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『ルドルフ』(4)

2008.5.31(Sat.) 12:30~15:00 帝国劇場1階最後列センター
2008.6.1(Sun.) 13:30~16:50 帝国劇場1階最後列上手側

「The Last Of Rudolf」となる予定だった5月31日のマチネ。

運試しに並んだ6月1日の朝10時、帝国劇場での抽選で70人枠に入り、無事千秋楽も観劇できることになりました。
当初千秋楽にこだわるほどには熱意がなかったこの公演ですが、なんでか作品が愛おしくなって、千秋楽をもって5回目の観劇になります。

まずは前々楽で気づいたことをいくつか。

前回も触れた「少しずつ死ぬぐらいなら、いっそひと思いに死ねばいい」の言葉、劇場前で老婆から吐き捨てられる言葉は、時を経てマリーから言われることで、2人の最期への引き金となるのですが、老婆から言われた直後、ルドルフはこの言葉を反芻しているのですね。

民衆の苦悩を皇族にありながら胸を痛めたルドルフにとって、この言葉は胸に突き刺さったわけですが、するとかなり早い、この段階からルドルフは「死」を視野に入れていたように思えます。

じわじわと真綿で首を絞められるように権限を失っていくルドルフの辛さにとって、「少しずつ死ぬ」ことより「ひと思いに死ぬ」ことへの共感のようなものが流れているような気がしました。

正直、この言葉を一言一句違えずにマリーに言わせるのは、ちょっと唐突というか偶然にも程があると思うので、ひとつ溜めというか間に一つあればよかったかなと、いつも思います。

笹本さん演じるマリーは、公演最初に比べていい具合に強さが消えてきて、やわらかさを出せるようになってきていて。ステファニーから逃れてマリーに救いを求めた理由が分かるようになってきました。最初はステファニーもマリーも「押し」一辺倒でキャラがずいぶん似通っていましたから。

確かに、「皇太子になれ」と「自分らしい皇太子になれ」という違いはあって、ルドルフの存在だけを必要としているステファニーと、ルドルフの人格までも必要としているマリーでは、マリーに惹かれた理由は分かったわけですけど。

この作品でルドルフがもっとも人格破綻に陥る娼婦の館ですが、ここでのマリーの服装がいまだ誰も言わないので言ってしまいますが、由美子さんが演じた「SHIROH」の寿庵の「さんじゅあんの館」の服装と色合いがほぼ一緒なのですね。

内側が赤で外側がエンジ色という組み合わせは、「赤」が指し示す情熱を、「エンジ」という理性と威厳をもって包み隠すというような意味合いがあるので、色が似ても全然不思議ではないのですが。

マリーは娼婦の館でルドルフに「あなたらしい皇太子を目指せばいいじゃない」と言っていますが、これは寿庵がさんじゅあんの館で益田四郎時貞に言った言葉に通じるものがあります。
「完璧でない」ことを許す気持ちといいますか、むしろ「完璧であることよりあなたらしさ」に惹かれている気持ちがどことなく似通っていて。

「SHIROH」の場合は四郎と寿庵は惹かれあっていたことをお互い言い出せなかっただけで、そこにいる誰もが止めてはいないわけで(むしろ皆が後押ししている)、「ルドルフ」の心中とは物語として似ては似つかないはずなんですけど、「責任」という名の牢獄の中で策謀家により自由を奪われた男が、暴走してしまうという本筋は瓜二つなだけに、どうしてもそこに共通点を見出して見てしまうのです。

恐らく「SHIROH」を見たときと「ルドルフ」を見たときの、満足度の差は、最後に女性が生きるか死ぬか、その一点でしかないように思われるのですね。

「SHIROH」の場合は戦いの中で命を落とした寿庵に四郎が命を吹き込み、寿庵が一人生き残り後世へ物語を語り継ぐ位置づけですが、「ルドルフ」はルドルフとともにマリーが命を落とすわけで、カタルシスに足りないというか、「ルドルフは結局死に場所を探していたのかも」という結論になってしまいます。

「死に場所を探していたルドルフは、マリーと出会うことにより生きた牢獄から出られた。マリーはルドルフの立場を慮ってこそ、一緒に死ぬことを選択した」ということではあるのですけれど。

ちなみにどうでもいいことですが、由美子さんと笹本さんは、井上君が舞台上でおんぶしようとしたのを、拒否した経験をもつ世界でただ2人の人です(笑)

※由美子さんは2005年の「モーツァルト」博多座楽。笹本さんは今回の「ルドルフ」初日。

以下は千秋楽観劇あとの話。

千秋楽の日の井上ルドルフは、その身に何か取り憑いたかのよう。

「私という人間」のぼろぼろになったルドルフは、リアリティ以外の何物ともいいがたく、全ての道を閉ざされたルドルフが、マリーの覚悟と言葉に支えられ、自らの力で立ち上がり、自らの目指す皇太子となるべく「明日への階段」へ駆け上っていく。

「私」を持ちたくてもてなかったルドルフが初めて知った自らの存在意義。
それが自らの立場を危うくするものであったとしても決して止められない、止めようもない意志の強さが、あの場には感じられました。

