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『黒革の手帖』

2009.05.16(Sat.) 11:00~15:00
明治座2F席(B席)

2006年に初演された作品の再演ですが、初演は見逃してしまい、その評判の良さに(見られなくて)悔しがった作品。
の割にチケット確保を忘れていて、ついついぎりぎりの日程でB席確保。最近、5桁額面のチケット代出すのはちょっと躊躇するようになったかも。

明治座は2002年に「居残り左平次」で観劇して以来の2度目。今回の作品の「ルダン」オーナーの長谷川役・渡辺哲さんはこの作品にも出演されていました。(氏は昨年の「星屑の街~新宿歌舞伎町篇」でも拝見しているので3度目になります。とん平さんもいるし、回り舞台もあるし、なんだか「星屑の街」の新宿コマにも似てます。)

久しぶりに見た明治座は、博多座にそっくり。というか博多座(1999年開場)が、明治座(現劇場・1993年開場)を見本にしてるとどっかで聞いた記憶が。

ヒット作の再演ということもあり、劇場の外まで入場列がずらーっと列を作り、なかなか入れません。

ご贔屓さんが特にいない今回の作品なのですが、あえて言うなら主演の米倉涼子さん。
モデル出身にかかわらず「舞台大好き」と明言するその真剣さが魅力的。パンフレットを見ると初演の時、演出家に「今回の舞台(「黒革の手帖」初演)が上手くいかなければ今後舞台をやらないつもり」とまで言ったのだそうで、その漢っぷりに惚れます。

舞台を見に行くと必ずパンフレットは買うようにしています。正直、「どうしようもない出来」という芝居でも、開演前にパンフレットを買う癖が付いているので、よほどのことがない限りパンフレットが手元に残ります。

それに比べ、自分が芝居の満足度とか期待度を測るときのバロメーターが、「原作を買うかどうか」です。むろん、原作がない作品は買いようがないのですが、直近では「容疑者Xの献身」、去年は「ルドルフ」が唯一でした。そして今回の「黒革の手帖(上・下)」。

売店でさくっと原作本買いましたとも。舞台終了後、5時間かけて一気に読破。

同じ袋にクリアファイルやら米倉嬢のインタビューが入ってる「銀座時間」やらポストカード5枚セットが一緒に入ってるのはなぜだか分からないのですが(爆)。

さて本編。

毎度恒例、ここからネタバレです。舞台版・原作版ともにネタバレありますので、ご注意の上お進みください。



この舞台作品は3編構成で、各1時間ずつの本編と、その間に休憩タイムが約30分ずつという長丁場で、合計4時間。これを1日2回ですから、いやはや役者はタフじゃなきゃやってられませんな。

全編に亘って米倉涼子さん演じる元銀行員にして銀座のクラブ「ルダン」のママである原口元子が、まさに座長の風格で芝居を引っ張ります。長身で着物映えする容姿といい、すらっとした立ち姿といい、当たり役に恵まれた女優はここまで美しくなるものなのかと、ちょっとした溜息も付きそうになるものです。
そういえばクラシックバレエをやっていたそうで、うちのご贔屓さんと同じだなぁ。

この作品は一言で言って元子の、のし上がり物語でありまして、銀行員だった彼女が架空預金口座情報を記載した「黒革の手帖」を元手に横領を行ったところから、得意絶頂に銀座を闊歩し、そして大きな渦の中に飲み込まれていきます。

元子は「悪女」と括られる性格の女性であり、周囲の男達を籠絡し、利用し続けますが、男に対する限りにおいて、元子は「悪」には見えなかったなと。

何しろこの作品、男は脛に傷持つものばかりで、元子に強請られる原因がわんさとある男ばかり(爆)。
とはいえ、物語後半に向かうにつれて元子がそれら「男」に絡め取られ、利用し返される場面を見ると、「利用した分、利用し返されただけ」で、ある意味対等というか、対決というか、後々まで引きずるようなところがない。田山涼成さん演じた美容外科クリニックの院長だけが唯一、張り手という形で決着を付けているところが多少女々しかったぐらい。

その意味では、元子は「『女を武器にした男』として男と対峙した」ように見えます。

翻って実に興味深かったのは元子が利用した男以外の人々。つまり同性である女性です。
元子のクラブにいて独立を結果的に妨害され、並々ならぬ憎悪を抱く女性・波子がまずその代表格。演じるは松本莉緒さんで、初見の女優さん。

