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『ウーマン・イン・ホワイト』(5)

2010.1.17(Sun.) 13:00~16:15
青山劇場 1階XA列センターブロック

再演3回目は、青山劇場最前列。
この劇場の最前列は初めての体験ですが、舞台が高いので見切れまくります。
目の前に障害物がないので嬉しいのは嬉しいんですけど。

笹本玲奈さんが演じる舞台は、過去両手2回分を優に越すぐらいは見ているのですが、日ごとの調子のぶれが少ない彼女にあって、この日は史上最悪と言っていいコンディション。
念のためですが「出来」じゃなくて「コンディション」です。
いつもと変わらず凛として立ってます、マリアンとしてしっかりと。

最初の異変はパーシヴァル卿とフォスコ伯爵が訪れ、マリアンがフォスコ伯爵に話しかけるシーン。
マリアンなのに台詞噛みまして(「あなたの才能もお聞かせ、お聞かせ願いたいわ」)。台詞は危なっかしいところがある玲奈嬢ですが、ことマリアンでの台詞噛みは5回目で初めて聞きました。

あれっ?と思っていたら「All For Laura」でまさかの作詞。ラスト直前、「もう二度と苦しませない」が「もう二度と苦しめないわ」に変わって心臓飛び出るかと思いました。いい歌詞ですけどね、ちゃんと意味通ってるし。

前回「好きなシーン」に挙げた2幕、喪服を着たマリアンの「このままではいない」では勢い余って、頭に掛けていたベールが曲ラストで、はらりと落ちて。
ヒヤッとしましたが、さすがは笹本さんと言うべきか、右手を逆手にして、落ちてくるベールを掴まえて力強く握って歌いきる、という超絶な技を見せてくれました。
調子が決して良さそうに見えなかった分、この時の笹本マリアンの気迫といったら凄いものがありました。

もう一つ、この日のハプニングエピソード。
フォスコ宅に殴り込みに行って書類を見つけたマリアンが、とっさに背後に書類を隠すシーンがありますが、普段ならかなり後までフォスコに見えないようになっているのですが、この日はマリアンがしまうタイミングを秒単位未満遅れたがために書類をぐしゃっとする音は聞こえるわ、ほとんど書類は開いたままだわ、と「それじゃフォスコにバレバレじゃん」状態。

いつもと違う冷や汗でハラハラしました。自分の作品出演回全部を録音している笹本さん、この日のMD聞いて海の底まで落ち込みそうな感じです。

そういえば当blog、昨日付けの検索キーワード第3位が「ウーマン・イン・ホワイト もうサボテンじゃない」で腹の底から大爆笑させていただきました。

海の底と言えば、最前列から見た青山劇場の舞台は、ちょうど水平線のようで。
「All For Laura」でローラに懺悔したマリアンが、落ち込みまくったところから這い上がる感じが、水平線から顔を出す太陽のようで、ある意味印象的でした。

初演と再演を比べてつくづく思うのは、マリアンにかかる比重の重さ。

先述のように、結果的に神がかり的なシーンを含めて、再演ではマリアンの落ち着きが減じているように思えます。若返っているようにも思えます。
今回、共演者が一気に若返って、「同世代のメンバー」になったことで、玲奈嬢が「4人でいるとつい輪の中に入ってしまう。いかんいかん、私は36だと常に言い聞かせている」という発言に、悪い予感はしていたのです。

共演者が仲がいいのは、良いことだと思うし、ここまで役者さんのblogが普通になると、お互いがお互いの話を出すのは興味深くて嬉しかったりもしますが、こと今回の作品作りにはマイナスにならなければいいな・・・と危惧していたりしました。

実年齢24歳の笹本さんが、1回り上の36歳のマリアンを演じるのは、年齢差で言うと玲奈さん(24)が由美子さん(36)を演じるようなもの。
そこには並々ならぬ情熱と努力が要るはず。
それが初演で成し遂げられたからこそのあれだけの評価だったわけです。

ただ、そこには年上だった別所さんの存在がとてつもなく大きくて。
別所さんが笹本さんの年齢を引き上げていた要因が凄く強かったかと。
かつ、妹ローラを演じた神田沙也加さんも、良い意味で甘え上手だったんですね。

妹として姉を立てるローラと、(当初は恋愛感情がなくても、マリアンの)佇まいに一目置いていたハートライトの心配り。
笹本さんが月ミュインタビューで「2人に助けてもらった」と語っていましたが、まさにそうだったと思います。