苦悩振りが凄まじく、「気の強さ」を捨てて「芯の強さ」で語りかける笹本マリーの進化とあいまって、それはそれは壮絶な説得力で観客に訴えかけてきて。

ことここに至って振り返ると、笹本マリーの不自然さは、もともと気の強い演技をする笹本さんに、より気の強い演技をさせたことによる、やりすぎ感だったのかもしれません。

それがいい方に出ていたターフェ首相とのシーンとかあるにはあるのですが、ことルドルフに対して見るなら、誰もが皆自分を責め立てる中で、ただ一つの救いとなったマリーが、タイプとしてステファニーと同じ強要型でいいのかどうか、という点はあるわけで。

トークショーとはいえ一度ダウンしたことで笹本さんの中でマリーのキャラが変わったようで、いい意味で柔らかく、「男を掴まえてのしあがる野心家」という原作の設定をばっさりと捨て、「何も知らなかった恋に恋する少女が、愛を知り強くなっていく」という心の動きに変わったことで、ルドルフがマリーに惹かれる様が実に自然になっていて。

ターフェと対峙するシーンも驚くほどにマリーが苛められモードで、かつステファニーの波状攻撃(爆)もピンポイントで喰らって、必死でルドルフにしがみつくかのようなマリーは、初日とは驚くほどの変わりようで、直後の「愛してる~リプライズ」は不覚にもうるっと来てしまった。

笹本さんはスタートダッシュと中だるみの併用型で、初日以降あまり芝居が変わらないのが今までだったのですが、「ウーマン・イン・ホワイト」といい今回といい、「芝居をすることで自分の芝居が変わる」いい役者となる一つの要素を身に付けつつあるように思えます。

ルドルフの話に戻ると、今回感じたのは存在の皮肉のようなもの。

オーストリア・ハンガリーの改革派から突き上げを食らったルドルフは「ハンガリー国王」となることを求められるが、ルドルフの答えは「ハンガリー皇帝」。

当初これはただの言い間違いだと思っていたのですが、これを言い間違いでないと仮定するなら、改革派とルドルフの間には、考え方のずれがあったのかなと。「呉越同舟」みたいな。

ルドルフ自身が「皇帝」と称しているのは、自らが「帝国」の中でしか変わらない現れであるわけだし、「国王」になる意思はない(そこまで変えようとは考えていない。むしろそこまで変わろうとは思いもしない)。

そこに「民主主義」と高らかに謳いあげたルドルフの若さゆえの危うさを見るのですね。

「民主主義」を唱えることで自らの「皇太子」としての立場が危ぶまれる皮肉。

帝国であればこそ保たれる自らの「皇太子」としての立場。守られることを信じて疑わないルドルフは、明確に自らの前に立ちふさがるターフェに利用される以上に、「改革派」という名の人々に利用されたのかもしれません。

自らリスクを負って発した決意表明、それがそのままターフェ、そして父であるフランツに明らかになったときのルドルフの落胆は、「政治的な自分」への決別以外にはなかったのでしょう。

思った以上に楽しませてもらったこの作品も、この日で一区切り。
千秋楽恒例の一言挨拶大会(特別カーテンコール)は50分に亘ります。
既に公式にほぼ全てのコメントが動画でupされていますので、ここで言葉にすることにあまりの意味はないのですが、印象に残った方のコメントをいくつか。

新納さん(英国皇太子エドワード役)
トークショー要員で配役されました(笑)
ルドルフが唯一心を許した友人として、2人が心中する様を初日から見続けて、どこで止めたらいいんだろうと思いながら、とうとう千秋楽まで来てしまいました。
次こそは、心中を止めたいと思います(笑)

壌さん(皇帝フランツ・ヨーゼフ役)
井上君に役の上とはいえ、怒ったり罵ったり・・・・気持ちよかったです(笑)
(笹本さんはツボにはまったのか、マイクに盛大に噴いてました(笑))

何を言ってもいいと言われたので次の舞台の宣伝をします(笑)
・・・これを言わせてもらったからには、「皆様これからも帝国劇場、東宝株式会社をよろしくお願いいたします」(笑)

笹本さんは冒頭、5月25日のトークショー欠席のお詫びをされていて、本当は拍手するシーンじゃないのかもしれませんが、自然に拍手が出ましたね。形通りなのかもしれないけど、ご本人の口から言ってもらえて、色んな意味で気持ちが納得できて嬉しかったです。

今回の作品、出色だったのはパンフレットの「別冊」。

通常、帝劇ミュージカルではパンフレットは初日には稽古場写真で発売され、その後舞台写真に差替えられて別の版が出るのですが、今回は舞台写真だけ別冊で600円。5月31日のソワレをもって5000部が完売しましたが、実にいい企画だったと思います。

たった1ヶ月の公演でパンフレットを2種類買わせること自体が毎度無謀だと思っていましたので、600円、しかも会場受付でエクスパック送料込み1000円(エクスパックは500円なので100円割引)というのもちょうどいい具合で、上手いこと実態にあった商売したなぁと、東宝さんらしくない小回りの効き方だったと思います。

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