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『この森で、天使はバスを降りた』(2)

2009.5.31(Sun.) 12:00~14:55
日比谷シアタークリエ 10列上手側

千秋楽です。

先週の観劇の感激覚めやらず、前楽にするか楽にするか迷った末、せっかくだからと楽を選んで日比谷へ。

舞台が終わったこともあり気にせず、またもやネタバレです。

●デメリットとメリット
住む人が誇りを失ってしまったギリアドの街、
そのギリアドに救いを求めてやってきたパーシー。

パーシーと、ただ一人パーシーをすぐ受け入れたシェルビーのデュエットで歌われる台詞にあるのですが、

「商売敵のいない街よ だってどんな店も一つづつだけ」

という歌詞を聞いたときに、「おおっ」とびっくりしたのですね。

全国あまたにあるシャッター商店街じゃないですが、住んでいる人はついついその目の前にある風景が平凡で、つまらないと思いがちなもの。無価値だと思い込んでいるけれど、実はそれはとてつもない贅沢なのかもしれない、と思わされます。

何というポジティブシンキングというか、「どんな店も一つづつしかないからつまらない」と思うか、「商売敵がいないからいがみ合う必要がない」と思うかで、確かに気持ちの前向きさがまるで違うわけで。


この作品の根底に流れる「優しさ」は「人を敵視しない」ところにあるんだと思うんですね。確かに最初はパーシーのことをシェルビー以外は受け入れないけれど、ケイレブ以外はパーシーを敵視してるわけではなくて。

パーシーの人物像が最初こそぶっきらぼうだけど、素直さや真摯さが見えていくことで感情移入させるようになっているから、ケイレブだけが浮いて見えてしまうのでしょう。

普通、男性であれば過去に縛られたケイレブに共感する部分が出てきて不思議はないのですが、2回見た2回とも、ケイレブへの共感はあまり感じなくて申し訳ないぐらい。


もう一つ面白いと思った歌詞が、藤岡正明さん演じるジョーが大塚ちひろさん演じるパーシーとデュエットする曲の中で歌う、

「なんにもないけど、全てがある」

という台詞も実に味があります。

言葉通りに捉えると、こんな短い言葉に矛盾だらけですが(笑)、
この作品にはそんな無茶台詞を無理なく納得させられる空気があります。

「なんにもないけど、全てがある」、そうだよな、と思ってしまう何かが。

都会は物に溢れているけど、心は何もない。
田舎は物がないけど、心を満たすものはそこら中にある。

と感じてみるとなるほど深いというか、東京のど真ん中・日比谷でこの作品が上演される意味が分かるような気がします。変な言い方ですが、地方でこれやるとある意味説教くさくなるというか、上から目線になる気がします。

●価値観人それぞれ
ギリアドに魅力を感じたパーシーと、住んでいるが故にギリアドに魅力を感じていなかった住人たち。

その違いは「価値観の違い」でもあるわけですが、そのあたりで印象的なシーンが、食堂の裏の森、親父は譲ってくれるって言うけど一文の価値もない、とジョーがパーシーにこぼすシーン。(「ギリアドの森」)

パーシーはこう言うのですね。

「もっと価値のないものを私はたくさん見てきた。
この森は素晴らしい森よ」

この段階で「刑務所を出た女性」以外の過去は見せていないパーシーですが、”隠された過去がある女性”と思えるがゆえに「もっと価値のないもの」という表現が実に味わい深いです。何というか無限の説得力。

2幕でパーシーが自分の過去について語りますが、そこで振り返ってこのときの台詞「価値のないもの」を思い返すと、「パーシーは凄い」と思ってしまいます。
義理の父に関係を強要され、流産させられた自分をかばってくれなかった母親。
パーシーにとって信じられたものは、鉱山で働きタールまみれだったことしか覚えていないとしても、最初の父親だけだったのかもしれません。

