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『容疑者Xの献身』

2009.5.9(Sat.) 18:00~20:20 サンシャイン劇場2階席

東野圭吾氏原作の大ヒット作の舞台化、
な訳ですがあれだけのヒット作にもかかわらず私自身、原作も映画も見たことがなく。
あえて初見をこのキャラメルボックスの舞台にすることにしました。

えと。
いつものごとくネタバレです。
ネタバレ命のこの作品ですので、ネタバレ禁止の方はいつも以上に厳密に回れ右でお願いします。




何はともあれ、舞台を見て泣きました。
舞台を見て泣くなんてことはあまりやらないタチでして、だいたい数年に1度あるかないかなのですが、この舞台のクライマックスは泣きました。で買って帰った原作で今度は泣きかけました。
自分の容姿に自信がなくて、とかいうところに感情がシンクロしたつもりはなかったんですけど(爆)

原作はカテゴリーからすれば推理ミステリーのようにも取れて、大学の同窓生である湯川と石神の、「2人しかわからないせめぎ合い」の緊張感でずっと引っ張っていきます。
2時間全く飽きることなく進んでいきます。

いつもなら率先してキャラメルボックスカラーを作る西川浩幸さんが、「外見にコンプレックスを持つ内気な男」という、ずいぶんと印象と違った役・石神をやっています。
原作を見て、「石神はまるで(演出・脚本の)成井さんそのまま」と、仲村Pも加藤社長も同じことを言ってたのに噴いてしまいましたが。

対しての湯川はキャラメルボックスのもう1人のメインの岡田達也さん。「感覚型の自分は天才になれるかどうかわからない」と言っておきながらもこの役をきっちりこなせるのは流石です。

石神がこの世でただ一人「天才」と認める男を追い詰める湯川。
友人を思うからこそ超えられないバリアーに苦しむ様は胸を突きます。
今回のトーク&フォトブックでも語られていますが、西川さん・岡田さんは上川さんが出稼ぎ中の両巨頭ということで、さすがに同い年には無理があるとはいえ、お互いを認め、お互いのプライドには絶対入り込まない様は、役としてのリアリティに大きく貢献しているように思えます。

「容疑者X」である石神の「献身」にただ一人気づいた湯川は、石神の挫折を含めた気持ちを全て知りえた故に、事実を告げるかどうかに苦しみ、最後は石神の「献身」相手である靖子に全てを打ち明けることになります。

石神が靖子のために作り上げた、「靖子と美里を無罪にするための作品」。その渦の中にいた靖子さえ、美里でさえ、その全体を知ることはなく、警察であれ全体像を見通せないように偽装された作品。靖子と美里が犯した、絶対に覆せない過去を前提として、未来を構成する作品。

確かに、靖子が警察に自首しなければ、石神の作品は完成していたでしょう。
が、そうはならなかったのはなぜか。

石神の作ったものは「靖子と美里を無罪にするための作品」。
それと「靖子と美里を幸せにするための作品」では同じではなかった。

その2つの間には、「靖子と美里の精神的苦痛」が存在しなければならなかった。
それに石神は気づかなかった。正確には気づくことが怖かったのかもしれません。

「自分が、自分だけが靖子を支えてあげられる。」
そう思うことでしか、彼は自分の存在意義を確立させられなかったのかなと。

「何も知らないことがあなたが幸せになる道」であると説かれたところで、最初の種は靖子が蒔いてしまったもの。石神を見捨て、工藤とともに人生を歩む道も、靖子は取れたのでしょうがそれは恐らくしなかっただろうと。
あそこで石神を見捨てるような女性でなかったからこそ、石神も靖子に惹かれたのだろう・・・と思うと、皮肉なものを感じます。

「知らないということは、時に残酷であると思い知った」
原作で一番印象的だったのは靖子のこの独白。

石神の作り出した作品の中で、「嘘を付かずに警察の追及を逃れていた」自分。

自分の知っていた世界は、全体の作品の中のごくごくわずかであり、どれだけの感情が石神から靖子に注がれていたかを知った時、「彼に拘束されて一生生きていく自分」に苦しみを感じた一時に対する、大きな罪の意識が現れたのではないかと。

そういえば、石神に対する感情は、靖子と靖子の娘・美里ではずいぶん違っています。
工藤に心が揺れる靖子に対して、美里はかなり早い段階から石神側に立っています。
美里が自分を傷つけたのは、工藤に傾く母への、唯一採れる捨て身の策だったように思えます。

靖子を演じた西牟田恵さんは初見で、とても素敵な女優さんでしたが、娘の美里役、實川さんも上手く嵌ってた。實川さんは「ハックルベリーにさよならを」(主役)も見ていますが、今まではぴんと来ることがない女優さんだったのですが、どうして中々やります。

「ラストシーンがハッピーエンドじゃないから、キャラメルで芝居にするか迷った」
このコメントは成井さんのコメントで、「いや、あれはハッピーエンドとまでは言えないけど、ある意味幸福への入口」と西川さんがコメント。
このあたりに、この芝居・作品の面白さ・深さがあるように思えます。

