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『レベッカ』(1)

2008.4.12(Sat.) 17:00~19:55 シアタークリエ 下手側

東宝新劇場・シアタークリエ初体験は、同劇場3作品目にして初のミュージカルとなるこの作品。

隠れ大塚ちひろフリークとしては(笑)、気になってはいたのですが、先行ですっかりチケットを取り忘れ(最近、数が多くもないのにこういうのが多い)、初日後にふと覗いた東宝ナビザーブに、なぜか土曜ソワレの残席ありの表示が・・・・たった1席で慌てて購入。

まぁ、劇場に行ってみたらなぜか当日券がまだ残っていたという情けないオチもあったんでございますけれど、それでも「満員御礼」でしたから、恐らく戻り券が存在したのでしょうね。

噂には聞いていましたが、ロビーが狭いこと狭いこと。
地下ではないですが、先週行ったPARCO劇場に近い感じを受けました。

とにかく客席を多く取ることに執心した中劇場、という趣が。
どちらも600人前後の劇場ですから、雰囲気も似るのでしょうが。

この作品、基本的には女性上位の舞台で、「わたし」役の大塚ちひろか、ダンヴァーズ夫人役のシルビア・グラブか、もしくは前妻のレベッカ(役者はいない)の誰に感情移入するかのような気がする。

役者の凄みでいえば、内容的な主役と思えるのはダンヴァーズ夫人役のシルビア・グラブ。
前妻を崇めるかのごとく振る舞い、後妻の「わたし」をいたぶり続ける、家政婦頭。

様々な舞台を見てきましたが、あそこまで「悪意」そのもので他人を攻撃する役って、ついぞお目にかかったことがないです。

むろん、ダンヴァーズ夫人にとっては、表面的に「社交界の華」であったレベッカは崇拝すべき主であるのでしょうけど、でもあそこまで後妻をいびるって・・・と思ってしまうのだけれど、逆に言えばそういう役回りにあそこまで嵌るとは、完全に当たり役です。

当初から「わたし」視点で作品に入り込む私のような客にとっては、自分が責められているような感じでたいそう怖いです。ちひろ嬢が「怖い、泣きそう」という理由が今なら大げさでも何でもなく、正に真実だったことが痛いほどわかります。

シルビアさんを見るのはレミゼのファンテーヌ役、「ライト・イン・ザ・ピアッツァ」のフランカ役を経て3作品目ですが、そういえば「ライト・イン~」の時も主人公(新妻聖子さん演じるクララ)に悪意でぶつかる役でしたので、2作続けて憎まれ役ということになります。

シルビアさんはうちのご贔屓さん(高橋由美子さん)と同い年(そう言ってしまうと私とも同い年)なのですが、34という年齢は女優さんにとっては非常に微妙な年なのですね。

女優さんの一つの壁は「35」という年齢にありまして、30過ぎると女優さんは主演の仕事が超一級の人を除いてはほぼなくなり、脇で生きていくことになります。
それはテレビだけではなく舞台でさえ同様で、30代で舞台で主演かヒロインをさせてもらえる女優さんは、驚くほど少ないのが現状です。

今年の帝劇を見ただけでも、メインヒロインが30代なのは、現在公演中の「ラ・マンチャの男」の松たか子さん(31歳)と「細雪」の三女・檀れいさん(37歳)、「エリザベート」の新シシィ・朝海ひかるさん(36歳)の3人だけ。年間でメインヒロイン13枠の中で見れば、層が薄いと言われる20代が6人とほぼ過半数を占めています(キム4人が20代というのが例年になく平均を押し下げているのですが、サイゴンなければレミが来るし、レミはエポとコゼのどちらをヒロインと見ても20代だし)。

よって、そういう30代という立場の方は、皆さんファンテーヌ役かエレン役(かどちらも)を経験するというのも当然の帰結。マルシアさんも似たような活動のされ方で、ネームバリューのある30代の実力派として、サブヒロインとして舞台上で活躍する、というのが定石になっています。
フジミューだったり、ハロプロ物の脇だったりします。新宿コマ劇場は何気に30代サブヒロインの宝庫です。

話をちょいと戻しますと、30代の女優さんの立場は、ことほどさようにサブヒロイン役、ともすれば敵役にならざるを得ず、役柄によっては下手をすればお客さんに役と同化して見られかねないという、実に大変な立場になります。

「わたし」視点で見てると、ダンヴァース夫人を演じるシルビアが怖ければ怖いほど、「シルビアって、もともとこういう性格なんじゃ?」と思われてしまう(爆)という怖さですね。

敵役、つまり客に共感されない危険性をもつ役柄を、どう作品の中で必要とさせて演じるか、その立ち位置を試される30代女優。

ことほどさように難しく、12月にル・テアトル銀座で見たフランカ役のシルビアは、自分の”敵役”という位置に、少し気後れしていると言うか、躊躇いを感じてしまったのですね。
「主人公をいじめることで、自分が嫌われたくない」かのような迷いを今からすると感じるのです。

