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『ひばり』

2007.2.25(Sun.) 14:00~17:25(休憩15分含) シアターコクーンM2F 超上手、舞台90度横

この日は、2月前半の観劇リピート作品だった『地獄八景・・・浮世百景』の大阪千秋楽。更に大阪では隣で朧も大楽。

『地獄・・・』はDVDが出るのが当初から濃厚だったため、大阪遠征は外して、楽近くのこの『ひばり』観劇をセレクト。

8年ぶり(※1)のシアターコクーンはやっぱり道に迷い(最近迷ってばっか。つか渋谷は苦手)、開演ぎりぎりに着席。難解の時代物って話だったのであらかじめパンフを読み込みたかったんだけど、まぁ自己責任ですね。

(※1)1999年7月25日の高橋由美子嬢の「セリーヌ・ディオンを歌う」コンサートでした。その因果か今だに彼女の舞台にはシアターコクーンから花が来ております。

蜷川氏演出の舞台は初めてで、(パンフを見るといっぱい書いてある)役者同様、客席もそのネームバリューにちょっと焦ってしまってなぜかいままで機会を作らず。

松たか子さんにジャンヌダルクなら題材自体が直球ストレートど真ん中だからよもや外すわけあるまい、とテーマに惹かれてチケ取り。

ちなみに『神風怪盗ジャンヌ』(※2)って作品も好きでした自分(爆)。

頭が切れる闘う女性がめっぽう好きな自分にしてみりゃ、転んでもただでは起きない松さんの強さがこの役を引き立たせるのは見る前から明らかだし。

で、見だして見たんですが、なんか出だしは誰かが言ってたけど野田秀樹さん作品の松さん。んで同じ野田さんの宮沢りえさんにも似てる(『透明人間の蒸気』)というか。

ということで出初めにはちょっと違和感を感じたわけですが、普通に15歳に見えるのはさすが松さん。
今月は20歳の高橋由美子さん、25歳の堀内敬子さんと見て、とどめが15歳の松たか子さんですか(いずれも年齢は役柄上の推定年齢)。なんつーことだ、みんな実年齢と1回り違う(爆)。

裁判劇ということで、ジャンヌダルクが裁かれる過程を過去と行きつ戻りつで展開していきます。

長台詞を全て理解するのはかなり前半であきらめて(1つ前の観劇のシェークスピアの『ハムレット』で流石に疲労困憊したので)、主題へのぶら下がり方とそれぞれの場面の方向性を紡ぎながら見ると、とてつもなく長いはずのこの作品、意外なことに時の進むのが早く、要するに満足度が高かったということなのでしょう。

(※2)少女漫画誌「りぼん」で連載(1998-2000年)され、テレビ朝日系でアニメ化(1999-2000年)もされた作品。ジャンヌダルクの設定借りてるだけで内容は全然別物ですが。

で、ネタバレ始まります。
東京公演は今月28日まで。見られたくない方は回れ右っです。


神からの言葉で自ら立ち上がり、その「人たらし」(※3)の才能で次々に味方を増やしていくジャンヌ。しかしそこに真の愛情は存在せず、存在価値が失われるとともに捨てられて。

神の存在を絶対とし人間を穢れたものとして扱う周囲に対して、「人間」を信じたジャンヌの対比は、その人間に裁かれることを、だからこそ受け入れたように思えて。

日和見で頼りなげなシャルル七世を、即位させた立役者のジャンヌは、シャルルに与えた「勇気」によって、そのシャルルから切り捨てられるシーン。
その時のジャンヌが一番印象的だったかな。

自分が与えた勇気によって自分が捨てられた皮肉。

その時の松さんの表情は、「運命」というものをより能動的に受け入れた、ある意味「前向きな悟り」に思えた。

自分のジャンヌのイメージは、「神の声を聞いたあの日から、自分は運命をあえて受け入れるように生きてきた」というもの。

揺ぎない信念がバックボーンにあるから、裁判の場で四方八方から襲い掛かる言葉の暴力にも、毅然として跳ね返すことが出来たのだと思う。

ジャンヌと言えば火あぶりの最期が有名ですが、そこからあえてあのラストに持っていった戯曲の面白さ。まさかこの作品でハッピーエンドに持っていくと思ってなかったからそれが何よりびっくりした。

(※3)パンフに載っている精神科医の和田秀樹さんのコメントより。前からこの方の文章は大好きですが、今回も必要十分の名文を書かれています。

今回、パンフが実に面白いのですが、今まで蜷川氏作品に抱いていたイメージとはちょっと違って、難しさに終始しない大衆的内容が読み応えがあって。

何より松さんがパンフの内容でも自分の存在が周囲に脅かされていないところがさすが。
オチを付けなければ気がすまない松さんのユーモアセンスも超抜群で爆笑してしまいました。

しかし、松さんから「聖女マルグリット様」とか劇中に「アニェス様」(シャルル七世の愛人で、絶世の美女と言われる。この舞台では小島聖さんが演じています)とかいう台詞を聞いていると、遠く大阪の地で演じている某舞台のことがちょっと脳裏に浮かぶ。