そんな「人を信じられない少女」が自分を取り戻そうとしてやってきた街で、不器用ながらも心を開いていく様が、意外なほどに力強くて。
心に傷を持っているのに、率先してその傷を見せていく様は、ハンナの傷も癒していって。
1幕では手を掴まれただけで払いのけていたパーシー。実は別のシーンでハンナも手を払いのけていたので、案外にこの2人は似たもの同士なのかもしれません。

2幕、パーシーの荒療治(ハンナにイーライを会わせる)の後に、ハンナがパーシーに「クズなんて言うんじゃなかった。すまなかったね」と疲れたようにつぶやく姿と、パーシーがハンナに「私こそ、ごめんなさい。」と素直に謝る姿が、とても愛おしくて。

イーライはベトナム戦争に志願兵として行きながら行方不明。
ですがハンナだけはイーライが逃亡したことを知っていた。
夜に置いておくパンは、イーライのためのもの。
イーライとの最後の絆であると信じ込んでいた。

イーライを迎えてあげられないハンナを説得するパーシー。
でも説得するという感じよりはむしろ、言い聞かせている感じ。

「自分の子供を失うつらさを私は知ってる。」
「知ってるの。」

自分の子供、イーライを迎えたいとは素直になれないハンナに、自らの経験を隠しながらも毅然とした言葉で言うパーシーは、とてもとても「お嬢さん」なんてもんじゃないぐらい強い女性だった。

そんなパーシーも自分の過去を語るときは弱々しくて。それを支えられるシェルビーはもっと凄い。シェルビーの「あなたの納得することばかりやるのはもう嫌なの」って言葉も印象的。元々人間としてまっすぐだったシェルビーが、パーシーの存在で、背中もまっすぐになったように思えて、そんな女性同士の友情がとても頼もしかった。

この言い方がいいかどうか分からないのですが、自分が男だからか、女性同士の友情とか敵対とか、舞台で見るととても興味深いものがあります。何でか分からないんですけどね。


●そんなこんなでカーテンコール
ほぼ満席の客席から送られる拍手の中、出演者陣が登場します。
言葉にしにくい話ですが、拍手の厚みって作品の出来によって随分違うのですね。
お決まりのような拍手とは全く違う拍手をできる場にいられるのは、とても嬉しいです。
大塚ちひろさんの仕切り(彼女が仕切りをやる日が来るとは実に感慨深いものがあります)で、各出演者からの挨拶。

■草野徹さん(訪問者役/イーライ役)
舞台中一声も発さない役なのですが、

喋りました(笑)

会場内&舞台上から笑いと拍手が起こります。

「初めてのミュージカルでしたけどミュージカルが好きになりました。ありがとうございました。」

何カ所で言及されてましたが、山田まりあさんの旦那さんなのですね。

■宮川浩さん(ケイレブ役)
「作品中では言えなかったことを言います。(シェルビー、)
ごめんね。」

満場の拍手。シェルビーやパーシーが感情移入の対象なだけに損な役回りになってしまった感じのある役だった気がしますが、プレッシャーだったろうなぁと。
シェルビーに面と向かって謝ることができたことで、ケイレブを演じた時に感じられていた気持ちの澱みのようなものが、宮川さん自身も押し出すことができたように思えました。役者さんって本当に精神的に大変な職業だなと改めて思います。お疲れ様でした。

■土居裕子さん(シェルビー役)
「今まで色んな素敵な作品に出会わせていただきましたが、この作品に1ヶ月関われたことはかけがえのない経験でした。ありがとうございました。」

涙ぐんだ土居さんの横から、宮川さんがハンカチを差し出して涙を拭くように促すと、客席からも大拍手が起こります。

舞台上では幸福になった時が描かれなかった夫婦ですが、事前イベント「表参道で天使は電車(バス?)を降りた」(公式レポート)のおしどり夫婦ぶりが、舞台終了後にまた戻ってきたような感じでした。

