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『ミス・ダンディライオン』

2006.4.9(Sun) 16:00~17:00 新宿・シアターアプル

2006年春、キャラメルボックス公演。

2005年11月、池袋・サンシャイン劇場で見た『クロノス』が、この作品との出会いでした。
というより、その舞台『クロノス』の原作、『クロノス・ジョウンターの伝説』がそもそも3部作で、『クロノス』が「吹原和彦の軌跡」、もう1本『あしたあなたあいたい』が「布川輝良の軌跡」、そしてこの『ミス・ダンディライオン』が「鈴原樹里の軌跡」。

『クロノス』を見た後、その会場で販売していた原作本を、逡巡しながら手に取ったのですがとにかく去年の買い物の中で一番「買ってよかった」と思った”物”でした。
その時3作品の中で一番印象に残った作品が、「鈴原樹里の軌跡」。つまり、『ミス・ダンディライオン』(=たんぽぽ娘)となります。

そんなに好きな作品なのに、実は一般発売日を見逃すという大ポカをやらかしました。というかタイトルを和訳するまでこれがあの「鈴原樹里の軌跡」のことだと思わなかったという。
『クロノス』時点から「来年は残りの2作をハーフタイムシアターでやるよ~」という告知をしていたのだから気づくべきだったのですが、何にせよ意外に2作品のセット券が入手できず、初めてエキサイトチケットというところのお世話になりました。
ぴあ、イープラスに始まってローソンチケット、CNプレイガイドに楽天チケットまで手を出し、ついに6サイト目、席が取れるならもうどこでもいいやって感じに無節操になってきました。まぁ、あまり席の優劣を気にしないタイプなので何とかなってるということでもありますが。

毎度毎度のネタバレですが、最後のネタバレまではしません。
話の都合上、展開を多少書いてしまうことはお許しください。


この作品に共通して出てくる「クロノス・ジョウンター」という機械、簡単にいえばタイムマシンですが、微妙に不完全でして、奇妙な人間味がありまして。
過去には飛べるけど、ある程度の時間滞在したら、あとは現在よりも更に未来に弾き飛ばされるという機械。しかも、その未来へ飛ぶ時間は、過去にとどまろうとした時間と二乗するかのように延長されるという。

主人公の鈴原樹里は女医ですが、若い頃同じ病院に入院していた(好きだった)ヒー兄ちゃんの死をきっかけに女医を志し、今また同じ病気・チャナ症候群の患者を前に、病気を治せない自らの無力さにうちひしがれる日々。
そんな中、ひょんな運命のめぐり合わせからチャナ症候群の特効薬が発見され、その患者はまたたく間に完治。
しかるにどうしても思ってしまう、この薬が昔あったら、ヒー兄ちゃんは死なずに済んだんじゃないかと、そんな寝た子を起こすような話を・・・・

というのがストーリー。
主役の鈴原樹里を演じるのは岡田さつきさん。『TRUTH』でふじ役を見てるのですが、もー樹里先生にぴったり。しゃんと背を伸ばして凛々しく歩く様が凄く似合います。原作の「強い女性でありながら、好きな男性の前では脆い」という、分かりやすいけど難しい役ですが、演技巧者のこの方をもってすればよもや外すことはあるまいと、安心して観劇に臨めたのでした。

好きなシーンはいくつもあるけれど、まずはヒー兄ちゃんが治って色々あって目の前の女性が樹里だということに気づくシーン。幼い頃ヒー兄ちゃんが幼い樹里に聞かせていた「たんぽぽ娘」の一節を目の前の女性が諳んじて見せて・・・という作りが凄く巧い。あの強かった樹里がヒー兄ちゃんの腕の中で泣き崩れて、よいこよいこされてるのが好き。あぁ良かったなぁ、これで心残りないんだよね、って樹里に言いたくなる(樹里は死ぬわけじゃないけど、未来に飛ばされることを覚悟で、しかも内緒で去るつもりでいたのに)。