ただでさえ曲も多い、出ずっぱりの主役であるマリアンが、再演では自分だけでなく周囲にまで気を取られ、かつ周囲は(悪気はないけど)マリアンの俗世間性を薄めるように存在しているように見えて。

端的に言ってしまうと、「キャスティングでマリアンの存在を薄める共演者を選びすぎた」ことが、再演版がしっくりこない一番の要因かと思うのです。

皆さん歌はお上手ですし非のつけどころはほとんどない。
だからこそ「隙のなさ」が感情移入を妨げている気がします。

マリアンの魅力が何って、ハイパー最強ヒロインの振りして、実は随所に隙がありまくりで、人間的に幅があるからだと思うんですね。
絵筆で描いたハートライトがラブラドールだったり、フォスコ疑ってたはずなのに睡眠薬(精神錯乱剤も混ざってるかも)入りのブランデーを易々と飲まされてみたり。
笹本さん本人もパンフで語ってますが、「失敗もするけどとても強く生きている」ところが彼女の魅力。それが、マリアンを一筋縄ではいかない存在にせしめているのだと思うのです。

再演版でそのマリアンの魅力を最も正しく理解しているのは、「もう一人の一筋縄ではいかない」人物である、フォスコ伯爵なわけで。
マリアンが語る、「フォスコの弱点はわかっているわ」の
説得力が初演比200%増しです(笑)
似たもの同士は弱点もよくわかるって話で。
初演よりずっとフォスコ→マリアンの軸が太いのは、フォスコがマリアンの本質に惚れているからだと思うのですね。だからこそマリアンの戸惑いも活きるというか、恋愛下手なところも含めてマリアンの個性を表現するのに一役買ってる。

ローラとハートライト、アンについて、今回何が気になるかというと、普段から仲がいいだけに「マリアンに一目置いている様子」が薄い点。
確かに笹本玲奈という女性は役で凄く化けるんですけど、初演版はそれにもまして「マリアンという存在を見上げている」ハートライトとローラの両輪が頑丈だったかと。別所さんは多分意識して笹本さんを支えていて、沙也加さんは多分無意識で笹本さんを支えていて。

 ハートライト→(意識して支える)→マリアン→(無条件で支える)→ローラ
 ローラ→(無意識で頼る)→マリアン→(半ば意識して頼る)→ハートライト

の関係がとにかく絶妙で、お互いがお互いを絶対に必要としていたからこそ強固だったのだと思うのです。

前々回、再演版を「高校生同士の恋愛」と書いたのですが、それは初演版で(存在として)「神」の位置にいたマリアンが、再演版だと「同じ人間」の位置にいて、他の登場人物から頭1つ出た存在でしかない、ということを痛切に感じたからで。

初演時、笹本さん自身「マリアンじゃなくてローラかと思った」そうですが、ある意味あのキャストであれば、マリアンは決して早すぎる役ではなかったと思いますが、今回、このキャストでマリアンをやるのは明らかに早すぎたと思います。
笹本さんは素晴らしい女優さんだけれど、まだ作品と共演者を引っ張るまでの力量は持ち得ていないと思います。今回、岡さんがいなかったらどうなっていたか、背筋が寒くなります。

この日の回で見せた笹本さんの異変は、本人も気づいていない「初演との違い」の現れのように見えて。周囲に何の悪気もないのに、結果的に「再演としてのプレッシャー」と違う点で、彼女を疲れさせているように思えたのです。

マリアンが無理して他の役に近づかない方がいい、ローラ演じる大和田さんも勘がいい人だから歩み寄ってくるのを待てばいい、そう思います。田代さんは歌は確かに抜群だし、歌えば気持ちも伝わってくる。でも演技では、他者との関係性に踏み込めてない感じがする。”懐に飛び込む”ではないけど、ローラを愛して、マリアンを立てれば空気が変わると思う。

この日のカーテンコール、3回目で岡さんが自ら笹本さんの隣から抜けて大和田さんを真隣に。
今期初の姉妹両並びが実現しましたが、会期最後までに、ローラ挟んでマリアン・ハートライトとか、ローラ挟んでマリアン・アンとか、実現したりしないのでしょうか。
そしてこの日はカーテンコールでのスタンディング。3回目で自然に皆が立って。
岡さんのblogでも触れられていました。今期初だそうです。

今期の「ウーマン・イン・ホワイト」、次の観劇は早くも東京千秋楽となる24日マチネ。「再演を見られて良かった」と思えるかどうか、あと1回を楽しみに待ちたいと思います。

