斜め前にいるのでその苦しみがダイレクトに伝わってきます。浩介に伝えられないという演技なので必然的に感情は客席に向けられるわけで、その苦しみたるや壮絶です。
あれだけ記憶が飛んで、会社でポカしまくってもクビにならない、という理由付けに「社長令嬢」という場面設定は必要なのですね。

彼女の役は明るい役であれ暗い役であれ、「希望」というものとは切っても切れないという印象があったのですが、今回の役の新鮮なところは、彼女が「絶望」を見せようとしているところにあると思います。

今までも部分的には「絶望」を見せたことがないわけではないのですが(「ウーマン・イン・ホワイト」でパーシヴァル&フォスコに謀られた時とか、「MA」の「100万のキャンドル」なんて絶望そのもの)、これだけ長い時間「希望」を失ったことを見せ続けていく彼女を見るのは多分初めてで、病というのはこれほどまでに人を孤独に引き籠もらせようとするのだろうか、と背筋が凍る思いでした。

何も分からなくなって名前も思い出せない時の放心状態をどこかで見たなぁと思ったのですが、あれ、それこそ「ウーマン・イン・ホワイト」で精神病院に放り込まれたローラの表情ですね。(大和田ローラは「無気力な振りをしていた」感じでしたけど、初演の沙也加ローラの「死んだような目」がまさにこの日の玲奈ちゃんの薫と瓜二つでした。)

難病物が「実は直りました」にならないというのはここ最近の傾向だと思うのですが、舞台であれ小説であれ、素っ頓狂な想定というか、「いきなり特効薬が発明されました。これぞ愛の力!」みたいなものは最近はあまり聞かなくて。
多分、現代というのは「嘘っぽい」ものは成立できない世の中なんでしょうね。

この手の難病物で自分が最初に見たのは由美子さん主演で映画化(1995年)された「時の輝き」でしたけど、その時も男性側が亡くなるという違いはあるとはいえ、「亡くなる」前提は崩れていなかったことを思い出します。

今回も「記憶を失っていく」ということはいくら浩介の愛でもひっくり返せない。
ひっくり返せないことを前提に物語が作られているので、最後のシーンもその現実から離れられない以上、どうするのかと思っていたので、終わり方がすごく良かったです。

あとストーリーで印象的だったのは、「人生は怖い」という言葉。

この言葉、作品の前半は浩介から発せられます。自暴自棄になり、自分には未来はいらないとばかり荒れる彼にとって、結婚などというもの自体が考えられなかった。

そんな彼が薫と心が通じ合い、そして幸せな時間が流れるものの、薫が発病、そして作品の後半でこの言葉は薫から発せられます。
自分が発した言葉と同じ言葉を薫が発した意味。「薫が自分の未来に絶望している」ことを浩介が本当の意味で認識した、最初の瞬間だったように思います。

そういえば、玲奈ちゃんの初日を見た人から「姿勢が良くない」という話を聞いていて、実はそこはこの日も改善されてなくて。

台本持ったまま集中するからどんどん前のめりになっていくんですね。溝端君はほぼ背中に付けてやっていたので、あれは変なずれでした。

彼女は確か視力そんなに悪くないし、台本自体の文字も大きい(最前列だから大体の文字サイズ分かりましたが、A4縦で20文字ぐらいなので、24Pぐらいの文字だと思います)。

終演後、会場内から出るときに渡された、当日の浩介&薫ペアの言葉入りの2人のフォトカードが素敵でした。玲奈ちゃん、字綺麗だよなぁ。

この回の薫の「私は世界一幸せよ。」って言葉も凄く素敵です。
ちなみに、このメッセージ入りフォトカード、キャストそれぞれの言葉&写真でかつ、回毎に違うのでなんと24種類あります。ほぼコンプリート不能という、恐怖(笑)のグッズです。

※ちなみに日別の内容は公式blogで見られます→こちら 

その日キャスト限定のフォトカード5枚セット(1000円)もまんまと購入決定でしたが、2人が指輪交換した後、指輪を見上げる薫の表情がすごく素敵なんだよなぁ。(このパターンの写真がこの日のメッセージ入りフォトカードに使われてます)

パンフレットは全キャスト掲載版ですが、「忘れたい記憶」のところでレミ組(藤岡君、美香ちゃん)が面白い。何気に玲奈ちゃんも良い味出してる。あんたらときたら(笑)

そういえば例の件の関係ですが、異変は俳優さんから玲奈ちゃんあての花が一切ないぐらい。
正直ゼロというのはありえないと思うので、先方に迷惑がかかってはということで外したんでしょうね(ファンの方からの花は2組ちゃんと飾られていましたので)。

最後、お互いのフォトフレームを机の上に置くというカーテンコールの1シーンがあるのですが、当初ちょっと離れて置いてしまい、玲奈ちゃんがぐいっと薫のフォトフレームを浩介のところに寄せていて、その時の彼女のやんちゃな表情がこの日一番のヒットポイントでした(笑)。
溝端君とも悪くない相性だったし、出来ればまた見てみたいかも。

そして今度は他のキャストでも。

2010/9/21追記
「ガイズ&ドールズ」で共演された香月彩里さんのblogがあまりに素敵だったので、リンク
彼女の文章は誠実で素敵です。
いつかまた別の舞台で拝見したい方です。

|

« 高橋由美子ベスト盤「STEPS」(1) | トップページ | 『プライド』(4) »

コメント

ひろきさんも昨日だったんですね。
僕も一列後ろで、必死に涙が出るのを我慢していました。
今回は相棒と一緒だったんですが、彼女は始まって30分くらいからウルウルと泣いていたようです(^_^;)
何か彼女の新境地を発見できて良かったですね。
終演後もサインや写真もゲット出来ましたし、楽しい一日でした。

『僕の妹』が『彼女の妹』になってますよ‼

投稿: ぜんきょう | 2010/09/20 09:26

>ぜんきょうさん
同じ回だったんですね。
半径10m以内の遭遇ですか(笑)
いずれどこかでお話したいですね。

今回、彼女の不得意分野だと思い込んでいたのに、まさかの新境地で、いい方向にサプライズでした。

作品名は直しました。ファンらしからぬことをやってしまって申し訳ないです(^^;)

投稿: ひろき | 2010/09/20 14:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74093/49498887

この記事へのトラックバック一覧です: 『私の頭の中の消しゴム』:

« 高橋由美子ベスト盤「STEPS」(1) | トップページ | 『プライド』(4) »