■剣幸さん(ハンナ役)
「自分の老後が垣間見れました(会場内大爆笑)」

「スピットファイヤー食堂は今日でガラガラ閉店ですけど、またどこかで開店できることを願っています。」

剣さんが演じたハンナ役、実は当初は大浦みずきさんの予定だったんですよね。
かなり早い時期の交代だったために、最初からこの役にあてられたのごとくだったのは幸いでした。このシアタークリエで6月上演となる作品「ゼブラ」で次女役・檀れいさんが降板したのはちょうどこの作品の千秋楽(5月31日)ですから大変でしょう・・・

剣さんがちょっと涙ぐんだときに、隣の藤岡さんが差し出したものはハンカチではなく・・・

拳銃でした(大笑)

何やってんの藤岡さん(笑)

■藤岡正明さん(ジョー役)
「芝居がダメダメで迷惑をおかけしました。「ありがとう」というよりむしろ「すいませんでした」と申し上げたいです」

クリス(サイゴン)、マリウス(レミゼ)とミュージカル続きの藤岡さんですが、この作品、ミュージカルとはいえストレートプレイ歌付のようなものですから、不慣れな感じはあったかも。
ただ、5月半ばに見たときよりずっと千秋楽の時の彼は自然に見えました。
ミュージカルの時「押し」が目立ちがちで、たとえばサイゴンの時は新妻キムと組むと「キムをいかに歌でねじ伏せるか」に腐心してるような感じ(まぁ相手が新妻さんだから絶対に無理という(爆))だったから、この作品を通じて何かが変わればいいなぁ。

「(パーシーに)罵倒される役は初めてだったので、
Mっ気に目覚めそうです(笑)」

■田中利花さん(エフィ役)
「お客さまが喜んでいただけたことがなにより喜びです」

道化役というか、賑やかし役であったわけですが、この作品をラフに見せていた最大の功労者でもあります。

”悪意はないけど、話題に飢えてる”って感じはものすごくぴったりでした。

ちなみに「スピットファイヤー食堂は今日ガラガラ閉店ですと剣さんがおっしゃいましたが、実はスピットファイヤー食堂の支店が世田谷にあって、今も開店しています」とおっしゃっていましたが、あれは何のことなのか実はわかりませんでした。再演決まってるとは思えないしなぁ。

世田谷だと砧の東宝撮影所にセット組んだとかならわかるんですが(サイゴンはセットが大きすぎてあそこで稽古して解体して帝劇に持ち込みます)。

■大塚ちひろさん(パーシー役)
「1ヶ月間、キャスト・スタッフ・お客さまに支えていただいた。そして1ヶ月間パーシーにいつも勇気をもらった。前向きに生きるメッセージが伝わったら嬉しい。」

とか言ってるうちになんだか自分が何言ってるのがわからないぐらいgdgdになっていくちひろ嬢。自分も気づいたらしく「何かわけわかんなくなってきちゃってごめんなさい(笑)」

「今までと違って男っぽい、罵倒する役で、
Sっ気に目覚めそうです(爆笑)」

というわけで上手く藤岡さんのネタも拾ってまとめました。


この挨拶の前にいつものカーテンコールスペシャル「一番近いパラダイス」があり、この挨拶の後更に続く拍手の中もう一度スペシャルで追加。その上で拍手が続くものですから結局カーテンコールは4回か5回。

千秋楽で久しぶりにアンケートを書いて「CD頼みますよぉ」とか書いて地上に出ると・・・とんでもないゲリラ豪雨。
会場内に入る前にぽつぽつ来ていたので覚悟はしていたけどこれまでとは・・・

エレベーターガールさんに一声掛けて地下2階へ戻り、地下通路でつながった日比谷シャンテへ。店内案内で雑貨屋さんを探して2階に上がり、女性ものではありますが傘を買ってなんとか脱出。ふう。

というわけで2回目の観劇が終わったわけですが、かなり早い段階からカーテンコール動画が出ていて興味がわいていたのに、得チケ待ちにしていたのはもったいなかったなぁと改めて後悔。キャスト2人の法則(2人以上好きな役者さんが出てれば当たる法則)にもきっちり合致していた(大塚ちひろ嬢と土居裕子さん)のに、動くの早ければあと1回はみれたなぁと残念(前半は株主優待券での引換チケットがたくさん出ていたのでなおさら)。