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コメント

こんばんは!
再演WIWへの深い考察、凄く面白く読ませて頂きました。

自分が別所ファンだというのもあるのですが、どうにも再演版には気持ちが入り込めなくて。
初演で大好きだった、マリアン・ローラ・ハートライトの3人の間の繊細な感情や、微妙かつ絶妙なバランス。
それらが薄くなってしまったのが残念です。

笹本さんのBLOGにも、初演の時は「別所さんに支えられた」といったニュアンスの事が書かれておりました。
ファンの贔屓目抜きでも、別所ハートライトの存在って大きかったのかな、と今更ながら思ってます。

再演版は私は一度きりの観劇ですので、引き続き感想UPを楽しみにしています。

投稿: 花梨 | 2010/01/20 01:29

花梨さん、こんばんわ。
コメントありがとうございます。

再演版の長所にして短所なのは、「上手すぎる」ってことじゃないかと思っています。
歌にせよ、動きにしろ、洗練されすぎて、「ミュージカルを見た!」って気持ちにはなるんですが、初演版の芝居色が薄れたので、思い入れしにくい作品になった気がします。

マリアン・ローラ・ハートライトの誰が欠けても成り立たなかった初演に比べると、マリアンを必要としなさそうな強いローラ、マリアンもローラも愛してるようには見えないハートライト・・・端的に言って感情移入しにくいというか、「リピートしにくい作品」になったかと。

笹本マリアンが大好きな役なので最初から4公演入れてましたが、これ以上追加する気になれないのがその表れかな、と。我ながら「芝居歌」、「歌芝居」が好きなんだなということを再認識しました。

次の観劇は東京千秋楽ですが、ちょっと気持ちを切り替えて、再演版ならではの感情移入の仕方にチャレンジしてみます。

投稿: ひろき | 2010/01/20 22:40

お邪魔します。
初演、別所さんと禅さんのキャスティングは大役に挑む玲奈ちゃんを支える意味もあったと思っていて、だから再演はきっと役が変わるだろうと思っていました。
マリアンとローラの中間の年齢設定のハートライトは、だから年齢的には初演より実年齢に近くなったわけですが、ミュージカル3本目の万里生くんにはまだ早かったかもしれません(事務所が万里生くんを押したい、経験を積ませたい気持ちはわかるけど)役が合っているかは別として若手中堅(?)の浦井くん辺りなら良かったのかなぁと思いました。ローラとパーシヴァル卿が婚約者という設定は初演時のキャストよりしっくり来たことも考え合わせると。

神田さんが玲奈ちゃんを無意識に支えていたというのがとても興味深い意見でした。キャリアも実力も上のはずの玲奈ちゃんと神田さんの友情がどんな風に成り立っているんだろうと(余計な御世話ですが)いうことに興味があって、神田さんがブログで「笹本先輩」と言っていたのを読んで「マリアンとローラそのままの関係なのか」と思いました。「シーラブ」を観に行った時の玲奈ちゃんのブログでの発言も興味深かったです。

投稿: ぴらふ | 2010/01/24 12:07

ぴらふさん、コメントありがとうございます。

浦井君が合うかも、というのは自分も実は思いました。

笹本さん&浦井君といえば「回転木馬」ですが、あの時の役柄的にはしっくりこなかったんですがマリアンとハートライトだと「欠けるところをお互い求める」というところで同調(シンクロ)しそうな気がします。

沙也加嬢と笹本さんの親友関係は私もいつも不思議に見ています。
仲良いのはおかしくはないのですが「あんなに仲良い」理由が分からなくて。
笹本さんが役者さんを絶賛するのも、とても珍しいですし。

個人的な感覚ですが、笹本さんが沙也加さんのことを役者として評価しているのだとすると、「技術でどうしようもないものを沙也加さんは持ってる」ことじゃないかと思っています。
笹本さんは「自分にないものを持ってる」って書いてましたが、丁寧に役作りをする笹本さんはどちらかというと技術で精巧に作り上げる役者さんだと思いますので、その辺が羨ましいのかな、と見ています。

沙也加さんが初演で笹本さんのことを「無意識に支えた」と表現したのは、初演時に「沙也加さんが意識しない間に笹本さんを精神的に支えた、そのことに、笹本さんがとても感謝してる」ことが今の友情の根本になってるんじゃないかな、と思いこんでいて。

笹本さんにとって、沙也加さんのコアの部分に、とても心地よい部分があったんじゃないかな、と認識しています。

投稿: ひろき | 2010/01/24 23:23

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