『クロノス』三部作にはそれぞれ女性ヒロインがいて、『クロノス』は来美子(岡内美喜子さん)、『あしたあなたあいたい』は圭(温井摩耶さん)、そして『ミス・ダンディライオン』が樹里(岡田さつきさん)ということになるのですが、なぜにか原作を読んだ直後も、こうして舞台を見た後も、自分にとって一番好きな役は樹里だし、一番役者として好きなのは岡田さつきさん。

その理由を振り返ってみると、この3作品、「一途な女性が男性を救う」のは『ミス・ダンディライオン』だけなのですね。

圭は布川のために時を超えるためにクロノス・ジョウンターに乗り、その行為に布川は「救われる」面はあるのだけれど、その反面、圭は婚約までしていた男性と婚約解消してまで布川を選んでいるので、どうしてもその心に「一途さ」における都合の良さを見てしまう。

樹里の場合、若い頃にヒー兄ちゃんを助けられなくて、その過去を未来まで引きずって、未来からヒー兄ちゃんを助けるためだけに過去に飛んでくる。「一途さ」においては一点の曇りもないわけです。(念のため申し上げておきますが、圭の布川に対する思いが一途でないと言っているのではなく、圭が布川を選ぶためにもう一人の男性をやむを得ずとはいえ切り離したことが、感情移入しにくい面を醸し出しているということで、一途さのランク付けをしているつもりはないです。)

この3作品を見て気づいたのは、私の作品の好みが「強い女性が男性を救う」物語ということなのだ、ということ。このBLOGで最多のページ数である『SHIROH』も自分的には「寿庵が四郎を救う物語」に他ならず、一昨日書いた『あずみ』も「あずみがうきはや秀頼を救う物語」に他ならず、どの場合でも女性は「ただ守られる立場」では断じてないということ。

強い女性が救いたいと思う男性であればこそ、物語の主体として立つことを許され、それゆえに男性から投げ返される「想い」に、その女性は救われるのだろうと、そう思えてしまうのです。

それがただ一人現世に残されたり、ただ一人誰も知る人のいない未来に飛ぶという結末であっても、その女性の心には、「救い」が残るのだろうと。

樹里はすべてを投げ打ち過去に行き、そして最愛の人を救うわけですが、実は自分の正体を明かすつもりもなかった。なのに、運命の神はそれを告げることを求めた。結果として、樹里はヒー兄ちゃんに真実を告げざるを得なくなったことで、「救いたい」と思ったこと以上に願った、「愛されたい」という果実を得ることができ、その「想い」の深さのキャッチボールに、深く感動させられるのです。

この作品のエンディングは、原作を読んだ時に「そーか、そういうオチが作れたのか」と凄まじいほど納得した記憶があります。よく考えてみればああなるほどそうなるよなぁ、なのですが、ここでは触れないでおきます。
この作品のエキスであり、得られるカタルシスは、あらゆる意味でそこにあると思うので。

閑話休題。

この作品は本線を岡田さつきさん・岡田達也さんのW岡田が固めてまさに磐石。
ちなみに「キャラメルボックスオフィシャルハンドブック2006」で、岡田さつきさんがご自分のことを、「岡田達也(さん)がカッコよく見えてきている歴史に自分は少なからず貢献してる」と言ったのには爆笑しました。「強弱のバランスがいい」というコメントはまさにその通りだと思います。

で、脇では前田綾さんが最強に笑わせてくれます。

樹里の見合いの席に、上司(吉澤部長)の妻役として登場した前田綾さん、
最後の締めの台詞に

『日本の女はすべて山内一豊の妻を目指すのよ~』

とのたまい、会場内が大爆笑の渦に巻き込まれたことを、特筆すべき事項といたしておきましょう(笑)。

※ご存知の通り、山内一豊をNHK大河ドラマ『功名が辻』で演じているのはキャラメルボックス劇団員、上川隆也さんです。

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