確かにここは議論が別れそうなところですが、興味深い点でもあって。

石神自身から言えば、自ら作った作品を完成手前で破壊され、「靖子を守る」という目的が達せられなかったわけですから、それゆえの慟哭でもありましょう。

かといって、石神を誰よりも知る湯川の取った策も、「石神が浮かばれない」という感情も、片や絶対的に間違いではなく、かといって絶対的に正しいわけでもない。

はたまた石神の忠告を振り切って自首した靖子も、「石神の思いに応えられたか」という一点においてだけでさえ、絶対的に間違いではなく、かといって絶対的に正しいわけでもない。

あえて言うなら、石神の不幸は「自分」を基準とした思考でしかなかったのかなと。
「自分にとっての」幸せは、靖子が幸せになることであると。そう信じざるを得なかったと。自分の行いによって靖子が不幸になることなど、ありえるはずはないと。そう信じることこそ全ての前提だったと。
その石神が、親友の湯川や、崇拝の対象でさえあった靖子から、幸せを望まれることなどありえないと思い込んでいた。

「自分にとっての」幸せで暴走した石神を、「皆にとっての」幸せのために湯川と靖子が力ずくで止めた物語のように思えて。

「他人にとっての」という思考や行動はともすれば「偽善」になったりもしますが、この作品の凄いなと思うところは、原作も舞台も同様に、偽善さをまるで見せないところ。
「苦悩の上に行動がある」ゆえかもしれません。ただし、石神は「苦悩」というものをそれを一切見せません。それが印象的でもありました。

「人間という存在は、他者との関係を持って成り立つ」と言ったのは誰だったか、
今作を見て思い出した言葉だったのでした。




話題がちょっと変わりまして。

サンシャイン劇場には次回作以降のポスターが貼られていましたが、この作品とは似ても似つかぬ、ゾンビミュージカル(EVIL DEAD THE MUSICAL)のポスターが貼られておりました。公式こちら
チラシがなくてちと残念。 

由美子さんマジで怖いっす。
伏せ字→や、当然血は吸われたいですけどね

出演者的にかーくん(諸星氏)の恋人役(リンダ役)だろうなと思っていたので予想通り。
カナダでは屋根ヴァとかサイゴンに出演した女優さんがやっていたんで格的にはそのあたりかなーと。

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コメント

ひろきさん由美子さんのブログ
見ました?
なにか悩んでいるのかしら?

投稿: てるてる | 2009/05/27 20:04

てるてるさん、こんばんわ。

弱音を吐くことがめったにない由美子さんらしからぬBlogで、正直びっくりしました。
文面からしてあまり明るい方の話ではない感じですし。

大和田美帆さんのところに載ってる写真を見る限りは、取り立てて何が変わった感じはしないんですけど。

仕事面か、プライベートか、7:3ぐらいの確率かと思っていますが、前者とすれば今年秋以降の仕事が入ってないことは気になりますし(「阿修羅」の時の仕事に対するネガティブな現実コメントも気になります)、年齢的な限界は感じているのかも。

後者は友人関係かなと思いましたが、1月10日の更新に出てた「自分が未熟」発言のようなコメントも出ないぐらいですから、それこそ私事なのかなと。

情報も噂も聞きませんから何とも判断しようもありませんが、「由美子さんが強い女性」という印象を思い込みすぎている分、窮屈な思いをさせてしまっているのかもしれません。

いずれにせよ、由美子さんの地力と周囲の皆様を頼って待つことしかできませんが。

投稿: ひろき | 2009/05/28 00:10

ひろきさん 
私は、前回のお芝居がクオリティの高い
出演者でブログにもよく書き込まれてたような気がします。空中ブランコの時と同じ
作家演出家なので、期待できない・・。
空中ブランコも、素人芸を見せられて
由美子さんのポジションが、いい位置ではなかったですよね。
今回も、瀬戸カトリーヌと、諸星がたくさん出るらしいじゃないですか
ポスターや出演者の順番もあれじゃ
由美子さんが出る意味がない・・。
ミュージカル経験の少ない出演者
その中で、由美子さんは、プロとして
きちんとやられる方なので
疲れているのかな?と勝手に憶測もしています。プライベートはご結婚かもしれませんね。

投稿: てるてる | 2009/05/28 18:33

てるてるさん、こんばんわ。
既にタイトルと大きく離れたレス群ですが・・・

いちお、出演者順としてはトリですから2番手ではあるんですけど。むしろこの舞台(も次の舞台も)一切メルマガに載せない事務所の方が何だかなぁって感じですが。

以前は元々出演作品の話をほとんどblogでしない由美子さんでしたから(「モーツァルト」でさえほとんど話が出てない)、最近が例外と思ってたぐらいです。blogに書かなくてもプロとしてやることはやってくれますから。とはいえ、5月以降は何か精神状態が不安定な感じですね

プライベートもおめでたい話ならわざわざこういう書き方はしないように思うんで(午前6時まで飲んでプロポーズされたとか(爆)だったり)、やっぱり色々不思議ではあります。

投稿: ひろき | 2009/05/29 01:31

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