やっぱり松さんには闘う女が似合う。王女様になびくようなことがなくて、そこはほっとしたかも。

「人間はどこまで卑怯になれるのでしょうか」と叫んだのはその某舞台の王女様の言葉だったけれども。

栄華となじられ方の両極端を、同じフランスで作り出したジャンヌダルクとマリーアントワネットですが、印象がまるで違って。

ジャンヌダルクは周囲の検事をはじめとする「裁く側」の人間をも、共感させるだけの面を持っていた、ある意味究極の「人たらし」。

でも根底には「人間を信じる」気持ちがあったんじゃないかと思う。それがジャンヌダルクという人物に説得力を与えていたと。

マリーアントワネットは「人間を信じる」気持ちが持てなかったから、浪費の限りを尽くし、本当の愛情を受けられぬまま断頭台の露と消えたのだと、そう思えてしまったのです。
(そして、マルグリットさえ「人間を信じ」られないからあの作品を見た後に殺伐とした思いをするのだと、改めてこの作品を見て感じてしまった)

ジャンヌダルクは人間を信じたからこそ
「人間が卑怯である」とは言わなかった

マリーアントワネットは人間を信じられなかったからこそ
「人間が卑怯である」と言った

マルグリットは人間を信じたことがなかったからこそ
「人間が卑怯である」に同意した

この差は、登場人物への感情移入に、どことなく影響しているような気がしてなりません。

人間として生きるなら、人間を信じていたい
そういう願望に、勇気を与えてくれるところが、この『ひばり』の大好きなところです。

人物的な面に戻ると、松さんもパンフで言っていますが、時に「女の子であることを利用する」女性だと。相手に対して最も優れた対応を嫌味にならず演じられる人間だからこそ、神は彼女を選んだのではと、そう松さんは言っています。

「誰も気づいていないだろうけど、あなたは凄い人なのよ」という表現は、このパンフで和田先生がジャンヌに対して語っている言葉ですが、そういえばこの言葉どこかで聞いたと思ったら・・・・コンスタンツェ@モーツァルトだった。

そういえば、今の松さんだからジャンヌを演じられたと思うと同様、コンスタンツェもあの時点の松さんには、意外に難物だったということなのかもしれない。
というのも、あの時のコンスタンツェは強引な力技という面が強くて、有無を言わさぬ説得力と言う意味では足りなかったように思う。

今回のジャンヌは松さん自身「嫌味にならず」と表現していますが、その絵空事さをあたかも当たり前の事実であるかのように説得付けられる、役としての、役者としてのオーラが滲み出ていたように思われるのです。

説得というのは結構に難しい作業で、説得する相手より小さく見えてしまうと真実味は全然ないし、”殻に閉じこもった人”の感情を動かすことへのエネルギーは十分すぎるほど伝わって、それが何より素敵だった。

ジャンヌダルクはうちのご贔屓さんも大好きらしいんですが、そっちの人が演じる日本の説得女王(苦笑)は、1週間の上演延長が決まりました。来月は通うのきついんだよな・・・・

なおこの『ひばり』、来月下旬にNHK教育にてテレビ放送が決まっているそうです。(一部月刊テレビ誌に情報が出ているそうです。)時間的にノーカットは無理ですが、また見れるのは嬉しい。

相変わらずカーテンコールでは男前な松さんに改めて拍手。

最後に一言。
橋本さとしさん、やっぱり貴方は只者じゃない。

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コメント

3月25日(日)NHK教育 劇場への招待
での放送みたいですね。
放送時間は2時間45分なので、30分ほどカットされるかな。

まあ観劇してない私にはどこがカットされたかも
わからないので別にいいんですが(笑)
松さんの舞台はまだ見たことなかった
(ミス・サイゴンは人気の松さんキムの日ではなく良席で見ることを優先したので知念さんキムでした)
のでテレビ放送は見ようと思います。


そういえば由美子さんはまだ蜷川演出の作品出演はないですが、そう遠くない時期に出演の話はくるかな?

投稿: ま~さ | 2007/02/26 18:30

ま~ささん、こんばんは。

放送時間からして30分ぐらいのカットですが、長台詞の連続で、多少すっ飛ばしても何とか話はつながりそうなので、きっと何とかなるのでしょう。

松さんは先日見たメタルマクベスのジャージといい、ひばりのパーカーといい、なんだか妙に衣装が安く済むというイメージが付いてしまった感(笑)。

由美子さんが出るとしたら、今回の小島聖さんのような位置なのかなぁと想像します。コクーンの芸術監督は蜷川氏だし、来年あたりあり得ないとまでは言えないですかね。

蜷川氏に限らず、新しい演出家さんとやることで役者さんは伸びるというのが持論だったりします。
松さんを見ると、なおさらそう思います。
羨ましい思いがないと言えば、正直なところ嘘になります。

投稿: ひろき | 2007/02/26 23:33

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