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『MOZART!』(11)

2005.8.13(土) 17:45~21:00 帝国劇場

この日は新国立劇場『星の王子さま』とマチソワで2公演の観劇。

M!話に入る前に旬の話題を。

帝劇内は至る所に『ジキル&ハイド』のキャスト変更告知が貼られています。
チラシは継続して配っていますが、これも当然作り直しになります(ちなみに、新国立でもこのチラシが配られていました)。

知念里奈さん、『屋根の上のヴァイオリン弾き』(ホーデル役)、『ミス・サイゴン』(キム役)、『レ・ミゼラブル』(コゼット役)と拝見してきましたが、これだけいい役を立て続けにやらせてもらって、それなのに恩を仇で返すような妊娠降板はプロとしてどうなのかと、首をかしげざるを得ません。

結婚だけならレミゼでもシルビア・グラブさんがされましたが、舞台の時期は外していたし祝福したいと思うもんですが、今回のケースの場合、製作発表直前で団体予約も入っていて、しかもレミゼで先行予約までしていたわけで、自覚がないんだか意図的なのか、どちらにしても淋しい話です。

知念さんは歌唱はさすがだと思ってましたけど、演技で伝わってくるものは3作ともにあまり感じなかったから、今から考えるとあぁなるほど、と思わざるを得ないけれど、それでも、いくらいい役をもらえても、なんだか全てが空しく色褪せて見えてしまう。
レミゼのコゼット役も2000回記念スペシャルシリーズにも継続キャストを差し置いて選ばれていて、殊勝なこと言ってたけど、今までのキャストの思いを受け継ぐからこそあそこにいる意味があったのに、それでこういうことしてちゃ。

特に好きな役者さんではなかったけれど、知名度と実力がそこそこバランスが取れていた役者さんだっただけに、残念に思いますし、何より今までの役としての実績をすべて無にしてしまうような(何があっても、過去の実績が絵空事にしか聞こえない)、今回の一件は、なんだか言い知れない悲しさを感じてしまいます。
今まで応援してきた人なんか、耐えられないだろうな。

1階入り口側で放映されている予告版も、『ジキル&ハイド』が除かれ、『SHIROH』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『眠らない音』のリピートに変更。なお、この予告版は1F売店奥と2Fロビーでも時間をずらして同じ物が放送されており、見ている人も少ないので、画面は小さいもののけっこうお奨め。

1F入り口すぐ左のカウンターで『SHIROH』のゲキ×シネチラシも配られておりますので、これから見に行かれる方は注目です。(奥の階段前にも置いてありますが、こちらは目に付くのですぐなくなり、特にソワレは置かれていることの方が少ないです)

●そしてここからM!話
今日の席は2階席2列目センターブロック。改めて帝劇の音の聞こえ方の違いに絶句。
音響と見易さではさすがのベストポジション。
たまたま前の席の人がよく寝ていて首を左にかしげてくれるので、視界が開けるのも良(笑)。もったいないよ、2階席1列目・・・
いつも凄いコロレド大司教殿(山口祐一郎さん)の「音楽のまじゅつ~」なんぞこの世のものと思えない響き方。

その分、コンスタンツェ(木村佳乃さん)の抑えの効かない声もびんびん響いてきて非常に耳障りだったりするけれど。
「ヴォルフガングの混乱」のシーンで叫びすぎ。
見ている方はヴォルフガングの狂い方に没頭しようとしているのに、その視界にも耳にも邪魔に入り込んでくる。あそこでコンスタンツェも狂ってるのはわかるんですが、あれは明らかにバランスが取れてない、やりすぎの演技にしか思えない。初演の松さんも声的にはそれに近い部分はあったにせよ、演技としてはヴォルフガングを邪魔しないように一歩引いてた。一人で演じるのはいい役者さんなのかもしれないけど、周囲を見れない役者さんは、舞台には向いていないと思う。

●全年齢対応型
2幕第6場、「ウィーンからの手紙」。
父レオポルトからの手紙に書かれた弟ヴォルフガングの活躍に嬉しそうなナンネール。
そんな姿を憮然としつつ聞く夫ベルヒトルト。
この場面のナンネールの演技がどんどん変わってきて、この回はある意味究極に到達。

「それで、弟は幸せなのかい?」訊ねるベルヒトルト。
「もちろんよ。」大きく頷くナンネール。

あ、そんなこと言っちゃ夫に悪いわよね・・・と夫に近づくナンネール。
そしてつぶやく。
「私も幸せですよ」ベルヒトルトに感謝を告げるナンネール。

初演ではこの場面は、ナンネールはヴォルフの活躍に浸っていて、そこから抜け出せずにいる痛々しい部分が強調されていて。夫からの突っ込みに、ある面、喧嘩ごしみたいなところがあって。(「なんでそんな野暮なこと言うのよ!」みたいな感じですね)

再演では日が過ぎるごとにだんだんベルヒトルトへの感謝の表現が増してきて、「弟を思いながらも、自分と一緒に過ごしてくれる夫への気遣い」がどんどん増えて、あぁ、とうとうナンネールも弟離れできたんだな、とか思ってた。