再演の時は、もう少しチケットが安ければリピートするのになぁ。

ぜひぜひこのままのキャストで再演希望。
大塚さんの当たり役、眠らせるつもりはないですよね、東宝さん。

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コメント

素早いアップ、詳細なレポ、ありがとうございます。自分は行けないので、実は密かに行かれていることを期待していました。勝手にスミマセン(トラバもいただいていてありがとうございます)。挨拶の様子が目に浮かび、読みながらまたウルウル来てしまいました。
実は毎日、公式のダイジェストとシネマプレビューの映像をリピートしつつ、まだまだ思いを巡らせています。舞台上で描かれていない間のこととか。
玲奈ちゃんにしてもそうですが、自分よりも一回りも下の、しかも同性にこんなに心惹かれるのも変ですよね(^_^;)ま、別にちーちゃんとどうにかなりたいわけじゃないからいいか(爆)

投稿: ぴらふ | 2009/06/01 08:05

こんばんは。
千穐楽行かれたのですねhappy01
私もこの作品は、幕が空いてから評判を聞き行くことにしました。でも、まぁ日記読んで下さっているのでお分かりだと思いますが、私にもかなり心に響きましたclover
それで、このレポを読ませてもらって、色々なシーンに共感できる言葉や想いが散りばめられているんだなぁと改めて思ったりしました。
私もCD希望してますheart04

投稿: なんねる | 2009/06/01 22:17

ぴらふさん、こんばんわ。
相変わらず行動を読まれているようで大変に恐縮です(ぺこり)。

ギリアドの森は千穐楽はいつにも増して暖かくて、あんな良い雰囲気の舞台が、もう終わってしまうのが信じられないぐらいでした。いてもたってもいられなくなって、ついアンケートに手を伸ばしてしまいました。舞台に現れたどんな場面も愛おしいというか、なくなって欲しくないというか。あまり他の舞台では体験したことのない感情でありました。

そういえば、行動を読まれる前に白状しておきますと、最近、平日には仲々身動きが取れなくて、腹黒王子とツンデレ娘さんの今年初日は大変残念ながら見送りとなりました。
とか言って今度の日曜日には行くんですけどね(苦笑)

このお芝居でシェルビー役を演じられた土居裕子さんが今度クリエでコンサートをされるそうで(7月31日)、これも平日なんですよね。ちょっと困ってたりします。(←こんなことを書くと、結果がどうなるかは、きっとぴらふさんには読まれてるかと(爆))

投稿: ひろき | 2009/06/02 01:38

なんねるさん、こんばんわ。

向こうには過ぎたコメントをしてごめんなさい。
先月落ち込んでおられたときにコメントできなくて心苦しかったので、つい余分なことまで書いてしまったかもとちょっぴり心配でした。向こうともどもコメントいただけて、実はほっとしてます。

この作品、とりあえず今月中は公式サイトで動画が見られますので、よろしければご覧いただければ(←どんな東宝の回し者)。

本文のところにはちょっとしか書かなかったのですが、この作品の神髄は究極のポジティブシンキングというか、「否定するより肯定する方が人生楽しいよ。」ってことだと思ってます。現実を嘆いたり夢への距離を呟くより、目の前にあるものをどうやってクリアすることの積み重ねでしか、やりたいことは叶わないと思うから。

自分自身も、(1)で書いたのですがいろいろあって落ち込んでいた5月に見た作品でしたから、なおさら心に響いたのかなと思ってます。作品との出会いも、人との出会いも、前向きな自分でいてこそいいものになるのかな、と思えたことは幸せでした。

6月こそポジティブシンキングがポリシーなはずのご贔屓さんが立ち直ってくれることを祈りつつ。

投稿: ひろき | 2009/06/02 01:40

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