「今からすると」というのは、シルビアのダンヴァース夫人を見たから。

この役、ダンヴァーズ夫人にはそういう迷いが何一つなかったのが素晴らしかったと思う。
海外版も何もかも、全てを見ないで行ったので、他の要素と一切比較できないけれど、「敵役」という役どころに怯むことなく、「レベッカを信じることが自分の正義」、そう思いつめた女性の悲劇。

もしかすると、「レベッカが存在することが、自分の存在意義」だったのかもしれない。そこまで思わせるほどの執念であったと思います。

レベッカという存在の実は最大の犠牲者だったかもしれないダンヴァース夫人の生き様は、「わたし」のピュアさと、並べられるだけの価値があるものだったように思う。

対する、本来はメインヒロインである大塚ちひろ演じる「わたし」。

存在感としては先述のダンヴァース夫人、シルビアに圧倒された彼女だけれど、この女優さんは最初に白状したとおり、自分にとっては隠れフリークの女優さんだったりします。

舞台デビュー作の「シンデレラ・ストーリー」を私は見ていないのですが、その時、この作品と同じく山田さん演出のもと、いじめられ役のシンデレラを演じているわけで、このたび、再びいじめられ役の「わたし」として舞台に立つ彼女を見ると、虐げられ顔がこれほどまでにはまる女優さんもそうはいまい、と思わせてくれます。

デビューのきっかけがそもそも東宝シンデレラの”準”グランプリということもあり(グランプリは長澤まさみさん)、デビューからしてメインヒロインではなく、一歩下がったところで生きていくことを余儀なくされるかのような立場というのが、何というか「大手の割に即メジャーにならない」という意味で、妙に肩を持ちたくなってしまうのですね。

舞台の外で色々なことで賑わせる、東宝芸能にしては珍しい脇の甘さで、休憩中の観客席でさえ「東宝芸能は彼女を売り出したいんだろうけど、色々とミソつけすぎだからね」とまで言われる始末(しかもそれが普通の光景)で、そんなところまでフォローする気はないのですが、彼女の魅力はと聞かれると、ある意味「何も秀でていないところ」かな、と思う。

4年ほど前、ご贔屓さん(高橋由美子さん)のことをこうたとえていた人がいまして、今だにこの表現を越す褒め言葉を聞いたことがないので勝手に採録してしまいますが、

「うますぎず、下手すぎず、かわいすぎず、美しすぎず、若すぎず、としすぎず、超人気すぎず、程よい知名度、程よい聞きごたえのある歌唱力。いい意味での、手ごろな欠かせない存在」

これ、ぴーったりちひろちゃんにもあてはまると言うか。
(アングルによっては由美子さんとちひろちゃんは驚くほど似ています。姉妹と言われても驚かないほどに)

若手で言うと、ミュージカル界のヒロインの先頭を走る笹本さん、新妻さんに比べれば、大塚さんは歌唱力では及ばないし、演技力でも存在感でも勝るものは見つけられないかもしれない。

でも、だから魅力がないかというとそうではない。それがすごく不思議なんですね。
歌が上手ならばそれに越したことはないけれど、歌が上手でないから全てダメなわけじゃない。

大切なのは「役者としての味」なんだなということを、ちひろちゃんを見るたびに思い出します。

もう少し、色々と余計な雑音は排除して欲しいんだけど、それを除けば、見る側に無用な疲れを持ち込まない「味」は、今回のような作品では、意外なほどに上手く作用してるように思えました。

(歌が技術的に上手い人の舞台は、時として観客としてすさまじく疲れを催すことがあります。特に、技術的に上手くて感情が伝わってこない時はなおさら。オールースターキャストで臨んだ「マリー・アントワネット」とかはそんな気持ちを持った記憶が。)

自分に自信が持てずにいたみじめな女の子が、自らの意思で愛する人のために立ち上がる。
その心の動きに「嘘」が見えなかったのが、技術的にどう、とかいうことじゃなくてこの役にとって、ひいてはこの作品にとって大事なことだったんじゃないか、と思う。

それは「ダンス・オブ・ヴァンパイア」でサラ役を演じた時も、ちひろちゃんには感じた。

以下はちょっとネタバレ!







「わたし」が支えたからこそ、マキシムも「真実に向かいあおう」と決心することができた。
取引ではなく、真実を突き止めようとしたことで、本当の真実を知ることができ、それにより前妻の鎖から解き放たれることができた。

最後のシーンは、前妻の「恨み」のこもった場所がこの世から消える、マキシムにとっての本当の意味での「人生の再出発」なのではないかと思えて。

そのときに隣にいた「わたし」が「マキシムのために戦った戦士」であって良かったなぁと、胸の奥がじーんとしてしまった観劇なのでした。

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