1幕で『星から降る金』の時に、父と弟が分かり合えない中、自分も弟を縛り付けているんだ、ってことに気づいて、自分の思いを押し殺して弟を勇気付けるシーンが再演では特に印象的で。ここで、弟のことを振り切ったんだろうなと思った。

この日の「私も幸せですよ」って台詞はもちろん台本にないものだし、こんだけ見て初めて聞いたパターンで、呟いたかのような一言。
夫の不満げな視線に咄嗟に出たアドリブのように思えたけど、何というか、由美子さんはアドリブ苦手なことに関しては右に出る人がいない人だし(苦笑)、だからこそ咄嗟に出た一言に演技プランが見て取れて、なんだか色んなことが腑に落ちて嬉しかった。

夫役をされている森田浩平さんも公式HPでなかなかいい味出してます。公式HPで募集していたプリンシパル分のQ&Aはもう掲載されないだろうから、由美子さん本人からこの辺のコメントはもう聞けないと思われるので。

年下の井上君と中川君からは「姉」で、年上の森田さんとは「夫婦」で、市村さんとは「父娘」で、全年齢対応型の役づくりは見ていてとても安心できる。
年上の男性俳優と上手く空気を作れるのは今後にもつながりそう。
『SHIROH』での上川隆也さんとか、『こちら本池上署』での高嶋政伸さんとか。
しまいにはもっと年下とは「母」だし。
全然想像できないのは「妹」役だけかも。

●他の方々
印象に残ったのは父レオポルト役の市村正親さん。
1幕でコロレド大司教に、ヴォルフが書いた譜面を投げ捨てられる場面。
ここで、ヴォルフはその行為に反発します。アマデも、投げ捨てられた譜面に、驚いたかのように駆け寄っていきます。
が。
レオポルトがコロレド大司教に食って掛かりそうになってるのを初めて見た気が。
もちろん息子の手前、一緒になって食って掛かるわけにはいかないとはいえ、レオポルト自身、コロレド大司教に散々虐げられてきた分、ヴォルフに妙に共感してしまう部分があるんでしょうか、何だかずいぶん立ち位置が変わってきてる印象があります。

レオポルトもコロレド大司教には鬱屈したところがあるけれど、自分が生きるためには、渋々ながらも従う、そんな苦労をお前も少しはわかれ、みたいな投げかけに聞こえてきて、ちょっと意外な変化。

レオポルトは、やりたい放題やれて、コロレド大司教を実力でねじ伏せたヴォルフガングに対する嫉妬があったのかもしれない、とふと思えた。
自分の言うことを何一つ聞かない。家族も省みない。だけれども名声は得ている。
自分にとって誇らしくはあっても、それは自分には返ってこない。
それが物足りなかったのかもしれない。
才能を見つけてしまった人間の、そこから離れては生きられない哀れさを、ふと感じてしまいました。

アンサンブル、今日気になったのはウェーバー家四女・ゾフィー役の徳垣友子さん。
1幕「マトモな家庭」でアロイジアの歌を邪魔すべく、コンスタンツェが鍋に野菜を入れるわけですが、何でかわからないのですが、見た回すべてで木村さんはニンジンを鍋に入れ損ねます。コロコロと転がっていくニンジンが哀れ。
で、鍋を煽って爆発まで持っていくわけですが、爆発の調整を誤ったのか、風船の切れ端がはるか舞台前方まで飛び出てしまいました。
黒い舞台にオレンジのニンジン2本と、風船の切れ端(これもオレンジ)1つ。
2階から見たので、それが目立つ目立つ。
張本人のコンスタンツェが拾うのかなーと思って見てると、そんな気配もなく。
コンスタンツェとゾフィーが目で会話したものの、どうもゾフィーはコンスタンツェに拾う気がないことを察知したらしく(もしかすると気づいてないのが分かったのかも)、ゾフィーはその瞬間、舞台の左へ右へ、とにかく飛び散った具材を拾いまくります。

2幕の「ダンスはやめられない」でバラの花が飛び散りすぎた時に、アンサンブルさんが必死で片付ける、って話が公式HPに載ってましたが、今回も徳垣さんがさすがの働きをしていただきました。
こういう、舞台をきちんと見ている人が支えているから、問題なく物語は進んでいくのですね。

●思わず噴き出した
12日テレビ東京系「たけしの誰でもピカソ」、小池修一郎さんのことをコメントした松たか子さん。

「今まで出会った演出家さんで、一番しゃべる人。演じている役者を、絶対に嫌な気持ちにさせない人。・・・・でも、目は笑ってない。(笑)

さすが松さん、本質を突いてるかも。

「有名どころをキャスティングできない場合に、どこか秀でている人を見つけ、その才能に賭ける、みたいなところはある」と語られていた小池さん。
井上君、中川君をいきなり主演として独り立ちさせちゃう力量ってつくづく凄い。
男性を発掘して育てる技量は日本一だと思う。

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