どっしりした元子に比べると、いわゆる「男好きする小悪魔的な女性」なわけですが、何というか、ただがなってるだけの、とても薄っぺらい演技に見えてちょっと物足りなかった。結果的に波子は周囲の全てを動かして元子にしっぺ返しするわけですが、や、それにしちゃいくらなんでも波子の人間的魅力乏しすぎないかなぁ、と思ってしまいます。確かに元子は暴走してたし、あらゆる人を足蹴にして蹴散らしていたけれど、じゃぁ波子が元子の代わりになり得る女性かというと、とてもとても。

というか独立してすぐ元のママの上でクラブ開くって、その時点で元子に喧嘩を派手に吹っかけてるわけで、元々喧嘩売ったの波子なわけで、一方的に被害者ぶるのは変だと思うんですけどね。

ともあれ、役者としてのキャリアとかハマリ度が違いすぎたという意味で、バランスが良くなかった気がする。まぁ、男達にとっては元子に復讐するために用意した道具が「波子」であっただけで、波子が元子同様に暴走すれば同様に潰される運命にはあるんでしょうけどね。

女性として印象的だったのは萬田久子さん演じた叡子ママ。「銀座の夜の良心」とも言うべき、その恩人に対して元子が放った言葉は、さすがに「恩知らず」のそしりは免れないなと。

「負けたんじゃない、戦うのを止めたのよ」という言葉にあった、叡子には珍しい怒気を含んだ言葉を聞いたときに、元子の破滅が見えた気がしました。

つまり、元子は他人のプライドに無頓着であったからこそ、あそこまでがむしゃらに走ることができた。「敵を作る」ということは要するに「プライドを傷つける」ことなのだと思わさせられます。

舞台最後、叡子ママは(結婚した相手の連れ子の)プレゼントを買うために銀座に足を伸ばしています。ところが、元子は銀座では「過去の人」。誰も話題にもしない。
銀座で鳴らしながら、片や銀座に足を向けられる叡子と、銀座に足を踏み入れられない元子のコントラストが印象的で。

叡子が「名誉ある撤退」をできる場面でクローズしたのに対し、自らの策におぼれ、自分の身の丈の何倍もの背伸びをした結果、全てを失った元子。

パンフレットに書かれた「赤坂の土地を転売して得る『予定』の収入を元手に・・・」という言葉の『予定』という単語に、実は開演前に目が惹きつけられました(この時点で原作未読)。

「予定」は予定であって確定ではない、そしてルダンのオーナーが示した違約金の条件(手付金の同額を違約金とする)から、元子の野望が一気に崩れ落ちる第3幕。

ここでのキーマンは赤坂の料亭の女中で、要はこの女性が刺客だったわけですが、原作では元子がその様を冷静に振り返っているのに対して、舞台版ではここをほぼ吹っ飛ばし、ただ状況進行だけでラストまで持って行っています。スピード感が増した分、説明事項はずいぶん省かれているので、この辺りは原作と一緒に読むことでより納得しやすかったかなと。

最後の最後、元子がフェードアウトする形で終わり、登場人物ほぼ全てに恨まれて退場する元子でありながら、その次に幕が上がって挨拶するカーテンコールでは、満面の笑顔で米倉さんを中心に皆が健闘を讃え合っているのは、なぜか不思議な光景に思えました。

米倉涼子さんが、元子そのものに見えすぎたから、感じた違和感だったのかもしれません。



そういえばこの日のハプニング。
左とん平さん演じる橋田理事長が永井大さん演じる議員秘書・安島を元子に紹介するシーン。

「いずれは『芸能界』にも進出しようってハラでさ」

会場内大爆笑。

もちろん正しくは『政界』なわけですが、客席も大笑い、舞台上も何気に大慌て。
とん平さんが自己フォローできなくて舞台真ん中あたりまで逃げ出するのを米倉さんが追っかけて、
「大丈夫大丈夫」みたいに背中叩いてたのは何気に良かったなぁ。

いいカンパニーみたいですね。

(おまけ)この作品のPR番組の再放送が本日17日深夜4時からテレビ朝日系でOAされます。

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